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第一章 王国編第二部(中等部)
エピソード186 ライラックの悪戯
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「売り上げがヤバいですよショパンさん……」
制服を導入してから一ヶ月半……ハッピースマイルポテイトンのイングリッシュガーデン風の庭に咲いていたライラックの優しく甘い香りが、オレの心をなんとか落ち着かせていた。
それもそのはず、最初は制服効果で集客率も高くガッポガッポと売り上げていたのだが、ここ数日は在庫が余る事が多くなってきている。そして土曜日の今日も在庫が余ってしまい、ハッピースマイルポテイトン開業してからの出来事にオレは戸惑っていた。
「まぁまぁクライヴ殿、流行を追うお客様もいれば、定期的に利用して下さる常客もおります。確かに売り上げは三割減で在庫も余る事が増えましたが、一度見直しをかけて一ヶ月で換算すると一人当たり銀貨七枚程度分の利益が得られるはずです」
ショパンさんはオレを落ち着かせようと、ゆっくりと優しい口調で話してくれた。
(ショパンさん、色々と考えて下さりありがとうございます! そうなんですよね、売り上げが下がり続けると多分二人が冒険者協会の依頼で稼ごうと言い出しそうなんで……それだけは阻止したいんですよ!)
オレは一旦落ち着こうと、庭のベンチに座って晴天の空を見上げる。
「クライヴ君、ほら花弁が五枚あるラッキーライラックですよ。幸運のシンボルって言われているんです」
振り向くとクラリネさんが立っていて、ライラックの花弁を手のひらで優しく包み込んでいた。
クラリネさんは元気の無いオレを励まそうとしてくれているのだが、そんな思いも虚しく…………悪い予感は現実となった。
庭から店内に戻ってきたオレの前にショパンさんから経営状況を聞いたみんなが駆けつけてきた。
「クライヴ! 大変じゃろうが! ショパンさんから聞いたんじゃけど、他の事で稼がないけまーが」
「ショーン、落ち着け。ハッピースマイルポテイトン以外でぼく達ができる事があるじゃないか」
「はぁ? リアナ何を言っとん……おっ! そうじゃな!」
「さぁクライヴ! 冒険者協会に向かおうじゃないか! 今こそぼく達の騎士道精神を発揮する時だよ!」
(知らんがな…………)
そんな二人のやりとりを見ていたモーガンが呆れ顔でオレの方を向いた。
「さぁクライヴ、行こうか。こうなったら誰もあの二人を止めれないよ」
オレはモーガンの説得に渋々とした表情で頷いた。
「わ。私はお力になれないので、何か新しいアイデアを探しに大通りで色々なお店を見学してきます」
クラリネさんとは途中で別れて、オレ達は冒険者協会の扉を開いた。
中に入るとすぐに二人が、アイコンタクトで頷きだす…………
「リアナ、わかっとるのぉ?」
「あぁ、ショーン」
「選ぶんは」
「もちろんだよ」
「「討伐依頼!」」
そんなバトルジャンキー達は依頼書が貼られている左側の大きな壁に向かって行った……
「アンタ、諦めなさいよ! リアナとショーンがああなったら止められないでしょ! そもそもアンタがいけないのよ! 売り上げが悪くなっているのを黙っているから!」
フィーネには諭されて? オレは奥にあるスペースに移動して、ソファーに腰掛けて一息を吐いた。
「クライヴ、そんなに落ち込んでいるの? ちょっとボクも採取依頼を探してくるよ」
モーガンはオレの心情を察してくれて、オレ向けの依頼を探しに行った。
待つ事五分間……………………
何故か意気消沈したリアナとショーンが帰ってきて、リアナは捨てられた子犬のように目を潤ませて……ショーンはこの世の終わりと思う程の表情を見せていた…………
(あれだけウキウキして依頼書を探しに行ったのに、何で落ち込んでいるんだよ!)
オレはあえて二人に何があったか触れないようにしていたが、フィーネがリアナを心配してからか声をかけていた。
「リアナ? どうしたの?」
「クッ! ぼ……ぼく達のレベルで引き受けられる討伐依頼が無かった! 自分の力の無さが情けない!」
「へへ、そうじゃな……先生と師匠にもっと稽古をつけてもらわないけまー」
何故か話がどんどんと飛躍し過ぎて、リアナとショーンはザックとヒューゴに鍛えてもらって中級冒険者になるんだと意味がわからない事を言い出している。
(採取依頼で平和に行こうよ……)
そんな二人にオレは呆れ返っていると、頼みの綱のモーガンが帰ってきた。
「今ある討伐依頼は高難易度でボク達では受けれない依頼ばかりだったね。この採取依頼はどうかな? 」
オレはモーガンの持っている依頼書を見せてもらうと、そこには今が旬のラズベリーの採取の依頼だった。
「ラズベリーの群生地は近場の森だったはずだし、もし獣が出た時はリアナやショーンも戦う事ができるよ」
「「「う~ん……」」」
オレとリアナとショーンはモーガンに説得され、ラズベリーの採取依頼を受ける事にした。
窓口に向かい採取依頼を行う手続きをしていると、窓口のお姉さんからオレ達を心配してくれてからか最近王都であった不可解な噂を話してくれた。
「リトルホープのみなさん。最近王都で子どもが消えたりするという変な噂が広がってきています。被害者が出たとか、そう言った話は聞いた事ないのですが…………一応念の為に依頼が完了しても気をつけてくださいね。」
(前にテリー様が調べていた事が王都にも起きているのか……でも被害者が出ていない? 誰かが流している出鱈目な情報か?)
「ありがとうございます。ボク達も注意して行動します」
オレ達は窓口のお姉さんにお礼を言って、冒険者協会付近の飲食店で腹ごしらえをしてから採取に向かう事にした。
目的地は徒歩二十分の小さな森、騎士団の演習を行う場所の近くからなのか獣達も駆除されており、殆ど獣は見かけない場所となっている。それでも二、三ヶ月に一回程度は獣が出現するらしく、果物屋さんが冒険者協会に採取依頼をお願いするらしい。
ちなみにこの依頼はラズベリーが二百グラムで小銀貨一枚と中々報酬も良いのだが、この旬の時期しか依頼が無いらしい……
時刻は約十三時半……
飲食店で腹を満たしたオレ達は採取に向けて王都から外に出た。
今日は天気も良く、そして道中も危険は感じられない。
「久しぶりじゃなぁ。依頼を受けるんわ」
「ぼくもこのままじゃ腕が鈍ってしまいそうだよ」
「だそうだよクライヴ。これ以上はボクでもリアナやショーンを抑える事は出来ないよ。近々討伐依頼だね」
「ねぇねぇ、アレって行商人の馬車かしら? 何を売っているんだろう? リアナ、王都に帰ったら見に行かない?」
「フィーネ……ハッピースマイルポテイトンのバイト代も減るだろう。ぼく達は節約する事を覚えないといけないよ」
「もう! リアナの意地悪ぅぅ」
オレはみんなのやり取りを微笑ましく思いながら歩いていると、あっという間に目的地に到着した。
森は小鳥達の囀りが響き渡り、木漏れ日が気持ち良く、獣など出そうもない明るい印象の森だった。
そして辺りを見渡すと沢山のラズベリーの実がなっていて、ちょっとした副収入が期待できる量だった。
黙々と作業をする事、数十分。
オレ達は約一キロ程度のラズベリーを集めて、王都に帰る事にした。
「移動込みの約一時間で小銀貨五枚かぁ。みんな結構良い依頼だったなぁ」
「ぼくは討伐依頼が……」
「ワシもじゃ……討伐依頼の方がええ」
二人を除いては表情は明るく、帰路についた。
そして二日後の月曜日、珍しくクラリネさんが欠席をしていた。リアナやショーンにその事を話したら、どうやらエルザ様も欠席しているらしい。
オレは特に気にしていなかったが、次の日もその次の日もクラリネさんの欠席は続いた。
ハッピースマイルポテイトンもお客さんが減少したのでクラリネさん抜きでも店はまわるが、流石にここまで欠席が続くと心配になってきた。
その日もハッピースマイルポテイトンでの仕事も終わり、みんなとわかれて一人で庭の設備点検をしていた所、意外な人物に話しかけられた。
「クライヴ君、少しお時間よろしいかしら?」
夕日に照らされたローズブロンドの髪の輝きと、鼻腔をくすぐる上品かつほのかに甘いライラックの香水の香りにオレは一瞬思考が停止した。
「ちょっと、クライヴ君? 私の話を聞いていますか?」
目の前には制服姿のアリア様が立っていた。
「す、すみません! アリア様!」
「また様付けで言いましたね。同じ学友ですので様付けはやめて下さいませんか」
「すみません……アリアさん」
なんでこの場所にアリア様がいるのかわからないが、アリア様の表情は少し固かった。
「クライヴ君、驚かないで聞いて下さい。クラリネさんとエルザが何者かに攫われました。騎士団が内密に調べていた失踪事件と関連があるか分かりませんが、限りなくクロでしょう」
「そ、そんな………………それなら騎士団に任せたらいい事じゃ!」
「もしかしたらサンダース辺境伯を陥れる為に王国の人間が関与しているかもしれないので騎士団も信頼できるごく少数の人員で捜索しています」
「そんな噂が知れ渡っているなら騎士団が少数で動いても意味ないじゃないですか!」
「この情報は、お父様やランパード辺境伯しか知らない情報です。私もこの情報を集めるのに時間がかかりました」
「何故……そんな機密情報をオレなんかに……」
「信頼しているからです」
「えっ?」
「クライヴ君なら助けてくれるって」
「いや、オレはそんな強い人間じゃ……」
「じゃあ、あの時のミッタールマウスの毒から助けた時のお礼をしていただきますね。私からのお願いは、クライヴ君達にエルザやクラリネさんを助けて欲しい。もちろん私も協力するわ」
(マジかぁぁぁ…………ここでアリア様のお願いを聞くと約束したやつを発動しますかぁ…………でもクラリネさんとさやエルザ様の事も助けたいし……あぁああ! ヤケクソだよ!)
オレは大きく深呼吸をして腹を括った。
「う~ん………………よし! アリアさんのお願いを叶えるよ」
「……ぁ……がとう」
アリア様が何か呟いて聞き取れなかった。
そしてオレにお願いをしたアリア様は、表情こそ変わらないが、何故か雰囲気が柔らかくなった印象を受けた。
(とりあえず、帰ってから作戦会議だな)
制服を導入してから一ヶ月半……ハッピースマイルポテイトンのイングリッシュガーデン風の庭に咲いていたライラックの優しく甘い香りが、オレの心をなんとか落ち着かせていた。
それもそのはず、最初は制服効果で集客率も高くガッポガッポと売り上げていたのだが、ここ数日は在庫が余る事が多くなってきている。そして土曜日の今日も在庫が余ってしまい、ハッピースマイルポテイトン開業してからの出来事にオレは戸惑っていた。
「まぁまぁクライヴ殿、流行を追うお客様もいれば、定期的に利用して下さる常客もおります。確かに売り上げは三割減で在庫も余る事が増えましたが、一度見直しをかけて一ヶ月で換算すると一人当たり銀貨七枚程度分の利益が得られるはずです」
ショパンさんはオレを落ち着かせようと、ゆっくりと優しい口調で話してくれた。
(ショパンさん、色々と考えて下さりありがとうございます! そうなんですよね、売り上げが下がり続けると多分二人が冒険者協会の依頼で稼ごうと言い出しそうなんで……それだけは阻止したいんですよ!)
オレは一旦落ち着こうと、庭のベンチに座って晴天の空を見上げる。
「クライヴ君、ほら花弁が五枚あるラッキーライラックですよ。幸運のシンボルって言われているんです」
振り向くとクラリネさんが立っていて、ライラックの花弁を手のひらで優しく包み込んでいた。
クラリネさんは元気の無いオレを励まそうとしてくれているのだが、そんな思いも虚しく…………悪い予感は現実となった。
庭から店内に戻ってきたオレの前にショパンさんから経営状況を聞いたみんなが駆けつけてきた。
「クライヴ! 大変じゃろうが! ショパンさんから聞いたんじゃけど、他の事で稼がないけまーが」
「ショーン、落ち着け。ハッピースマイルポテイトン以外でぼく達ができる事があるじゃないか」
「はぁ? リアナ何を言っとん……おっ! そうじゃな!」
「さぁクライヴ! 冒険者協会に向かおうじゃないか! 今こそぼく達の騎士道精神を発揮する時だよ!」
(知らんがな…………)
そんな二人のやりとりを見ていたモーガンが呆れ顔でオレの方を向いた。
「さぁクライヴ、行こうか。こうなったら誰もあの二人を止めれないよ」
オレはモーガンの説得に渋々とした表情で頷いた。
「わ。私はお力になれないので、何か新しいアイデアを探しに大通りで色々なお店を見学してきます」
クラリネさんとは途中で別れて、オレ達は冒険者協会の扉を開いた。
中に入るとすぐに二人が、アイコンタクトで頷きだす…………
「リアナ、わかっとるのぉ?」
「あぁ、ショーン」
「選ぶんは」
「もちろんだよ」
「「討伐依頼!」」
そんなバトルジャンキー達は依頼書が貼られている左側の大きな壁に向かって行った……
「アンタ、諦めなさいよ! リアナとショーンがああなったら止められないでしょ! そもそもアンタがいけないのよ! 売り上げが悪くなっているのを黙っているから!」
フィーネには諭されて? オレは奥にあるスペースに移動して、ソファーに腰掛けて一息を吐いた。
「クライヴ、そんなに落ち込んでいるの? ちょっとボクも採取依頼を探してくるよ」
モーガンはオレの心情を察してくれて、オレ向けの依頼を探しに行った。
待つ事五分間……………………
何故か意気消沈したリアナとショーンが帰ってきて、リアナは捨てられた子犬のように目を潤ませて……ショーンはこの世の終わりと思う程の表情を見せていた…………
(あれだけウキウキして依頼書を探しに行ったのに、何で落ち込んでいるんだよ!)
オレはあえて二人に何があったか触れないようにしていたが、フィーネがリアナを心配してからか声をかけていた。
「リアナ? どうしたの?」
「クッ! ぼ……ぼく達のレベルで引き受けられる討伐依頼が無かった! 自分の力の無さが情けない!」
「へへ、そうじゃな……先生と師匠にもっと稽古をつけてもらわないけまー」
何故か話がどんどんと飛躍し過ぎて、リアナとショーンはザックとヒューゴに鍛えてもらって中級冒険者になるんだと意味がわからない事を言い出している。
(採取依頼で平和に行こうよ……)
そんな二人にオレは呆れ返っていると、頼みの綱のモーガンが帰ってきた。
「今ある討伐依頼は高難易度でボク達では受けれない依頼ばかりだったね。この採取依頼はどうかな? 」
オレはモーガンの持っている依頼書を見せてもらうと、そこには今が旬のラズベリーの採取の依頼だった。
「ラズベリーの群生地は近場の森だったはずだし、もし獣が出た時はリアナやショーンも戦う事ができるよ」
「「「う~ん……」」」
オレとリアナとショーンはモーガンに説得され、ラズベリーの採取依頼を受ける事にした。
窓口に向かい採取依頼を行う手続きをしていると、窓口のお姉さんからオレ達を心配してくれてからか最近王都であった不可解な噂を話してくれた。
「リトルホープのみなさん。最近王都で子どもが消えたりするという変な噂が広がってきています。被害者が出たとか、そう言った話は聞いた事ないのですが…………一応念の為に依頼が完了しても気をつけてくださいね。」
(前にテリー様が調べていた事が王都にも起きているのか……でも被害者が出ていない? 誰かが流している出鱈目な情報か?)
「ありがとうございます。ボク達も注意して行動します」
オレ達は窓口のお姉さんにお礼を言って、冒険者協会付近の飲食店で腹ごしらえをしてから採取に向かう事にした。
目的地は徒歩二十分の小さな森、騎士団の演習を行う場所の近くからなのか獣達も駆除されており、殆ど獣は見かけない場所となっている。それでも二、三ヶ月に一回程度は獣が出現するらしく、果物屋さんが冒険者協会に採取依頼をお願いするらしい。
ちなみにこの依頼はラズベリーが二百グラムで小銀貨一枚と中々報酬も良いのだが、この旬の時期しか依頼が無いらしい……
時刻は約十三時半……
飲食店で腹を満たしたオレ達は採取に向けて王都から外に出た。
今日は天気も良く、そして道中も危険は感じられない。
「久しぶりじゃなぁ。依頼を受けるんわ」
「ぼくもこのままじゃ腕が鈍ってしまいそうだよ」
「だそうだよクライヴ。これ以上はボクでもリアナやショーンを抑える事は出来ないよ。近々討伐依頼だね」
「ねぇねぇ、アレって行商人の馬車かしら? 何を売っているんだろう? リアナ、王都に帰ったら見に行かない?」
「フィーネ……ハッピースマイルポテイトンのバイト代も減るだろう。ぼく達は節約する事を覚えないといけないよ」
「もう! リアナの意地悪ぅぅ」
オレはみんなのやり取りを微笑ましく思いながら歩いていると、あっという間に目的地に到着した。
森は小鳥達の囀りが響き渡り、木漏れ日が気持ち良く、獣など出そうもない明るい印象の森だった。
そして辺りを見渡すと沢山のラズベリーの実がなっていて、ちょっとした副収入が期待できる量だった。
黙々と作業をする事、数十分。
オレ達は約一キロ程度のラズベリーを集めて、王都に帰る事にした。
「移動込みの約一時間で小銀貨五枚かぁ。みんな結構良い依頼だったなぁ」
「ぼくは討伐依頼が……」
「ワシもじゃ……討伐依頼の方がええ」
二人を除いては表情は明るく、帰路についた。
そして二日後の月曜日、珍しくクラリネさんが欠席をしていた。リアナやショーンにその事を話したら、どうやらエルザ様も欠席しているらしい。
オレは特に気にしていなかったが、次の日もその次の日もクラリネさんの欠席は続いた。
ハッピースマイルポテイトンもお客さんが減少したのでクラリネさん抜きでも店はまわるが、流石にここまで欠席が続くと心配になってきた。
その日もハッピースマイルポテイトンでの仕事も終わり、みんなとわかれて一人で庭の設備点検をしていた所、意外な人物に話しかけられた。
「クライヴ君、少しお時間よろしいかしら?」
夕日に照らされたローズブロンドの髪の輝きと、鼻腔をくすぐる上品かつほのかに甘いライラックの香水の香りにオレは一瞬思考が停止した。
「ちょっと、クライヴ君? 私の話を聞いていますか?」
目の前には制服姿のアリア様が立っていた。
「す、すみません! アリア様!」
「また様付けで言いましたね。同じ学友ですので様付けはやめて下さいませんか」
「すみません……アリアさん」
なんでこの場所にアリア様がいるのかわからないが、アリア様の表情は少し固かった。
「クライヴ君、驚かないで聞いて下さい。クラリネさんとエルザが何者かに攫われました。騎士団が内密に調べていた失踪事件と関連があるか分かりませんが、限りなくクロでしょう」
「そ、そんな………………それなら騎士団に任せたらいい事じゃ!」
「もしかしたらサンダース辺境伯を陥れる為に王国の人間が関与しているかもしれないので騎士団も信頼できるごく少数の人員で捜索しています」
「そんな噂が知れ渡っているなら騎士団が少数で動いても意味ないじゃないですか!」
「この情報は、お父様やランパード辺境伯しか知らない情報です。私もこの情報を集めるのに時間がかかりました」
「何故……そんな機密情報をオレなんかに……」
「信頼しているからです」
「えっ?」
「クライヴ君なら助けてくれるって」
「いや、オレはそんな強い人間じゃ……」
「じゃあ、あの時のミッタールマウスの毒から助けた時のお礼をしていただきますね。私からのお願いは、クライヴ君達にエルザやクラリネさんを助けて欲しい。もちろん私も協力するわ」
(マジかぁぁぁ…………ここでアリア様のお願いを聞くと約束したやつを発動しますかぁ…………でもクラリネさんとさやエルザ様の事も助けたいし……あぁああ! ヤケクソだよ!)
オレは大きく深呼吸をして腹を括った。
「う~ん………………よし! アリアさんのお願いを叶えるよ」
「……ぁ……がとう」
アリア様が何か呟いて聞き取れなかった。
そしてオレにお願いをしたアリア様は、表情こそ変わらないが、何故か雰囲気が柔らかくなった印象を受けた。
(とりあえず、帰ってから作戦会議だな)
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