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「茶番劇」の真相
しおりを挟む玲士と実花が付き合い始めてからニヶ月。
順調に二人の関係は進んでいる。
先日、玲士の部屋に二人でいる時、玲士のスマホが鳴った。お母様だった。ちょっと離れたところで話し声が聞こえる。言い争いとまではいかなかったが、玲士は通話状態のままスマホを持って実花のところまでやって来た。
「ごめん、実花。母さんが話したいって。」
「え?! わ、私、大丈夫かな?」
「スピーカーにして三人で話そう。」
「う、うん。」
………お母様は良い人だった。
玲士の事を救ってくれてありがとう、と泣きながら、「芳樹君に貰って貰おうかと…。」と言った時は、玲士もキレて私は大笑いで終始和やかに会話した。
最後に「末永くよろしくね。」と、言われて「不束者ですが、よろしくお願いいたします。」と、返していた。
玲士の顔は赤くなっていた。
実花は幸せを噛みしめた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そして今、実花は不機嫌だった。
現在の幸せで、すっかり忘れてた元彼。
───早く約束したお店行きたい。
───その前に、玲士との待ち合わせ場所行きたい。
───せめて「遅れる」と連絡したいのに。
出来れば隠し事はしたくない。「約束」したから。
でも、呼び出したのは都築くんだった。空から守ってくれた仲間のリーダー的な人で統率力のある人だ。
当時、芳樹くんは私達と行動して、都築くんは仲間の連携を取っていた。
この空の呼び出しで全て終わらせる。思い切りやってこい!と言われた。
仲間がたくさんいるから大丈夫だとも言っていた。カフェテラスへ敢えて呼び出させたらしい。
───ゴメン。
玲士との約束までには終わるから、内緒にしてて。
───アイツがくると最後の仕上げが壊れそう。
そう言うと、後でね! と去って行った。
こうやって、玲士はこの件に関しては関わらせて貰えなかったのか。と実花は思った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
呼び出しの時間にカフェテリアに行く。
ちらほら知ってる顔。人多いなあ…。
空と知らない女の子がいた。
多分、こんなに困惑した事はないのではないかと思う場面に直面していた。
実花は昼の構内のカフェテリア、しかも学生の大勢の目の前で、元彼である空に、まるでラノベのザマァされる悪役令嬢の立場に立たされていた。
ちなみにラノベを嗜む様になったのは、空へのストレス発散にちょうど良い作品を見かけてからだった。
「この三ヶ月、お前の態度にほとほと愛想がつきた! 連絡しても返事は来ない、構内で会っても謝るどころか、無視する始末!」
───意味わかんない、どれだけ前の話?
正直、見知らぬ女性の肩に腕を回した状態で、大声で喚きたてる様は、見苦しいと思ったが、何が言いたいのかイマイチ理解出来なかったので、とりあえず言いたいことを聞いてみようと思った。
──すべて終わらせる、そう聞いた。お世話になった仲間を信じる。
「その点、彼女は僕の事をずっと好きだったと言ってくれるし、何より優しいうえ、僕の言うことを聞いてくれる。」
そう言って見つめ合う二人。
───正直、どうでも良い。
それにしても、性格はやっぱりそんな簡単には変わらないよね。
何でも自分の言うとおりにしないと気が済まないか。
──早く帰りた………ん?
実花はある事に気づいた。
まさか? 気のせいかも。
でも、気になって仕方がない。
直視しては失礼かとチラチラ確認を試みる。
「このニヶ月二人で悩んだが、ハッキリ言わせてもらう! もう、お前に愛想が尽きた! 別れさせてもらう! そして、彼女と恋人になる!」
やっぱり! 実花は確信した……が、
──ハァー?! 何て言ってるのコイツ!
余りの斜め上の発想の空の話と自分勝手さに苛つく。
「早く! 返事は?」
イラついた空が、実花に指を指して言い放った。
「ちょっとしたことで、三ヶ月も無視し続けて、今さら寄りを戻そうだなんて無理だからな!」
子供の様な発言に、うんざりした実花はいい加減帰りたくて反論した。
「えっ?! 何言ってるの? 三ヶ月前に既に別れてるじゃない。ところでルナだっけ、別れたの? 浮気してた子、もしかしてその子?
───あれ? ニヶ月前って事は別の子か。」
多分ルナとは自分が知っている以上に長いと思う。
「ちなみに、三ヶ月前に着信拒否とブロックしたから反応しないのは仕方ないよね。
それなのに、何も無かったように、話しかけてこようとするから無視してた。もう、うんざりだったし。」
空はポカンとした顔で実花の方をを見ていた。
すると、隣にいた彼女が実花に話かけてきた。
そう言えば、玲士と付き合うきっかけって、この子だったのだろうか?
「でも、一昨日の夜に会いたいって空を呼び出したでしょ? その前も何度か話したいからって。」
───ハァー?!
浮気に実花の名前を使われたのを知り、怒り気味に言う。
「あり得ないよ。だって、私もう彼氏いるから、他の男と二人で会うのはないよ。」
───もう玲士に会いたい。空の斜め上の勘違いだとわかったし、もう帰りたい。
彼女はゆっくりと空を見つめる。
「大体、さっきの話もおかしかったよね?何度も呼び出されたのに、ずっと無視されてたみたいだし。
何処に行ってたの? 誰に呼び出されたの?」
「そ、それは…。」
──なんか本当に茶番劇みたい。
その時、まるで答え合わせのように、空のスマホの通知音が鳴る。咄嗟に確認した空の横から、彼女がスマホを取り上げた。
──このパターン私の時と似てない?
「うわ! ま、待て!」
だが、時は既に遅し。
「ルナ……。ねぇ、実花さんが言ってたルナって、この子? この前は楽しかった。って、どう言うこと?!」
「ち、違う! これは…」
「浮気相手?……そもそも私が本命の実花さんがいるのに浮気相手になってた事に悩んでたのに。
……ナニコレ?」
彼女はボロボロ涙を流し出した。
──案外、本気で空の事好きだったらしい。
「ご、誤解だ! 本気で愛してるのは、お前だけだ! 遥!!」
───ようやく彼女さんの名前がわかった。
彼女さんもとい遥さんを抱きしめようとして、空は突き飛ばされた。
「触らないで! 一人にして! 実花さん、ごめんなさい。失礼します。」
震えた声で、そう言った遥さんは、この劇場と化したカフェテリアから退場した。
───私もそろそろ退場しよう。玲士との約束の時間迫ってるし。
と、その前に。
「空、もう話かけないでね。
最後にひとついいかな?
……チャック空いてるよ。」
実花は軽やかにその場を後にした。後ろからは、大爆笑の渦。
都築が、もう大丈夫と、合図を送ってくる。
───幕は閉じられた…かな?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
実花と合流したが、玲士は何だか嬉しそうな実花にたずねても「後でね」と返された。
ずっと楽しみにしていた、話題のスイーツショップ。
ここなら、コーヒーも美味しいと書いていたので、玲士と行ける。そう思い実花は楽しみにしていたのだ。
「それで? 何があったの?」
実花は玲士に先ほどあった出来事を話して聞かせる、
───また除け者かよ。
玲士は苛つく。
美味しそうにチョコバナナミルクレープを堪能している実花を見てると、苛つきが逆に安堵に替わる。 コーヒーを飲みつつその姿を見守る。
───本当に無事で良かった。
玲士は、かねてから空の行動に不快感をあらわしていた。
今更、別れたはずの実花へ接触。
当時は、ずっとイライラしていたのだ。
「でも、今回の事で逆恨みしないとも限らないから、本当に気を付けて。」
相変わらず、心配性とも取られる玲士のセリフに、実花は何とも言えない、こそばゆさを感じつつ、頬を緩めて頷いた。
まぁ、心配の元と言えば……。
当時の嫌な事を思い出してしまった。すっかり忘れてたのに。
ほとんど玲士に「上書き」されたので問題ないか。
「実花? どうした? …やっぱり、アイツに酷い事言われたんじゃないのか?」
嫌な過去を思い返していた実花に、玲士は眉間に皺を寄せて覗き込んできていた。
「あ、ごめん。過去の嫌なこと思い出しちゃってた。」
「そうか。」
玲士は心配そうにはしているが、それ以上は何も言ってこなかった。
玲士には、過去の事を全て話してある。
逆に玲士の過去の事も教えてくれた。
だから二人の間に秘密にしている事はない。
そして、思った事があればお互い溜め込まず吐き出そうと、「約束」もしている。
二人でゆっくりデートを楽しんでいると、芳樹から連絡があった。
場所を変えファミレスで待つ。流石に飲み物だけ頼んだ。玲士は、芳樹がちょっと怒っている様だときいた。
なんとなく、今回のことではないかと話していると、芳樹が何故か、空の今カノの遥を連れて現れた。
芳樹は今回の事を聞かされていなかった。
ただ「もう本当に空から解放されるよ」と都築に言われたらしい。
噂を聞き付けて、カフェテリアに向かう途中、遥に声をかけられた。
本当は適当にあしらって向かいたかったが、遥の話で既に終わっているだろうと知らされ、実花に、今回巻き込んだことを謝りたいと、言ってきたが、正直信用出来ないと応えると、今回の事は都築と他の人の作戦らしい事。
空の「浮気相手」役は、ルナに頼まれたと聞いて、玲士と一緒ならという条件の下、連れて来た。と芳樹は説明した。
適度に煩い此処でなら、このまま話ても良いだろう。
先程から、大人しくしていた遥が、実花を見つめて謝罪し、今回の説明をしだした。
ルナから、「空の事を好きだと思い込ませて、実花から引き離せ」と言われたこと。協力者として都築達がいるから大丈夫だし、成功報酬もあると言われたこと。
「それは、ルナと都築は知り合い、という事?」
玲士は確認する様に話す。
「はい。すみませんでした。私一人では無理そうで、ルナさんも協力してくれて。成功報酬は最初は貰おうと思ったけど、本気で好きな人が出来たので、その人を紹介して貰うことで手を打ちました。
ルナさんも、他の人から指示を貰ってたらしくて、私にはこれ以上わからないのですが。」
「あ、多分、空のお兄さんだ。」
実花がそう言うと、全員ギョッとして実花を見た。
「本当に空は次兄に懐いてるみたいだけど、話をきいてると、なんとなく怖いというか……管理って単語が浮かんだ事があって。
よく考えてみると、私も助かった事が何度かあるの。
何よりタイミングがね………空の部屋に監視カメラあったりして。」
そう考えた瞬間、嫌な想像をして実花は震えた。玲士も同じ事を考えたのか実花の肩を抱いてくる。
遥も青い顔になっていて、流石に芳樹も不憫に思ったのか慰めている。
「ろくな兄弟じゃないな。二度と関わりたくない。」
玲士の吐き捨てたような言葉に全員頷いた。
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