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第一章 王国編第二部(中等部)

エピソード175 学祭の結果とその後ちょっぴりセンチな気分

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「パスタはいかがですか~」

「こちらのクレープはいかがですか~」

「サンドイッチ残り十個で~す」

「………………ふん」

(なんで学生達の模擬店に料理長がいるんだ? しかも愛想悪いし……)

 オレ達は劇を楽しんだ後、校舎北側にある運動場に来ていた。そこは昨日戦闘祭りの会場だったが、現在は模擬店が立ち並ぶフードコートになっており、各自食べたい物を買ってテーブルに集まった。
 
 オレは【はぁ……昨日の接待は最悪だったなぁ二日酔いキツいし、オレ絶対社長に嫌われているよ。あ~分かるソレ、オレもミートゥミートだわ……まぁでも東通りはドリア飲み屋街だからなぁ、流石に四軒ハシゴは肝臓壊れたけど】というメニュー名だったが、普通に「ミートドリア下さい」と注文して、料理長は顔を顰めた。

 腹を満たしたオレ達はその後、ルーシーお姉ちゃんのクラスの二年一組に向かった。
 燕尾服に蝶ネクタイと執事風なファッションの学生が執事喫茶という看板を持って廊下に立っているが、その執事喫茶の入口は長蛇の列になっていた。
 現在一時間待ちとの事でオレ達は中に入る事を諦めた。

(執事喫茶? この世界でも需要があるんだなぁ)

 そしてブラブラと時間を潰す事一時間、オレ達は各クラスに戻り、出店等の片付けを手伝った。
 片付け終了後は中等部の全生徒がホールに集まり総合順位の結果発表を待つ事となった。

 ホールではそれぞれのクラス毎に座り、壇上に上がっていくロレンヌ教頭先生を見ていた。

「みなさんお疲れ様です。二日間の学祭は楽しかったですか? では総合順位で上位三組の発表をします。
 第三位は一年一組になります。
 ウルトラ頭脳クイズでは圧倒的な強さで優勝し、マジックショーでは違った意味でドキドキしたと意外にも好評を得ており第三位となりました。
 続いて第二位は一年三組になります。
 戦闘祭りでの優勝や劇のクォリティーの高さ等際立ち、この結果となりました。
 そして最後に第一位の発表になります。
 第一位は二年一組です。
 戦闘祭りでは惜しくも三位、ウルトラ頭脳クイズでは準優勝、そして出店では執事喫茶が今回の学祭一の好評で、総合的に判断してこの順位となりした。
 他のクラスのみなさんも、この二日間よく頑張りました。
 この学祭では準備段階から教師ではなく生徒が主体となる事が多いため大変だったと思いますが、クラスメイトで一致団結しての活動では連帯感や協調性を深める事ができたと思います。この経験を活かして望ましい人間関係の形成や、より良い学院生活を築く事に繋がるかと思います。
 今回の学祭は中等部のみでの開催となりましたが、みなさん本当にお疲れ様でした。
 私からは以上となります」

 こうしてオレ達の初めての学祭は終わりを告げていつもの日常がまた始まる。吐息は白く、空気は澄み渡る……そんな冬がやってきた。
 まぁ、すぐに冬休みを迎えるのだが……
 

 冬休みに入るとモーガンは帰省し、ショーンとクラリネさんは実家に帰り、フィーネとリアナは学生寮に残るらしい。
 クラリネさんは「冬休みは稼ぎ時なので、実家ではなくハッピースマイルポテイトンの方で頑張らせていただきます」と意気込みを語ってから実家に帰って行った。

(まぁモーガンとショーンはいないが、冬休みも通常通り営業しよう……)

 そして冬休み初日、オレはハッピースマイルポテイトンに向かうとショパンさんが開店の準備をしていた。
 実はオレも詳しくは知らなかったのだが、学祭の準備等で忙しくなるオレ達の為に、ショパンさんとヒューゴはハッピースマイルポテイトンを休業させない案を考えていたようだ。
 噴水に組み込まれている火の魔道具を参考にして、キッチンには保温機能の付いた箱を開発して、揚げた後のフライドポテトをストックしているとの事だった。
 揚げたてこそ提供できないものの、その箱のお陰で時間短縮が可能となり数量限定でフライドポテトとドリンクのテイクアウトのみの営業をしていたらしい。
 
「ショパンさん! オレ達がいない間ありがとうございます」

「いえいえ大した事ありませんよ。クライヴ殿の方が大変だったでしょう」

「ふん! 戦闘祭りで優勝できなかったそうじゃなぁ。もう一度わしが鍛え直してやるわい」

「なっ! 爺ちゃん、どうして知ってるんだよ!」

「それはショーン達から聞いたからじゃよ」
 
 しばらく学祭に関する話をしてから本題に入らさせてもらった。

「冬休みはモーガンとショーン以外は暇してるから、ハッピースマイルポテイトンは通常営業でいこうと思うんだ」

 オレの提案にショパンさんもヒューゴも賛成して、オレ達の冬休みはポテトに追われる日々となった。

 キッチンはオレとヒューゴでエンドレス皮抜きに悪戦苦闘、ホールではリアナとフィーネとクラリネさんが奮闘し、レジではショパンさんが軽やかに会計処理を行う。
 慌ただしい日々の中、一応大晦日と元日は流石に休日にした。
 そんなこんなでオレの年末年始はヒューゴが住んでいる家で過ごす事になった。

「あ、あののの、この度はお招きいた、いただきだして、ましてありがとうございます。おお、お爺様に喜んでいただけるようにアタシ頑張りむす……ます」
 
 何故か噛み噛みのフィーネも一緒に過ごす事になったのだが、とにかくぎこちない……
 更にお茶の準備に始まり、部屋の掃除や洗濯と…………家政婦かとツッコミそうになるぐらい働いて、猫を被ってのポイント稼ぎが凄まじい!
 そしてフィーネがついにキッチンにまで手を出そうとしたその時!
 フィーネのサバイバルで培った万人受けしないワイルドな料理が頭をよぎった……

「フィーネ! ありがとう。そんなに頑張らなくていいから! 無理しないでくれ、いつものフィーネで大丈夫だから。爺ちゃんもフィーネの事は気に入っているから」

 オレはフィーネの肩に両手をおいて、感謝とともに遠回しにキッチンに立つなという意思表示を示したのだが、フィーネは顔を真っ赤にしてアワアワと口を動かしていた。

「ア、アンタの為じゃないんだから! 将来の事を考えて今からお爺様に認めてもらおうとしているとか思わないでよね! アンタが私のお母様に気に入られているみたいにア、アタシもお爺様に気に入られてもらえたらとか少し考えていただけなんだから! アンタとけ、結婚す、する為にとか勝手に勘違いしないでよ変態! 深い意味じゃないのに、なな、何勝手に勘違いしてるのよ!」

(知らんがな……フィーネさんがポロポロと勝手に喋っているだけなんですけど)

 そんな怒涛の冬休みを終えると次に後期試験がやってくる。
 冬休みが終わってすぐにショーンの学力向上と試験対策の為にオレ達は教室や食堂で猛勉強を重ねた。
 後期試験が前期試験と同様に三日間で六科目と科目数が少ないので、日々の勉強によりショーンも手応えを感じているようで早く試験当日を迎えないかとワクワクしていた。

 そして日が進み、後期試験が始まった。
 もちろんオレは前期試験のようなヘマはやらかさなかったので、クラス内の試験結果発表でもモーガンに続く成績を取る事ができた。

(よし! これなら変に目立たないだろう)

 そして試験最終日も終わりオレ達は順位表が貼られている掲示板に向かった。

――学年試験順位――

一位 アリア・ウィンゲート 六百点  
二位 ウィンディー・コル・マクウィリアズ 五百九十九点
三位 モーガン 五百九十点
四位 モースト・ボールトン 五百八十一点
五位 リアナ・ヘンダーソン 五百六十八点
六位 エルザ・サンダース 五百六十四点
七位 クライヴ 五百九点
八位 ヘクター・バリストン 五百三点
九位 フィーネ 四百八十点
十位 クラリネ 四百六十六点

 オレの順位もそこまで悪目立ち……少しは目立ったが、何より驚いたのはフィーネの頑張りだった。
 前回の試験よりも順位を上げてベストテン入りを果たした。まぁクラリネさんも成績を上げてベストテン入りをしているが……
 ちなみにショーンは七十五位と少し順位を上げていて、本人は「フォォォー!」と謎の奇声を発していた……

(あれ? 今回アリア様はオール百点なんだなぁ。前回みたいに百点越えなかったんだ。ちなみにルーシーお姉ちゃん達は?)

 オレは隣の掲示板を覗いてみると一位がよく知る人物の名前が書かれていた。全教科百点で……

 一位 ルーシー・ランパード 六百点

 ちなみにジェイミー様は二十九位とまあまぁな位置につけていた。

 やっと後期試験も無事に終わり、安堵していたオレだが、その日は唐突にやってきた!

 
「クライヴ、朝ごはんに行こう」

「腹減って力でまぁが」

 雪が降り頻る中、オレはモーガンとショーンに起こされて食堂に向かった。
 いつもより少し早く起きたので食堂には人がまばらに座っており、階段先の半個室エリアはどこも空いているようでこの時間帯は混雑する時間ではなかったようだ。
 オレ達は【ちくしょお! のつまみがなくなったてぃ?ショック定食だぜそれは】という名の塩鮭定食を注文すると、カウンターに力強くトレイを置く音が食堂に響き渡る……
 そこには鬼の形相の料理長が立っていた。
 少しザワザワとした雰囲気の中、人目を避けるように隅の方のテーブルに移動するとちょうどフィーネ達も食堂にやってきた。

「アンタ何かやらかしたの? 料理長ピリピリしてたんですけどー」

 相変わらず不機嫌なフィーネは両腕を組んで苛立つオーラー放っていた……

「みなさんおはようございます。クライヴ君達早いですね」

 前髪に寝癖がついている少し眠たそうなクラリネさんが微笑みながら声をかけてくれる。

「おはよう。こんなに寒い日が続くと身体が鈍ってしまいそうだよ。そろそろ冒険者協会の依頼を受けに行かないかい?」

 こちらはクラリネさんと違い、寝癖一つないよう櫛で梳かれた前下がりショートに気丈さを感じるその姿勢の良さのリアナが物騒な発言をしていた。
 
「おう! そろそろ討伐依頼じゃなぁ!」

 リアナの一言にショーンも反応した。

(これだからバトルジャンキー達は……)

「そう言えばクライヴ、この前ショパンさんが言っていたんだけど前期試験前のリーゼントカゲ討伐の件でボク達リトルホープが初級冒険者の中で一目置かれるグループになっているらしいよ」

 モーガンがリアナ達が食いつくような話題を提供しているが、オレを見ているその顔はニヤニヤと黒い笑みを浮かべていた。

(モーガン……お主やりおったな。そんな話したらあの二人が暴走するだろ!)

「フフフ、冒険者の皆様の期待を裏切らないように精進しなければいけないね。さぁ討伐依頼を受けに行こうかクライヴ!」

 目の色を変えたリアナが今にも身を乗り出そうとしてオレに問いかける。

「ちょっと待て! 討伐以外に採取依頼があるだろ!」

「クライヴ! ワシも滾ってきたけぇリアナの言う通りじゃ!」

(滾んなよ……)
 
 
 そして放課後、今日はハッピースマイルポテイトンが休みの為ゆっくり過ごす予定日だったのだが、モーガンのせいでオレ達は冒険者協会に来ていた。
 ここまでの道中ショーンとリアナが【もし素手で偽ブタを倒すなら】という意味のわからないイメージトレーニングをして盛り上がっていた。
 最終的に崖に突き落とすという答えに至ったらしいがオレにはどうでもよかった。

 冒険者協会に入るとショーンとリアナはすぐに依頼書の貼ってある壁に走っていた。まるで尻尾を振る犬のように……

 オレとフィーネとモーガンは打ち合わせスペースの椅子に腰掛けたが、すぐにモーガンは立ち上がりバーカウンターのマスターの所にいった。

「はぁ……嫌だなぁ」

 オレはため息を吐くと、正面に座るフィーネの眉がピクリと動いた。

「アンタ諦めなさいよ気持ち悪いわね! 男だったら腹を括りなさい。カッコ悪いわよ!」

 言葉のナイフを突き立ててくる安定のフィーネ節は今日も絶好調のようだ。

 リアナ達も戻ってきて世間話をする事五分、モーガンもマスターとの話を終えて戻ってきた。
 その後オレ達は今後の方針について話し合う事となった。

「クライヴ、まずボクからなんだけど……マスターからの情報で最近冒険者見習いの二人組が行方不明になったらしいよ。採取依頼で比較的難しい依頼でもなかったそうなんだけど……一週間経っても痕跡すら見つからないらしいんだ。
 人の手によるものか、獣達の仕業なのか…………
 まぁ採取依頼にしろ討伐依頼にしろ今まで以上に注意が必要だね」

 モーガンが真剣な表情で喋っているのでオレ達は先程の和やかな雰囲気から一気にピリッと引き締まる。

「続いてぼく達だね。先程のモーガンの話と関係しているか分からないけど、討伐依頼もセンチミニッツブルーコンゴ関連が多かったよ。ヤツらが生息する森よりも街道や集落での被害が多かったよ」

「アイツらは知恵が回るヤツじゃけぇのぉ。人攫うんも慣れとるんじゃろ」

「「「「さぁどうするクライヴ?」」」」

(何でオレが決めるんだよ! 嫌だけど拒否権ないだろう!)

「じゃあその依頼で…………」
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