死神様の恋愛マニュアル

よもやま

文字の大きさ
上 下
33 / 40

5.真実と選択⑥

しおりを挟む
 ■

 それから四日、レイヴンは付かず離れずの距離を取りながら佐丸のことを見守っていた。佐丸は朝起きると必ず消えた契約印を確認して、レイヴンを探すように外に出る。行く場所は決まっていた。
 横浜と、鹿瀬に遭遇したカフェ。

 レイヴンと共に行った場所はその二カ所しかないのだから当然だった。きょろきょろと周囲を見回しながらレイヴンを探す佐丸の姿に、何度声を掛けようと思ったことかわからない。

 だが、ここで声を掛けてしまえばアンブレラが契約解除した意味がなくなってしまう。それに、きっと今もアンブレラはレイヴンと佐丸の二人をどこかで監視しているのだろう。再び佐丸と契約を結んでしまえば、佐丸の魂はアンブレラに回収されてしまうのが目に見えていた。

 それは耐え難いことだった。
 アンブレラに提示された期限は一週間。あと三日しかないが、それでもレイヴンが佐丸の側にいることでその間の佐丸の命は保証される。

「……死神失格だな」

 ターゲットの命を守るために側に居るなんて、死神失格だろう。それでも佐丸と一緒に同じ場所を再び巡るうちに、この命を自分の手で奪うなんて出来やしないと身に染みてわかる。
 中華街で無意識に空を見上げる姿や、寂しげに観覧車を見つめる背中、「恋愛心理学」の本を手に何かを待つカフェの店内。

 数少ない思い出を辿るようにレイヴンを探す佐丸の行動は、いじらしくて愛おしくてたまらなかった。こんな姿を見せられて、非情に徹してその魂を回収することなどできるわけがないのだ。
 そして昼間の捜索が終わると、佐丸は必ずコンビニんでピザまんを一つ買って家に戻る。半分に割ってテーブルに置いておき、レイヴンが姿を現すのを待っていた。

 レイヴンが姿を見せないことはわかっていても、そうしなければ気持ちが持たなかったのだろう。佐丸は夜中になると、新しいボトルシップを作り始めるようになっていた。
 佐丸にとってボトルシップやミニチュア模型を作ることは、現実逃避の結果だと言っていたことを思い出す。テーブルについて真剣な顔で作業する佐丸を、レイヴンは見つめることしかできない。

 小さなパーツをピンセットで一つずつ組み上げていく様子を見ていると、佐丸が自分の心を紐解いて整理しようとしているのだとわかる。
 壊れやすいものを丁寧に拾い上げて、守るように透明なボトルの中に作り上げる。

 佐丸はそうやって、自分の心を必死に守ろうとしているのだろう。そして、この部屋にあるボトルシップやミニチュア模型の数だけ、佐丸は傷付いてきた。
 そして今、レイヴンが与えた傷で佐丸は新しくボトルシップを作っている。
 初めて見た時はあんなにも綺麗だと感じたのに、今では透明なボトルの中で積み上げられていく佐丸の傷を見ているようで心が痛んだ。

 もう、作らなくて良い。俺はここにいるから。
 この思いを伝えたい。レイヴンはそう強く感じ、佐丸の名前を呼ぼうと口を開いた。


 ――ガチャン


 不意に、玄関から物音がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

クズ彼氏にサヨナラして一途な攻めに告白される話

雨宮里玖
BL
密かに好きだった一条と成り行きで恋人同士になった真下。恋人になったはいいが、一条の態度は冷ややかで、真下は耐えきれずにこのことを塔矢に相談する。真下の事を一途に想っていた塔矢は一条に腹を立て、復讐を開始する——。 塔矢(21)攻。大学生&俳優業。一途に真下が好き。 真下(21)受。大学生。一条と恋人同士になるが早くも後悔。 一条廉(21)大学生。モテる。イケメン。真下のクズ彼氏。

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています

八神紫音
BL
 魔道士はひ弱そうだからいらない。  そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。  そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、  ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。

処理中です...