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プロスペロ王国編(ミカエル視点)
第二王子ファッチャモの帰還
しおりを挟む「え? ファッチャモ兄様が帰ってきた? 予定では早くても夕方だったはず。」
「どうやら、側近の方と二人先行して帰ってきてしまったらしいですね。」
私とシャランが朝食を摂っていると、シャランの侍従ステンレスが伝えに来た。
「第二王子殿下が陛下達と面会する時は、お二人に同席して欲しいとの事でした。」
「わかった。……ミカエル様もよろしいですか?」
「ああ。食事が終わり次第、こちらも急いで支度しよう。」
私達は食事を終わらせると、各々の部屋へ戻った。
応接間に行くと、アントニオ王太子殿下と野性味のある美丈夫がいた。
「おかえりなさい。ファッチャモ兄様。」
「ああ。───シャラン、変わったな。」
「兄様?」
言いたい事を言うと、こちらを見た。
「プロスペロ王国第二王子、ファッチャモだ。」
「ルクスペイ帝国第二王子のミカエル。同じ歳だったな。ミカエルと呼んでくれ。」
「俺の事も呼び捨てで構わない。今回は世話になる、ミカエル。」
ガッチリ握手する。私にしては珍しく、気を許せそうな相手だと思った。
「─────お前になら、シャランを安心して送り出せそうだ。」
そう言うと、ファッチャモは微かに笑ってみせた薄茶色の瞳は光の加減で、金色にも見えた。シャランと血が繋がっているのだなと感じる。
そういえば、異常に勘が良いということだったな。シャランへの想いを知ってか知らずか、そう言って貰えるならば頼もしい。
「必ず幸せにする。」
「え? ……え?! ミカエル様? ファッチャモ兄様?!」
シャランが頬を染めて慌てているのを見た、アントニオ殿下は、助け舟を出した。
「ほらほら、二人とも。シャランは奥手だから、まだ。ね?」
「む、そうだったのか。」
ファッチャモに頭をポンポンされて、どうして良いのか戸惑っているシャランを見ていると、何とも微笑ましい。そうしていると、陛下と宰相が到着した。
「待たせたな。────ファッチャモ、よく戻った。
さて、早速ファッチャモから報告を聞こうか。」
陛下の言葉に頷き、ファッチャモは話し始めた、
「魔物の方は、例年通りと言ったところです。後は地元のもの達で何とか出来るでしょう。貴族達の動向も、ほとんどは問題ありませんでした。
───問題は件の公爵家、及び周辺の領地の孤児院の子供達の失踪事件。
俺は敢えて堂々と、『魔物退治に来た』と言い、帝国に繋がる範囲に広がる森と山地での魔物狩りの許可を貰おうとしたのだが、公爵側はそれを自領の軍でやると拒否した。」
「毎年受け入れていたのに今年は拒否か。あからさまだな。」
王太子が呆れた様に言う。
「ゴネてやったら、北側から頼まれた。奴らは南側からだな。夜目の効くもの数名連れて怪しい所を探ったら、真新しい小屋と荷馬車。そして、荷馬車一台が通れる道が、帝国方面に向かってのびていた。」
私は、膝に置いていた拳にグッと力を込めた。焦りは禁物。しかし、ようやく見つけた手がかりに心が逸る。
「俺が急い帰って来たのには、もう一つある。その建物に潜入した時、そこにシャランと少女が囚われると直感した。」
「───っ!」
「なんだって?!」
「それは……いつ?」
意外にも、一番冷静だったのはシャランだった。
「わからんが、近々孤児院に行く予定は?」
「三日後、子供達に会う予定です。買い出しとか手伝いに行くんです。子どもは一人でしたか?」
「ああ、13歳前後の少女が一人。」
「それなら、確実に買い出しですね。毎回ミーナと買い出しの時は、そうしているので。」
「シャラン、やれるか?」
「もちろんです。」
ファッチャモとシャランの話が不穏な事になっていく。それに慌てたのは、陛下達と私だった。
「何故、攫われるのを前提で話すのだ!」
「そうだ、シャランが危ない目に遭うとわかっていて攫わせるつもりなのか?」
「父上、ミカエル。王族の誘拐ほど罪に問いやすいものはないでしょう。シャランならば魔法で身も守れますし。俺達が後をつけて行くんだ。破落戸どもには負けない。」
ファッチャモとシャランは、王太后であった祖母に魔力の制御と簡単な魔法の使い方を習っていた。その時に、お互いの力量を知っていての信頼だろう。
「ファッチャモ兄様が、危険な話を僕にするわけが無いので。ここに呼ばれた時点で、何か役割はあるのだろうと思いました。」
「私も行くよ。帝国にも関わる事件だろうから。」
「ミカエル殿下まで! …………ハァ。ファッチャモ、作戦を。」
王太子殿下は目元を覆い、疲れた様子で飄々としていた弟に先を促した。
「簡単だ。小屋までシャラン達を攫わせて、現場を押さえる。恐らく帝国側の人間も居る。全員捕らえて、公爵家の悪事を吐かせる。
公爵家の屋敷内をひっくり返して、証拠を見つけるさ。念の為、騎士団長達にはタウンハウスの方を任せて行く。
密入国の斡旋、王子誘拐、人身売買。
───国家反逆罪であいつら潰せるぞ。
逃がさんように、二人で先行して帰ってきた。今頃残してきた部隊は、ゆっくり迂回して公爵領へ向かっている。
ミカエルには、小屋の位置を把握している者を付けるから、攫われた二人の救出を頼む。シャランは身を守るのは得意だ。恐らく無傷で済むさ。」
「ああ、実は朝の鍛錬を一緒にしていて驚いていた。」
私は思わず苦笑する。
「ミカエル殿下にはシャランの事を頼む。ファッチャモ、重大な任務だ頼んだぞ。宰相、あれを。」
陛下が宰相に指示を出す。
「はい。ファッチャモ殿下、こちらが勅命の公爵家の捜査状でございます。
とりあえず、今日は身体を休めて下さい。決行まで日はないのですから。ミカエル殿下とシャラン殿下も、本日からの予定はキャンセルさせて頂きましたよ。それでは私はこれで。」
宰相はそう言うと、部屋から下がって行った。
暫く、誰も言葉さなかったが、陛下がぽつりといった。
「シャランも、立派な大人になった。もうすぐ成人の儀もくる。巣立ってしまうのか、早いものだな。」
「父上?」
シャランが怪訝そうな顔をした。
「ああ、すまん。何だか息子が三人揃ったのは久しぶりに見たな。夕食は皆で食べよう。ミカエル殿下も是非。ファッチャモは今日は休めよ。また暫く忙しくなるだろうからな。それでは、余は執務に戻る。」
「私も執務に戻るよ。孤児院に連絡しておく。皆が戻った時に、素早く動けるように準備もね。では夕食の時間に。」
陛下と王太子殿下が去ると、ファッチャモはこちらを見てニヤリと笑った。
「まあ、言われたから午後からは休むが、今から少し手合わせしないか? ミカエルもそこの護衛も。」
私は夜通し駆けてきてコレか。と若干呆れながら、エイデンとともに承諾した。
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