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プロスペロ王国編(ミカエル視点)

ミカエル達の密談

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 王国からは国王と王太子。帝国からは私とエイデンのみの参加だ。
 まだ公にはせず、シャランの家族としての反応が見たかった為、「親交を深めるための席」を用意して貰ったのだ。
 そこで、先日の晩餐会での貴族達への違和感と、シャランとの会話から出てきた学校の話を提案した。

「それは、シャランと共に考えたのですか?」

 王太子殿下は驚いて身を乗り出した。

「二人の導きだしていた答えが、偶然一致していたのです。私は二国間の親交の為、シャラン殿下は魔力の多い者達の為。
 ───是非、お二人の意見を率直にお聞きしたい。」

 私がそう言うと、沈黙を保っていた陛下が重い口を開いた。

「先代国王の治世の時、一度同じように魔力の多い者達の為の学校設立の案が出た。
 先代……つまり、シャランの祖父母からの案だった。」

 私は息を飲んだ。外遊で訪れた私が感じたことを、嫁いできたヤマティ皇国の皇女であった亡き王太后が気付かない訳がないのだ。
 後ろ盾にヤマティ皇国。先代国王もその気だったのに、いまだにこの状況。一体何故だ?

「高位貴族の反発が強かった。それどころか、当時の国王が王妃に唆されているとまで言い出したのだ。
 流石にそれを言った者達は、父上の逆鱗に触れ処罰された。
 母上はこれ以上の混乱を避け、ヤマティ皇国と距離を置くようになり、プロスペロ王国への更なる献身が始まった。」

 一度、目を閉じて陛下は心を静めている様に見えた。アントニオ王太子も、ただ静かに見守っている。
 国王陛下はそっと目を開き、再び言葉を紡ぐ。

「学校は駄目でも、せめて魔力が多いせいで見捨てられた子達を集めた孤児院を……と、個人的な資産から創設したのだ。
 そうして魔力の多さから行き場の無い者達には、世話係や魔力制御の仕方、読み書きや簡単な計算を教えるといった仕事を与えた。
 国民や下位貴族の多くはその姿に心酔し、高位貴族のほとんどは疎ましく思った。
 現在は、王太子のアントニオに任せているが、本当はシャランに任せたかった。
 だが、高位貴族の事を考えると、あの子の身の安全が心配でな……。」

 陛下は、決してシャランを疎んでいないと思える一言だった。王太子は付け加えるように言った。

「この国には、かつて能力のある平民も通えるという、貴族の子女が通う学校があったのですよ。
 ───ですが、ある根拠のない噂が出始めた時と同じくして、閉鎖されました。」

 私はふと、思い出し聞いてみた。

「もしかして、『大きな魔力を持った者が国を滅ぼしかけた』というものですか?」

「ご存知でしたか。シャランから?」

「ええ。先日の晩餐会の後に話の流れで。」

 国王の表情へ苦悩している様に見えた。

「あの子には、詳しい事は教えていないのだ。
 ……下手に知らせて、奴らの標的にされたくはない。」

 陛下の言葉に、私は親としての想いを知る。

「詳しい話は、王家の後継者に忘れぬように口頭で語られている。
 時が経っても必ず動けるようにと、余も前国王もそうして受け継いできた。」

 王太子が言葉を引き継ぐ。

「───まだ、あと少しだけ足りないのです。
 一網打尽にするには……。」

 かなりの真相に近づいているが、決定的な何かを捜しているのか。悔しそうに語る王太子に、私はふと気になっていたことを尋ねる。
 
「これもシャランから聞いたのですが、国に関わる仕事に、貴族出身の騎士団や事務官に魔力の多いのは、敢えて保護しているのですか?」
 
「民は国の宝だ。理由も無く外に出す訳がないだろう。ただ、魔力を多く持って生まれただけのことだ。」
 
 私を見る陛下の眼は更に力強くなる。
 
「本人達の希望で、登用試験を受けた者で合格した者に多いだけの話。本人達が優秀なのだ。
 優秀な上、高位貴族であるにも関わらず魔力が多いだけで放逐される者もいる。
 それでも腐らず、たゆまぬ努力をしてきた者達だ。
 平民出身の者も同様。無論、魔力の有無は問わず能力あるもの全て同等の扱いだ。」

 フッと、陛下の視線に影がさす。

「だが、この国に未練の無いものは自由だ。
 ───誰にでも幸せになる権利はある。」 

 国王の民への思いは本物だ。私は確信した。

「帝国の者として、力になれる事は無いのでしょうか。シャランと約束したのです。叶えてやりたい。」

 陛下と王太子が視線を交わし、頷きながら私に話してくれたのは、私には衝撃的な話だった。

「シャランが成人したら、亡き王太后の母国、ヤマティ皇国に外交官という名目で行かせようと考えていた。余の従兄弟達がいる。後ろ盾になってくれるだろう。」

「────っ!!」

 今、私の顔色は真っ白になっているだろう。心臓が早鐘を打っている。
 
「───だが、本人には外交官として行くことになるかもしれないとしか言っていないし、皇国にも公式には伝えていない。ただ、あくまでも我々だけで考えていた話だ。この国に留まるより自由に生きられるはずだと思ったのでな。」

 私は、取り繕う余裕もなく尋ねる。
 
「では、それよりも幸せになれるとしたら、そちらを考えても良いということですか?」
 
「シャランが望むのなら。」
 
 陛下が頷いた。

 他国の人間である私を信じ、下手をすると自国の不利益どころでは済まない重要な秘密を明かしてくれたのだ。そして、家族としてのシャランへの愛情も。
 この想いを、私は帝国の代表として、そしてミカエルという一個人として、応えたいと思った。

「帝国としては、この国に魔法を学べる学校を創設する援助を申し入れる。教師の派遣、人材育成。運営方法など。
 将来的には帝国の学園との交換留学も出来れば更に両国の友好関係も良くなっていくでしょう。」

 一度、緊張を解くため深く息をつく。
 そして二人の目をしっかり見て、はっきりと言葉にした。
 
「これは個人的な事だが、シャラン殿下に帝国に来て欲しい。
 ───私は、シャランに心を寄せている。生涯をかけて守りたい。政略などではなく、シャラン自身に私を選んで欲しい。
 その為にも、この国に滞在中に全力で口説かせて貰う。」

 二人が思わず、といった風に目を見開く。

「同性婚が可能とはいえ、帝国に行って、シャランは幸せになれるのですか?」

 王太子が私に問いかけてきた。その顔は兄として心配しているのだと如実に現れていた。

「魔力の事なら心配は無い。同性であることも、問題どころか歓迎されるだろう。
 既に私の兄である皇太子には男児が二人いる。
 何より私がシャランを必ず幸せにする。
 ───あの真っ直ぐな心と、愛らしい笑顔を守る。」

 私も真剣に答える。
 すると王太子は、視線を揺らすとポツリと言った。

「ずっと、シャランの本当の笑顔は見てなかったな……。」

 そこに陛下も言い募る、

「そうか。あの子を想う気持ちはわかった。だが、くれぐれもあの子の気持ちを大切にして欲しい。
 シャランには寂しい思いをさせた自覚はある。
 こんな事を言える態度ではなかったのかも知れないが、大切な息子だ。ここには居ない王妃や第二王子ファッチャモも、あの子の幸せを祈っているのだよ。」

「肝に銘じます。あと、先程の件ですが、外側から見て不自然な点が、いくつかあるのと、帝国の方でも少し気になっていることがあるので、私共の方からも探らせては貰えませんか?」

「かまわない。余の代でこの愚かな因習を終わらせたい。藁にもすがる気持ちだ。
 だが、くれぐれも気を付けて欲しい。この国で万が一の事があれば、帝国に申し訳が立たない。」

「心得ております。では、そのように。」

 こうして、私達の密談は終わった。



 精神的に疲れて帰った私を待っていたのは、シャランからの、明日一緒に出掛けられる喜びの手紙と、白いチューリップだった。

『明日を待ちわびています。』

 シャランの微笑みと声が聞こえるような気がして、花弁にそっと唇を寄せた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇
 花言葉
 白いチューリップ→「待ちわびて」
 
 
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