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第一章 王国編第一部(初等部)

エピソード106 ランパード辺境伯と依頼

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 相変わらずのランパード辺境伯の街は……
 一年振りにこの街に来たが、街というよりか要塞と言う言葉が良く似合う石壁で周囲を囲んだ城郭都市は、辺境伯領地という土地柄、敵から守れるよう作られている。
 王都のような平和で華やかの街と違い、オレは以前は感じなかった僅かだが常に気を張り巡らせるような緊張感を街全体から感じていた。
 そしてオレ達は入り口の門番に冒険者証明証を見せるとすぐに通してくれた。
 これ一つで国内のパスポート代わりの効力を発揮するのはオレ達のような子どもには有り難い。

(絶対迷子と思われて詰所で足止めされるもんな……)

 まずはランパード様への報告のために大通りを脇見もせずに抜ける……フィーネに睨まれながら……

(フィーネさん! オレ達は一文無しだよ? 一体何が買えるの?)

 歩き続けると、街のシンボルでもある教会に辿り着き、そこから北エリアの貴族街や城がある方面に向かって歩いた。
 街に着いて三十分オレ達は歩き続けて、やっと街と北エリアの間にある大きな川を渡る橋に到着した。
 その先にいる門番にオレは話しかけた。

「すいません。この冒険者証明証ではこの先は進めないですよね?」

「すまないね。それではこの先は通せないなぁ。この先は貴族や領主様が住んでいるエリアになっていて厳重な警備をしているんだよ。貴族や領主様と繋がりのある何か証明出来るような物があれば通す事が出来るんだが…………」

 門番さんは申し訳そうな顔でオレ達にとても丁寧な対応をしてくれた。

「わかりました……ではこちらの手紙を領主様の使用人の方にお渡しできないでしょうか?」

 直接ランパード様に会えるとは思っていなかったので、北エリアから城下街に訪れる使用人に渡す事にした。内容はシェリダン領に帰省する途中で立ち寄り、王立学院を勧めてくれたお礼を伝えたいといった言った簡素な事と冒険者協会に入り浸っていると思うと書いていた。

 そう! オレは事前にフィーネが同行するイコール節約すると文句を言われる……よって所持金が湯水のように流れる……その結果、良くてシェリダン領までの運賃が残る、悪くてランパード辺境伯領まで辿り着かない……と予想していた。
 結果は良くも悪くもない結果だが、しばらく冒険者稼業でその日の宿代を稼がないといけない。
 本当はフライドポテトや重曹魔道具でのレモネード販売とかも考えたが、希少性を高める為には悪手となる。
 出来れば王都のハッピースマイルポテイトンもしくはシェリダン領でお世話になった教会から販売したいと思う。
 オレはフィーネと今後の宿代と運賃代について話し合った。

「フィーネ、このままだと野宿になるしご飯を食べるお金もないよ……冒険者協会で採取系の依頼を受けようと思うんだけど、どうかな?」

「良いと思う! なんなら稼げるなら討伐系でも良いわよ! クライヴさえ良ければだけど……」

 フィーネも野宿とご飯抜きは耐えられないようで即答で答えてくれて、そして最後にオレに対して配慮してくれた。

(何だろうこの気持ちは? フィーネの優しさが嬉しいんだけど、もっと早めに配慮してくれとも思ってしまう。嬉しいような悲しいような…………)

 オレ達の意見は一致して冒険者協会の扉を開いた。
 そして一年前同様にオレ達に絡んでくる冒険者達がいた。

「おいおい! ここはガキがくる場所じゃないぜ」

 オレ達は無視して薬草採取の依頼書を取って、受付に行き、この依頼を受ける事を伝えた。
 やはりここにも一年前に盗賊退治のお礼の際に対応してくれた話が通じなかったお姉さんがいた。

「ボク、ダメじゃない勝手に依頼書を取ってきたら。ママゴトじゃないのよ。お姉さん達も忙しいし、さっきの冒険者さん達も怒らせると怖いのよ。早くお家に帰らないとお母さんが心配するわよ」

 一年振りとは言えオレ達の顔を覚えていないのか、有無を言わさずに一年前と同じように最初からオレ達を冒険者と思っていない対応をされて、オレは初級冒険者証明証を受付のお姉さんに見せた。

「えっ? 冒険者? 嘘こんな小さい子が…………すみませんでした! 依頼ですね、この依頼は薬草採取で川沿いの草原で見つかる薬草を二十個納品したら依頼達成となります。先程は失礼しました」

(冒険者証明証は印籠かよ……)

 受付のお姉さんは急に対応が変わってオレ達に説明をしてくれた。
 そして周りの冒険者も表情が変化していた。

「こんなガキが冒険者だと?」

「初級冒険者? あんな子ども達が討伐依頼も受けているのか? 将来期待できるな」

 先程の絡んできた冒険者達はオレが無視した事にまだご立腹らしくて、こっちに近づいてきた。

「ムカつくガキだな。てめえが冒険者だろうが俺様を無視するなんざ一発痛い目にあって教育しとかないとな」

 先程絡んできた冒険者達のリーダー的な人ガラの悪いモブがオレにボディーブローをしてきた。

(えっ? 嘘だろ! いい歳した大人が子どもに暴力? しかも手加減なし! ダメ人間の鏡だなぁ)

 オレは一瞬そんな事を考えつつ、当たれば痛いガラの悪いモブの全力のボディーブローに対して少し力を解放した。

「【クロノス】」

 オレだけが動く事を許された百分の一秒の緩やかな刻の世界。
 力を半分に抑えて、オレは左足を支点にして右半身を後ろに九十度動かして相手に対して横向きになった。
 そこから【身体強化】で相手の突き出した右の拳を絶対に前方にバランスを崩すように強く引っ張った。

 そして……………………

「えっ! うわ! 痛ぇ……」

 案の定ガラの悪いモブは勢いよくボディーブローを空振りして、さらに前方に見える机に勢いよくぶつかっていった。
 そして遅れてから聴こえてくる他の冒険者達の笑い声。

「あいつ子ども相手に全力で殴りかかって空振りって……… ププッ……ブファッ! バカだろ。しかも机に突っ込むって……どんだけ勢い良すぎなんだよ」

「ガキ相手に情けねえ奴だなぁ。しかも自滅って」

 ガラの悪いモブは真っ赤な顔をしながら仲間達を引き連れてこの場を去っていった。
 去り際に血走った目でオレを睨み一言

「殺す……」

 とハッキリとオレだけに聞こえるように呟いた……………………

「フィ、フィーネ? やっぱり依頼を受けるのをやめないか? 宿で働く代わりに一日だけ泊めてもらえないか交渉しに行かないか?」

 オレはオドオドしながらフィーネに安全策を提案した。

「何言ってんのよ! ここで稼ぐわよ! 欲を言えば買い物もしたいのよアタシは!」

 フィーネの決意は強く、オレは蛇に睨まれたカエルのようにフィーネの怒りの表情に足がすくみ動けなかった………………
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