上 下
87 / 228
第一章 王国編第一部(初等部)

エピソード72 親の援護射撃

しおりを挟む
 何事!
 オレは鞘に手を当てて、悲鳴のする方へ駆け出そうとしたが、イルーラ女王が手で制した。

「大丈夫ですよ。多分こちらに向かって来ます」

 イルーラ女王はニコニコとオレの顔を見ている。
 何だかその笑顔がモーガンの悪巧みの表情に似ていて……怖い。

 すると奥から精霊と一緒に一週間振りに再会する女の子が走ってきた。

「ちょっとクライヴ! アンタ! なんなのよ!」

 相変わらずのフィーネさんは何故か顔を真っ赤していきなりツンで登場した。

(コレが本当にイルーラ女王の娘なのか? というか第三王女がこれでいいのか?)

「えっと、お、お久しぶり」

「久しぶりじゃないわよ! アンタ説明しなさいよ!」

 オレは全く何の事か分からない。
 すると精霊がふわふわとオレとフィーネの側に来た。

【あの! 僕はフィーネさんとの関係については少し慎重に考えたいところがありまして、初めて出来た友達ですから焦らず考えたいです。 
 それにこの王国では平民なので、一人の女性としか結婚はしません。
 先程も精霊が読み取りましたが、フィーネさんに対する想いは、最初は友情が僕の心を占めていたのですが、最近は友達以上の感情を持つ事もありまして……絶対にフィーネさんを傷つけたくないので、これからどう接していけばと正直悩んでおります。それに結婚に関して相手の気持ちもありますので!】

 何と精霊は先程言ったオレの言葉を録音していて、更に最後にオレが言ってない一文まで付け加えると言う編集をして、スピーカーのように再生した。

 流石にコレはオレも恥ずかしかった……

「いや、あの、これはだな……」

 オレが困っているとイルーラ女王は良かれと思ったのか余計な事を言った。

「フィーネ! そんなのじゃクライヴくんに嫌われるわよ! クライヴくんは正直にあなたへの気持ちを打ち明けてくれたわ」

(いや、最後の一文オレ言ってませんけど)

 イルーラ女王に怒られフィーネは少し勢いが弱まった。

「あなたはクライヴくんの事どう思っているの? 帰って来てからクライヴくんの事ばかり話をしてたじゃない」

 母の顔になったイルーラ女王の余計な言葉は続く…………

「く、お母様まで…………ア、アタシはお母様とお父様のような二人の仲良い姿に憧れてて、ア、アタシもそうなれたら良いなぁと…………ク、クライヴの事を言ってるんじゃないわよ!」

 今日のフィーネは髪の毛をロールアップしているので耳まで真っ赤にしているのがハッキリとわかる。
 オレはそんなフィーネの珍しい髪型と真っ赤になった顔を見ていた。

「何見てんのよアンタ! か、勘違いしないで欲しいわ!」

「フィーネ! クライヴくんに謝りなさい! どうしてクライヴくんの前だとそんな言葉遣いになるの?」

 ますますイルーラ女王はフィーネを追い込んでいく。

(フィーネに言葉で伝えよう)

「勘違いじゃないし、正直今のオレにはフィーネとどう接すればいいのか悩んでるんだ。フィーネがオレの事を嫌っていたり、ただの異性の友達と思っていてくれたら何でもない事なんだ。
 もし違うとしたら…………今のオレじゃフィーネを傷つけてしまうんだ…………だからオレ自身に時間が必要なんだ」

「……キよ最初から」

 フィーネはボソっと呟いて後ろを向いた。
 しかしロールアップのせいでうなじも真っ赤になっているのが丸わかりだ。

「まぁ、まだオレ達は十歳だし、これからいろいろな事を経験して気持ちも変わるかも知れないからな」

 実際のオレは前世も含めて精神年齢が高いので、この気持ちは変わらないだろう……前進させるか抑え込みフィーネに良い人が出逢えるのを待つのか。

 背中を向けていたフィーネは突然オレの方へ振り向いて、涙を流しながら言った。

「変わらないわよ! アンタみたいな色々な種族に会えて嬉しいとか、争い事が嫌いだからみんなが仲良くできたら平和だとか、そんな変態なんてこの世界の全種族の中でアンタ以外いないわよ! だから勝手に気持ちが変わるとか言わないで!」

(こんな可愛い女の子を泣かしてしまい、オレの心はフィーネ一筋だったらどんなに楽だったのだろう…………心の中にはアネッサとの出会いが占めてる割合は大きい……もう一度アネッサに会ってアネッサへの思いが本物か二人で危機を脱出した為による一時的なモノなのか…………そこを解決しないと前には進めないんだが…………)

 そう考えていても身体は自然とフィーネの頭を二回ポンポンとしてから撫で、オレの口からは自然と「ありがとうフィーネ」という言葉が出ていた。

「ク、クラェヴゥの……ズビー……ぐせびぃ……ア、アダジィの……ズビー……あだまぁを……ズビー……ポンポンするなぁ……ズビー……」

 フィーネは、リンゴのように真っ赤になりながらも涙と鼻水混じりの声でオレに言った。
 フィーネの顔は涙と鼻水と笑顔と泣き顔のグシャグシャな顔をして嬉しいのか、恥ずかしいのか、驚いたのか……何と言えば良いのか複雑な表情をしていた。

「あらあら、フィーネったら。やっとクライヴくんに素直になれたわね」

 フィーネが落ち着いたところでフィーネに優しく声をかけるイルーラ女王は、娘の恋を応援する母親の顔を見せていた。

「お、お母様、アタシは、その、言葉の綾と言いますか、えっと、少し感情的になってしまい、誤解を生じてしまい……えっと……」

 フィーネはもう恥ずかしさの限界でしどろもどろになっており、パンク寸前だった。

 そしてイルーラ女王はオレにそっと耳打ちをした。

「本当は長女や次女にフィーネを外の世界に行かさないでと説得するように言われていたの。
 それでフィーネが落ち込んじゃって……だから私が実際にクライヴくんに会って判断する事にしたの。
 クライヴくんの本音も聞けたし、今までフィーネに対してハーフエルフとしての利用価値とか考えていないし、一人の女の子として守ってくれていたから安心して送り出せるわ。
 これからもフィーネをよろしくね」

 そう言ってイルーラ女王はフィーネの側に行き声をかけた。

「外の世界はエルフやハーフエルフにとっては住みにくく危険も多いわ……だからクライヴくんに守ってもらいなさい。そしてフィーネ自身も強くなりなさい。守ってもらうだけではクライヴくんの心を射止めるどころか振り向いてもくれないわよ! これは私の経験談よ」

(あの、最後の一言が余計なんですよ……さっきの精霊もでしたが、最後の一言がプレッシャーなんですってオレには……)

 何故かフィーネはイルーラ女王の言葉で頷き何かを決心した表情になった。

 そして、イルーラ女王は精霊にオレ達を元の場所に戻すようにお願いをした。

「クライヴくん。フィーネが王女という事は外の世界では言わないでね」

「当たり前ですよ」

 そんなやり取りをした瞬間! 精霊が光輝きオレ達は眩しさのあまり目を閉じた…………目を開けるとテントの前にフィーネとともに立っていた。

 最高に気不味い状況だ。
 少し立ち話をして落ち着くにしては寒いし、このままテントの中に入るのもなぁ……

「もう夜なのね」

 フィーネの言葉にオレは反応した。

「確かに、オレは夜の森を誘導され、フォレストリーフに着いたら明るく昼みたいな所で、どういう事なんだ?」

 オレの頭の中で疑問符だらけが浮かんでいる。

「あぁアレね。フォレストリーフは神秘的な森の都と言われているでしょ。そう言われる理由は精霊達が、他の種族から身を隠すように結界をしているの。エルフやハーフエルフのエルフ族しか精霊は見えないし、精霊もエルフ族しか興味を示さないし、力を貸さないの。だからアンタは精霊に気に入られた珍しい人間ね」

 オレ達は冷たい夜風でいつの間にか落ち着きを取り戻していた。
 そして、明日から王都へ戻る為、テントに入り眠る事にした……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

異世界漂流者ハーレム奇譚 ─望んでるわけでもなく目指してるわけでもないのに増えていくのは仕様です─

虹音 雪娜
ファンタジー
 単身赴任中の派遣SE、遊佐尚斗は、ある日目が覚めると森の中に。  直感と感覚で現実世界での人生が終わり異世界に転生したことを知ると、元々異世界ものと呼ばれるジャンルが好きだった尚斗は、それで知り得たことを元に異世界もの定番のチートがあること、若返りしていることが分かり、今度こそ悔いの無いようこの異世界で第二の人生を歩むことを決意。  転生した世界には、尚斗の他にも既に転生、転移、召喚されている人がおり、この世界では総じて『漂流者』と呼ばれていた。  流れ着いたばかりの尚斗は運良くこの世界の人達に受け入れられて、異世界もので憧れていた冒険者としてやっていくことを決める。  そこで3人の獣人の姫達─シータ、マール、アーネと出会い、冒険者パーティーを組む事になったが、何故か事を起こす度周りに異性が増えていき…。  本人の意志とは無関係で勝手にハーレムメンバーとして増えていく異性達(現在31.5人)とあれやこれやありながら冒険者として異世界を過ごしていく日常(稀にエッチとシリアス含む)を綴るお話です。 ※横書きベースで書いているので、縦読みにするとおかしな部分もあるかと思いますがご容赦を。 ※纏めて書いたものを話数分割しているので、違和感を覚える部分もあるかと思いますがご容赦を(一話4000〜6000文字程度)。 ※基本的にのんびりまったり進行です(会話率6割程度)。 ※小説家になろう様に同タイトルで投稿しています。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

処理中です...