3 / 40
1.死神の大原則③
しおりを挟む
「~~~~ッ!!」
レイヴンは声にならない叫びを上げて、必死に佐丸の手から逃れようとする。しかし佐丸はレイヴンの腕を掴んだまま、なにやら複雑な身の上話まで始める始末だ。
ゲイがどうだの、元彼がDVクソ野郎だの……。
人間学は得意な方だったが、さすがに聞き馴染みのない言葉ばかりで何一つ理解出来ない。レイヴンは聞き流すことにした。とにかく今は、人間と接触してしまったこの状況をどうしたらいいのか。そればかりが気にかかる。
空いてる手で必死に『落ちて死ぬはずだった魂と接触してしまった場合の事故対応』を探してみるが、それらしい項目は見つからなかった。
がっくり肩を落として、覚悟を決めるしかないのかと溜め息が漏れる。
マニュアルの原則通りならば、『魂に接触した場合は必ず回収しなければならない』。
つまり、どうにかしてこの佐丸に死んで貰う必要があるということだ。だがこの状況でどうやって再びこの佐丸にフェンスを乗り越えさせるべきか、それがわからなかった。
人間は負の感情を言葉にして吐き出すことで、気持ちの整理をつけてしまう生き物だという。気持ちの整理を付けた生き物は、そう簡単に自らの命を捨てることはしないだろう。まさに今、レイヴンが直面している状況だった。
「でもさ、お兄さんが変な人だから」
「へっ、変な人!?」
唐突な言葉に、レイヴンはとうとう反応を示してしまった。
今、こいつは俺のことを「変な人」と言ったのか?
アンブレラと違って、レイヴンはまともな死神のつもりだった。ヒョウ柄のシャツなんて着ないし白いスーツだって着ない。標準的な黒いスーツに、髪型だってマニュアル通り清潔感を意識している。
死神養成学校では真面目で勤勉な死神として通ってきたのに……。あまりの衝撃にしばし茫然として、レイヴンは佐丸の言葉に反応してしまったことなどすっかり頭から抜け落ちていた。
「変な人でしょ。あんなにたくさん猫の鳴き真似できる人いないよ」
佐丸はレイヴンの鳴き真似を思い出しているのか、小刻みに肩を震わせる。擬態のために張り切った鳴き真似が裏目に出ていたようで、レイヴンは「そんな馬鹿な……」と呟いていた。
「ん、ふふ……。そんなショック受ける? って、うわ」
震えるレイヴンの声を笑っていた佐丸が、突然目を見開いた。
「なっ、なんだ……?」
ついでに口もポカンと開けて、信じられないものでも見たかのようだ。「うあ……」とうろたえながら視線が彷徨う。心なしか、頬が赤く染まっているようにも見えた。
「こ、こんなこと言われて気持ち悪かったらごめんなんだけど、お兄さん……かっこよすぎて」
「かっこいい……?」
佐丸にそう言われ、レイヴンは自らの顔に触れる。顔の造形を確かめると、確かに一般的に美形と言われる形をしているようだった。鼻筋が通っていて瞳も切れ長の二重、頬の輪郭もシャープで全体的に顔の肉付きが薄い気がする。唇も薄い気がしたが、皮膚はつるりと滑らかだ。
死神は、対象者にとって一番魅力的な姿で映る――授業でそう教わった覚えがある。
今この佐丸の目の前に映っているのは、世界で一番好みの顔をしている男なのだろう。屋上で猫の鳴き真似をする怪しさなど吹き飛ばしてしまうほどに。
なるほどこれは、利用できるかもしれない。
レイヴンは声にならない叫びを上げて、必死に佐丸の手から逃れようとする。しかし佐丸はレイヴンの腕を掴んだまま、なにやら複雑な身の上話まで始める始末だ。
ゲイがどうだの、元彼がDVクソ野郎だの……。
人間学は得意な方だったが、さすがに聞き馴染みのない言葉ばかりで何一つ理解出来ない。レイヴンは聞き流すことにした。とにかく今は、人間と接触してしまったこの状況をどうしたらいいのか。そればかりが気にかかる。
空いてる手で必死に『落ちて死ぬはずだった魂と接触してしまった場合の事故対応』を探してみるが、それらしい項目は見つからなかった。
がっくり肩を落として、覚悟を決めるしかないのかと溜め息が漏れる。
マニュアルの原則通りならば、『魂に接触した場合は必ず回収しなければならない』。
つまり、どうにかしてこの佐丸に死んで貰う必要があるということだ。だがこの状況でどうやって再びこの佐丸にフェンスを乗り越えさせるべきか、それがわからなかった。
人間は負の感情を言葉にして吐き出すことで、気持ちの整理をつけてしまう生き物だという。気持ちの整理を付けた生き物は、そう簡単に自らの命を捨てることはしないだろう。まさに今、レイヴンが直面している状況だった。
「でもさ、お兄さんが変な人だから」
「へっ、変な人!?」
唐突な言葉に、レイヴンはとうとう反応を示してしまった。
今、こいつは俺のことを「変な人」と言ったのか?
アンブレラと違って、レイヴンはまともな死神のつもりだった。ヒョウ柄のシャツなんて着ないし白いスーツだって着ない。標準的な黒いスーツに、髪型だってマニュアル通り清潔感を意識している。
死神養成学校では真面目で勤勉な死神として通ってきたのに……。あまりの衝撃にしばし茫然として、レイヴンは佐丸の言葉に反応してしまったことなどすっかり頭から抜け落ちていた。
「変な人でしょ。あんなにたくさん猫の鳴き真似できる人いないよ」
佐丸はレイヴンの鳴き真似を思い出しているのか、小刻みに肩を震わせる。擬態のために張り切った鳴き真似が裏目に出ていたようで、レイヴンは「そんな馬鹿な……」と呟いていた。
「ん、ふふ……。そんなショック受ける? って、うわ」
震えるレイヴンの声を笑っていた佐丸が、突然目を見開いた。
「なっ、なんだ……?」
ついでに口もポカンと開けて、信じられないものでも見たかのようだ。「うあ……」とうろたえながら視線が彷徨う。心なしか、頬が赤く染まっているようにも見えた。
「こ、こんなこと言われて気持ち悪かったらごめんなんだけど、お兄さん……かっこよすぎて」
「かっこいい……?」
佐丸にそう言われ、レイヴンは自らの顔に触れる。顔の造形を確かめると、確かに一般的に美形と言われる形をしているようだった。鼻筋が通っていて瞳も切れ長の二重、頬の輪郭もシャープで全体的に顔の肉付きが薄い気がする。唇も薄い気がしたが、皮膚はつるりと滑らかだ。
死神は、対象者にとって一番魅力的な姿で映る――授業でそう教わった覚えがある。
今この佐丸の目の前に映っているのは、世界で一番好みの顔をしている男なのだろう。屋上で猫の鳴き真似をする怪しさなど吹き飛ばしてしまうほどに。
なるほどこれは、利用できるかもしれない。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
クズ彼氏にサヨナラして一途な攻めに告白される話
雨宮里玖
BL
密かに好きだった一条と成り行きで恋人同士になった真下。恋人になったはいいが、一条の態度は冷ややかで、真下は耐えきれずにこのことを塔矢に相談する。真下の事を一途に想っていた塔矢は一条に腹を立て、復讐を開始する——。
塔矢(21)攻。大学生&俳優業。一途に真下が好き。
真下(21)受。大学生。一条と恋人同士になるが早くも後悔。
一条廉(21)大学生。モテる。イケメン。真下のクズ彼氏。
【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした
月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。
人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。
高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。
一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。
はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。
次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。
――僕は、敦貴が好きなんだ。
自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。
エブリスタ様にも掲載しています(完結済)
エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位
◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。
応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。
ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。
『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748
[完結]ひきこもり執事のオンオフスイッチ!あ、今それ押さないでくださいね!
小葉石
BL
有能でも少しおバカなシェインは自分の城(ひきこもり先)をゲットするべく今日も全力で頑張ります!
応募した執事面接に即合格。
雇い主はこの国の第3王子ガラット。
人嫌いの曰く付き、長く続いた使用人もいないと言うが、今、目の前の主はニッコニコ。
あれ?聞いていたのと違わない?色々と違わない?
しかし!どんな主人であろうとも、シェインの望みを叶えるために、完璧な執事をこなして見せます!
勿論オフはキッチリいただきますね。あ、その際は絶対に呼ばないでください!
*第9回BL小説大賞にエントリーしてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる