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第一章 王国編第一部(初等部)

エピソード84 不審者の狙い?

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(えー! 何この人怖いって、怪し過ぎるだろ警備はどうしたんだよ!)

 オレは目の前のローブで顔を隠した不審者に対して怖くなりカエデ同様にオレもガクガクと震えていた。

 震えるオレの姿を見て不審者はナイフをオレの方へ向けた。

「後ろに誰か隠れているだろ? こちらに渡してくれないか? そうすればお前の命は助けてやる」

 表情が見えず、感情の無い声でオレに交渉してきたが、このままカエデを差し出すのは間違っている。

「もし、もしもの話ですよ。拒否をしたらどうなりますか?」

 オレは震える声で不審者に聞くと、不審者は感情の無い声で警告してきた。

「お前を殺すだけだ」

(ひぃぃ! お助けぇー)

 オレは泣きそうな顔になりながら勇気を振り絞った。

「今回はお帰りいただけないでしょうか? 先程の騒ぎで人も駆けつけてくると思いますし……」

 オレの言葉を遮るように不審者はオレに向かってナイフで斬りかかってきた。

「ヒェッ!」

 オレは情けない声を上げながら、カエデを後ろに突き飛ばした。

「キャッ!」

 カエデは一メートルぐらい後ろによろけながら尻もちをついた。幸い下は芝生なのでダメージは少なそうだ。

 オレ自身もカエデを突き飛ばすと同時に腰を抜かすように倒れて躱した。

 そしてオレはすぐ後ろに移動して不審者と距離を取り、カエデをオレの背中で隠すように守った。オレの膝はガクガク震えが止まらないが……
 取り敢えず不審者とは五メートルぐらい離れる事ができたはずだ。

「すまんな。お前にはなんの恨みもないが」

 オレの震える姿を見て不審者は一言そう告げた。
 ずっと集中しているオレだが瞬きをした僅かな隙を不審者は逃さなかった。
 一瞬でオレまで残り五十センチの距離に詰めてきて、オレの心臓をナイフで刺そうとした。

(えっ? 速過ぎないか? もう目の前にいるよ……刺されるって!)

「【クロノス】」

 オレだけが百分の一秒の緩やかな刻の流れの中を動く事ができる。一秒半だが時間の概念を無視した神秘的な空間が広がる。
 この限られた時間内で、【身体強化】をかけたオレは不審者が持つナイフを手刀で落とした。
 そしてオレに向かってくる勢いを利用して腕を掴み一本背負いをした。勿論鳩尾に肘をいれながら全体重を不審者に預けて倒れ込んだ。

「グフゥッ」
不審者はオレの肘が入った鳩尾以外小さく身体が跳ねて、一瞬だけ呻き声をあげピクピクと気絶した。

 何とか不審者をやつける事は出来たが、オレは【クロノス】と【身体強化】によって身体が悲鳴を上げている。全身筋肉痛と息切れして何とか立っているのがやっとの状態だった。

「カエデ! 狙われているのか? 追っては一人だけか?」

 もう一人追っ手がいたら相手にするのは無理なので、カエデが狙われる原因を知らないか聞いてみた。

「そないな事言われても、うちも分からへんわ。早うここから逃げな。
 どないしたん! クライヴ顔真っ青やで! どっか怪我をしたん?」

 カエデは襲われた事が怖かったのか、まだ震えていた。それでもオレの様子を気にしてくれていた。

「オレは大丈夫だから、しばらく動けそうにないだけだ! それにさっきの騒ぎで衛兵が駆けつけてくるはずだから! カエデは早く逃げてくれ! 大聖堂に逃げれば神父さんが助けてくれるはずだから!」

 オレはこの時間すら惜しいと思いながら真剣な表情でカエデに逃げるように指示した。
 カエデは頷いてこの場から立ち去ろうとした時に少し悲しそうな表情を見せた。

「クライヴかて震えとった癖にかっこつけな! 絶対に生きとってや。ほんでまた会うてや。約束やで」

 カエデは去り際に言葉を残して、大聖堂の方角へ消えていった…………

(後はカエデの無事を祈るだけだな……)

 オレは何とか気力を振り絞り立っているが、もう限界で倒れそうだ。
 その時、騒ぎを聞いて駆けつけてくる人達がオレに声をかけた。

「坊主! 大丈夫か? コイツがさっきの酔っ払いを殺した野郎か! みんなコイツを縄で縛るぞ!」

 駆けつけた人達は不審者を縄で捕らえていた。

「オレは薄れゆく意識の中、ハッピースマイルポテイトンに連れて行って下さ…………………………」

 オレは目の前が真っ暗になり意識を失った……



「クライヴ! クライヴ!」

 誰かがオレを呼んでいる……しかしオレは水の中にいるような感覚で、声がとても遠くから聞こえてくるように感じる。それはまるでオレ自身が無意識で目覚めるのを拒否していて身体を休めているかのようだった。

 だが、空気をぶち壊すのが得意な方がいた。

「アンタ、いつまで寝てんのよ! 起きなさいよ!」

 身体を揺すられているのだろうが? オレは夢うつつの中で揺すられる力の強さによって、オレの後頭部が床に対して一定のリズムを刻んでいる事に気がついた。   
 そして徐々に意識が現実世界に引き寄せられた。

(アレ? 後頭部が痛い……テンポの速い十六ビートを刻んでゴツンゴツン床に当たってるよ? 嘘でしょ、本人は気づいてないのか?)

 鈍痛のおかげなのか、オレはゆっくりと目覚めると、案の定犯人は心配そうにオレを見つめるフィーネだった。

「おはよう……そんなに頭を打ち付けられると痛いよフィーネ」

 フィーネはハッとした顔をして、今気づいたようだった…………そしてオレの後頭部を確認すると真っ赤に腫れて熱を帯びていた………………

 少しずつ頭が動き出して周りを見てみると、今日働いたメンバーと何故かアリア様もいらっしゃる。
 しかも神妙な顔つきをしてらっしゃる。

「クライヴ? 大丈夫? まだ頭が痛むの?」

 モーガンが心配そうな顔で上目遣いでオレを見ていた。

(多分コレはワザとじゃなくて無意識のはずだが……無自覚なあざとさによって健気な男の娘という可愛さを存分に振りまきすぎるだろ。
 オレを女人禁止の秘密の花園に連れて行こうとするつもりか!)

「大丈夫だよモーガン。それにみんなごめん…………業務中に急に飛び出して…………」

 オレはみんなに謝ると、ショパンさんが俺の肩に手を置いた。

「クライヴ殿、顔を上げて下さい。クライヴ殿が全てのジャガイモを揚げ終えて尚且つポテトを紙袋に仕分け済みでしたので二時間で完売しましたよ。我々もそんなに負担にはなりませんでした」

 ショパンさんの優しい声でオレは顔を上げて一人一人の顔を見た。

「飛び出した時は驚いたが、クライヴのあの状況での指示は的確だと思うよ」
 
 リアナもオレをフォローしてくれた。その優しさなより、罪悪感が少しだけマシになった。

 その後、ふとオレは時刻が気になり時計を見ると時計の針は丁度十二時を示していた。

 掃除も済んでいて、コレからランチの時間だが、オレは少し庭の足湯で休んでから近くにあるカフェに後から合流する事を伝えた。

 そして、オレは庭の噴水の水の流れる様子を見て、その先に繋がる水の道を歩いて行った。
 少し歩くと人目のつかない所にパラソル付きのベンチが置いてあり、オレは腰掛けて靴を脱いでズボンの裾を捲り上げてから足湯に足をつけた。

「はぁ、身も心も温まる~」

 足湯の癒し効果を堪能していると、突然背後から声をかけられた。

「気持ち良さそうね? コレもクライヴ君が作ったのかしら?」

 そこには足音や気配すら感じなかったりアリア様が無表情で立っていた。

「ど、どうされましたかアリア様。もしかしてフィーネがアリア様にご迷惑をかけましたか?」

 オレは突然のアリア様の出現に驚きながら、何故ここにいるのか考えていた…………
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