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5.真実と選択⑤
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「……レイヴン?」
眠っていた佐丸が目を覚まし、レイヴンの名前を呼んだ。しかしその目はなぜか宙を彷徨ったままで、間近に佇むレイヴンの姿に気付いていない。レイヴンは不思議そうに眉を寄せる佐丸をじっと見つめたまま、ぽっかりと穴の空いたような胸に手を当てる。
二人の胸に刻まれた、絆を示す契約印はもう消えてしまった。
これでレイヴンと佐丸はただの死神とターゲットに戻ってしまったことになる。二人が会話を交わして互いに触れ合うことが出来たのは、契約があったからだ。証が消えてしまえば、人間である佐丸がレイヴンの存在を感知できなくなるのは当然のことでもあった。
「あれ……どこ行ったんだよ?」
しかし佐丸は気付いていない。ベッドから起き上がり、身体をふらつかせながら狭い部屋の中でレイヴンを探している。レイヴンは思わず佐丸の身体を支えそうになるが、アンブレラが契約を解除した意味を思い出し踏みとどまった。
佐丸はレイヴンの名前を呼びながら、あちこち探し回っている。これではまるでペットを探す飼い主のようだ。
ここにいるのに、と思いながらもレイヴンは佐丸から距離を取って気配を殺している。佐丸がもう一度レイヴンの存在に気付いてしまったら、きっともう佐丸を助けることはできないだろう。
そう考えて、レイヴンは自分が佐丸を助けたがっていることに気付いてしまった。この契約が解除されたのは、佐丸の魂を円滑に回収するためだ。だからこそ、アンブレラが忠告にやってきた。言われた通り、マニュアル通り、レイヴンが佐丸の魂を回収すれば卒業試験は合格だ。晴れて候補生から死神になれる。
簡単なことだろう、とレイヴンは自分に言い聞かせる。
たかが二日、一緒に過ごしただけなのだ。人間の世界を、きらめく世界を見せてくれたからといって、情を感じる必要などどこにある。
そう思うのに、佐丸の笑顔や寂しげな横顔、鹿瀬に対面したときの怯えた姿を思い出すとその身体を抱き締めたくなってしまう。
「いないのか?」
いる、と声に出したい衝動をおさえて、レイヴンは佐丸を見つめる。佐丸は小さく溜め息をつくと、諦めたように浴室に向かった。しばらくするとシャワーの音が聞こえてくる。
寝汗を掻いた身体を洗い流しているのだろう。佐丸がこれからどうするのかはわからない。繋がりが切れてしまったせいで、佐丸の心を読み取ることも難しい。
契約など面倒なだけだと思っていたのに、いざ繋がりが切れてしまえば不安になってしまう。初めて知る感情に、レイヴンは戸惑うばかりだ。これはどういう感情なのか、「恋愛心理学」の本を手に取ろうとして、自分にはもう掴むこともできないのだと気付く。
けれどこの気持ちが恋かどうかなんて、マニュアルを見なくともわかっていた。
今もこうして理由をつけて迷っている時点で、これはきっと……
「……消えてる? なんで」
そんなことを考えていると、浴室から佐丸の声が聞こえてきた。
契約印が消えていることに気付いたのだろう。面倒な死神から解放されたのだから少しは喜ぶかと思っていたが、佐丸はなぜか乾いた笑い声を上げて鼻を啜った。
泣いているのだとわかり、レイヴンは唇を噛み締める。
「なんだよ。うそつき」
小さく呟かれた言葉が、レイヴンの胸に深く突き刺さった。
「……レイヴン?」
眠っていた佐丸が目を覚まし、レイヴンの名前を呼んだ。しかしその目はなぜか宙を彷徨ったままで、間近に佇むレイヴンの姿に気付いていない。レイヴンは不思議そうに眉を寄せる佐丸をじっと見つめたまま、ぽっかりと穴の空いたような胸に手を当てる。
二人の胸に刻まれた、絆を示す契約印はもう消えてしまった。
これでレイヴンと佐丸はただの死神とターゲットに戻ってしまったことになる。二人が会話を交わして互いに触れ合うことが出来たのは、契約があったからだ。証が消えてしまえば、人間である佐丸がレイヴンの存在を感知できなくなるのは当然のことでもあった。
「あれ……どこ行ったんだよ?」
しかし佐丸は気付いていない。ベッドから起き上がり、身体をふらつかせながら狭い部屋の中でレイヴンを探している。レイヴンは思わず佐丸の身体を支えそうになるが、アンブレラが契約を解除した意味を思い出し踏みとどまった。
佐丸はレイヴンの名前を呼びながら、あちこち探し回っている。これではまるでペットを探す飼い主のようだ。
ここにいるのに、と思いながらもレイヴンは佐丸から距離を取って気配を殺している。佐丸がもう一度レイヴンの存在に気付いてしまったら、きっともう佐丸を助けることはできないだろう。
そう考えて、レイヴンは自分が佐丸を助けたがっていることに気付いてしまった。この契約が解除されたのは、佐丸の魂を円滑に回収するためだ。だからこそ、アンブレラが忠告にやってきた。言われた通り、マニュアル通り、レイヴンが佐丸の魂を回収すれば卒業試験は合格だ。晴れて候補生から死神になれる。
簡単なことだろう、とレイヴンは自分に言い聞かせる。
たかが二日、一緒に過ごしただけなのだ。人間の世界を、きらめく世界を見せてくれたからといって、情を感じる必要などどこにある。
そう思うのに、佐丸の笑顔や寂しげな横顔、鹿瀬に対面したときの怯えた姿を思い出すとその身体を抱き締めたくなってしまう。
「いないのか?」
いる、と声に出したい衝動をおさえて、レイヴンは佐丸を見つめる。佐丸は小さく溜め息をつくと、諦めたように浴室に向かった。しばらくするとシャワーの音が聞こえてくる。
寝汗を掻いた身体を洗い流しているのだろう。佐丸がこれからどうするのかはわからない。繋がりが切れてしまったせいで、佐丸の心を読み取ることも難しい。
契約など面倒なだけだと思っていたのに、いざ繋がりが切れてしまえば不安になってしまう。初めて知る感情に、レイヴンは戸惑うばかりだ。これはどういう感情なのか、「恋愛心理学」の本を手に取ろうとして、自分にはもう掴むこともできないのだと気付く。
けれどこの気持ちが恋かどうかなんて、マニュアルを見なくともわかっていた。
今もこうして理由をつけて迷っている時点で、これはきっと……
「……消えてる? なんで」
そんなことを考えていると、浴室から佐丸の声が聞こえてきた。
契約印が消えていることに気付いたのだろう。面倒な死神から解放されたのだから少しは喜ぶかと思っていたが、佐丸はなぜか乾いた笑い声を上げて鼻を啜った。
泣いているのだとわかり、レイヴンは唇を噛み締める。
「なんだよ。うそつき」
小さく呟かれた言葉が、レイヴンの胸に深く突き刺さった。
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