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プロスペロ王国編(ミカエル視点)
手紙と花と花言葉
しおりを挟む「やはり赤いチューリップにしよう。あまり重くて引かれたくないからな。一本だけ贈ろう。」
私のイメージからかけ離れた植物図鑑と格闘しながら、ようやく決めた。
シャランに手紙とリボンをつけた赤いチューリップを添えて贈る。手紙には時間を取れない謝罪と、会えることを楽しみにしていること。
そして、調べた花言葉で決めた。赤いチューリップ。
「シャランは、気付いてくれるだろうか? いや、植物や花言葉に詳しいから気づくにしても、偶然だと思われる可能性も……。」
エイデンはにやにやとこちらを見ている。
「まるで恋する乙女みたいなんだが。」
「お前が、贈り物と手紙だと言っていたのではないか!」
「確かにな。まさかこんなに初々しい事をしだすとは思わなかった。
───でも、良い変化だと思うぞ。帝国にいる皆に教えてやりたいな。ハハハ!」
私はゆっくりと、制御用装身具であるイヤーカフを外した途端に、部屋の空気が帯電したようにビリビリとヒリつき始める。
「エイデン、雷撃にどれ程耐えられるか試してみるか?」
エイデンが真っ青になって側近の顔に戻った。
「遠慮させて頂きます。全力でやられたら消し炭にされてしまいます。」
「ふん。」
イヤーカフを着け直すと部屋にいた者達が、一同にホッとした様子をみせた。
「お返事が来ると良いですね。」
「返事? そうか! シャランから返事が来るのか。」
「そんな汚れのない目で私を見ないでください。
来ると思いますけどね。シャラン殿下は律儀な方ですから。」
「それを楽しみに頑張るか。さて、そろそろ面倒な時間の始まりだな。」
呼びにきたノックの音に気持ちを切り替える。
「エイデン、行くぞ。」
「はい。」
私は、本日の仕事へと頭を切り替えた。
大した実りのない会談を終えて、与えられた部屋へ戻ると、つい愚痴が漏れる。
「はぁ~。無能しかいないのか? 高位貴族どもには。まぁ、まともな者も幾人か居たが、周囲があれでは苦労しているだろうな。」
この部屋は帝国の者、特にミカエルに忠誠を誓う者達で固められているので遠慮などない。
「……先日会った下位貴族の者達の方が優秀なのでは?」
エイデンも先程までのやりとりに呆れが見える。
「あの者達は仕事の関係で国外を知っている者も多い。国内の状況、特に高位貴族に不甲斐なさを感じているようだったな。」
そんな会話をしていると、侍従が手紙と一輪の花を持って来た。
「シャランから、返事がきてるぞ!」
「流石はシャラン殿下ですね。ミカエル様の機嫌が一気に直った。へぇ? 花まで添えられてますね。」
「これは、ラベンダーか。良い香りだ。
『お仕事、お疲れ様です。
赤いチューリップありがとうございました。
とても可愛らしく、嬉しかったです。
こちらは都合の良い時で構いません。
お待ちしています。
お忙しいでしょうけど、お身体に気を付けて。』
……花言葉には、気付いて貰えなかったのか?」
「ラベンダーの花言葉を調べてみては?」
エイデンの提案に私は目を輝かせた。
「そうだな!」
私はいそいそと、ラベンダーの花言葉を調べた。
「どうでしたか?」
「花言葉はいくつもあるからな。
多分、『あなたを待っています』だな。
はぁ、シャランに会いたい。癒されたい……。」
「……明日の朝にでも、手紙で予定をもぎ取ってきたのを教えて差し上げればよろしいかと。花を添えて。」
「そうだな。次は何が良いかな。うん、赤いカーネーションにしよう。」
「では、明日準備しておきますね。
───しかし、色々あるんだな。俺は馬鹿の一つ覚えのように、ミラに贈るのは赤いバラだな。」
「わかりやすくて良いだろう。シャランの気を引きたくて、今までの私からは考えられない事をしている自覚はあるさ。」
「でも、考えてるときは楽しいだろう?」
「そうだな。くだらないなんて考えていた私が愚かだった。……これは、私にとって良い変化なのだろうか。」
「間違いなく良い変化だな。帝国にいる陛下達に早く教えて差し上げたいよ。」
「明日はその為の第一歩だからな。絶対に成功させる。」
「お前が本気になったら、上手くいくさ。
────では、おやすみなさいませ。ミカエル様。」
「ああ、お疲れエイデン。」
エイデンが下がると、皆も下がらせた。
一人で浴室に行くと、手早く身を清め、心得ている者達が準備しておいた湯舟で一息つく。
会わずにいるのに、大きくなっていくこの気持ちの赴くまま拐って行っても幸せには出来ないだろう。
「シャランの気持ちが欲しい。」
思わず声に出たこれが私の偽らざる本音だ。目を閉じて揺れ動く心に身を任せた。
翌朝、私は朝食を摂ると早速手紙を書いた。
『おはよう。
昨日はラベンダーをありがとう。
記念に栞にしようと思う。
明日、時間が空いたよ。
約束通り、シャランが子どもたちに教えている姿をを見せてほしい。
会えるのを心待ちにしているよ。』
封をすると、赤いカーネーションを添えて送った。
「本日の予定は、シャラン殿下には伝えていないのですか?」
エイデンが不思議そうに尋ねてくる。
「まだ、あちらがどう出るのか、わからないからな。
────悲しい思いはさせたくないだろう? 」
今日は、国王と王太子に、シャランと考えている案について、軽く話して様子を見るつもりだ。場合によっては、ちょっとだけ「お願い」してみようと思う。
「ミカエル様、とてもシャラン殿下には見せられない黒い笑みが浮かんでいますよ。」
「おっと、それはいけないな。気を付けよう。」
エイデンの苦笑を受けて、真顔に戻す。
「少なくとも、王太子の方は大丈夫だとは思うのだが……。」
晩餐会の夜、さりげなくシャランの居場所を教えてくれた。気を配っている証拠だと思いたい。
「祖母である亡き王太后の話は、シャランから何度も聞いたのだが、両親についてはあまり話さなかったな。」
「判断し難いですね。」
「ああ。」
単純に、魔力制御の為に一緒にいる時間が多かったのか。
───それとも。
「いずれにせよ、今日わかることだ。」
私はそう締め括った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
花言葉
赤いチューリップ→「愛の告白」
ラベンダー →「あなたを待っています。期待。」
赤いカーネーション→「あなたに会いたくてたまらない」
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