【完結】最後にひとついいかな?

金浦桃多

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「ルナ」と留奈の真相

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「デート!」

 実花は、朝起きて一番に声に出していた。
 ちょっと寝不足なのは、今日を待ちわびていたからだ。
 きっと玲士もそうだろう。ずっとずっと、待っていた。

 以前、三人で約束をして、イタリアンのランチをしたお店。
 今日は玲士と二人で半個室を予約した。
 本当なら、ディナーと言いたいところだが学生にはちょっと敷居が高いのだ。何より予約がいっぱいらしい。今日だってかなり前からの予約だ。

 今日は二人にとって特別な日。ランチをしてから、以前告白された公園を散策する予定。
 
 ───玲士の「初めて」を貰います!

 実花は昨日から何度目かの部屋のチェックをして回った。服はワンピースにした。
 背中のファスナーを下ろしてみたい。との玲士からのリクエストだ。恋人の願いは叶えたい。
 
 玲士と待ち合わせをして、実花は上機嫌だった。玲士が格好いい。
 普段は長い前髪を下ろして隠しているが、傷の無い方だけサイドへ流している。

 容姿は派手さはないので目立たないが、良い方だろう。

 ───顔だけの空には届かないが、雰囲気が独特で存在感がある。
 気になり出したら止まらない。そんな感じがある。

 ───だからストーカーに狙われるのか。

 玲士はいつもより楽しそうな実花を見つめて苦笑していた。

「俺だって今日が楽しみで仕方なかったよ。
 実花が楽しみにしてくれて嬉しい……もしかして、ランチメイン?」

 少し意地悪な質問をする玲士に実花は笑顔で答える。

「全部だよ。でも、一番大事なものは、最後のお楽しみにとってあるの。」
「偶然だね。俺も一緒だ。」

 そう言うと、自然に恋人繋ぎの実花の手の甲に唇を触れさせた。
 周囲が何やら騒がしいが、玲士が「王子様のような事をした!」そんな事をぐるぐる考えていた実花にはどうでも良いことだ。
 玲士も平然と歩きだしたので一緒に歩き出す。

 ───幸せだなぁ。

 実花は、もう何度感じたかわからない実感に浸っていた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ────何故こうなった。

 玲士と実花は戸惑いながら半個室ではなく、特別室に通された。
 案内される途中、人違いではないか? 
 と尋ねたら、二人ともフルネームで呼ばれた。もう一度言う。「二人とも」だ。

 予約は玲士がしてくれたので玲士はわかる。何故、実花のフルネームを?
 ぐるぐる考えても全然答えが見つからず、無意識に隣に座る玲士の手を握る。すると、玲士が指を絡めて握り返してくれた。

 暫く待つと、優しげな女性が現れた。清楚で少し年上だろうか。
 立ち上がろうとした実花と玲士を押し止め、向かい側に座ると自己紹介された。

「初めまして。二階堂 留奈です。」
「二階堂さん?」

 玲士も知らない人らしい。

「二階堂グループって、ご存じかしら? そこの娘なの。まぁ、それより一条 海の婚約者か────」

 実花と玲士はハッとした。

「もしもしぃ~? 実花さんったら、全っ然、思い出してくれないだもん。ルナ怒っちゃうぞ~?」

「そ、その声………まさか、ルナ……さん?」

「ウフフ。ごめんなさいね、驚かせて。」

 玲士は頭を抱えた。何故、よりによって今日なのか、嫌な予感しかしない。

「空の事も。私達の都合に巻き込んだ事も。ここに来れない海の分も謝罪します。
 ───本当に、申し訳ございませんでした。」

 実花達は、一瞬、固まりかけたが、二階堂グループの令嬢に頭を下げられている、という非常事態に、慌てて頭を上げる様に頼んだ。

「此処のオーナーはね、以前うちのホテルでシェフをしていたの。ちょっとは顔が効くのよ。」

 そう言うとウフフと笑った。
「ルナ」と留奈さんが、同一人物なのはわかった。でも、何故?

「そうね、どこから話せば良いかしら?  お二人からの質問に答える形の方が良いわね?」

「ルナさ──二階堂さんは………」

「私の事は留奈と呼んで良いわよ。呼びやすいでしょ?」
 
 終始、留奈のペースで運ばれそうだ。
 当然だろう、二階堂グループのご令嬢なら、ましてや一条海の婚約者としてやってきたのだ。
 実花や玲士との駆け引き等、児戯に等しいだろう。

「空のお兄さんの婚約者である留奈さんが……何故、空と?」

 留奈は、ウットリと実花を見つめて、とんでもない爆弾発言をした。

「流石は実花さん。一番私が話したい所を聞いてくれたわ! ……実はね、空は私の事をあのルナと理解してないの。」
「───は? な、何で? デスカ?」

 実花は既に混乱し始めた。大好きな次兄の婚約者を知らない?

「婚約者としてお会いした事がない。という事ですか?」

 玲士が、続きを引き継いでくれた。正直助かる。

「いいえ? むしろ、よく会うわよ?
 せっかくの海との時間に、遠慮もしないでね。
 ───あの子、ちょっとブラコンの気が強くて、私の事を嫌ってるみたい。………なのに、少し空好みの化粧をして、口調を変えたら本当に判らないのよ? 一応言っておくと、海も了承済みなの。あの子が高校生頃からだから………もう何年も。」

「───一応、聞かせて頂きたいのですが、空と肉体関係を持っていた、と? 
 空の兄であり、貴女の婚約者でもある、一条海さんが、了承していたという事で正しいですか?」

 玲士も心底理解出来ないという風に聞いている。

「海から、被害者である実花さん達に、全て話して良いと言われてきたわ。きっと、驚くだろうけど、最後まで聞いてほしいの。」

 そう言って話出した内容は、言っている事はわかるが理解出来ない……脳がショートしそうな内容だった。


 海は家族や留奈には優しいが、他人には鬼畜、腹黒、ドS、NTR、一途、眼鏡(?)
 留奈は一途、NTR、ドM、お仕置き好き。
 という、とても相性の良い? 性癖の二人で、政略的な婚約とはいえ、本当に愛し合っているらしい。

 ───しかし、眼鏡とお仕置きとは?

 ある日、空が海に、聞いたらしい。
「何故、俺には婚約者がいないのか。」と。
「成人したら、素敵な女性が迎えに来るよ。」

 と、海は答えた。

「彼女欲しい。駄目ならせめて童貞を捨てたい。」
 と空に言われ、海はショックを受けた。
 何処の馬の骨とも知らない女に、可愛い弟の童貞をくれてやるなら留奈にお願いして、そのあと抱かせて欲しいと言い出したそうだ。
 既に肉体関係のあった海と留奈だが、ソフトSMはあっても、NTRまではした事がない。留奈は、海が側で見ていてくれるなら、と了承した。
 
 ───結果、物凄く嵌まった。

 流石に留奈のままだと、色々後が面倒なので、
 ルナになったのだと言った。

 ───名前を変えなくても気付かれないとは。

 留奈は、「婚約者」としか呼ばれた事がなかったので、名前を知らないと確信していた。
 下手に海が探ると逆に覚えようとするだろうと結論に至った。
 海は、万が一のために、空に海が自ら性教育を行った。更に、留奈と空の諸事情の為、特製☆殺精子剤入りローションを開発させた。
 海が空に固執する友人に殺されないために、空に使わせる。
 空の相手はルナのみ。他の女が寄らない様に空の周囲をガッチリ固めた。

 しかし、空の成人と共に予定外の事が起こる。

「葉山 実花…か。」

 海は調査書をバサリと机に置いた。
 本人どころか、両親兄弟にも全く瑕疵はない。むしろ良い話ばかり出てくる。逆に怪しいと更に探っても、出てくるのは空の愚行ばかり。唯一言えるのは中流家庭育ち。だが、下手な力を持っている家柄よりずっとマシだ。
 少し気になる人物がいるとすれば、「東堂 玲士」
 大学でよく実花と話をしていたらしい。「五十嵐 芳樹」も含めて。
 玲士は過去の事件の被害者であり、その事で周囲とは一定の距離を置いていた。それが実花には、親友の芳樹のように接していた。空が手を出すまでは。

「兄貴に報告だけでもしておくか。」

 長兄に報告するため、海は重い腰を上げた。


 ───やっぱり調べられてたか。なら、もっと早く引き離して欲しかった。

 玲士は一条家のやり方に腸が煮えくり返る思いだったが、最後まで聞くことにした。
 海は空の部屋に監視カメラを設置するように留奈に指示した。
 操作は留奈に任せ、ルナとの行為だけ、海に見せた。

「実花との行為の録画は処分してもらえますよね?」

 玲士は今にも飛び掛かりそうな程怒りを露にしていた。

「見たのは私だけよ。危害を加えたら突入出来る様に隣室は待機出来るように買ったの。ご免なさい。私も海も知らなかったの。「普通」の人は、痛みでは快感を得ないって……」

「「は?」」

 二人の声がハモった。この人なに言ってるの?
 実花達にはわからない。

「多分、空も知らない。海も偏った性癖で教えてしまったし、全部私が相手だったから。
 本来なら、「普通」だったかもしれないの、空は。今更こんな事を言っても許される事ではないから、ただの事実として知っておいて。」

「後は、タイミングの良い連絡は、空のスマホには盗聴アプリが入れられていて、それで。」

 ちなみに、遥はお金よりも好きな人が出来たので紹介することで報酬とした。ドSの男で海の知り合いらしい。
 
「空には本当は婚約者がいるのではないですか?
 話の中で違和感が何度かありましたが。」

 実花は思いきって聞いてみた。この異常なまでの管理はそのせい?

「その通りよ。海の友人の女性が、当時四歳だった空に一目惚れして、それからね? 空の兄弟はブラコンだから、成人するまでは婿に出さないって。」

「───そのせいで。」

 ポツリと玲士は呟く。

「ごめんなさい。本当に私達のせいよ。麗華さん、その人もね、特殊なの。」

「「………………」」

 麗華さんは、女王様。調教するのが好きで、でも一途。大学卒業までは、放し飼いにしておいてあげたが、実花に執着を見せ始めたので、成人したら回収すると宣言した。空はもう退学予定だ。

「もう、空に会うことは───多分、無いと思うけど、会ったとしても、きっともう安心して良いわよ。なんと言っても、麗華さんが調教するのだもの。精神的なリードがついたら、お散歩するかもしれないから。」

「──空は、何時、婚約者のこと知ったのですか?」

「大学での茶番の後よ。さて、これで大体話し終わったわ。残りは、海からの伝言。」

 そっと白い封筒を置かれた。

『こちらの都合に巻き込んだので、慰謝料を準備した。
 本来なら、こちらから出向かなければならないのだが、現在、海外出張で三ヶ月程帰れない。
 最愛の婚約者に託しておく。受け取ってくれ。 一条  海 』

「慰謝料は要りません。
 もう二度と関わらないと約束してくれる方が嬉しいです。
 お金なんて、両親に知られたら、地元に戻されちゃいます。
 大体、ただの学生の恋愛のいざこざです。」

 実花がハッキリ言うと、留奈はクスクス笑って言った。

「海はそう言うと思ってたらしいけど、こちらにも巻き込んだ負い目があるの。空と実花さんが別れる時にスピーカーになっていたの知らなかったの。傷付けてごめんなさい。
 これは私と海からのお願い。また此処でランチでも、ディナーでも来て貰えると嬉しいわ。 
 このカードを見せるか、予約時にこのQRコードを使って貰えると、私達助かるの。我が儘言ってるの知っているけど……」

 涙が溢れそうな姿を見て、思わず、

「此処のランチ好きです! また来ます! このカードも使います! なので泣かないで下さい。」

 留奈から、ピカピカの黒いカードを受け取った。

「ありがとう。今日は急に時間を貰ってしまったから、私の奢りです。この部屋に、このまま料理を運ばせるわ。
 ────今日は楽しんでね。それじゃあ。」

 留奈は改めて頭を下げると、部屋を出ていった。実花がテーブルに置いたカードを玲士は手に取り確認している。

「お話でお腹いっぱい。」
「俺も。────このカードVIPだな……いや、なんか……はぁっ?!」
「ど、どうしたの? 玲士?」
「これ、失くせないぞ。永年無料だ。実花気を付けろよ。」

 そう言って、渡してくる。

「ひぃっ、怖いよ! 玲士預かって!」
「実花への謝罪なんだから、ちゃんと受け取らないと。」

 そう言われて実花は渋々受け取る。

「怖くて使えない。」
「多分、使わないとお金渡されるぞ。小切手の金額、確認したか?」
「───カード、使う。特別な時に。」

 カタコトの日本語になった実花に、玲士がそうしておけ、と深く頷きながら言った。
 ノックの後、扉が開かれ料理が運ばれて来た。

「……あの、予約していた料理と違うのですが。」

 実花は恐る恐るそう言うと、シェフがにこりと笑い、お嬢様からのお詫びだそうです。と、答えた。
 料理の説明を受け終わると、では、ごゆっくり。と言うとシェフは帰って行った。

「玲士、前言撤回。お腹空いた。凄く美味しそう。」
「見事にグレードアップしているな。ご厚意に甘えて頂こうか?」
「うん! いただきます! ───凄く美味い。」
「本当にに旨いな。これに慣れたらヤバい……。」

 二人とも黙々と食べた。何なら、後から来たデザートも食べた。
 本当なら、雰囲気を作るつもりだった玲士は、
 今日はお預けかもと、内心ため息をついた。



 
 
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