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プロスペロ王国編(ミカエル視点)

月下に佇む儚い姿に

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 ────見つけた。

 月明かりの中で、うつむく儚い姿を見て、今まで経験したことのない、庇護欲が掻き立てられる。
 月の光が銀髪を照らし、まるで今にも消えてしまいそうだ。
 私は焦燥感に突き動かされ、一歩踏み出した。

「おや? シャラン。どうしたの?」

 偶然を装い、軽い口調で話しかける。
 儚く消えてしまいそうだったシャランが驚き、こちらを見て目を丸くする姿も可愛い。

「先程はお見苦しいところをお見せして、申し訳ございませんでした。せっかくのご指名でしたが、私の様な未熟者、やはり──」

 憂い顔で言葉を続けようとするシャランに、被せるように言った。

「私は、シャランのキラキラとした愛らしい笑顔しか見なかったけど、何が問題なのかな?」

「──え?」

「私で良かったら、詳しく教えてくれる?」

 私がシャランにそう言うと、戸惑いながらも頷いて、話を聞かせてくれた。

「恥ずかしながら、僕は嬉しくなると魔力が漏れ出てしまって、魔力の光を放ってしまうのです。
 まだ幼い頃に、貴族の子供達との顔合わせで、何度か同じ事をやってしまいました
 皆からわざとやっていると思われ、ナルシストだと噂されて……。
 失敗してはいけないと、心を波立たせないように平常心でいようとすると上手く笑えず、今度は生意気そうだと陰口を言われてしまう様になりました。
 この国では濃い髪の色が殆どなので、珍しい銀髪も目立ってしまい、噂に拍車をかけているのでしょう。

 ──この髪と瞳は、ヤマティ皇国から嫁いだモクレンおばあ様から譲り受けた証です。
 生前は大層お喜びになって、僕のことを可愛がってくれていたので、流石にこの容姿について直接的に謗るものはおりませんが……。」

 そっと自分の髪に触れるシャランの柔らかな表情を見ていると、髪の色自体に不満はないことがわかる。
 しかし、ふっ、とため息を吐くと、

「両親からも王族らしく、もっと自制心を持たなければならないと言われて……。先ほどは失敗をしましたが、最近は皆の集まる場では制御が出来ていました。
 ですが、一度ついた印象は、なかなか払拭出来なくて。」

 笑おうとして失敗した儚げな表情に、思わず抱きしめたくなるが、グッと我慢した。

「城下町のもの達も、最初は噂を聞いてそう思っていたらしいのです。
 平民の子にも魔力のある子がかなり居るんです。その子達に制御の仕方を教えたりしてるうちに、ご両親の誤解がとけて、僕を受け入れてくれるようになりました。

 そこから徐々に噂が広まっていき、今では逆に喜ばせようとしてくれるのです。
 僕も本当は駄目なのに、気が緩んで魔力が散ってしまい、でも皆に喜んでもらうと嬉しくなって……その繰り返しです。」

 ふにゃり。と、はにかんだ顔も愛らしい。
 何よりも国民を思う綺麗な心が堪らなく愛しく感じる。

「シャランは魔力量がとても多いね。制御もおばあ様から学んだ?」

「はい。小さい頃はすぐ上の兄と学んでいました。
 その頃は、このような事は無かったのですが……。
 第二王子の兄は剣の方が得意だったので、率先して討伐に向かうようになってから、僕一人がおばあ様から学ぶようになったのです。

 その後、おばあ様が亡くなると、別の師事する者からも学んだのですが、おばあ様から学んだ以上の事は学べず、魔力については独学になりました。
 ですが、この国では魔法学の本は、王立図書館どころか、王宮の図書館にすら数が少なくて。
 そして、ある日突然このような魔力の制御が出来ない状態になってしまいました。」

「うーん……幼い頃おばあ様から必ず着けなさいと、渡された装飾品はない? 今はタイピン位しかしてないね。」

 少し考える素振りをしたシャランだったが、何か心当たりがあった様子を見せた。

「───あ! 確かにありました。このタイピンと同じく夏椿のピアスでした。
 ある日、男の癖にと貴族の子達に揶揄されて外してしまいました。」

「おそらく、それが制御用の装飾品だってのではないかと思うのだけれど、外した時期と合っていないかな?」

 思いだそうとしているシャランを見つめていると、ゆっくり頷いた。

「確かに、その辺りからかもしれません。」

「まだ手元にあるなら、そのピアスを着けてごらん。きっと大丈夫だから。
 そうだ、良かったら明日は庭園の案内を頼めるかな? その時に制御の状態の実験をしてみよう。」

「はい! ───あっ。」

 舞い散る光に気付き、慌てるシャランも可愛いな。

「私は、今のままのキラキラ魔力の舞い散る、愛らしいシャランの笑顔も好きだよ。」

 心の声がそのまま口から零れた。

「!」

 シャランは言葉の意味を咀嚼すると、月明かりの下でもわかる程に首筋まで真っ赤に染まり、パクパクと口を動かす。

「ア、アリガトウゴザイマス。」

 褒められ慣れていないのだろう。
 絶え間なくキラキラと舞い散る姿を見て、私は心の底から思った。

 ────この愛らしい人とずっと一緒にいたい、と。

 
 
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