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第一章 王国編第二部(中等部)

エピソード179 春休みは生誕祭その一

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「痛ぇ……身体中が…………」

 オレは連日続くヒューゴズブートキャンプのおかげで只今絶賛全身筋肉痛だった。

「相変わらず師匠はスゲェのぉ! ばんことてもきちぃがぁキツかった

「クライヴやショーンは日頃から動いているから良いけど、ボクなんか普段みんなより動いてないから本当に大変だったよ……夜中も身体が痛くて眠れない時もあったんだよ……」

 何故かご満悦な変態ショーンと対照的なモーガンのやつれ顔……

「本当におじい様はスパルタよね」

「この修行を乗り越えた事でぼく達はもう一段レベルアップをしたはずだよ」

 何故かおじい様というキーワードを自分で言っておいて頬を赤く染めるフィーネとショーンと同じくご満悦な表情を浮かべる変態リ…………ゲフンゲフン…………麗しのリアナさん……

 そんなオレ達リトルホープ五人組はマクウィリアズ王生誕祭を楽しむべく食堂にて作戦会議を行っている。
 クラリネさんは実家の雑貨屋さんが書き入れ時のため帰省中との事で、それぐらいマクウィリアズ王生誕祭は大きなイベントなのだろう。
 ちなみにハッピースマイルポテイトンは一ヶ月間続く生誕祭の最初の二週間はショパンさん達に任せている。
 どうやら子ども達は生誕祭を楽しんできなさいと配慮してくれたようだ。

(ショパンさん、ヒューゴ! ありがとうございます! 感謝です)

 そんなこんなで春と呼ぶにはまだ少し肌寒い空気を頬で感じながら、オレ達のマクウィリアズ王生誕祭は女性陣の希望によりショッピングとスイーツ巡りから始まる事になった。
 



「わぁリアナ! 白壁に可愛いマークが書かれているよ 何のお店なんだろう?」

 フィーネは何かの店を見つけたようでリアナと腕を組みはしゃいでいる。

「フィ、フィーネ……そんなに喜ぶ事なのか? ビューティーズ? 小瓶の絵が描かれているが……中には人が沢山いるようだね。よし! ぼく達も行ってみようか社会見学の一環として」

 リアナも新しいお店ができた事と女性達で賑わう店内の様子とお店のネーミングに好奇心をくすぐられたようだ。本人は興味のない振りをしているがモロバレだ。

「ただいま店内が混み合っておりますのでこちらでお待ち下さい」

 お店の外で立っている警備の人から入店を断られ、オレ達は店の外で待つ事にした。
 そして待つ事三十分……

「やっと入れたわ……」
「これは一体何の商品なんだ」
「あっ! アタシ知ってるかも!」
「ぼくは見た事ないが、一体何なんだいフィーネ」
「ほらほらって書いてあるわ! 一度アリアから貰った事あるのよ」
「まだ化粧もしないぼく達にそんなもの必要なのか?」
「何言ってるのよリアナ。スキンケアは若いうちからするべきなのよ! 乾燥肌だけでなくニキビ対策にも保湿は大事なのよ! アリアが言ってた事だけど」
 
 男性陣を取り残してフィーネとリアナだけで盛り上がっているが、オレは化粧水がこの世界にある事に少しだけ驚いた。

(へぇー 帝国でも見た事なかったし、王国に来てからも見た事なかったけど、化粧水とかってこの世界にも存在してるんだなぁ。まぁ需要は絶対あるし、美を追求するマダム達の欲求は満たされることは無いよな……それよりも商品開発した人凄いなぁ! 効能とかどうやって調べたんだろう?)

 結局フィーネとリアナは「肌のターンオーバを考えないといけないのよ!」と呪文のように唱えながら銀貨四枚を支払っていた。
 およそ二ヶ月分の化粧水と乳液を購入していて、もちろん二人はホクホク顔のご様子だった……

 そしてお昼ご飯がそろそろ欲しくなってきた時間帯に差し掛かり、ショーンが口を開いた。

「お腹空いたけぇ、どっか食べにいきてぇんじゃけど、どこに行く?」

「アタシもお腹空いたわ。どこでもいいけど、クライヴはどうする?」

 オレに荷物を持たせているフィーネもお腹空いたらしくオレに選択権を譲ってくれた。

「じゃあ公園の屋台とかは?」

「はぁ? ここは普通オシャレなカフェでしょ! あの大通りのファションエリアにある最近オープンしたカフェでしょ! もう! あのふわふわオムライスが人気なカフェしかあり得ないでしょ!」

(知らんがな……)

 オレは心の中で選択権はどこに行ったのやらと思いつつも、不機嫌なフィーネをなだめるようにカフェに向かう事にした。
 そしてランチはカフェに決まった時にショーンがひっそりと「ワシの家も料理屋なんじゃけど……」と呟いていたが、誰も気づく事なくオレだけが気づいた…………のだが、大衆食堂では敵わないと思いオレはそっと目を伏せた。



 そんな事でオレ達は大通りを南に進み目的のカフェのあるファションエリアに向かった。
 大通りは人で溢れていて、生誕祭初日の為か商人達の馬車が次々と正門からやってくる。

「クライヴ、正門の方を見ると相変わらず壮大な景色だね。王都の外にみえるあの点々としているのが全て商人達の馬車だからね」

 モーガンはオレの視線の先に気が付いたのか、微笑みながらオレに話しかける。
 
「フフッ近隣諸国から集まるので珍しい物が手に入るかもしれないな。ランチの後は武器屋に行くのはどうかな?」

「そうじゃなぁ! 多分祭りのおかげでセールじゃけぇ安く買えるのぉ。リアナもたまには良い事言うんじゃなぁ」

「なっ! バ、バカにしているのか! ぼくは騎士を志す者としての身だしなみとして、武具の新調や手入れ等の必要性を説いたのだ!」

(生誕祭を楽しもうよ。お前ら戦う事ばかりじゃん頭の中……)

 オレがショーンとリアナに向ける冷めた視線もつゆ知らず、二人は武器トークに花を咲かせていた。
 そしてカフェに着く頃には、この世で一番何が怖いのかという話をしていて悩んだ挙句「人間!」と二人は声を揃えていた……

「ほらここよ。やっと着いたわね」

 フィーネの指先に目を向けると、外に数組並んでいる建物が見えてきた。
 近くに行くと茶色の屋根に茶色の壁に赤い扉、その扉の上には木の板でできた可愛らしい表札が付いていて、この色の特徴からして平民向けのカフェという事なのだろう。
 しかし並んでいる人達の中には学院の生徒が数名見かけ、どうやら貴族子息令嬢にも人気があるカフェらしい。

 …………並ぶ事数十分…………

「いらっしゃいませ。こちらのテーブルになります」

 元気の良いポニーテールの十代後半に見える店員さんが、オレ達を席まで案内してくれた。
 そしてメニュー表を受け取ろうとした時!
 とても素早い動き出しを見せたフィーネにメニュー表を強奪された!

「わぁ! リアナみてみてコレ! ぜったいこのオムライス美味しいって! だってデミトマオムライスだよ。デミグラスソースにトマトだよ」

「クッ! パ、パンケーキだと……ふわふわ卵のオムハンバーグとミニハヤシライスと決めていたのに! なんでぼくはこんなにも惑わされているんだ! クッ! 仕方ない! これはぼくへの挑戦状だ! ぼくはキャラメルナッツのパンケーキにしようじゃないか!」

「……普通のオムライスで」
「じ、じゃあボクも同じので」
「ワシも……」

 その後オレ達はフィーネとリアナとの温度差に戸惑いながら黙々と食事をした。
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