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最後にひとついいかな?

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 大学に通い始めて2年。
 多分、こんなに困惑した事はないのではないかと思う場面に直面していた。


 実花は昼の構内のカフェテリア、しかも学生の大勢の目の前で、元彼であるそらに、まるでラノベのザマァされる悪役令嬢の立場に立たされていた。


「この3ヶ月、お前の態度にほとほと愛想がつきた! 連絡しても返事は来ない、構内で会っても謝るどころか、無視する始末!」


 正直、見知らぬ女性の肩に腕を回した状態で、大声で喚きたてる様は、見苦しいと思ったが、何が言いたいのかイマイチ理解出来なかったので、とりあえず言いたいことを聞いてみようと思った。


 本当なら人の迷惑になるし、移動した方が良いのはわかっていたが、 空は一度夢中になると、他人の話を聞かないのを承知していたので、放っておく。


「その点、彼女は僕の事をずっと好きだったと言ってくれるし、何より優しいうえ、僕の言うことを聞いてくれる。」


 そう言って見つめ合う二人。
 正直、どうでも良い。それにしても、性格はやっぱりそんな簡単には変わらないわよね。
 何でも自分の言うとおりにしないと気が済まないか。
 早く帰りた………ん?


 実花は、ある事に気づいた。まさか? 気のせいかも。でも、気になって仕方がない。
 直視しては失礼かと、チラチラと確認を試みる。


「2ヶ月二人で悩んだが、ハッキリ言わせてもらう! もう、お前に愛想が尽きた! 別れさせてもらう!
 そして、彼女と恋人になる!」


 そう言った瞬間、実花の方を向いた空を見た。
 やっぱり! 実花は確信した。


「早く! 返事は?」
 イラついた空が、実花に指を指して言い放った。


「ちょっとしたことで3ヶ月も無視し続けて、今さら寄りを戻そうなんて無理だからな!」


 子供の様な発言に、うんざりした実花はいい加減帰りたくて反論した。


「えっ?! 何言ってるの? 3ヶ月前に既に別れてるじゃない。ところでルナちゃんだっけ? と別れたの? SNSで出会って浮気してた子。もしかしてその子? …あれ? 2ヶ月前って事は別の子か。」


「ちなみに、3ヶ月前にブロックしたから反応しないのは仕方ないよね。それなのに、何も無かったように、話しかけてこようとするから無視してた。もう、うんざりだったし。」


 空はポカンとした顔でこちらを見ていた。
 すると、隣にいた彼女が実花に話かけてきた。


「でも、一昨日の夜、会いたいって空を呼び出したでしょ?
 その前も何度か話したいからって。」


「あり得ないよ。だって、私もう彼氏いるから、他の男と二人で会うのはないよ。」


 彼女はゆっくりと空を見つめる。


「大体、さっきの話もおかしかったよね?
 何度も呼び出されたのに、ずっと無視されてたみたいだし。…何処に行ってたの? それよりも、誰に呼び出されたの?」

「そ、それは…。」


 その時、まるで答え合わせのように、空のスマホの通知音が鳴る。咄嗟に確認した空の横から、彼女がスマホを取り上げた。

「うわ! ま、待て!」

 だが、時は既に遅し。

「ル…ナ…。ねぇ、実花さんが言ってたルナって、この子? この前は楽しかった…って、どう言うこと?!」

「ち、違う! これは…」

「浮気相手? …そもそも私が本命の実花さんがいるのに浮気相手になってた事に悩んでたのに、…ナニコレ?」

 彼女はボロボロ涙を流し出した。案外、本気で空の事好きだったらしい。

「ご、誤解だ! 本気で愛してるのは、お前だけだ! 遥!!」

 ようやく彼女さんの名前がわかった。
 彼女さんもとい遥さんを抱きしめようとして、空は突き飛ばされた。

「触らないで! 一人にして! …実花さん、ごめんなさい。失礼します。」

 何とかそう言った遥さんは、この劇場と化したカフェテリアから退場した。

 私もそろそろ退場しよう。彼氏との約束の時間迫ってるし。

 …と、その前に。


「空、もう話かけないでね。


 最後にひとついいかな?


 ……チャック空いてるよ。」



 私は、軽やかにその場を後にした。後ろからは、大爆笑の渦。幕は閉じられた…かな?





 
 
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