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プロスペロ王国編(ミカエル視点)

シャランとデート?

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「ん……。朝か。」

 この部屋にもすっかり馴染んできた私だが、今日は起きた瞬間からすこぶる機嫌が良い。
 夢の中でシャランのクスクス笑う声と笑顔を見ていた
 二人で城下町へ行く。当然の事ながら、護衛付きではあるが。

「これは、もしかしてデートか?」

 私の呟きに、エイデンの無粋なツッコミが入る。

「視察です。いつまで寝ぼけてるんですか?
 さっさと準備してください。既に朝食の用意をしてありますよ。」

「エイデン。私のときめきを返せ。」

「気持ち悪いこと言ってないで、さっさと起きろ!
    ミカエル様が早く起きると言ったんだろう!」

 エイデンに怒られたが、そんな事も気にならない。

「やっと、シャランに会える。楽しみだな。」

「良かったですね。」

 先程とは違って、柔らかな声での返事だった。
 手早く朝の支度を終えて、朝食の席に着く。

「今度から時間のある時は、シャランと食事をしたいな。」

 きっと、楽しいだろうと想像する。

「今日、お聞きになっては如何ですか? よろしければ、今晩からでも手配しましょう。」

「そうだな。うん、そうしよう。」

 私は、そう言うと食事を再開した。
 ────この時、皆の微笑ましいものを見る視線には気付かなかった。


 本日は、亡きモクレン王太后の名を冠する孤児院の視察だ。
 指定した場所に案内されると、既にシャランが待っていた。

「おはよう、シャラン。待たせたかな?  今日の服装も趣が変わって良いね。」

「ミカエル様、おはようございます。
 僕が待ちきれなくて早く来てしまっただけです。
 ふふふっ。ミカエル様は、何を着ても格好良いですね。」

     例え軽口であったとしても、シャランから格好良いと言われるのは嬉しかった。

 二人が乗った馬車は、見た目はシンプルだが内装は華美ではないものの良いものであると一目でわかるものであった。
 エイデンと帝国の者と、この国の近衛が周囲に護衛に着き、服装がシンプルでも要人が乗っているのはわかる。

「流石にミカエル様と一緒だと、警備もしっかりしてますね。」

「シャランの時にも数名ついてるだろう。」 

「え? 何で知ってるんですか?」

「───実は、王国に到着早々、お忍びで側近と中央広場まで見学に来ていたんだ。そこで偶然、シャラン見かけたんだよ。」

 シャランは驚いた様に目をパチパチさせた。本当に可愛い。私も表情など繕うこと無く笑顔でいられる。

「確かにすぐ側には護衛のイノックスが居ましたが、あとは離れていたはず。」

「動きを見ていればわかるさ。まぁ、シャランのとても愛らしい笑顔を見た瞬間から、シャランしか見えなくなったのだけど。」

「───っ。ミカエル様、誰にでもそんな事言っていると、勘違いされてしまいますよ。」

 頬を染め、上目遣いで睨まれても愛しさが募るだけで、全く怖くはない。
 だが、誤解は解いておかないといけないな。

「私は、『人間嫌い』と言われてきた男だよ。
 優しくしたことなど無いし、勘違いさせるような振る舞いもしたことはない。
 ───本当に、シャランだけなんだ。私は嘘はつかないよ。」

 みるみる真っ赤になったシャランは、ふいっと窓の外を見ると無言になってしまった。
 しかし、夏椿のピアスのついた耳は、いつまでも赤いままだった
 私はずっと笑顔でシャランの横顔を飽きることなく見つめていた。暫くすると徐々にスピードが落ち、やがて止まった。

「モクレン孤児院に到着しました。」

 ノックと共に声をかけられる。

「ミカエル様、行きましょう。」

 そう言って、シャランは先に降りた。続いて馬車を降りると、子供達の歓声があがった。

「わぁー! シャランさまだぁ。」

「となりのかっこいいおにいちゃんはだぁれ?」

「物語の王子さまみたい!」

「あら? シャラン様だって王子様よ?」

 女の子達の話に苦笑しているシャランと、どうしたら良いのかわからなくて、戸惑う私を見かねた年長の男の子が、わらわら集まっている子供達を叱りつける。

「こら! お客様が来たのに、中にも入れないなんて、先生に見つかったら大目玉だぞ!  ちびっこ達はお勉強に戻りなさい。ミーナは、先生のところへ案内してくれる?
 お騒がせして申し訳ありませんでした。さあ、みんな行くよ。」

 まだ、側に居たそうな子供達にシャランが話かける。

「ちゃんとお勉強が終わったら、ご褒美があるよ。
 ケインお兄ちゃんの言うことをしっかり聞くんだよ。みんな頑張ってね。」

「わーい! シャランさま、ありがとう!」

「おべんきょう、がんばるー!」

「シャランさま、あとでねー。」

 年少の子供達がケインに連れられて戻っていく。

「ごめんなさい! シャラン様と……あの、」

 ミーナと呼ばれた娘が、私をなんと呼んで良いのか戸惑っていたので、端的に名を名乗った。

「ミカエルだ。」

「では、シャラン様とミカエル殿下。先生のところへご案内します。」

「ありがとう、ミーナ。じゃあ案内して貰おうかな?」

「シャラン様ったら! 今日は大人しく案内されて下さいね。」

 シャランが申し訳無さそうに、こちらを見た。

「ミカエル様、騒がしくてすみません。でも、みんな良い子なんですよ。」

「いや、こちらこそ上手く対応できなくてすまなかった。初めての経験で戸惑ってしまったよ。」

 話しながら歩いていると、一番奥の扉の前にたどり着いた。ミーナがノックすると、中から返事が聞こえた。


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