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プロスペロ王国編(ミカエル視点)

シャランと創り上げる

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 大まかな外枠だけでも、私が滞在している間に作り上げておきたい。その思いから、シャランと話し合いながら組み上げていく。  陛下と王太子殿下から派遣された優秀な事務官も居る。

「王都に学校を造り、タウンハウスから通うのも良いが、都市に学校の関連する施設を纏めるのも良いと思う。帝国では、学園都市と呼んでいるよ。」

 シャランが何か思い出したように答えた。

「そう言えば、魔力に理解のある侯爵家の方とお話する機会があったのですが、特産品に恵まれなくて悩んでいらっしゃいました。王都からも程近く、立地は良いので、お話してみるのも良いかもしれませんね。」

「ならば、ちょうど良いね。 陛下達にも相談してみよう。勿論シャランも一緒に提案するんだよ。」

「私の案だと言って、通してもらえるのでしょうか?
 ミカエル様からの提案の方が良いのでは……。」

 俯き、先程と打って変わって自信なさげな様子に、私は背中を押してやる。

「侯爵家の件など、私からでは出ない案だよ?シャランが思いついたんだ。自信を持って! 」

「───っ! はいっ!」

 一瞬、煌めいた笑顔。

 私が、シャランに好きになって貰わなければならないのに、逆に益々愛しさを募らせてしまう。
 シャランは今まで公務と言えば、孤児院への慰問しかさせて貰えなくて、未成年だからと自分に言い聞かせるようにしてきたらしい。陛下たちの過保護と、シャランの遠慮が、すれ違っていた原因だろう。会話が圧倒的に足りない。

 特に、魔力の多さでおばあ様に預けられる状態だった後、亡くなってからの陛下達の対応の仕方が拍車をかけている。この親子の関係もシャランの為に、どうにかしてあげたいと思う。
 シャランは、もう庇護されるだけの子供ではないのだと気付いて貰えれば良い。

 ───陛下達にも、シャラン自身にも。

「さあ、もう少し話を詰めよう。運営資金の調達や────」

 話を頷き、時には質問しながらシャランと私の手でどんどん形になっていく。そして改めて気付く、シャランの優秀さに。有識者を招いても、会話についていけるかなりの知識、そして知らないものは貪欲に吸収していく。

「この国の歴史や政治については、そちらに任せるが、今回の魔力を持つ者への扱い等の出来事については、教訓としてしっかり学ばせなければならないだろう。」

 私の言葉にシャランも頷く。

「そうですね。もう二度と起こしてはいけない出来事です。焚書についてもお願いしたいです。独学で学ぶ時に、とても苦労したので。
 どれ程の貴重な書物が失われたのでしょうか……。」

「貴族の中には、大事に保管しているところもあるかもしれない。無ければ帝国から手に入れるなり、他国なら珍しい書物もあるだろう。写本が可能なものならば、する者を派遣すれば良い。急ぐ必要は無い。」

 シャランの話に、王国から選出された事務官がメモを取りながら、やる気に満ちた声で語る。

「いつかは、と私共は心に秘めて国に仕えました。
 今、この国の転換期に立ち会えて他のもの達も、やる気に満ちています。苦渋の決断で他国へ渡った者達もおります。伝手がありますので声をかけてみますよ。もしかしたら手を貸してくれるかもしれません。」

 シャランの目にも強い光が宿る。 

「これから、この国に生まれる子供たちが魔力の差など関係なく安心して住める様になる第一歩を作りましょう。」

 シャランがそう言うと、事務官は目を潤ませ、はい。と言った。


「皆さま、そろそろお時間でございます。」

 侍従が声をかける。

 この日も議論するのが楽しくて、時間を忘れてしまった。毎日の進捗をシャランから聞く時間を陛下は捻出している。最初はぎこちなく、私も参加していたが、今ではシャラン一人でも行ける。徐々に改善してきている親子関係に安堵する。
 私も参加させて貰い、王家の夕食会での会話もそうだ。ぎこちなかったものが、少しずつ変わっていく。

「ミカエル様のお陰です。」

 シャランは微笑む。結局、学園都市案が採用された。侯爵家が話を聞いて飛び付いたのだ。
 私は、帝国内の学園都市に連絡、王国からは責任者を選出し、侯爵家と共にノウハウを学ぶようにした。

 既に将来的に、姉妹都市として提携することも決まった。時間はかかるだろうが、貴族の意識改革も進むようにしていかなければならない。
    こちらは、別件と共に変わって行くだろう。

 平民の為の奨学金制度。孤児院に恩のあるものや、貴族が色良い返事をくれた。後に学校でも伝手を探すことも出来るだろう。
 帝国からの教師の派遣。これも問題ない。軌道に乗ったら帝国との交換留学制度を創りあげる。

 ───そして、

『王立シャラン魔法学園』
 本人以外携わった者全員一致で名称は決まった。

 シャランは、『おばあ様の名前を!』と言っていたが、既に孤児院が冠している上、間違いなく学園創設に主軸として携わったのだ。
 結局、覆ることは無かった。


 私が毎回帝国に送る定期報告書は、兄上である皇太子へ送っている。兄上曰く、母上と義姉上がこっそり暗躍して、楽しい事をしているらしい。
 一応、連れて帰るまでは抑えておくけど、覚悟しといた方が良いよ。悪い事では無いから安心して、とも書いてあった。
 まぁ、何らかの行動は起こすと思っていたので、ある程度は覚悟しておく。

 やるべき事はあと一つ。一網打尽にしてやりたい。


 
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