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第一章 王国編第二部(中等部)

エピソード183 春休みは生誕祭その五

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「今日もお客さんがたくさん来てくれたわね」
「しかし不思議なものだな。最近ハッピースマイルポテイトンを真似して、他店でもフライドポテトが販売されているのに売り上げが変わらないとは」
「モーガンやショパンさんにリアナやフィーネ目当ての変な固定客がいるからじゃないのか?」
「「なっ!」」

 フィーネとリアナは息ぴったりにオレの方を睨むと、モーガンが笑いを堪えながら口を開いた。
 
「フフッ……確かにそれは一理あるかもしれないね。ボクとしては売り上げに貢献してくれるなら利用できるものは利用しないとね」

 腹黒モーガンはニヤリと笑みを浮かべていた……

「アタシお腹すいて動けないわよ……早く何処かにご飯食べに行くわよ」
「「うん」」

 みんなしっかり働いたのでお腹を空かせているようだ。
 とりあえずオレ達は一旦店内からイングリッシュガーデン風の庭に移動して、噴水近くのベンチに腰掛ける。
 みんな仕事中も立ちっぱなしだったので、ベンチに座ると同時に身体を伸ばし解していく。
 そして少し身体が楽になったところで午後からの過ごし方の作戦を練るのだが…………生誕祭は割と楽しんできたので、残り三日と言われてもやりたい事が見つからなかった。
 そんな時にリアナが「あっ」と声を出して、思い出したように喋り出す。

「生誕祭の名物と言っていいのかわからないのだが、公園の池である飛び込み大会の予選が今日から始まるそうなんだ。ショーンは十四時から始まる午後の部の予選会に出場するから、観戦に行ってみるのはどうだろうか? ぼく達はショーンに一緒に出ようと誘われて断った身だから、せめて応援だけでも協力するのが騎士道精神だと思うんだ」

(そんな騎士道精神は知らないんだが…………ところで何でショーンの予定とか知っているのだいリアナさん?)

 オレの心の中でリアナに聞くべきか聞かないべきなのか悩んでいると、フィーネがド直球にリアナに質問していた。

「リアナ~何で池の飛びこみ大会の予選で午後からショーンが出るのがわかったの?」
「そ、それは……昨日大聖堂でお祈りをしていた時にショーンのお母様から応援してあげてと……じゃなく、今日来ていたお客様から聞いたんだ!」

 この寒い季節にリアナは何故かうっすらと汗をかいて身振り手振りで何かを否定しようと慌てふためいていた。

(いやいや、殆どバレてるよ! 昨日ショーンのお母さんに会って、何となくリアナとショーンの関係を察したお母さんが、二人の仲を進展させようとして息子の応援よろしくねっとか言われたんだろ?)

 オレはそんな情景が目に浮かび、ついつい面白くなって笑いを堪えたが口角は上がってしまう。
 そんなオレの顔を見たフィーネさんは

「本当にやめて……その顔、生理的に無理……」

 と無表情かつ淡々とした口調でディスられた……

 
 最後の方はグダグダになりながらも作戦会議を終えたオレ達は一旦街のシンボルでもある大聖堂を目指す事にした。
 歩く事五分程度、隣を歩くモーガンが何か思いついたように口を開いた。
 
「そういえばどこでランチにしようか? ボクの候補は平民通り方面の飲食店とかかなぁ。大通りは人で混雑してそうだから、平民通りならそこまで混雑はしていないと思うんだ。みんなはどこがいい?」
「オレは公園付近かな。出店とかで食べ歩きとか好きだし」
「アタシもクライヴと同じで良いわよ」
「ぼくはモーガンの案に反対だ。こんな忙しい時期にショーンのお母さんの所に食事に行くと、め、迷惑だと思うんだよ」

(リアナさん……モーガンは一言もショーンの実家の定食屋に行くと言っていませんよ)
 
 結局多数決を取り、公園の出店巡りをする事になった。
 公園に向かった進んでいる間にも、ハッピースマイルポテイトンに似た商品を販売しているお店が数軒目に入ってきた。
 実際に見てみると、ここ数年だがみんなの言う通り店舗を構えたり、移動販売をしたりと様々な手段でハッピースマイルポテイトンのフライドポテトを真似するお店が増えてきている事を実感した。
 しかしハッピースマイルポテイトンは売り上げにかげりがみられる事もなく人気が続いている。唯一無二の商品であるレモネードと薄切りポテトの存在が大きいのだろう。
 そう言えばショパンさんから今日聞いた話では、他店ではフライドポテトを再現する為に包丁の扱いに長けているジャガイモを切る専用の人……通称ポテト職人を雇っているらしく、切り方や揚げ方なども研究してハッピースマイルポテイトンとほぼ同じぐらいの再現率のようだ。
 レモネードは他店も製造方法が全く分からないと嘆いているそうで、再現不可能となっている。
 薄切りポテトではポテト職人が頑張っているのだが、あの一ミリ前後の薄さは再現出来ず、ある一部のオカルトマニアやライバル店達からはレモネードの製造方法とともに王都七不思議だと言われているらしい…………
 ちなみにオカルトマニア達からは、レモネードは悪戯な妖精の初恋の涙が含まれているからあの味なんだと言われているようで…………
 レモンと蜂蜜の甘酸っぱさなのだが……
 あの炭酸のシュワシュワ感は悪戯好きの妖精の仕業だから、甘酸っぱさも蜂蜜やレモンとかではなく、妖精という運命により叶わぬ恋をして好きなのに伝えるが出来ない淡い初恋によって流した涙の味だとオカルトマニアは力説しているそうだ……
 
 もう一つの薄切りポテトは黄金色に輝く女神の羽衣の切れ端かもしれないと言われているそうで……
 薄切りポテトのあの薄さが神の御業とか……軽さと輝きが御伽噺で語り継がれる女神が身に纏う羽衣に似ているとか、オカルトマニアの発想が斜め上過ぎて、薄切りポテトがもう食べ物ではなくなってきている…………

(薄切りポテトはフライドポテトと同じで、油で揚げて黄金色に見えるだけだろ。なんで輝くの? なんでお召し物という発想になるの? ボケとかでなく真面目にそう考えているのが怖いって!)

 そんな事を考えているとオレはふと疑問に思った。
 レモネードは別として……フライドポテトや薄切りポテトに関して、調理機器の開発に携わってくれた匠がポテトカッター等を販売したら、他店との差別化が図れず今のような売り上げは続かなかったはずだと。
 
「ちょっとモーガン、ごめんオレ用事思い出したから先にみんなで昼ごはん食べてて! 後で池周辺の広場に行くから!」

「「「クライヴ?」」」

 オレは急いで大通りの冒険者エリアの奥にある工房に向かった。
 ゆっくりと工房の扉を開けると、小気味の良い金槌の音が響き渡る中気難しい表情をした匠が弟子達の作品の出来栄えに目を光らせていた。
 このピリッとした空気の中、声をかけるタイミングを窺っていると匠がオレに気づいてくれた。
 
「おう! なんのようでぇ この唐変木め」
「あの、実はお聞きしたい事がありまして……」
「おうよ! なんでも言いやがれ!」
「最近当店のフライドポテトに似たお店が増えたんですけど……」
「てやんでぃ! どこの奴らもよぅ、やれハッピーなんとかじゃって店がどうこう言ってて、てめぇの店のような商品を作りたいから何か考えてくれって! 自分の頭じゃ考えられねぇのかってんだ! 豆腐の角で頭をぶつけて死にやがれってんだ!」

 やはりどのお店も、ハッピースマイルポテイトンのポテトに近づけないかと匠の元に訪れるそうだが、具体的な図面やアイデアを考える事なく、漠然とハッピースマイルポテイトンのようなポテトが作りたいとお願いされるそうだ。
 
「でも何故他店にポテトカッターとか販売しないのですか? 多分儲けれますよ?」
「こちとらテメェさんに言われた物をただ作っただけでぇ! それを我がもの顔で販売するなんざ虫が良過ぎる話だぜ! オレ達職人は筋通してなんぼってもんよ! それに奴らは自分達の頭で考えねぇで猿真似なんざ、そんな野郎と仕事はお天道様が許してもオレはお断りでい! それがオレ達の仕事の流儀でい!」

 と匠はオレの顔に唾が飛び散るぐらいに捲し立ててから、どこか恥ずかしそうに鼻の頭を掻いて背中を向け、工房の奥に去っていった。
 
 残されたオレは顔も服も匠のよだれの被害を受けており、深い悲しみと怒りに包まれていた。
 とりあえずその場を去って、やり場の無い思いを空にぶつけた。

「何で終始五十センチの距離で大声なんだよ! ソーシャルディスタンスゥゥ!」


 その後オレは一度着替えてから公園の池に向かうと、フィーネの機嫌がすこぶる悪い。
 オレの服装が違う事と池の飛び込み大会の午後の予選が始まる十分前というギリギリに来た事が許せないらしい…………
 でもそんなツンツンしているフィーネの右手には、小さな紙袋が握られていた。
 紙袋の中身はオレの為に買ってくれていたサンドイッチが入っていて
 
「貸し一つよ」

 と恥ずかしそうに顔をそらしてオレに紙袋をそっと渡してくれた。
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