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第一章 王国編第二部(中等部)

エピソード159 これは夢か幻か、いや現実ですよね?

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「スノウ、スノウ……私の小さな王子様」

(えっ? どうして母さんが……)

 声のする方を見ると……そこには見慣れた赤髪のゆるふわミディアムヘアーに、モデルのようなスタイルの優しい笑顔が印象的な…………久しぶりに見る母さんが立っていた。
 オレは頭で理解できず何が起きているのか戸惑っていると、徐々に母さんが歪んで見えてきた……
 なんとか母さんらしき人影だけは視界に捉える事ができたが、寝起きのようなぼんやりした思考の中でオレは神様の力で不思議な体験をしていると思っていた。
 しかし、歪んで見える原因が実は目から涙が溢れている事と気付くのにそう時間を費やさなかった。

「スノウ、泣いちゃダメよ。お母さんはあなたを守れるだけで充分幸せなの…………」

「母上! オレは今とても幸せだよ! 紹介したい友達がいるんだ。フィーネって言うワガママに見えるハーフエルフの女の子に、可愛い女の子に見えるけど実は少し腹黒な男の子のモーガンに、騎士を目指してから少し男の子みたいな印象の長身の女の子のリアナに、訛りの強くて熱い性格のショーンと王立学院の初等部で出会ったんだよ。
 それに侯爵家のご令嬢で綺麗な女の子なのに時々暗殺者みたいに思えるときがあるアリア様に、その侯爵家の護衛のザックにはみんな稽古をつけてもらっているんだ。
 あと他にもいっぱい話したい事があって、どれか、話せばいいのか……えっと……えっ! 母上!」

 オレはアレクサンダー帝国からマクウィリアズ王国に亡命してきてから出会った色々な人の紹介をしようとすると母上の身体が徐々に透けていって事に気づき、何が起きてるのか分からず戸惑う事しか出来なかった。

「はは……うえ…………」

 声を振り絞り母さんに手を伸ばそうすると……オレはベッドで仰向けになっていて、何かを掴むように右手を天井に向かって大きく伸ばしていた。
 その手には母さんの手を握っているのではなく、夢から覚めた虚しさだけが残っていた……

(夢か………………疲れてるのかなぁオレ…………母さんは……帝国から脱出する時にオレ達を逃す為に自分の命と引き換えにオレとヒューゴを守ってくれたんだった……)

「よし! 今日も一日平穏に過ごしたいぞ」

 オレは気持ちを切り替えるように心の中の言葉を声に出した。
 この世に生を受けてからのオレの信念を……

 そしていつもより早く食堂に向かい一人で朝食を食べていると、空いている席にフィーネが腰掛けた。

「おはよう。アンタ一体どうしたのよ? 目が腫れてるけど泣いてたの?」

「現実に帰って寂しくなったんだよ。夢の世界があまりにも楽しかったから」

 オレの言葉にフィーネは首を傾げていた。

「何それ? アンタ大丈夫なの? クライヴはいつも変だけど今日も変よ。 いや、いつも以上に変だから何か悪い物でも食べたの?」

(うん、朝から爽快なジャブとストレートのコンビネーションという言葉の暴力を放ってきたな。多分オレじゃないと怒ってるよ。普通の人は)

 そんなフィーネの口撃をヒラリと躱してオレ達はモーガンやリアナを待たずに食堂を後にした。
 その後オレとフィーネは学生寮から出てハッピースマイルポテイトンに向かった。
 朝食時とは違ってオレとフィーネが言葉を交わす事はあまりなく沈黙が続く事が多かった……
 しかし歩いていると早朝だからなのだろうか、洗濯をする人や開店準備をするお店から聞こえる声。何処かの家庭からは、香ばしいパンの香りにコーヒーの香り。
 また別の所では暑さを和らげようと打ち水の音が聞こえてくる。
 そういった様々な環境音や香りの効果からか少し肩の力も抜けて少しずつ言葉を交わすようになった。昨夜の夕食や今朝の朝食の話やリアナのお姉さんレベッカ様の印象について等。
 世間話をしながら歩いていると目的地のハッピースマイルポテイトンに到着した。

 オレは鍵を開けてフィーネの方に振り返るとフィーネは少し緊張した表情をしていた。
 
(う~ん……個室という二人だけの空間だとより緊張して話しづらいか? それなら庭の方が開放的だし、なんなら足湯の所で話すのならお店から離れているし外部に声が漏れる心配も少ないと思うけど……)

「フィーネ、個室だと話しづらかっとら庭の奥の足湯の所で話すか?」

 オレはフィーネにそう聞くとフィーネは首を横に振った。

「ううん……二階に上がりましょう」

「分かった」

 そしてオレ達は二階に上がり、密会でも使える個室のドアを開けた。
 オレとフィーネは対面するように座り、オレはフィーネが話すのを待った。
 フィーネが話し始めるまでの数秒の沈黙が、体感時間にして数分にも思えた。
 そこからフィーネの重い口が開いた。

「クライヴ……あのね。何かアタシに隠し事してない?」

「何の事だ? 馬車もずっと一緒に乗っていたから何も隠し事とか無かっただろ?」

 フィーネの質問の意味が分からずオレは思った事を正直に伝えたが、フィーネは寂しそうな顔をして瞳を少し潤ませていた。

「アタシ聞いちゃったの。アンタとダリア皇女の会話を……」

「…………」

 フィーネの質問の意味がやっと理解できたオレは、言葉を選ぶのに時間を要した。顔には出さなかったが正直に伝えるべきか否かで悩み、どうすればフィーネに誤解なく理解してもらえるか思考をフル回転させた。

「フィーネ……それは、オレ達が帝国の事を話していたのを……聞いたと言う事か?」

「うん。二人の関係も……」

「そうか……」

「……そうかですって! どうして嘘ついてたのよ! アタシの事が信じられないの! 何でよ! 話してくれたってイイじゃない!」

 フィーネは肩を震わせて、その瞳からは涙が溢れていた。抱え込んでいた胸の内も、感情と一緒に流れ出していたかのように見えた。
 フィーネをこれ以上傷つけまいと思い、オレは正直に話す事にした。

「フィーネ、落ち着いて聞いてくれ」

「……ゔぇんうん

 フィーネの泣きながらの返事がよく聞き取れなかったが、オレは話を続けた。

「フィーネがどこまで知ったのか分からないけど……オレの本名はクライヴじゃなくて、スノウって言うんだ。スノウ・デア・アレクサンダー……本当はアレクサンダー帝国の第三皇子なんだ」

どうじびぇどうしてゔぞをづいて嘘をついてびだのおいたのよ!」

 泣きじゃくるフィーネの言葉が胸に突き刺さるがオレはそのまま話を続けた。

「フィーネ……ごめん、嘘をついてて……どこから話せばいいのか……少し長くなるけどオレの話を聞いてくれるか?」

 そう言ってオレはフィーネに話し始めた。
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