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第一章 王国編第一部(初等部)

エピソード95 親偽ブタの恐怖

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 オレ達は偽ブタの突撃に備えて構えていたが、偽ブタは二百メートルの所で立ち止まり、子どもの偽ブタに悲しそうに呼びかけていた。

「ピィーピィー」

 偽ブタが呼びかけるも子どもの偽ブタ達は返事がない…………ただの屍になってしまった。

「ピィィィギィアアァァ!」

 偽ブタは叫び声をあげてオレ達の方へ向いた。
 そして猪のように地面を何度も掻きながら、助走体勢に入っていた。

「来るよ!」

 モーガンの短い言葉とともに、偽ブタは突進をしてきた。

「前回同様でボクは魔法の詠唱を行うから、それまで足止めをお願い! ショーン衝撃に耐えて、その後クライヴとリアナで! フィーネも追撃お願いね」

 モーガンは落ち着きを取り戻し冷静に状況判断し、オレ達に指示を出した。

 突進して来る偽ブタに向かって何度かフィーネは矢を放つが、全ての矢が硬い身体の表面に弾かれてしまう。

(鳥のように雛鳥は柔らかくて、親鳥は硬いって言うのと一緒かな?)

 オレは恐怖を紛らわすためにそんな事を考えていた。

 そしていつの間にかショーンの目の前に偽ブタが迫っていて、ショーンは大盾を地面に刺して突撃に耐えようとしていた。

「しゃあ! こいやワシの所に!」

 ショーンは自分を鼓舞してその衝撃に耐えようとした。

「ぬぅわぁ!」

 突進を止める事が出来たが、ショーンは大盾ごと、五メートルぐらい後ろに吹き飛んで行った…………

(凄いショーン! 身体の張り方がオレとは違うよ)

 オレは関心していると、もう既にリアナは偽ブタに向かい斬りかかっていた。

「クッ! やはり表面は硬いようだね。お腹か顔。狙うしかないね」

 リアナはそう言って、偽ブタの前足での引っ掻きを躱しながら、その前足に長剣で細かい傷をつけていった。
 オレも偽ブタの本気の怒りにビビりながら、サーベルを反対の足目掛けて斬りつけるが腰が入ってない為か傷一つつける事が出来なかった。
 そしてオレとリアナが前足を攻撃して、偽ブタが意識を下に向けている間にフィーネは偽ブタの眉間を目掛けて矢を放った。

「ピギャアァァ!」

 見事に偽ブタの眉間に突き刺さり、偽ブタは叫び声をあげて暴れ出した。
 ただオレは間が悪く、その暴れる偽ブタの後ろ足がオレに飛んできた!

「うわっ!」

 なんとか小盾で防ぎつつ自分から後方に飛んで衝撃を和らげた為ダメージは全くないが、小盾は偽ブタの足跡の形にボコリと凹んでいて八割ほど足跡の小盾となり、多分次で貫通しそうな状態だった……

「クライヴ!」

 フィーネが心配そうに声をかけてくるがオレは小盾をブンブンと振って大丈夫とジェスチャーで答えた。

 そしてオレは次の攻撃が来ない間に一旦間合いの外に出た。

「ショーン! 動けたらリアナのヘルプ頼む」

 モーガンが魔法の詠唱中はオレがみんなを指揮する事になっている。
 それ程魔法の詠唱というのは集中力が必要らしい。

「おう! いきなりやったけえ、次はワシの番じゃあ!」

 元気いっぱいにショーンは右手に槍を持ちながら偽ブタに突撃した……が、偽ブタの左前足には傷一つ無く、振り上げた前足で槍は遠くに吹き飛ばされた。
 幸いにも槍を飛ばさた後に直ぐ両手で大盾を握りしめていたのでショーンは踏ん張る事が出来ていた。

「ぬぅお!」

「ナイス、ショーン! これでぼくも楽になるよ」

 リアナは細剣に持ち替えて、偽ブタの振り上げた左前足のスペースに入り込んで脇腹を狙って突き刺した。

「プギャー!」

 見事に左脇腹の少し深めまで突き刺さり、偽ブタは悲鳴をあげて右側に少しバランスを崩した。
 その時ちょうどオレがいる所に偽ブタはよろけて来たのでオレと目と目が合ってしまった…………

「プッギイイイイ!」

 偽ブタはギロリとオレを睨むと右前足を横からなぎ払い、リアナのいる位置までの約百八十度ぐらい大きく攻撃して来た。
 オレは避けるリスクより小盾を犠牲にした方が怖くないと決心して、小盾を構えつつバックステップで右前足での薙ぎ払いを逸らした。
 そして偽ブタの攻撃耐えきれず粉々になり取手だけとなった小盾を捨てた。
 オレは守る盾を失った事でより一層前衛の怖さを感じてしまい、膝が震えだした。

「くそ! こんな時なのに!」

 自分の情け無さと、命のやり取りという怖さでこの場から逃げ出したくなる気持ちを必死で抑えてオレ達が生き残る為だけに集中した。

 偽ブタの右前足でのなぎ払い後、オレの後方から矢が二本、右脇と右目の少し上に突き刺さった。

「ギイイイイ!」

 脇の方は浅いが、右目の上はそれなりにダメージがあったようで、偽ブタは少し後退って距離を取った。

 この隙でオレは前衛を立て直すために大声を出した。

「ショーン! リアナ! 大丈夫か!」

「ああ! クライヴ、なんとか凌ぐことが出来たよ」

(凄いなぁリアナは……凌げるって)

「すまんクライヴ、もう手が痺れて握力がねぇんじゃ! 後一回ぐらいしか防げん…………」

 ショーンはリアナとは対照的に余裕は無いようだった…………

「リアナ、ショーンと右側お願い! オレは左側から攻めるから!」

 とにかくショーンを守るためにはオレよりリアナの方が守れる確率が高いはずだ。
 オレの方は……なんとかするしかない。

「フィーネ! こっちに来てくれ!」
 
 オレの声にフィーネは息を切らしながら急いで駆け寄ってくれた。

「クライヴ!」

「フィーネ! ナイフを貸してくれないか?」

 その一言だけでフィーネはオレが何を企んでいるか分かってくれた。

「いいけど……無茶だけはしないでよ! 絶対だからね!」

 フィーネはオレの事を心配してくれていて、正直オレはいつもフィーネがこれぐらい可愛げが有ればなあ……と心の中では思っていた。

「大丈夫! みんなを守る為に安全な所から攻めるだけだから」

 オレは胸をドンと叩き心配ないとジェスチャーをして、ナイフを受け取った。

「それとフィーネ、偽ブタの左の前足に弓で四、五本ぐらい矢を放ってくれないか?」

「えっ無理よ! 頑張っても四本が限界よ! そんなに沢山してたら気づかれるわよ」

 多分今のオレとフィーネには説明など不要だ。
 必要最低限の会話だけで意図が理解できる。
 オレもフィーネもお互いの性格や本当の実力がわかっているからだろう。

「リアナ! ショーン! もう一踏ん張りだ!」

 オレはリアナとショーンを鼓舞して、偽ブタの隙を伺った。

 フィーネが二本同時矢を放った。
 精度は落ちるが、偽ブタの左前足に当たるもダメージはないようだ……

 三本目の矢を放った。
 次の弓を力一杯引いてから放った矢は偽ブタの左前足に少しだけ突き刺さった。
 流石に偽ブタはこちらに気づいたようで突進して来そうな怒りを醸し出している…………
 そして意識がオレ達に向いた瞬間リアナは動き出し、ショーンの大盾を踏み台にしてジャンプした。
 狙いは左首を細剣で突き刺すようだ。

「くらえ!」

 リアナの一撃は偽ブタの首には届かず、左肩の厚い筋肉によって弾かれた。そしてリアナの着地と同時に偽ブタは大きく振りかぶった右前足で叩き潰そうとしていた………………
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