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第一章 王国編第二部(中等部)

エピソード165 初の学祭

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 昨日の夜は寝つきが悪かった。
 朝起きると、昨夜の夜更かしで寝ぼけ眼となった顔を洗ってスッキリと目を覚ます。
 朝食前に寮の裏側西側の池まで散歩する。
 池までの道のりには白、ピンク、赤色の秋桜コスモスが顔を出して、朝日を目一杯浴びようと背を伸ばしていた。
 そんな小さな秋を発見しながら池まで歩き、オレは大きく深呼吸を一つした。

(流石に早朝は少し肌寒くなってきたな……)

 そんな事を思っていると、来た道の方向から足音が聞こえてくる。

「クライヴ君?」

 声がする方を振り向くと、朝日に輝くローズブロンドの髪色に緩いウェーブが鎖骨まで流れる美少女が、睫毛の長い吸い込まれそうな程青く澄み渡った目を丸くしていた。

「アリア様?」

 オレが声の主にそう呼びかけると、クールビューティと噂される美少女は明らかに不機嫌そうな顔をした。

「こんな所で会うとは珍しいわね。後……様付けはやめて下さらないかしら? 同級生なんだから…………」

「あっ……つい、その条件反射で…………アリアさん……」

「まぁいいわ。それよりも約束は覚えていますか?」

「えっ? 約束とは一体何の事でしょうか?」

 オレの返事にアリア様はやれやれといった顔をして溜め息を吐いた。

「ミッタールマウスの解毒のお礼の事よ」

「あぁ! 確かお願いを一つ聞くというヤツですね」

(やばい! 絶対ハンドガンの件だろう……)

 オレは以前生誕祭での出来事。
 ハンドガンに釘付けになっていたアリア様を思い出した。

「フフッ 覚えているのならそれで結構。お願いしたい事はまだ無いから、思いついたらお願いするわ」

 そう言ってアリア様は嬉しそうに笑みを浮かべていた。

「はぁ……」

(一体何なんだ? いつもはクールなアリア様なのに、何故か機嫌良さそうだし)

「そうだわ! せっかくなのでクライヴ君に伝えたい事があるのだけど……」

 なにやらアリア様の表情が真面目になり、俺は身構えた。

「何でしょうか」

「一組の戦闘祭りにモースト様やヘクター様が出場する事になったわ。モースト様の件もあるのだけど、ヘクター様が誰かに殺意を抱いているようで……念の為に伝えようと思って…………クライヴ君も気をつけてね」

(なんでオレが戦闘祭りに出場する事を知っているのですか? あっ! フィーネ情報か! てかそれよりも、殺意を抱くって何? ただの学祭だろ? 怖いよ怖すぎるよ一組)

「フィーネからクライヴ君達と出場するって聞いてるから、頑張ってね」

「あ、ありがとう」

「どういたしまして。それではごきげんよう」

 お礼を言うと何故か少し恥ずかしそうにアリア様は去っていった……



「クライヴ、何処に行っていたの? もう朝ごはんの時間だよ」

「そうじゃ! 飯食わんと元気がでまぁーがぁ出ないだろう

「ごめんごめん、ちょっと朝の散歩に出かけてたんだ」

 モーガンとショーンはオレの帰りを待っていてくれた。
 食堂に向かいながら今日の学祭で行われる第一種目の戦闘祭りについてショーンは意気込みを語っているが、オレは先程のアリア様の殺意を抱いている生徒の事が気になり、適当に相槌を打っていた。

 食堂に着くとすぐにフィーネ達を見つけた。
 
「みんなおはよう」

 モーガンがフィーネ達に爽やかな笑顔で朝の挨拶をすると、周りにいた女子達がヒソヒソと何かを言っている。

「尊いわ。朝日よりも眩しくて、存在自体が神々しい」

「朝から可愛いです。モーガン君をオカズにもう一度お代わりしてきます」

(………………無視無視)

「あぁ、おはよう。珍しくモーガン達は遅かったね」

「ごめん、ボクとショーンはクライヴを待っていたんだ」

「アンタ朝から何迷惑かけてんのよ!」

 やはり今日もご機嫌斜めなツン様フィーネは朝からマウントを取りにくるが、オレはそれを華麗にスルーした。

 ゴリッ!

「なに無視してんのよ!」

 フィーネの怒り声とともに、オレの足の甲には痺れと痛みが走る。

(みなさんお分かりだろう。これが理不尽というヤツだ…………)

 結局その後、何故かオレが謝るハメになり、ホテルマン並みの綺麗なお辞儀を合計二十三回…………フィーネに謝罪? をした……
 そしてそれぞれ朝食の【生き別れた孫に会わさないなんざ、お前さんどサンドうかしてるぜ。おかげであの時の記憶はまっさらだサラダよ】と言う名の卵サンドとサラダを食べて食堂を後にした。

 朝食後はいつものように寮の外でフィーネ達と待ち合わせて、オレ達五人は学院へ向かう。
 ちなみに今日はクラリネさんがいない。
 各クラスで一人選出される学祭委員の仕事があるらしく、ここ数日は早朝から学院に行っているからだ。
 その仕事の成果が今目の前に広がる飾り付けだ。
 通学路のターミナルから校舎側北側に向かう並木道に人が通るとキラキラと小さな輝きを放つ魔道具が立ち並んでいる。
 そしていつの間にか等間隔にアーチが作られていた。

(何だあのイルミネーションみたいな魔道具は? アレがあればハッピースマイルポテイトンの季節のイベントの飾り付けにピッタリだなぁ。モーガンに聞いてみよう)

「なぁモーガン、あの魔道具っていくらぐらいするか分かるか?」

「クライヴ、ハッピースマイルポテイトンに導入するのは無理だと思うよ……アレ一つで金貨一枚するんだよ」

「えっ? マジで……」

(ちょ! ウソだろ! だってこの数、百個近くはあるだろ! どんだけ資金があるんだよこの学院は! 生徒から徴収しているお金では大赤字だろう! 国からの補助金っていくら出てるんだよ!)

 オレはこの学院の資金繰りに疑問を感じていると背中に悪寒を感じた。

「クライヴ~お姉ちゃんだよぉ~戦闘祭り出るんでしょう。アリアちゃんから聞いたわよ」

「そうなんですルーシーさ、ルーシーお姉ちゃん」

 一瞬だがルーシー様を様付けで呼ぼうとした時に殺気を感じたので、すぐにお姉ちゃんと呼ぶ事にした。
 すると先程までの殺気は嘘のように消えていった。

「クライヴ~私とジェイミーも戦闘祭りに出るんだよ。ジェイミーはクライヴに負けないって言って目が血走っていたわよ」

(何その要らない情報。殺意を抱く者に、目が血走っている先輩…………恐怖だよ戦闘祭りが…………)

「誰が目が血走ってるんだよ!」

 そこへジェイミー様がやってきた……えらく不機嫌な様子で…………

「おはようございます。ジェイミー様」

「ルーシーに気に入られているからって調子に乗るなよ。そう簡単にオレに勝てると思うな!」

 ジェイミー様は睨みを効かせてオレに言い放つが、オレは一ミリとも勝とうなんざ思っていない!
 むしろ痛そうだから出場するのも憂鬱なくらいだ!
 オレ自身全ての元凶のガン先生が悪いと思っている。

「ジェイミー! 何後輩に絡んでんのよ! やめてくれる?」

「エルザてめぇ! ちょっとは先輩を敬えよ!」

「誰がアンタなんか敬うのよ! テリー先輩なら敬うわよ!」

「グッ! 今テリー兄さんは関係ないだろ!」

 エルザ様の参戦により、まさに火に油を注ぐ状態となり、結局騒がしさは校舎に入るまで続いた。
 
「なぁモーガン、先輩達って強いのかなぁ?」

「ん~どうだろう。多分ジェイミー先輩とルーシー先輩のクラスだけじゃないかな。注意しないといけないのは」

「まぁアタシ達なら良いとこまで戦えるでしょ」

 オレ達二組の話を聞いていたリアナとショーンとエルザ様がオレの方に振り向いた。

「優勝するのはワシらじゃ!」

「お互い正々堂々と騎士道を忘れずに戦おうじゃないか。ボク達はクライヴ達に負けはしないよ」

「クライヴ君達も大変だねぇ……まぁでも一年生の中では二組と三組が優勝候補だと思うよ」

 とエルザ様が呆れ顔で答えていた。



「み、みんな、おはよう。き、今日から学祭だよ。と言っても今日は前夜祭みたいなものだからね。今日は戦闘祭りで、明日は頭脳クイズと出店人気バトルだよ。戦闘祭りに出場する人達は午前中は練習やミーティングの時間で、午後から戦闘祭りが始まるから遅刻しないように気をつけてね。他の人は明日の出店人気バトルのお化け屋敷の準備を忘れないようにしないとね」

 ガン先生の説明の後、オレ達とカーンとトンマージ君は一旦戦闘祭りの会場となる運動場と呼んで良いのか? 約一平方キロメートルのフィールドに行くことにした。
 どんなものか視察という訳だが、前にガン先生が
入学式後の校舎案内の時に、この運動場はちょっとしたカラクリがあって何かに変わると言っていたが、見事に何かに変わっていた。
 そこにはバトルフィールドと化した森や壁や建物等の障害物が広がっていた。

「サバゲーかよ……」

 オレのポツリと呟いた一言にモーガンとフィーネが反応する。

「どうしたのクライヴ」

「アンタ突然なんなのよ」
 
「いや、別に何でもないんだ。コレは一体どうなっているのかな? と思ってたんだよ」

「あぁ、コレは王立学院に一つしかないと言われている古代の学院変化魔道具だよ」

(なんだよその魔道具は……この世界の魔道具は何でもありだな。半端ないって)

 ツッコミどころ満載だが、その気持ちをグッと堪えて心の奥底に眠らせた。
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