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第一章 王国編第一部(初等部)

エピソード118 恋するレモネード

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「何でこんな事になるのよ! アンタ死ぬつもりなの! 死にたいの! ミッタールマウスの毒を受けたのならちゃんと言いなさいよこのバカ!」

 ほんの数分前………………………………

「あ……ありがとうござ……います。アリア様……」

 解毒されたのか、オレは苦しみからやっと解放されて全身の脱力感により大の字で寝転んでいる。
 さすがにアリア様の膝枕は嬉しい……しかしそれよりもウィンゲート侯爵家の当主とアラン様シスコンから斬られそうな気がするので、オレは芝の所に頭をつけてもらった。

「学生寮へ遣いを出していますので、もうすぐクライヴ君を連れて帰る人が来ると思います」

 アリア様の言う通り、遠くから馬車の音がどんどん近づいてくる。
 そして停まったかと思うとモーガンの焦る声が聞こえて来た。

「フィーネ、待って! クライヴなら大丈夫だから!」

 そして冒頭に戻り…………今現在フィーネにマウントポジションを取られて罵倒されつつ、時々ビンタが飛んでくる。
 半分ぐらいは躱せただろうか……
 しかしオレの頬がジンジンしていた……
 これにはアリア様も口を開けて驚いている。
 数分程度だが、マウントを取られた状態での攻防戦は体感時間ではとても長く感じた。
 試合の終了を告げたのはリアナがフィーネを引き剥がしたからだ。

「フィーネ! クライヴは病み上がりなんだぞ! それに君一人だけ心配しているのではない! ぼく達みんながクライヴの事を心配していたんだ! 手荒い真似はよさないか!」

 リアナに怒られてフィーネは落ち着きを取り戻したが……フィーネは、オレが毒を受けた事を内緒にしていたと勘違いしており、すこぶる機嫌が悪い…………

 そしてオレ達はアリア様に命を助けてもらった事と馬車を借りた事のお礼を言った。
 その後、何故かショーンが浮かない顔をしていた。

「よぉ、無事じゃったのぉ。気づかんかったけぇ……すまんのぉ」

 ショーンは真顔でオレに言った。
 この一年間でショーンは熱血だけど仲間を大切にする純粋な奴なんだと分かった。だから責任感を感じているのだろう。

「いやいやショーンが謝る事じゃないってオレの爪の甘さだから、ただの擦り傷だと思っていたら大変な事になっただけだから」

 オレはショーンをフォローするとまたフィーネ火山が噴火した。

「ふざけんじゃないわよ! アンタのおかげでどれだけ心配かけたと思ってるのよ!」

「まぁまぁフィーネ。クライヴも無事だったんだし、アリア様のおかげだね」

 モーガンがうまくフィーネを宥めてくれて、フィーネもアリア様に話しかけた。

「アリアありがとう。クライヴのバカを助けてくれて」

「ええ、私に出来る事をしたまでよ」

「ん? アリアどうしたの? いつもとなんか違うよ?」

 フィーネはアリア様に向かって失礼な事を言っていた。

「おい! フィーネ! アリア様に失礼だろ!」

 オレはフィーネに苦言を呈したが、アリア様はフィーネの言葉に表情が強張り少し動揺しているようだった。

「あ、その……フィーネ、今日は慣れない事をしたから疲れたわ」

 アリア様がそう言うとフィーネはもう一度お礼を言って、お店の前で別れる事にした。
 夕陽が建物を赤く染めていき、街の人達の今日の仕事が終わろうとしている。
 そんな慌ただしさの日常を感じながら、オレ達はまだ話し足りなかったショーンによる初級冒険者までの軌跡を聞きながら学生寮に戻った。

 そして次の日……あまり無理して身体の状態が悪くならないようにと先生命令で、オレはしばらく学院を休む事となった。

(暇すぎる! 早くショッパーニさんと打ち合わせをして、レモンと蜂蜜を大量購入してハッピースマイルポテイトンでレモネードが作りたい!)

 オレは神秘的な森の都フォレストリーフでのレモネードが忘れなくて、早く再現したい気持ちで一杯だった……
 授業が終わるとみんながオレの部屋に集まり授業の内容や今後の中等部入学金を稼ぐ方法を話し合った。
 そんなある日、一通の手紙がオレの元に送られてきた。
 ウィンゲート侯爵家の紋章入りだ…………中を開けると……アリア様からの文が書いてあった。
【お身体の具合はいかがでしょうか? フィーネからしばらく学院を休んでいると聞いております。早速本題に入らせてもらいたいのですが、この前のクライヴ君を助けた件で、クライヴ君がお礼に困っているとフィーネに聞いてます。ですので私がお願いしたい時に一つだけ叶えてくれる……と言うのはどうでしょうか? これならクライヴ君の負担はないかと思います。他意はありませんのでご検討ください。アリアより】

(確かにお礼に悩んでいたけど、お願いを一つ聞く……ものすごく嫌な予感しかしないんだけどなぁ。十中八九ハンドガンの事だろう……後はどうやって誤魔化すか…………)

 とりあえず返事はできる範囲なら期待に応えますと書いた。
 その後アリア様から返信はなく、お医者さんの判断でオレは学院に行ける様になった。

「やっと解放されたぁ~。久しぶりだから緊張するなぁ」

「フフッこれで再開だな」

 リアナも嬉しそうにオレの復帰を喜んでくれていた。

「クライヴ勘違いしないで、リアナは早く討伐依頼を受けたくてウズウズしていたんだよ」

「モーガン……余計な事を言うのはレディに対して失礼じゃないか」

(うん! バトルジャンキーなんだね。ストレス溜まったたんだよね)

「ワシはとりあえず中等部の入学金を稼がねゃならんけぇのぉ」

「ク、クライヴも、病み上がりだと思うし、あ、あんまり無理しなぃ…………がぃぃ……思う」

 フィーネは頬を赤くしながら少し俯き喋っている。

(ごにょるなフィーネ! 最後のあたり殆ど聞き取れなかったから)

 そして教室に入ると奥の窓際から黒いオーラが漂っている。

「キャアァァ! クライヴ君が来たわぁ。病み上がりのクライヴ君を看病したかったわ。更衣や更衣や更衣」

(何回着替えをさせるつもりだ……)

「やっぱりモーガン君が寝る間を惜しんで献身的に看病をして、身体中の汗を拭いたりしてたのよ。尊いわ二人の愛が」

(オレ一人で全て行っています。十一歳でコレだと将来さすがに心配になる……)

「もうクライヴ君が寝込んでいるシーンをイメージするだけで、色々なアプローチができるわね。想像だけでもうお腹いっぱい。今日は昼食は要らないわ」

(どんな思考回路をしているのだろう……欲望が食欲を抑え込むなんて…………)

 やっぱり女子三人衆カオス達は凄かった。
 オレは、ダン先生が来るまでカオス達の戯言を耐えた……そして久しぶりの授業は読み書きと計算の応用編で正直退屈だった…………

 今日は水曜日なので臨時休業したいたハッピースマイルポテイトンの営業再開だ。
 下校時刻になるとモーガンとショーンとオレはショッパーニ商会に行って品物を取りに行った。その間フィーネとリアナは店舗の清掃をお願いした。
 そして品物はモーガン達に運んでもらい、オレはショッパーニさんとショパンさんに少し話があると伝えた。あの不思議な魔道具重曹っぽいヤツの事でだ。

「久しぶりですクライヴ殿。今日はどの様なご用事でしょうか?」

「実は見て欲しいものがあります」

「ほう」

 ショッパーニさんの目が変わる。先程のほんわかした雰囲気から商人モードに切り替わった。

「この魔道具ですが二つアイデアを閃きまして、一つはこの魔道具を使った不思議な水を作りました」

「ほうほう。それはどの様な効果があるのでしょうか?」

 事前にショッパーニさんを待つ間にショパンさんに説明していたので、ショパンさんがアシスタントの様に動いてくれて、目の前に油汚れや焦付きがひどいフライパンや少し不快な臭いがする服を持ってきてくれた。
 オレは不思議な水重曹入りをかけてフライパンをゴシゴシと洗うとみるみる油が落ちていき、焦付きもマシになった。
 そして服もひたひたに浸して暫くしてから洗濯板でゴシゴシ洗うと不快な匂いは消えていた。
 ショッパーニさんは目を輝かせていた。
 
「なるほど、不思議なものですねぇ。まさに不思議な水ですね。魔法や水の魔道具だけだと、汚れは落ちても、油や焦付きはお手上げですし、服に関しても臭いには効果があまり期待できません……しかしこの不思議な水でしたら、一度使うとその便利さから生活必需品として手放せなくなりますね。
 飲食店や主婦、そして洗濯に関しては貴族の使用人にもターゲットになるかもしれませぬぞ」

「もちろん! 日頃からお世話になっているショッパーニ商会との独占契約のつもりです」

 オレの言葉にショッパーニさんさんは目を輝かせていた。

「何と言う事でしょう。ありがとうございますクライヴ殿!」

「そしてもう一つの使い方ですが、レモンと蜂蜜を少々いただけませんか?」

「ええ、良いですが……一体何を」

 オレはコップに入った水の中にレモンと蜂蜜を入れた。
 先程とは違う事をしているのをショッパーニさんは子どものようにワクワクしながら見ていた。

「この蜂蜜レモン水の中に不思議な水の素となる粉を入れます」

 すると突然コップの中の蜂蜜レモン水がしゅわしゅわと音をたてて泡が出てきた。

(よし! 成功だ!)

「ではショッパーニさん一口どうぞ」

 先程の泡が出てシュワシュワ音が出る現象を見ていたのでショッパーニさんにとっては得体の知れない物なのだろう……恐る恐るコップに口を近づけていた。

「ん、上手い! これはエールビールですか? いやしかし喉越しは似ているが、蜂蜜の甘さの後にレモンの爽やかな香りが鼻に抜けていく。コレだとエールが苦手な人も飲みやすいですね」

 ショッパーニさんの反応は上々だ。更にここで追い討ちをかける!

「これはエールではありません。ですのでいくら飲んでも酔う事はありませんし、子どもでも飲めますよ。これを新しい商品で販売しようと思います。三十杯分の樽を用意できないでしょうか? それと蜂蜜とレモンを今後定期的に購入させて欲しいです。
 もちろん今まで通り店にはショッパーニ商会のエールやぶどう酒、果実ジュースにコップ等は置かせてもらいます」

 オレはそう説明すると目の前のショッパーニさんは急に抱きついてきて、涙ぐみながらオレに感謝を伝える。

「ありがとうございますクライヴ殿。二年前までは我がショッパーニ商会は赤字経営で何とか商会を潰さない様にと細々としていましたが、クライヴ殿と出会ってからは業績は右肩上がりになりました。また嬉しい悲鳴で以前の従業員数では仕事が回らなくなっていたので大勢の従業員を雇うことができました。そしてこの商会もこの規模の大きさではそろそろ限界を迎えようとしておりまして、倉庫を含めてもっと大きく改築する必要がでてきました。これも全てクライヴ殿のおかげです」

 凄く感謝されているが、オレの方も色々としてもらっているので、ウィンウィンな良好な関係がこれからも築けそうだ。
 そんなショッパーニ商会は貴族御用達では無いもののここ一年で急成長を遂げて、王都では三本の指に入るぐらい有名な商会となっている。
 オレとしては間近で変化していくショッパーニ商会に愛着が沸き、素直に嬉しかった。

 無事に話し合いも終わりショパンさんといっしょにハッピースマイルポテイトンまで歩いて行った。
 その道中ショパンさんが突然話しかけてきた。

「クライヴ殿の先見の明には感服いたしました。クライヴ殿はどれぐらい先の未来まで絵を描いているのでしょうか?」

 オレは転生前の知識ですとは言えず、その場を誤魔化した。

「みんなから変人扱いされているから人と違うアイデアが浮かぶだけです」

「そのアイデアをお持ちの方はクライヴ殿ただ一人だけですね。いずれこの国の宝となるでしょうね」

 ショパンさんは微笑みながら言ってくれるが、オレの頭の中にはもう一人凄い人間が浮かんだ。

(アリア様のほうが凄いと思うぞ)

 そしてハッピースマイルポテイトンに、行くといつでも店を開けれる状態になっていた。
 十五時過ぎに営業中の看板を外に出すと、早速一台の貴族の馬車がやってきた。
 毎度の事ながらお得意様の大量注文だ。
 
 今回オレはホールを担当して、厨房はショーンとリアナに任せた。
 ホールがどれぐらい忙しいか見極めるためだ。
 
(得意分野を任せるとそこまで負担は無さそうだな……でも出来ればみんながある程度全体の事を出来る様になって欲しいんだよなぁ……ショーンは厨房専属だけど…………
 これからレモネード販売を始めるとジュースや酒類の売り上げも伸びそうだから厨房には三名は必要だな。
 忙しくなるとお会計のカウンターに二名は外せない。
 ホール対応も二名は必要だし、庭での飲食の片付けや手入れ等にも時間帯によっては一人は欲しいところだ…………
 とにかく人が足りない)

 仕方ない頼んでみようかな。困った時はいつでも頼れと言ってたし…………何だか申し訳ないけど。
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