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第一章 王国編第一部(初等部)

エピソード112 色々と相談したい事がありまして

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【一年間で一体何がどうなれば、町が変わってしまうのだろう。
 このシェリダン子爵領は住みやすいのか、町全体が活気に満ち溢れている。
 しかし下町ならではの人情やお節介なご近所さんよりも新しく来た人達が多くなっていて、どこか寂しさも感じる今日この頃…………
 モーガンやショーンやリアナはいかがお過ごしでしょうか?
 オレは先程書いた内容通りの出来事に戸惑っております。ハッピースマイルポテイトンの新作も開発しましたので、早くみんなに会いたいです。
 それと夏休みはフィーネと行動を共にしていますが、深い意味はないです】

「これでよしっと」

 オレはフィーネと一緒に東エリアでひっそりと営業をしていた定食屋で昼食を食べながら、手紙を書いていた。
 そして王都行きの馬車が目の前を通って行こうとしていたので、オレは馭者さんを呼び止めて王都の学生寮宛へ手紙を託けた。

「しゃあねぇな坊主! 必ず送り届けてやるよ」

 オレは馭者さんに礼を言い実家へ向かったが、実家に近づくにつれてフィーネの様子がおかしい……

「ど、どうしよう……手土産も持って来てないし……第一印象が大切なのに……ア、アタシ、クライヴのお爺様に嫌われたらどうしよう……」

 フィーネはオレとの将来を妄想しているのか、小さな声で呟きながら徐々に顔色が悪くなっていく……

(考え過ぎだろ……何その結婚を前提にお付き合いさせて下さい的な心構えは…………)

「フィーネ。あのさぁ……そんな無理しなくていいから。フィーネの実家と違ってこじんまりした質素で小さな家にまだまだ元気に働いている爺さんが暮らしているだけだから。何だその……まぁ……気を張らなくて大丈夫だと思うよ」

 オレは緊張しているフィーネにその緊張を解こうと話しかけた……そんな上手い言葉は言えないが。
 するとフィーネはオレの顔を見て、目を潤ませていた。
 そしてフィーネは深呼吸を一つして、いつもの笑顔に戻っていた。

「ありがとうクライヴ。そうよね考え過ぎてたわ」

 オレのエゴなのか臆病なのか自分でも正直わからないが……フィーネの心情を理解した上で恋愛を進退させるような言葉を避けた…………

「子どもが考える一時の感情ではなく、思春期を過ぎてフィーネの心も成長をしてから、考えていこう。それまでには答えを出すから……絶対に幸せにするとハッキリ言えないけど、悲しませるような事は絶対にしないから……」

「えっ? なに? ねぇクライヴ? 何か言った?」

 オレはフィーネでも聞き取れないように自分自身に言い聞かせるように……臆病なオレを奮い立たせるように呟いた。

 オレ達は少しの間沈黙したまま歩く事数十分。
 オレの住んでいる住宅街に着いた。
 街道沿いより少し奥に入った所にオレの家があるはずなんだが……街道沿いから新しくできた家が乱立していた。
 その弊害によって、どの辺りから奥に入るのか分からず、オレの家の特徴的なオレンジ色の石壁と屋根の目印を頼りに迷路のように路地を歩いた。
 そこから歩くこともう二十分……やっと実家に辿り着く事ができた…………

 オレが家の扉を叩くと、ヒューゴが飛び出してきた。
 さすが、二年前にランパード家の御令嬢のルーシー様に鍛えられただけある。
ご主人様が仕事から帰って来たぁ! と言わんばかりの見事な犬さばきの動きを見せる五十五歳……
 これが帝国時代の元オレの護衛兵で、帝国軍元大佐の現在の姿だ…………………………残念でならない。

「クラァァィィィヴゥゥウウ!」

 強烈なハグ、そして絶叫するヒューゴの姿を見て完全にフィーネは引いていた……。

…………そして約一時間経過………………

「ゴホン、先程はお見苦しい所を見せて申し訳なかったのぉ。クライヴの祖父のヒューゴじゃ。とてよ可愛らしいお嬢ちゃんをクライヴが連れてくるとは…………あんなに子どもだったクライヴが不思議なもんじゃ……刻が経つのは早いのぉ。まぁ気軽に爺ちゃんと呼んでくれたら嬉しいのぉ」

(おい! ジジイ! 孫の成長を可愛がりつつ、女の子を連れてきて余計なお節介をする……孫との関係が良好な良きジジイを演じるな! フィーネが勘違いし始めているんだよ)

 そんなに深く考えていないヒューゴの一言の中の本当にの爺ちゃんと呼ぶと言う事だけフィーネの頭にインプットされたらしい……

「えっ? お、お、お爺さま。不束者ですがよろしくお願いします!」

 フィーネは真っ赤な顔でヒューゴにお辞儀をしていた。

(おーい、誰か止めてくれ。こっちも言葉選び間違えているよ。こっちは帰省するまでの道のりや、町の変わり様等、色々と疲れてんだよ!)

 そんな二人はオレの前で、ヒューゴがこの一年間のオレの出来事をフィーネの口から聞き、フィーネがこの町でのオレの二年間の偉業? をヒューゴが自慢する……そんな不思議な事を繰り広げていた。
 そんな伝言ゲームのようなものを見ていて、やっと話が終わった時にら夕方前になっていた。

(おかしいだろ! 何でフィーネにオレの一年の出来事を聞くんだ? しかもフィーネも誇張するな! オレはそんな王子様のようなキザな台詞で仲間のピンチに登場しないし、そんな強敵とは一対一で戦わない! まぁ皇子はあながち間違ってないけど……)

 そして、フィーネに地下訓練室も含めて一通り家の中を説明して、その後ヒューゴ特製の夕食をみんなで食べながらオレは本題を話した。

「爺ちゃん。この前王都の露店でこんな物見つけたんだけど何かわかるかな?」

 オレはハンドガンをテーブルに置くと、ヒューゴは不思議そうに首を傾げていた。

「わしには分からんのぉ……もしかしたらドワーフなら何か知っておるかもしれんぞ」

(やはり! この世界にはハンドガンの事は殆ど知られていない……だとしたら何故あの時、アリア様はハンドガンに興味を示したのだろうか? もしかしたらハンドガンがどういった物か知っていた? いや、高い技術力を誇るアレクサンダー帝国の帝国軍元大佐でも分からない事が、マクウィリアズ王国の侯爵令嬢が分かるはずがない。やはり装飾品として珍しかったのだろう……)

「ドワーフかぁ……どこにいるか分からないのに、気軽に会えるものなのかなぁ。まずは中等部に入学して、もう少し大きくなってお爺ちゃんと色々な町に旅行が出来たら会えるのかなあ?」

「あぁ、クライヴと一緒に旅行に行ければ必ず会えると思うのぉ」

 オレとヒューゴは言葉とアイコンタクトで意思疎通をした。
 オレは中等部に入学して一、二年生までには目的地に辿り着ける体力をつける事を伝えた。

 そしてやはりと言うか、ヒューゴも知っていたのだ。
 帝国の上層部しか知らないアレクサンダー帝国とマクウィリアズ王国の国境付近の人が立ちいる事はない山岳地帯に隠された洞窟の街ドームガーフがある事を……

 フィーネには微笑ましい祖父と孫の会話に聞こえたようで優しい表情でオレを見ていた。

「久しぶりに爺ちゃんに会えてのに、何だがずっとこの家にいたような感じだよ。たまに帰省するのも悪くないね」

「コラ! 毎年顔を見せんか!」

「ごめんごめん。また今度会う時は夏休みだね」

「楽しみじゃのう」

 オレは次回夏休みに帰省した時に洞窟の街ドームガーフに行く事をアイコンタクトをしながら違和感のない言葉で伝えた。
 ヒューゴもそれに応えるように頷いた。
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