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第一章 王国編第二部(中等部)
エピソード? イーサンサイド 生誕祭再訪問
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スノウと出会えたマクウィリアズ王国生誕祭から一年半と月日が流れた。
季節は夏を過ぎようとしているが草木達はまだ青々と茂っている。スノウいわく帝国よりマクウィリアズ王国の方が夏は過ごしやすいらしい。
生誕祭でそんな話をした事を思い出してボクは少し笑みが溢れた。
この一年半忙しい日々を過ごしており、昨年はマクウィリアズ王国生誕祭に参加する時間が全くなかった。
(毎年ボクが参加するって言うのも怪しまれるからちょうど良かったのかな)
この一年半ひっそりと地盤固めをしていたボクは、貴族の子息達をまとめ上げる強力な助っ人を従者として迎えて、その従者に別の用件を頼んでいる。ボクの方は今日も執務室で母上派の貴族の動きに関する資料を確認していた。
といっても貴族の子息令嬢からの情報なので大した情報は得られないが……
しかし火のない所に煙は立たない。これから先のことを考え一つでも多くの証拠を探さないと……
コンコン
「なんだい?」
「マスター遅くなりました。ティエリです」
「入ってきてくれ」
ボクの言葉に反応してゆっくりとドアが開かれる。
そこにはボクよりも少し背が高い。身長百八十五センチ程ある細マッチョの男性が立っていた。
髪はトップは短めの襟足を少し残し、目にかかる長さのブルーブラックの色をしたソフトウルフヘアーで、整った顔立ちに力強くキリッとした二重が印象的だった。
「ティエリ・ベイグランドただいま戻りました」
彼はボクより一つ年下で、あのベイグランド宰相の息子だ。
ベイグランド宰相より、ボクの右腕として忠誠を誓うようにと言われたようで、なぜかボクの事をマスターと呼んでいる。
(個人的にはやめて欲しいんだけど……)
そんな彼だが、ベイグランド宰相譲りの頭脳だけでなく生まれ持った戦闘技術の才能を持つ優秀な人材だ。
そしてボクが新たに作った帝国軍特殊部隊の隊員の1人として帝都だけでなく各地に出向き有望な人物を集めてもらっている。
「ティエリ、どうだった?」
「はっ! こちらでございますマスター」
ティエリは手に持った資料をボクに渡すと、一歩後ろに引き直立不動の姿勢をとっている。
「なるほど。軍に所属していないのに能力の高い人間がいるとは」
「はいマスター。彼の家は貧しい家庭でして、飢えを凌ぐ為に畑を耕すので精一杯の様子でした」
ティエリはボクの手足となって、遠くまで調査やスカウトに向かってくれているおかげで今回のような人材を見つけることができた。
「ティエリと戦うとどっちが勝つのかなぁ」
「自分であります」
ボクは少し笑みを浮かべながらティエリに意地悪な質問をすると、ティエリは表情を変える事なく即答した。
彼の発言は決して自信過剰なわけでなく、十七歳にして既にヒュンメル元大佐の再来と言われる程の実力者であるが故の発言だった。
個人としての戦闘力や部隊を指揮する指揮能力など総合的に判断するとこの帝国の上位二十名には入るだろう。
(総人口一億人いるから、ティエリってかなり強い部類だな)
ボクはそんな事を考えているとティエリが口を開いた。
「それとマスター、もう一つお伝えしたい事があります」
神妙なティエリの表情を見て、よくない事だと悟った。
「謀反か?」
「いえ……ダビド伯爵領によからぬ者が出入りしているようです」
「まさか! 南地方の領主の? あの品行方正で領民達にも人気なダビド伯爵がか?」
まさかの人物の名前が出てボクは少し驚きながらもティエリに問いかけた。
ティエリは一度だけ頷き言葉を続けた。
「鉱山での力仕事目的ではない奴隷です。しかも他種族の奴隷のようで、他国が干渉しているのではないかと」
「ふぅ……これは一大事だが、父上に知らせる前にティエリからベイグランド宰相に相談して欲しい。母上派の貴族の動向にも注意が必要だから、ボクが父上に相談に行くと少し目立ってしまうからね」
「はい! マスター」
ボクはティエリにそう告げて退室を促すと、扉の向こうから誰かがノックをした。
「何だい?」
「イーサンお兄様、ダリアです……少しお話が……」
(ダリアが? 一体何の用事だろう?)
珍しい客人の訪れに首を傾げるが、ティエリにダリア用の紅茶の準備を依頼した。
護衛兼執事兼密偵という三足の草鞋を履いているティエリに申し訳なさを感じつつダリアを迎え入れた。
「イーサンお兄様…………実はわたしイーサンお兄様に聞きたい事がありまして…………そのティエリ様には…………」
ダリアがバツが悪そうな表情でボクに話しかける。
「ティエリ、少し退室してくれないか」
「かしこまりましたマスター」
ティエリが部屋から退室したのを確認してからダリアはボクの顔をじっと見て口を開いた。
「イーサンお兄様のようにマクウィリアズ王国に観光に行ったのですが…………その時、スノウに助けられて…………」
「…………!」
ボクはダリアからの言葉を聞いて一瞬驚くが、なんとか笑みを崩さなかった。
「ダリアはスノウと仲直りはできたかい?」
「えっ……イーサンお兄様はスノウが生きているのを知っていたのですか?」
ダリアは驚いた顔でボクを見ていた。
「さぁ、どうだろうね」
ボクがとぼけるとダリアは頬を膨らませて機嫌が悪くなった。
「もう! イーサンお兄様もスノウも意地悪ですわ!」
その発言から多分スノウとはちゃんと話ができたのだろう。
後はダリアに魔の手が伸びてこないようにボクが守るだけだ。
そして三月の春が始まろうとする季節に、またボクはマクウィリアズ王国を訪れた。
スノウに帝国の現状を伝える為に……
スノウに会えたとしても帝国での現状を現段階でわかっている事だけを伝えよう。
可能性としては低いが、もしかしたらマクウィリアズ王国の人間が関与しているかもしれないという事はまだ伏せておこう。
スノウを無闇に悩ますだけになりかねないから……
季節は夏を過ぎようとしているが草木達はまだ青々と茂っている。スノウいわく帝国よりマクウィリアズ王国の方が夏は過ごしやすいらしい。
生誕祭でそんな話をした事を思い出してボクは少し笑みが溢れた。
この一年半忙しい日々を過ごしており、昨年はマクウィリアズ王国生誕祭に参加する時間が全くなかった。
(毎年ボクが参加するって言うのも怪しまれるからちょうど良かったのかな)
この一年半ひっそりと地盤固めをしていたボクは、貴族の子息達をまとめ上げる強力な助っ人を従者として迎えて、その従者に別の用件を頼んでいる。ボクの方は今日も執務室で母上派の貴族の動きに関する資料を確認していた。
といっても貴族の子息令嬢からの情報なので大した情報は得られないが……
しかし火のない所に煙は立たない。これから先のことを考え一つでも多くの証拠を探さないと……
コンコン
「なんだい?」
「マスター遅くなりました。ティエリです」
「入ってきてくれ」
ボクの言葉に反応してゆっくりとドアが開かれる。
そこにはボクよりも少し背が高い。身長百八十五センチ程ある細マッチョの男性が立っていた。
髪はトップは短めの襟足を少し残し、目にかかる長さのブルーブラックの色をしたソフトウルフヘアーで、整った顔立ちに力強くキリッとした二重が印象的だった。
「ティエリ・ベイグランドただいま戻りました」
彼はボクより一つ年下で、あのベイグランド宰相の息子だ。
ベイグランド宰相より、ボクの右腕として忠誠を誓うようにと言われたようで、なぜかボクの事をマスターと呼んでいる。
(個人的にはやめて欲しいんだけど……)
そんな彼だが、ベイグランド宰相譲りの頭脳だけでなく生まれ持った戦闘技術の才能を持つ優秀な人材だ。
そしてボクが新たに作った帝国軍特殊部隊の隊員の1人として帝都だけでなく各地に出向き有望な人物を集めてもらっている。
「ティエリ、どうだった?」
「はっ! こちらでございますマスター」
ティエリは手に持った資料をボクに渡すと、一歩後ろに引き直立不動の姿勢をとっている。
「なるほど。軍に所属していないのに能力の高い人間がいるとは」
「はいマスター。彼の家は貧しい家庭でして、飢えを凌ぐ為に畑を耕すので精一杯の様子でした」
ティエリはボクの手足となって、遠くまで調査やスカウトに向かってくれているおかげで今回のような人材を見つけることができた。
「ティエリと戦うとどっちが勝つのかなぁ」
「自分であります」
ボクは少し笑みを浮かべながらティエリに意地悪な質問をすると、ティエリは表情を変える事なく即答した。
彼の発言は決して自信過剰なわけでなく、十七歳にして既にヒュンメル元大佐の再来と言われる程の実力者であるが故の発言だった。
個人としての戦闘力や部隊を指揮する指揮能力など総合的に判断するとこの帝国の上位二十名には入るだろう。
(総人口一億人いるから、ティエリってかなり強い部類だな)
ボクはそんな事を考えているとティエリが口を開いた。
「それとマスター、もう一つお伝えしたい事があります」
神妙なティエリの表情を見て、よくない事だと悟った。
「謀反か?」
「いえ……ダビド伯爵領によからぬ者が出入りしているようです」
「まさか! 南地方の領主の? あの品行方正で領民達にも人気なダビド伯爵がか?」
まさかの人物の名前が出てボクは少し驚きながらもティエリに問いかけた。
ティエリは一度だけ頷き言葉を続けた。
「鉱山での力仕事目的ではない奴隷です。しかも他種族の奴隷のようで、他国が干渉しているのではないかと」
「ふぅ……これは一大事だが、父上に知らせる前にティエリからベイグランド宰相に相談して欲しい。母上派の貴族の動向にも注意が必要だから、ボクが父上に相談に行くと少し目立ってしまうからね」
「はい! マスター」
ボクはティエリにそう告げて退室を促すと、扉の向こうから誰かがノックをした。
「何だい?」
「イーサンお兄様、ダリアです……少しお話が……」
(ダリアが? 一体何の用事だろう?)
珍しい客人の訪れに首を傾げるが、ティエリにダリア用の紅茶の準備を依頼した。
護衛兼執事兼密偵という三足の草鞋を履いているティエリに申し訳なさを感じつつダリアを迎え入れた。
「イーサンお兄様…………実はわたしイーサンお兄様に聞きたい事がありまして…………そのティエリ様には…………」
ダリアがバツが悪そうな表情でボクに話しかける。
「ティエリ、少し退室してくれないか」
「かしこまりましたマスター」
ティエリが部屋から退室したのを確認してからダリアはボクの顔をじっと見て口を開いた。
「イーサンお兄様のようにマクウィリアズ王国に観光に行ったのですが…………その時、スノウに助けられて…………」
「…………!」
ボクはダリアからの言葉を聞いて一瞬驚くが、なんとか笑みを崩さなかった。
「ダリアはスノウと仲直りはできたかい?」
「えっ……イーサンお兄様はスノウが生きているのを知っていたのですか?」
ダリアは驚いた顔でボクを見ていた。
「さぁ、どうだろうね」
ボクがとぼけるとダリアは頬を膨らませて機嫌が悪くなった。
「もう! イーサンお兄様もスノウも意地悪ですわ!」
その発言から多分スノウとはちゃんと話ができたのだろう。
後はダリアに魔の手が伸びてこないようにボクが守るだけだ。
そして三月の春が始まろうとする季節に、またボクはマクウィリアズ王国を訪れた。
スノウに帝国の現状を伝える為に……
スノウに会えたとしても帝国での現状を現段階でわかっている事だけを伝えよう。
可能性としては低いが、もしかしたらマクウィリアズ王国の人間が関与しているかもしれないという事はまだ伏せておこう。
スノウを無闇に悩ますだけになりかねないから……
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