【完結】最後にひとついいかな?

金浦桃多

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過去の出来事①

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「で? 元彼くんは、もう絡んで来ないの?」
 
 現在の彼氏の玲士に、先ほどあった出来事を話して聞かせるとそう言った。
 
「うーん、多分? 今付き合ってる彼女の方が大事だと思うからね。」
 
 うん、美味しい! チョコバナナミルクレープを堪能しつつ、返事をした。
 現在、私の我が儘で話題のスイーツショップにいる。
 玲士は、それほど甘いものが得意ではないので、コーヒーを飲みつつ、私の食べているところを幸せそうに見ている。
 
 玲士は、かねてから元彼の空の行動に不快感をあらわしていた。
 別れたはずの実花への接触に、ずっとイライラしていたのだ。
 
「でも、今回の事で逆恨みしないとも限らないから、本当に気を付けてよ。」
 
 相変わらず、心配性とも取られる玲士のセリフに、実花は何とも言えない、こそばゆさを感じつつ、頬を緩めて頷いた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 
 
 
 
 元々、空から告白されてOKしたのがキッカケだった。

 以前から空が女子に人気があったのは知っていた。
 地方から上京した実花にとって空は、いかにも都会的に見えた。
 その空が、ある日を境に実花に声をかけてくるようになった。

 今にして思えば、眼鏡から、コンタクトに変えた頃だった様に思う。

 徐々に距離を詰めてくる空に、最初は警戒した。
 だが、軽快なトーク、甘い口説き文句に、免疫のない実花はクラクラしてしまった。
 空にとっては、田舎娘など簡単に丸め込めたことだろう。
 舞い上がってしまったのは、今では苦い思い出だ。

 とうとう実花は付き合う事にOKしてしまった。
 スマートなエスコートに、まるで見本のようなデートコース。

 そして、初めてのキス。

 今思えば、空が好きだったというよりは、その場の雰囲気に流されたとしか思えない。

 実花は、「空」ではなく「彼氏」とキスしたのだ。

 それから、何度もデートしたし、何度かキスしたが、不馴れだったのも勿論だが、自分からキスを求めた事はなかった。


 何度目のデートだったろうか、ついに実花は空に部屋に誘われた。
「何にもしないから」
 なんてセリフを、本気で信じてしまった純粋だった当時の私に、説教してやりたい。

 必死に抵抗した私を、深いキスで怯んだ隙にベッドに縫い付けると、涙を流す私に甘い言葉をかけて、早業で服を脱がした。

 あとはひたすら、実花の性感帯を見つけ出そうと全身に触れる。
 それでも反応の悪い実花に業を煮やした空は、

「何度もデートしたし、もう良いよね? 初めては痛いだろうけど、僕とひとつになれるんだから、我慢できるよね?」
 
 そう言われると、そうしないといけない気がして頷いてしまった。
    使いかけのローションと、開封済みの避妊具の箱からゴムを取り出し、空はやや強引に初めてを奪った。

 今にして思えば、なぜ、あの時頷いたのか…。
 そうだ、早く終わって欲しかったからだ。
 勿論、空の言った通り、痛みを伴い、快感など、少しもなかった。
 ただただ、気持ち悪かった。

 
 初めてが余りにも辛かった実花は、なるべく二人きりにならない様に、お互いの部屋にも出来るだけ行かない様にしていた。
 
 それでも、数度身体を重ねなければならない時は、ローションが必須だった。
 実花にとっては、ひたすら我慢の行為に、情が湧くどころか、冷めていくばかりだった。
 
 
 この頃には、空の自分本意な振る舞いや、言葉の端々に「付き合ってやっている」という気持ちが垣間見えて、辟易していた。


 ニヶ月も、もっただろうか?
 空がスマホから手を離さなくなった。
 ようやく苦痛の時間から解放されて、ホッとしていた実花は、シャワーに行くときも手放さない空が珍しくテーブルに置き忘れていたスマホから通知音が聞こえた。

 何の気なしに、覗き込んだスマホの画面に「ルナ」という名前を見つけた。


 
 
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