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6.いつかの未来の、その先で②【完結】
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コスモワールドに到着すると、既に大観覧車のライトアップが始まっていた。色とりどりに光るイルミネーションを見ていてると、胸がざわついて何かを思い出しそうになる。
来たことはないはずなのに、なぜか観覧車の頂上から地上を見下ろした記憶が頭の中に蘇る。一人ではなかった。相変わらず顔にはもやがかかっているが、確かにもう一人いた。
「佐丸……?」
きっとその相手が佐丸なのだろう。
「え――」
意識していなかったが、烏丸はその名前を声にだしていた。その瞬間、背後から戸惑ったような声がした。烏丸は思わず振り向き、相手の顔を見る。
大きな瞳と丸い頬がハムスターに似ている。
そう思うと同時に、烏丸の中に記憶が蘇った。
まるで濁流に飲まれたかのような情報量に立っていられず、烏丸はふらりとよろめく。その身体を、青年が咄嗟に支えてくれた。
青年は信じられないと言うように目を見開いて、烏丸の顔をじっと見つめている。
「レイヴン、なのか……?」
懐かしい声が、烏丸をレイヴンと呼んだ。
そうだ、と思い出す。
そうだ、自分の名前は、本当の名前は……
「さまる……、佐丸っ!」
佐丸に名前を呼ばれ、レイヴンはその身体を強く抱き締めた。二人の横を通り過ぎる客達の視線を感じるが、どうでも良かった。今はただ、再び出会えた軌跡を噛み締めていたい。
佐丸も同じ気持ちだったのか、背中に回された腕は力強かった。佐丸は泣いているのか、レイヴンの胸の辺りがじわりと温かくなる。その温かさに、レイヴンも泣きそうだった。
しかしいつまでも道のど真ん中で抱き合っているわけにもいかない。レイヴンは佐丸の背中を撫でさすり、少し離れたベンチに向かった。
腰を下ろして、ようやく二人は落ち着いたようだった。
鼻を啜りながらレイヴンの顔を見上げる佐丸は、少しだけやつれたように見える。佐丸の顔を見つめながら、これは何度目の未来だろうかとレイヴンは考える。
人間に落ちた死神が、再び死神として生まれ変わることはおそらくないはずだ。
自分は何度人間に生まれ変わり、人間として死に、新たな生を得たのだろうか。
そして佐丸は何度、レイヴンとの記憶を持って生まれ変わったのだろうか。その度に、探してくれたのだろうか。こんな風に、思い出の場所で。
「ごめん、嬉しくて……取り乱したかも」
佐丸は照れ隠しのように笑って、レイヴンの手を握った。
それからゆっくりと、深呼吸をする。
「何回、生まれ変わったかわからない。レイヴンのことは何度も夢に見た」
レイヴンは佐丸の手を握り返し、続く言葉を待つ。
「レイヴンの記憶は消えなかったんだ。その度に、絶望した。僕の身体は何度生まれ変わっても、長くは生きられない身体だったから」
二度の契約解除の、これは罰なのだろう。俯く佐丸の瞳には影があった。
「それでも、身体が許す限りはここに来た。いつか、いつでもいいから……またレイヴンに会えたらって思って」
佐丸はそこまで話すと、ベンチに背中を預けた。緊張していたのか、吐く息が震えている。
「ずいぶん長くかかったけどね」
レイヴンは佐丸の言葉に胸が締め付けられる。どれだけ長い間、佐丸を待たせてしまったのだろう。記憶を取り戻すのに、ずいぶんと長くかかってしまった。
「ごめん……」
「なんだよ、謝るなんてお前らしくないってば。謝るより、これからのことを考えよう」
「これからの、こと」
佐丸の口から未来を望む言葉が零れ、レイヴンの目の奥が熱くなった。簡単に未来を諦めていた佐丸は、もういないのだと気付かされる。
「うん。僕とレイヴンの未来と、その先のこと」
佐丸の瞳は未来と、その先までを見据えている。ぎゅっと握られた手から、隣にはレイヴンも一緒だと思っているのが伝わってくる。
「まずは一緒に、観覧車に乗ろう」
誘う佐丸の背中で、大観覧車が光り輝いている。きらめく世界に照らされて、レイヴンは目を細める。もう一度、佐丸と一緒にこの光景が見られるなんて思わなかった。
レイヴンは佐丸の手を引いた。力強く引っ張られ、佐丸の身体が揺れる。
「佐丸、好きだ」
近付いた唇に吐息をふきかけるように囁き、レイヴンは佐丸の唇に自分の唇を重ねた。
掠めるような子どもじみた口付けなのに、佐丸に触れたと思うと幸福感で胸がいっぱいになる。佐丸は驚いて、だけどすぐに顔を真っ赤にして「僕も、好きだよ」と呟いた。
これから先、どれだけの未来を一緒に過ごせるかわからない。
けれど何度だって巡り会える。レイヴンはそう信じている。
どれだけ時を重ねても、きっと今日のように。
いつかの未来のその先で、何度だって巡り会う。
来たことはないはずなのに、なぜか観覧車の頂上から地上を見下ろした記憶が頭の中に蘇る。一人ではなかった。相変わらず顔にはもやがかかっているが、確かにもう一人いた。
「佐丸……?」
きっとその相手が佐丸なのだろう。
「え――」
意識していなかったが、烏丸はその名前を声にだしていた。その瞬間、背後から戸惑ったような声がした。烏丸は思わず振り向き、相手の顔を見る。
大きな瞳と丸い頬がハムスターに似ている。
そう思うと同時に、烏丸の中に記憶が蘇った。
まるで濁流に飲まれたかのような情報量に立っていられず、烏丸はふらりとよろめく。その身体を、青年が咄嗟に支えてくれた。
青年は信じられないと言うように目を見開いて、烏丸の顔をじっと見つめている。
「レイヴン、なのか……?」
懐かしい声が、烏丸をレイヴンと呼んだ。
そうだ、と思い出す。
そうだ、自分の名前は、本当の名前は……
「さまる……、佐丸っ!」
佐丸に名前を呼ばれ、レイヴンはその身体を強く抱き締めた。二人の横を通り過ぎる客達の視線を感じるが、どうでも良かった。今はただ、再び出会えた軌跡を噛み締めていたい。
佐丸も同じ気持ちだったのか、背中に回された腕は力強かった。佐丸は泣いているのか、レイヴンの胸の辺りがじわりと温かくなる。その温かさに、レイヴンも泣きそうだった。
しかしいつまでも道のど真ん中で抱き合っているわけにもいかない。レイヴンは佐丸の背中を撫でさすり、少し離れたベンチに向かった。
腰を下ろして、ようやく二人は落ち着いたようだった。
鼻を啜りながらレイヴンの顔を見上げる佐丸は、少しだけやつれたように見える。佐丸の顔を見つめながら、これは何度目の未来だろうかとレイヴンは考える。
人間に落ちた死神が、再び死神として生まれ変わることはおそらくないはずだ。
自分は何度人間に生まれ変わり、人間として死に、新たな生を得たのだろうか。
そして佐丸は何度、レイヴンとの記憶を持って生まれ変わったのだろうか。その度に、探してくれたのだろうか。こんな風に、思い出の場所で。
「ごめん、嬉しくて……取り乱したかも」
佐丸は照れ隠しのように笑って、レイヴンの手を握った。
それからゆっくりと、深呼吸をする。
「何回、生まれ変わったかわからない。レイヴンのことは何度も夢に見た」
レイヴンは佐丸の手を握り返し、続く言葉を待つ。
「レイヴンの記憶は消えなかったんだ。その度に、絶望した。僕の身体は何度生まれ変わっても、長くは生きられない身体だったから」
二度の契約解除の、これは罰なのだろう。俯く佐丸の瞳には影があった。
「それでも、身体が許す限りはここに来た。いつか、いつでもいいから……またレイヴンに会えたらって思って」
佐丸はそこまで話すと、ベンチに背中を預けた。緊張していたのか、吐く息が震えている。
「ずいぶん長くかかったけどね」
レイヴンは佐丸の言葉に胸が締め付けられる。どれだけ長い間、佐丸を待たせてしまったのだろう。記憶を取り戻すのに、ずいぶんと長くかかってしまった。
「ごめん……」
「なんだよ、謝るなんてお前らしくないってば。謝るより、これからのことを考えよう」
「これからの、こと」
佐丸の口から未来を望む言葉が零れ、レイヴンの目の奥が熱くなった。簡単に未来を諦めていた佐丸は、もういないのだと気付かされる。
「うん。僕とレイヴンの未来と、その先のこと」
佐丸の瞳は未来と、その先までを見据えている。ぎゅっと握られた手から、隣にはレイヴンも一緒だと思っているのが伝わってくる。
「まずは一緒に、観覧車に乗ろう」
誘う佐丸の背中で、大観覧車が光り輝いている。きらめく世界に照らされて、レイヴンは目を細める。もう一度、佐丸と一緒にこの光景が見られるなんて思わなかった。
レイヴンは佐丸の手を引いた。力強く引っ張られ、佐丸の身体が揺れる。
「佐丸、好きだ」
近付いた唇に吐息をふきかけるように囁き、レイヴンは佐丸の唇に自分の唇を重ねた。
掠めるような子どもじみた口付けなのに、佐丸に触れたと思うと幸福感で胸がいっぱいになる。佐丸は驚いて、だけどすぐに顔を真っ赤にして「僕も、好きだよ」と呟いた。
これから先、どれだけの未来を一緒に過ごせるかわからない。
けれど何度だって巡り会える。レイヴンはそう信じている。
どれだけ時を重ねても、きっと今日のように。
いつかの未来のその先で、何度だって巡り会う。
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