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第一章 王国編第二部(中等部)

エピソード151 頼れる先輩とまさかの?

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「テリー様? 何処に向かうのでしょうか?」

「少し気になる所だよクライヴ」

「はぁ……」

 オレとフィーネはテリー様から詳細を知らされずただついて行った。

「ここだよクライヴ、フィーネさん」

 そこは、この町の酒場であり、オレ達のような子どもが立ち入る場所ではないのだが…………臆することも無くテリー様は酒場の中へ入って行った。

 大人達が楽しそうにエールを飲んで酔っ払っている。そんな飲み会のような状況の中で目立つオレとフィーネ……

「嬢ちゃん、ここは子どもが来るところじゃないよ。そっちの坊主も出ていきな」

 初対面の強面オールバックなマスターから当たり前の言葉をかけられて、オレとフィーネはテリー様に助けを求める視線を送った。

「マスター、ぼくがここに連れてきたんです。マスターに聞きたいことがあるのですが、少しだけいいですか?」

「……なんだ?」

 マスターはテリー様の方へ向き、不機嫌そうに答えた。
 テリー様はいつもの優しい表情を崩すことなくマスターに質問をした。

「この町では何か噂になっている事や、等聞いたりとかはありませんか?」

「冒険者が害獣に返り討ちにされたぐらいしか聞かないなぁ。他の町の噂なんかも特に聞いたことはないぞ」

 マスターは記憶を辿るようにオレ達に話してくれて、その言葉を聞きテリー様はオレ達を連れて酒場を後にした。

「ごめんねクライヴ達を付き合わせてしまって……クライヴ達の力が借りたくて…………さぁ宿に行こうか」

 意味深な発言をするテリー様にオレは質問をした。

「オレ、ぼく達の力とは一体なんでしょうか?」

 少し考え込みながらテリー様は答えた。

「貴族では動けない事をクライヴ達なら出来るんだ。こんな言い方はしたくないけど、平民だと気付かれず、貴族だと目立つこともある……そこでクライヴ達の頭脳と行動力が必要だったんだよ。今日一日で何か気づいた事はあったかい?」

 テリー様の問いにオレとフィーネは少し考え込んでから答えた。

「アタシが今日一日で気づいたのは、さっきの町では神隠しか貴族の恨まれたかみたいな噂しか聞いていないので……」

「あっ!」

「どうしたんだいクライヴ? 急に大声を出して?」

 テリー様とフィーネが驚く中、オレは一つの違和感を感じた。

「テリー様……おかしいです。この町と先程の町との距離は数時間程度で、そう遠くはありません……ですが先程の町の噂が全くこの町には入ってきていない……些細な噂でしたので考え過ぎかもしれませんが、なんと言いますか、その、大袈裟に言うと情報統制されているような気がするような、しないような……」

「なるほどね……後でアーサーに報告しておくよ。クライヴとフィーネさん、協力ありがとう」

 テリー様はオレの話を聞いて優しい表情がさらに和らいだように見えた。
 そしてオレ達三人は宿に到着した。
 みんなで夕食を食べてそれぞれの部屋割りを聞くと、中々な面子と同じ部屋な事にオレは不安を感じていた。

(女性陣はルーシー様以外みんな同い年で五人部屋で仲良く楽しそうだけど、オレ達はアーサー殿下、テリー様、アラン様の高等部三年組の三人部屋は良いとして、カイエン様とジェイミー様とオレの三人部屋って…………何故かオレって二人からあまりよく思われていないんだよな…………)

 そしてオレ達三人は会話する事なく無言のまま朝を迎えた…………

 朝食時の会話で午前中には避暑地に着くらしい。 オレは何故かアーサー殿下の馬車に乗せられて、高等部三年生のアーサー殿下の側近とオレだけという不思議な空間と化した馬車内でビクビクと怯えていた。フィーネはウィンディー王女とアリア様の馬車に乗るらしい。

「クライヴすまないな私達のところに来てもらって」

「いえいえいえいえ、身に余る光栄ですアーサー殿下!」

 正直帰りたいと思う気持ちを抑えて、なんとか無難に皆様の機嫌を損ねる事なく避暑地まで耐え抜く事を決意したのだが、オレを動揺させる一言がアーサー殿下から放たれた!

「どうやら近くの街にアレクサンダー帝国のダリア皇女が来ているらしい。避暑地に着く前にそちらに挨拶に向かおうと思うのだが……」

(なっ! あのワガママな暴れ馬のツインドリルが来ているだと! 絶対ダメ、オレ、オウト、カエル、バレルト、コロサレル、オレ)
 
 オレは馬車に乗って開始三分で帰りたい気持ちが爆発した。
 しかし声に出そうと間一髪のところをテリー様からの神のお告げのようなフォローが入った!

「アーサー、突然こんな大勢で行くのも失礼かと思うので、アーサーとウィンディー王女とアランとカイエンとぼくだけにしないか?」

「僕もテリーの意見に賛成だよアーサー」

 アラン様もテリー神テリー様お告げに賛成してくれた。

(あぁ……これで命が助かる…………後は絶対その街には近寄らない)

 後々話を聞くとその街と避暑地の距離は馬車で一時間程度らしく、オレはもしテリー様のフォローがなければどうなっていたのか……と恐怖を感じた。

 そして馬車に少しだけ冷たい風が吹き込み、北に向かって進んでいるのだと感じていると目的地の避暑地に到着した。
 さすが王族という避暑地かと思えば、意外とお忍びな感じで程よい大きさの建物と庭園がそこにはあった。
 オレ達が馬車から降りると使用人さん達十名が列を作りお出迎えをしてくれた。
 そして一番奥で頭を下げているご老人は、どうやらこの別荘の管理を任された責任者らしい。

「坊ちゃまお久しゅうございます。このギグスが坊ちゃま方のおもてなしをさせていただきます」

「あぁ、ギグスよろしく頼む。私とウィンディーは少し用事が出来たのでしばらく離れるが、ここに残る人達を頼む」

 本当にアーサー殿下はウィンディー王女を馬車に乗せてすぐにこの場を去って行った…………

「さぁ皆様こちらでございます」

 ギグスさんの案内に従いルーシー様とジェイミー様を先頭に後に続き歩いているとアリア様から突然声をかけられた。

「クライヴ君、一体馬車の中で何があったの?」

「そうそう私達も気になっていたのよねぇフィーネ」

 アリア様の質問に続くように話しかけてくるエルザ様、そして頷くフィーネ……
 オレはアリア様に正直に答えて反応を見た。

「アレクサンダー帝国のダリア皇女様が近くの街に来ているそうです。それでアーサー殿下達は挨拶に行くとの事です」

「そうなのね……」

「へぇ~珍しいわね。お父様知っているのかしら?」

 アリア様は特に無反応でエルザ様は少し父親の心配をしているようだった。
 フィーネは何も反応をせず、心ここに在らずといった状態だった。
 その後アリア様がオレから離れてエルザ様の隣に行き、オレとフィーネは一番後方を歩いていた。

 ふとフィーネが真剣な表情でオレに小声で話しかけてくる。

「クライヴ、森から女の子の悲鳴が聞こえたわ! ここからだと少し遠いから急いだ方がいいわよ!」

 とその時!

 ……ッォーン

 遠くから何かの衝撃音がわずかに聞こえた。

 みんな一斉に後方に振り返り森の方へ目を向ける。

「ジェイミー! みんなは危ないかもしれないから残っていて!」

 ルーシー様がジェイミーさまを連れて音の原因を探りに行こうとするが、アリア様もエルザ様も同様について行った。

(百パーセント嫌な予感しかしないんですけど……)

 オレとフィーネも後を追い、そして約十分後……
街道を逸れた森の近くで半壊している馬車が止まっており、五名の護衛兵らしき人達が偽ブタ二匹と……まさかの魔獣オーク一体と戦っていた…………
 魔獣の出現に唖然としていたオレ達。
 オレは急いで馬車に向かった!
 アレクサンダー帝国の皇族の紋章が入った馬車に!

(やめてくれ! 一応嫌でも家族なんだ! もうオレの存在などどうなってもいいから、ダリアを助けないと!)

 オレは自分の死刑宣告とダリアの命と天秤にかけてダリアの命を選んだ!
 そして馬車の中を見ると、震えている女の子と使用人が一人……
 しかも女の子はツインドリル……

「ダリア姉さん…………助けにきたよ…………」

 オレの言葉にダリアは顔を上げた。

「な、何でスノウが…………」
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