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幸せな日々②微R18

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 本当に、今、幸せだ。
 
 玲士は毎日そう実感している。
 
 今まで何の感慨もなかったものも、二人でいれば、鮮やかに彩られる。


 初めて行った実花の部屋で聞いた、アイツの話を聞いて、「上書き」してやろうと思った。
 
 ──紅茶もキスも。

 でも、一緒に紅茶を飲んだ、ただそれだけの事に、「初めて」だと幸せそうにしていた姿を見て、
 俺も「初めて」を渡したいと思った。

 実花の部屋でのアイツとのキスなんて、

「上書き」ではなく「消去」すれば良い。
 
 願いにも似た想いで触れた唇は柔らかで、

 自分は今、「初めて」のキスを渡したのだと気付く。

 全身の血が沸騰したようになり、このままでは帰りたく無くなる。
 そう思うと残念だったが、触れた部分をそっと離し、
 実花に渡せた「初めて」を教えた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「なぁにニヤニヤしてるんだよ! いや! 言うな!!
 どうせ実花ちゃんの事だろ?
 あー! 独り身の俺にも、その幸せ少しで良いから分けてくれ!」
 
 そう言うと芳樹はテーブルに突っ伏した。

 次の講義を待つ間、うっかり表情が緩んでいたらしい。
 ちなみに実花は別の講義をとっている。
 玲士と実花が付き合っているのは、もう知れ渡っている。

 ──なのに、


「隣良いですかー?」
「良くない断る。他にも席空いてるだろ。」
「えー、冷たーい。でも、さっきの表情とのギャップが素敵! 」

 玲士はイラついてきていた。この感じ、あのストーカー女と、最初にあった頃を思い出す。

 この女も最近、周りをうろちょろして、気分が悪い。
 一刀両断するより先に、芳樹が女に話しかけた。

「君さぁ、噂聞いたことない? コイツ今、恋人いるし、
 本気で大事にしてるんだよねぇ?」

 声がかなり怒っているのは気のせいではないだろう。曲がりなりにも、長年親友をしている訳ではない。間違い無く、芳樹もあのストーカーを思い出しているだろう。

「で、でも! あんなすぐに乗り換える女なんかより、私の方が──」

「なぁ? 自分の気持ちを、
 相手の事を考えず押し付けた挙げ句、
 付きまとって、上手くいかなかったら、
 逆上して、相手本人どころか、
 大事にしてる人まで傷つける奴を
 なんて言うかわかるか……?」

 多分、芳樹が肩を掴んでなかったら、手を上げていたかもしれない。

 周囲は、シンッ────と、静まり返っている。此方のやり取りの行く末を見守ってるのだ。

「───ストーカーって、言うんだよ。」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
 

 今日の話を聞き付けた実花は二人に話を聞きに、玲士の部屋に来ていた。
 既に何度か訪問しているので、先に講義が終わっていた二人が、玲士の部屋に集合していたからだ。

 大丈夫だから、慌てなくて良い。

 そうは言われても、気が逸った。
 もし、玲士がまた傷ついていたら。怪我はは無くても心の方も心配だった。



「───って、言ってさぁ、周囲から大歓声、ストーカー女②も、
「こんな非道い人とは思わなかった!」
とか言って出ていこうとしたら、丁度来た教授に体当たりして、逆ギレして文句言ってさ。
厳しくて有名な人だから、もう講義どころじゃないの。
 なんであーゆータイプの人ってやる事一緒なの?
 私、悪くない! って自分の都合のいい話に作り替えて。
 でも、みんな証人になってくれて、俺達は無罪放免。
あの女はどうなるのかねえ。
 ………一応、こっちは、以前お世話になった弁護士さんに相談したら、万が一の時は、対応してくれるって。
その時は、相手の親も引きずり出すよ。………昔の二の舞はゴメンだからね。」

 芳樹の話を聞いて、実花は蒼白になった。

「玲士も芳樹くんも大丈夫なの? 相手の人に逆恨みされたら…」

 思った以上の事態に実花は驚いた。構内でも騒ぎになっていたが、予想以上だったからだ。

「実花、心配ないよ。大学も今回の事は重くみてる。何より教授に足を怪我させたのがね。
ご高齢だし。態度を改めないなら、最悪退学だろうな。」

 玲士が思ったより冷静で、実花はホッとした。無理をしてるようにも見えない。

「ははっ。実花ちゃん聞いてよ!
 玲士に「お前、女運悪すぎだろ?」っていったら、
「実花に全振りしてるから仕方ない」ってさー、惚気られちゃった。
──って、痛ったいなぁ! 暴力反対!」

 二人のじゃれ合いに、本当に大丈夫そうだと肩の力を抜いた。

「さて、お邪魔虫は一人寂しく帰ろう! またね二人とも。」

 芳樹は実花に説明する為に残っていてくれたのだろう。説明が終わると、あっさり帰って行った。

 玄関まで見送った後、二人きりになる。

「実花。心配させてごめんな。本気で何ともないから。でも、ちょっと実花を補給させて……」

 玲士のファーストキスから、少しずつ進んで来た。
 今では、ぎこちなさも無くなり、翻弄されっぱなしだ。実花は自分の変化に驚いていた。気持ち良いのだ。

 玲士と初めて舌を絡めたキスをして、余りの気持ち良さに涙が溢れて、玲士を多いに慌てさせた。

「ごめん! 嫌だったか? 今日はもう止めるか?」

「ち、ちがうの……こんなに気持ち良いの初めてで、嬉しくて…続けて欲しいよ、玲士……」


 潤んだ目で玲士を見上げると、思わず唸った玲士は噛みつく様に唇を合わせてきた。

「…っん、ん………ふぁっ!」

 普段の玲士からは想像つかない程、情熱的に何度も口付けられる。
 それでも、自分本意ではなく、実花の様子に気遣いながら、反応の良いところは重点的にせめられた。
 舌を合わせて擦り合わせると、思わず鼻に掛かった媚びた声が上がる。
 立っていられなかなった実花の腰に腕を回して支え、もう片方の手は、実花の耳を優しく撫で上げる。
 ビクンと、反応した実花の舌ごと咥内に溜まっていた唾液を吸い上げた。

 全力疾走した後のような心臓の音が耳元で聞こえるようだ。
 そっと唇を離すとツゥーッと唾液が糸を引いてプツンと切れた。

「実花───中に戻ろう。……続きしたい。」

「うん───私も。」


 玲士は横抱きにすると、ベッドに向かって行った。

 

 
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