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3:「そ、良い子の性教育」
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2.
「安達、何か顔色悪くね?」
「え……そうか? 午前中忙しかったから、疲れてるように見えるだけだろ」
「そっかぁ? ならいいけど」
同期の笹垣に声をかけられ、廉太郎は思わず作り笑いを返していた。昨夜ラブホテルで起きた出来事を消化できないまま、今日は寝不足で出社していたのだ。顔色が悪い自覚はあったが、それを指摘されると昨日の出来事が夢ではなかったと思い知らされる。
未成年相手にこちらから手を出したわけではないし、キスの一つもしていない。どちらかというと辱められたのは自分の方だった。それでも、流されて自慰行為を披露してしまった。
清廉潔白な人間からはほど遠い、獣のような行為だった。蕩けた瞳で口をだらしなく開けて、涎を垂らして汗まみれになりながら、快感を追い求めて必死に性器を扱いて……
「――ち、あだち、安達!」
「うわ!? わ、悪い、何だ?」
「電話、東洋商事さんから」
「あ、ああ……ありがとう」
「……お前本当に大丈夫か? 具合悪いなら帰った方がいいんじゃ」
「だ、大丈夫だって。ちょっと寝不足なだけだから――お待たせしました、安達です」
気を抜くと、廉太郎は昨夜の行為を思い返してしまう。それほどまでに、強烈な快感だったのだ。
大芽にはMっ気があると言われたが、そんな性癖は今まで知ることもなかったのだ。
昨日が初めてだった。
強い言葉で強制されて、否定されて、汚い自分を曝け出すのは気持ちが良かった。
そうなのだ。気持ちが良いから、廉太郎は困っている。
取引先との電話を終え、廉太郎は席を立った。スマホを手にして笹垣にコーヒーを買いに行くと伝えると、「おーおー、眠気覚まししてこい」と笑われた。
廉太郎はエレベーターで二階まで下りてカフェテリアへ向かう。カフェテリア内は広い飲食スペースが設けられている。廉太郎は淹れ立てのホットコーヒーを受け取って、壁際の座席に腰を下ろした。
コーヒーを啜りながら、スマホを見つめる。緑のアイコンのチャットアプリには、河本大芽の名前が追加されていた。
大芽は昨夜、交渉成立だと言った。しかし連絡先を交換しただけで、大芽からのメッセージは来ていない。
「…………っ、!」
大芽からの連絡を待っている自分に気付いて、廉太郎は思わずスマホを裏返してテーブルに押し付けた。思いのほか大きな音が響き、カフェテリアの店員が怪訝そうな顔をする。
自分は何を期待しているのだろうか。これでは自分から、望んで泥沼に足を踏み入れているみたいだ。
そんなことはない、と廉太郎は頭を振る。自分は決して、望んであんなことをしたわけでは――
本当?
嘲るようにスマホが振動した。もしかしたら、と画面を確認して廉太郎の心臓が大きく鳴る。
チャットアプリの通知画面に、大芽の名前とアイコンが表示されていた。
緊張しながら通知をタップしてメッセージを確認すると『九時 新宿で』とたった五文字の命令が書いてあった。
新宿は、昨日大芽と廉太郎が入ったホテルがある。きっと同じ場所で待っていろ、ということなのだろう。
高校生が夜に出歩くなんて……。真っ当な大人なら大芽のメッセージにそう返したはずだ。けれど廉太郎に拒否権はない。昨日の動画が頭をよぎり、『わかった』と従順な犬になって返信をしていた。
ホテルの前にやってきた大芽は、制服では無く私服姿だった。ジーンズに黒のハイネックセーターとベージュのチェスターコートを合わせている。
昨日は制服を着ていたせいで学生感が強かったが、私服になると高校生だと言われても信じがたいくらいに大人びて見える。
「きょ、今日は私服なのか……」
「まぁ……昨日みたいに制服のままラブホにいたら、どっかのお節介に邪魔されるかもしんないから」
「……ぐっ」
「いこっか、廉太郎」
昨日の自分を揶揄されて、その後の痴態までをも思い出し、廉太郎の頬に血が集まる。大芽はそんな廉太郎に意地の悪い笑みを向けると、慣れた様子で手を引いた。
「あ、あの……大芽、くん」
「大芽くん! ふはっ」
ホテルの室内に入ると同時に、廉太郎は大芽の手を振りほどいた。くん付けで名前を呼ばれたことが面白かったのか、大芽は鸚鵡返しに自分の名前を口にする。
「なあに、廉太郎くん」
同じように廉太郎の名前を呼ぶと、廉太郎は「うっ」と怯んで後退る。
「スーツ、皺になるよ」
動揺する廉太郎を面白がりながら、大芽はハンガーを手渡した。今からスーツが皺になるようなことをするんだから脱ぎなよ、と目線で訴えて自分もコートを脱ぐ。
廉太郎は視線の意味に気付いて顔を赤くしながら、ジャケットとネクタイをハンガーに掛けた。スラックスと下着を脱ぐのはまだ抵抗があるようで、ためらいがちに視線を揺らしている。
「ビビってる?」
ベッド脇で立ち尽くしたままの廉太郎に近付き、大芽は顔を覗き込む。俯いた表情は期待が半分、不安が半分といったところだ。
「そ、そんなことは……っ! だけど君は高校生だし……やっぱり大人として高校生とこんなところに入るのは」
「はは、俺が未成年だから躊躇ってるんなら安心していいよ。俺はあんたに指一本触れないし、あんたも俺に触る必要はない」
「は……?」
「俺が触らなくても気持ちよくなれるって、あんたもう知ってるだろ?」
にやけた顔で、大芽がスマホを振った。
「っ、き……昨日と同じ、ことを……?」
「なわけねえだろ。昨日と同じことするためにわざわざ呼び出さないって」
鈍感な廉太郎に呆れながら、大芽はベッドに腰掛けた。隣に座れ、と言われているようで廉太郎も少し距離を空けてベッドに座る。
「あんたのこと、もっと良く知りたくて」
大芽は床に置いていたバッグからビニール袋を取り出し、ベッドの上で逆さにした。袋の中から勢いよく何かが落ちてくる。
「好きなの選んでいいよ」
電マ、ピンクローター、イボのついたディルド、アナルパール……ベッドにぶちまけられたのはいわゆる大人のオモチャと呼ばれるものだった。
「最初だから、電マかローターをオススメしとくけど」
大芽はローターのコードを持って、ぽいと廉太郎に向けて放り投げる。反射でローターを受け取った廉太郎は、不思議そうな顔でソレを見つめていた。
「……マジ?」
廉太郎の反応に、大芽は半笑いで声を漏らす。まさか、成人済みの男がローターの存在を知らないとは。
「AVとか見たことない?」
「なっ、そんな破廉恥なもの……ッ」
「破廉恥!」
ずいぶんと古風な単語に大芽は思わず噴き出してしまう。童貞だなんて冗談かと思っていたが、この様子なら本当に童貞なのだろう。
「じゃあさ、どんだけ破廉恥か確かめてみようか」
廉太郎が言葉の意味を理解する前に、大芽はテレビの電源を入れた。
『ぃく、イクぅ……ァアアアン……っ!』
突然響いた喘ぎ声と画面に映った肌色に、廉太郎は思わず立ち上がっていた。
「お~、さすが新宿」
「な、こ、こ、これ……っ」
「ゲイビだね。あ、しかもちょうどオモチャプレイのやつじゃん」
動揺する廉太郎のことなど意に介さず、大芽はベッドの上にあぐらをかいた。そしてベッドに放られたピンクローターを手に取り、ちゅっと口付ける。
「今日もいじめてあげようかと思ったけど、やーめた。今日はお勉強にしようか」
「は……? 勉強?」
「そ、良い子の性教育」
「安達、何か顔色悪くね?」
「え……そうか? 午前中忙しかったから、疲れてるように見えるだけだろ」
「そっかぁ? ならいいけど」
同期の笹垣に声をかけられ、廉太郎は思わず作り笑いを返していた。昨夜ラブホテルで起きた出来事を消化できないまま、今日は寝不足で出社していたのだ。顔色が悪い自覚はあったが、それを指摘されると昨日の出来事が夢ではなかったと思い知らされる。
未成年相手にこちらから手を出したわけではないし、キスの一つもしていない。どちらかというと辱められたのは自分の方だった。それでも、流されて自慰行為を披露してしまった。
清廉潔白な人間からはほど遠い、獣のような行為だった。蕩けた瞳で口をだらしなく開けて、涎を垂らして汗まみれになりながら、快感を追い求めて必死に性器を扱いて……
「――ち、あだち、安達!」
「うわ!? わ、悪い、何だ?」
「電話、東洋商事さんから」
「あ、ああ……ありがとう」
「……お前本当に大丈夫か? 具合悪いなら帰った方がいいんじゃ」
「だ、大丈夫だって。ちょっと寝不足なだけだから――お待たせしました、安達です」
気を抜くと、廉太郎は昨夜の行為を思い返してしまう。それほどまでに、強烈な快感だったのだ。
大芽にはMっ気があると言われたが、そんな性癖は今まで知ることもなかったのだ。
昨日が初めてだった。
強い言葉で強制されて、否定されて、汚い自分を曝け出すのは気持ちが良かった。
そうなのだ。気持ちが良いから、廉太郎は困っている。
取引先との電話を終え、廉太郎は席を立った。スマホを手にして笹垣にコーヒーを買いに行くと伝えると、「おーおー、眠気覚まししてこい」と笑われた。
廉太郎はエレベーターで二階まで下りてカフェテリアへ向かう。カフェテリア内は広い飲食スペースが設けられている。廉太郎は淹れ立てのホットコーヒーを受け取って、壁際の座席に腰を下ろした。
コーヒーを啜りながら、スマホを見つめる。緑のアイコンのチャットアプリには、河本大芽の名前が追加されていた。
大芽は昨夜、交渉成立だと言った。しかし連絡先を交換しただけで、大芽からのメッセージは来ていない。
「…………っ、!」
大芽からの連絡を待っている自分に気付いて、廉太郎は思わずスマホを裏返してテーブルに押し付けた。思いのほか大きな音が響き、カフェテリアの店員が怪訝そうな顔をする。
自分は何を期待しているのだろうか。これでは自分から、望んで泥沼に足を踏み入れているみたいだ。
そんなことはない、と廉太郎は頭を振る。自分は決して、望んであんなことをしたわけでは――
本当?
嘲るようにスマホが振動した。もしかしたら、と画面を確認して廉太郎の心臓が大きく鳴る。
チャットアプリの通知画面に、大芽の名前とアイコンが表示されていた。
緊張しながら通知をタップしてメッセージを確認すると『九時 新宿で』とたった五文字の命令が書いてあった。
新宿は、昨日大芽と廉太郎が入ったホテルがある。きっと同じ場所で待っていろ、ということなのだろう。
高校生が夜に出歩くなんて……。真っ当な大人なら大芽のメッセージにそう返したはずだ。けれど廉太郎に拒否権はない。昨日の動画が頭をよぎり、『わかった』と従順な犬になって返信をしていた。
ホテルの前にやってきた大芽は、制服では無く私服姿だった。ジーンズに黒のハイネックセーターとベージュのチェスターコートを合わせている。
昨日は制服を着ていたせいで学生感が強かったが、私服になると高校生だと言われても信じがたいくらいに大人びて見える。
「きょ、今日は私服なのか……」
「まぁ……昨日みたいに制服のままラブホにいたら、どっかのお節介に邪魔されるかもしんないから」
「……ぐっ」
「いこっか、廉太郎」
昨日の自分を揶揄されて、その後の痴態までをも思い出し、廉太郎の頬に血が集まる。大芽はそんな廉太郎に意地の悪い笑みを向けると、慣れた様子で手を引いた。
「あ、あの……大芽、くん」
「大芽くん! ふはっ」
ホテルの室内に入ると同時に、廉太郎は大芽の手を振りほどいた。くん付けで名前を呼ばれたことが面白かったのか、大芽は鸚鵡返しに自分の名前を口にする。
「なあに、廉太郎くん」
同じように廉太郎の名前を呼ぶと、廉太郎は「うっ」と怯んで後退る。
「スーツ、皺になるよ」
動揺する廉太郎を面白がりながら、大芽はハンガーを手渡した。今からスーツが皺になるようなことをするんだから脱ぎなよ、と目線で訴えて自分もコートを脱ぐ。
廉太郎は視線の意味に気付いて顔を赤くしながら、ジャケットとネクタイをハンガーに掛けた。スラックスと下着を脱ぐのはまだ抵抗があるようで、ためらいがちに視線を揺らしている。
「ビビってる?」
ベッド脇で立ち尽くしたままの廉太郎に近付き、大芽は顔を覗き込む。俯いた表情は期待が半分、不安が半分といったところだ。
「そ、そんなことは……っ! だけど君は高校生だし……やっぱり大人として高校生とこんなところに入るのは」
「はは、俺が未成年だから躊躇ってるんなら安心していいよ。俺はあんたに指一本触れないし、あんたも俺に触る必要はない」
「は……?」
「俺が触らなくても気持ちよくなれるって、あんたもう知ってるだろ?」
にやけた顔で、大芽がスマホを振った。
「っ、き……昨日と同じ、ことを……?」
「なわけねえだろ。昨日と同じことするためにわざわざ呼び出さないって」
鈍感な廉太郎に呆れながら、大芽はベッドに腰掛けた。隣に座れ、と言われているようで廉太郎も少し距離を空けてベッドに座る。
「あんたのこと、もっと良く知りたくて」
大芽は床に置いていたバッグからビニール袋を取り出し、ベッドの上で逆さにした。袋の中から勢いよく何かが落ちてくる。
「好きなの選んでいいよ」
電マ、ピンクローター、イボのついたディルド、アナルパール……ベッドにぶちまけられたのはいわゆる大人のオモチャと呼ばれるものだった。
「最初だから、電マかローターをオススメしとくけど」
大芽はローターのコードを持って、ぽいと廉太郎に向けて放り投げる。反射でローターを受け取った廉太郎は、不思議そうな顔でソレを見つめていた。
「……マジ?」
廉太郎の反応に、大芽は半笑いで声を漏らす。まさか、成人済みの男がローターの存在を知らないとは。
「AVとか見たことない?」
「なっ、そんな破廉恥なもの……ッ」
「破廉恥!」
ずいぶんと古風な単語に大芽は思わず噴き出してしまう。童貞だなんて冗談かと思っていたが、この様子なら本当に童貞なのだろう。
「じゃあさ、どんだけ破廉恥か確かめてみようか」
廉太郎が言葉の意味を理解する前に、大芽はテレビの電源を入れた。
『ぃく、イクぅ……ァアアアン……っ!』
突然響いた喘ぎ声と画面に映った肌色に、廉太郎は思わず立ち上がっていた。
「お~、さすが新宿」
「な、こ、こ、これ……っ」
「ゲイビだね。あ、しかもちょうどオモチャプレイのやつじゃん」
動揺する廉太郎のことなど意に介さず、大芽はベッドの上にあぐらをかいた。そしてベッドに放られたピンクローターを手に取り、ちゅっと口付ける。
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