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第一章 王国編第二部(中等部)

エピソード149 噂なんてないさ 噂なんて嘘さ

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――四十分後 カフェにて――


「へぇ~クライヴが? 意外やなぁ、強いだけちゃうくて、頭もええねんな! 若いのにお店もしてはるなんて」

「まぁお店は別の人が店長でみんなで働いているからオレ一人では到底経営なんて出来やしないよ」

 オレはあまり目立ちたくないのでハッピースマイルポテイトンの経営の事や新メニューの事等、あまり話したくないので話を切り上げようとしたところ!

「そうよ! クライヴは凄いのよ! お店や庭の設計もクライヴが考えたしお店のメニューも全部クライヴが考えたのよ!」

(あぁ…………恐れていた事が…………)

 何故か誇らしげなフィーネさんがほぼ全てを暴露してしまい一言物申したいが……もう後の祭りなのでオレは諦めた。これ以上被害を出さないため黙秘権を行使した。

「へぇ~クライヴ君って色々と知っているのね。フライドポテトなんて私初めて食べた時の味や食感は今でも忘れないわ。私の家族もとても気に入っているのよ。どのようにすればクライヴ君みたいにアイデアが浮かぶのでしょうか?」

 アリア様もオレの素性にジャブを放ちつつも、さりげなくフォローに見せかけた誘導尋問を行おうとしていた。

「…………」

(フライドポテトはアリア様の家族が好んでいるかは知らないけど、貴女が使用人さんとかに買う量が半端ないんですって! ウィンゲート家のコックに作らせなさい!)

「アリアそれはね。クライヴが変人だからよ。いっつも変な事ばかり考えているし、みんなを驚かせるのよ」

 またしてもご機嫌フィーネさんが勘違いさせるような言葉を巧みに使っていた。

(おい! 語弊があるぞ! その言い方じゃオレは変質者だろ!)

「アッハッハ、変人やなんてクライヴ可哀想やで」

 どこがツボにはいったのかカエデはお腹を抱えて笑っていた。
 
「そう言えばカエデさんは一人でこの町に来られたのですか?」

 オレも疑問に思っていた事をアリア様がカエデに聞いてくれた。

「そんなわけないやん。うち一人で旅行や出来ひんよ。両親とは別行動しとって、後で宿で合流する事になってはるんよ」

 カエデは手を顔の前で横に振って、少しオーバーリアクションのジェスチャーをしながらアリアの質問に答えていた。

「アリアはん達はクライヴと三人で旅行してはるん? 何でこの町に来たん?」

 カエデもオレ達三人でいる事に疑問に思っているようで、アリア様もどう答えようか言葉を選ぶのに少し考えていた。
 すると空気を読まずフィーネが参入してきた。

「アタシ達はこの街の噂を聞いて少しこの町にいるの。もう少ししたら一緒に来ている学院の人達と次の町に出発するのよ」

 フィーネはカエデに対して純粋に質問に答えていた。

(馬鹿正直だなぁ…………多分フィーネの中でカエデは悪い人では無いと思ったんだろうなぁ。あと嘘をつくのがヘタだしなぁ)

「へぇ~……んでどないな噂なん?」

 噂と聞いてカエデは楽しそうに目を輝かせている。

「人がいなくなるの……神隠しのように…………と言っても誰も見た事ないらしいわ。
 今は多分どこかの貴族の嫌がらせによる風評被害だったと大半の人が思っているようだけど、一度広まった神隠しの噂を今も信じている人が少なからずいるようだわ」

 そんなカエデの様子を見ていたアリア様が少し真面目な顔でカエデに話をした。

「神隠しなんてほんまにあるんかいな? うちには信じられへん事やけどなぁ。せやけど一応お互い注意せなあかんなぁ」

 カエデはアリア様の話を聞き、少し真面目な表情で言った。

 そして束の間の休息の後、オレ達は再度カエデに噂の神隠しに気をつけるようにと伝えて、広場で別れた。
 オレは「また会おう」とカエデに伝えようと思い何気なくカエデの方を振り向くと、フードのようなものを被った手には小さいナイフが陽の光に反射してキラリと光らせている不審者二名をカエデの後方に見つけた。
 カエデとの距離は十メートル程度あり、カエデはまだ気がついておらず、ゆっくりと不審者はカエデに近づいている。
 
(また前みたいにカエデに危害を加えようとした不審者の仲間か? それとも噂の原因か? ここからだと間に合わない。【クロノス】を使ってギリギリのところか……)

 オレが行動に移そうとしたその瞬間!

 ヒュヒュン!

「グッ」
「グワァ」

 カランカラン!

 風を切るような音と共に不審者達はナイフを落として自分達の手を押さえていた。
 そこからは血が滴り落ちている……
 
 「キャー!」

 周囲の人達も地面に落ちているナイフと怪我をした不審者達を見て、異変に気づいたようで叫びながら逃げていた。
 それに紛れるようにカエデも一度オレ達を見て頷き、そしてその場から立ち去っていった。

 その後、腕自慢の冒険者達が衛兵が来るまでの間不審者二名を取り押さえて、その後不審者は衛兵に捕まっていた。
 そんな事で事件は未然に防げたが腑に落ちない点が一つ……

「そう言えばナイフが四本あったから、二本多いように見えたんだけど、アリアさ」

「クライヴくん」

「いやいや、あの投げナイ」

「クライヴくん……」

 アリア様のとてつもないプレッシャーにオレの心は吹き飛ばされてしまい、なおかつオレの素人の読唇術でさえ【サ・ス・ワ・ヨ】と読み取る事ができ、恐怖のあまりそれ以上聞く事はなかった……



「アリア、結局収穫なかったね。噂の神隠しも誰も見た事ないから本当に貴族の嫌がらせなのかなぁ?」

 フィーネがアリアに話しかけつつ、退屈そうに地面の石を蹴りながら歩いている。

「そうね。本当なら領土の端だけど……ボールトン伯爵の耳まで届いてなさそうね」

 アリア様も収穫がなく落胆している。

「まあまあ何事も無かったし、そろそろ時間なのでみんなの元に帰りましょうアリアさ……帰ろうかアリア」

 オレは念の為周囲の人に怪しまれないようにアリア様を貴族として扱わずただの学友としてフランクに話しかけた。

「えっ……あ、ええ、そうね。早く殿下の元に帰らないと行けなわね、じゃなくて……行けないわね」

 学院でもクールビューティーとか氷の天使とか言われてクール系女子のアリア様が物凄く動揺して耳が赤くなっていた。

(えっ……凄く可愛いんですけど。ヤバイってそんなの見せられたら男なら誰でも惚れてしまうわ!)

 オレは良いものが見れた眼福眼福と年寄りのような言葉を口から出そうになったのをグッと堪えた…………
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