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第一章 王国編第二部(中等部)

エピソード184 春休みは生誕祭その六

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「さあ! いよいよ始まりました! 王都名物の池飛び込み大会! 今年は色々とグレードアップしておりまして飛び込み台までの距離が十メートルから十五メートルに変更になっており、新記録が期待できる予感がして私ワクワクが止まりません! 例年だと予選は半日で終わるのですが、今年はな、な、何と午前午後ともに予選となっております。ここで記録と記憶を残した猛者達が本大会へ出場できます! そして今大会から実況を担当させていただきます私、コラーと」
「解説のマーキーでお送りいたします」

 何やら入り口と飛び込み台のちょうど中間地点辺りに実況と解説席が設けられており、そこには茶髪の七三ヘアーにメガネの四十代前半の実況のコラーさんと、白髪混じりのオールバックのナイスミドルの六十代後半の解説のマーキーさんがスタンバイしている。
 
(大会の規模が年々グレードアップしている……確か初等部の頃に見た時は、生誕祭最終日の平民のお祭り行事的な感じだったよな……そもそも予選とか無かったし、ちびっ子達もキャッキャと楽しんで参加しているような大会だったような気がするんだけどなぁ……)

「さぁ! 今回優勝者には何と! 王国南東部の水の精霊が守る街と言われている。そう! あのシェリダン子爵領のゴッドウォーターマッスル商会から、金貨三枚と【水の精だぜウェーイ! 神ってるやばティー】の紅茶一年分が贈呈されます。マーキーさん、大会初の豪華な賞金に参加者の目の色が明らかに変わりましたねぇ」
「まぁ、今までの歴史を辿ってもこのような高額な賞金は出る事はなかったですし、それにスポンサーがつく事も新たな試みですね」

 実況のコラーさんと解説のマーキーさんの軽快なやり取りで大会の説明は続いていく。
 そして説明が終わると、さっきまでは和気あいあいとしていた大人の参加者達の雰囲気が変化する……
 
「「「「うおぉぉ! やったるぜえぇぇ!」」」」

 まだ予選なのに会場のボルテージは最高潮だ。
 そして参加しようとしていたちびっ子達が、大人達の雄叫びにより顔色を悪くしていた……
 
(くそ! せっかくのみんなで笑い合う楽しいお祭り行事なのに! 金の匂いをプンプンさせやがって! ちびっ子達が大人達に気圧けおされて震えてるじゃないか!)
 
 今年の池飛び込み大会の会場の様子は、以前のように大人達は笑顔でちびっ子達に拍手を送る和やかな雰囲気ではなくなり、張り詰めた緊張感が漂う大会と化していた…………
 そんなガチな大会となってしまったので、楽しむ目当ての参加者達は辞退する事となってしまって午後の部は五組だけの参加となった。

「さぁ! 始まりました予選一組目になりまーす! 南大陸からやって来た! ショールストーン共和国からのダークホース! 将来は自分の店を構えたいから勿論商品の値引きは一切なし! 価格じゃないお前のハートにライドオン! 移動商人チャドゥリ選手の挑戦だ!」

 そして開始地点の入り口から、頭にターバンを巻いて、服装は股下がダボダボで不思議な形の白いズボンに、上も同じ素材で作られた白いローブのようなものを着て、その上にもう一枚ガウン状の青色のはおり物をしていた。まぁ如何にも砂漠の民という人が現れた。
 一度観客に会釈をした後、チャドゥリさんは突然ターバンと上衣を脱ぎ捨てた!
 そこにはダークブラウンのアフロヘアーにもみあげと髭が繋がっていて、とても濃い顔立ちをされていた。
 更に商人なのにどうしてなんだ? とツッコマざるえない!
 ウエストを基準にした三割増しの胸囲、五割増しの肩幅、正面に広がる大胸筋や腹筋といった筋肉も天晴れなのはさる事ながら、それらに見劣りしない広背筋と上腕や肩周囲の三角筋や上腕二頭、三頭筋を刮目すれば、もはや上半身の黄金比率ではないだろうかと思わずにいられない。
 その猛々しい上半身を恥じる事なく満ち溢れた表情で佇む姿ことが仕上がった証拠であると無言で語っている。

 そんなチャドゥリさんに大歓声が巻き起こる中、更に会場はヒートアップした!

「おーーっと! ここでチャドゥリ選手の相棒の登場だぁぁぁ! マーキーさんこれは?」
「これは期待できますよ! 長年連れ添った相棒なんで連携には問題ありません」
 
 まさかのヒトコブラクダの登場だ!
 しかも毛並みの艶や筋肉の張りを見る限りかなりの仕上がりだと誰もが息を呑んだ。

「チャドゥリ選手! ここでライドオンだぁぁ!」
「優雅ですね」
 
 チャドゥリさんはラクダに乗ったのだが、スピードを上げる事なく堂々と歩んでいく。

「チャドゥリ選手の余裕な表情! これは期待できるのかぁぁぁ?」
「そうですねぇ、あの堂々とした歩みを見る限りでは緊張感は感じられませんね。最初の一人目なので緊張するかと思いましたが、これなら大丈夫そうですね」

 実況のコラーさんと解説のマーキーさんも興奮して立ち上がり、チャドゥリさんの行方を見守る。

「エイ! ハイヤァァ!」

 チャドゥリさんの声が響き渡る…………

(凄い声量だ! ここからスピードアップするのかな?)

 ポチャン………………

 ラクダはゆっくりと入水し、チャドゥリさんの記録は二十センチとなった…………

「クソがぁぁああ!」

 チャドゥリさんの悔しがる声が響き渡るが、実況のコラーさんと解説のマーキーさんは言葉を失い、観客も呆れ返っていた……
 
 そしてその次はショーンの出番で、前回の大会同様に鍋蓋を持って登場した。

「おっとぉぉ! ここで六年連続参加の常連、いや若者代表と言っても過言ではない下町の鍋蓋マジック! この一年待たされて、燃えたぎる闘争心は輝きを失わない! オレの心はダイナマイト! ショーン選手の入場だぁぁぁ!」
 
 さすが平民通りの定食屋さんの息子、顔見知りも多いのか声援が先程のチャドゥリさんとは段違いだった。

「おっしゃぁぁあ!」

 そしてショーンは両手に鍋蓋を持ち全速力で走り出す。

「ショーン選手、勢いよく走り出したぁぁ!」
「悪くないスタートですよ」
 
「うおおおおー」

 声を上げながらジャンプして、空中で足を動かして滞空時間を稼ぐ!
 そして身体を大きく後ろに反らしてから、勢い良く両手に持つ鍋蓋を前方に振りかぶり水面に叩きつけた。
 大きな水飛沫とともに身体が僅かに浮上して、最後に少し距離を稼いだ。

「おっと、マーキーさん! これは良い記録がでたのではないでしょうか?」
「彼の得意な方法で攻めてきましたね。これはかなり技術力の高い技でしたよ」
 
 前回の六メートル半を超えて、六メートル七十センチという自己新記録を叩き出した。

 会場は大盛り上がりでショーンの自己新記録を祝福していて、ショーンも観客の声援に応えていた。
 
「どうじゃぁぁぁ!」

「ちょっとリアナ! ショーンやったわよ」

 ショーンの自己新記録にフィーネが興奮した様子でリアナに話しかけると、リアナは感極まってなのか肩を震わせながら口を開いた。

「あぁ……己に打ち勝つ姿……本当に感動したよ!」

「確かにね……ボクも今回の池飛び込み大会にかけるショーンの想いや、ひたむきな努力は知っていたから、自己新記録を更新したのが自分の事のように嬉しいよ」

 モーガンも笑みを浮かべて嬉しそうだ。

 オレ達に気づいたショーンはニカッと笑みを浮かべ、右手を上に伸ばしてガッツポーズをしていた。
 その姿がとてもカッコよかった……


 のだが……残りの三組が棒高跳びのような方法で次々とショーンの記録を楽々と追い抜いて行った……
 午前午後ともに二十組が参加し、本戦に出場できるのは半分の十組だ。
 ショーンの結果は十九位で、最下位のチャドゥリさんの次の順位だった…………
 本戦の出場を決めた大人達は人目をはばからず嬉し涙を流し、出場を逃した大人達とショーンはこの世の終わりといった表情を浮かべていた。
 
(ちょ! 今回の大会は大人達がガチ過ぎだろ! これはお祭り行事じゃなくて競技になっちゃってるよ! せめて次回はカテゴリーを分けてエンジョイクラスと競技クラスとかに分けるのが必要だろ!)!

 そしてあっという間に生誕祭は終わり、新学期を迎える事となった。

 (中等部二年生かぁ……平和でありますように)
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