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第一章 王国編第一部(初等部)

エピソード66 初等部一年 後期

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 とても長かった夏休みが嘘のように一瞬で終わってしまった……明日からは後期の授業が始まる……
 二ヶ月半あった夏休みバカンスを挟んで前期と後期の授業に分かれている。
 後期の授業の合間に冬休み年末年始二週間がある。
 そして、後期の授業が終わる頃に王国一のイベントの【マクウィリアズ王生誕祭】がとにかく凄い!
 生誕祭なので貴族や商人達が集まり、王都中の活気が大変な事になる。
 噂では、あの大きな公園に屋台、露店が立ち並び、盛り上がるあまりに【王国万歳】と言いながら公園の池に投げ飛ばされるらしい……老若男女関係なくその数なんと五百人程度…………
 
 それはさておき、今は午前の授業中……読み書きの四十六文字の全てを使った単語問題をしていた。

「ショーンくん。それ間違っているよ」

「ショーンくん。もう少し綺麗に書いてみよう」

「ショーンくん。書き順が違うよ」

「ショーンくん。それは違う読み方だね」

「ショーンくん。これなら何て読むかわかるよね」

「これは、【筋肉】じゃあ!」

 ショーンは得意げに答えた。

「違いますよ。【筋肉】じゃなく【頭】だね」

 ダン先生は少し悲しそうにショーンに真実を伝えた。

「なぁ、モーガン」

 オレはモーガンに小声で呼びかけて【やっぱショーンって脳筋なの?】と書いたメモを渡した。

「の、脳筋って、ク、クライヴ プッフッフッフ……笑わせないでくれよ、プッフッ……あぁ笑い過ぎてお腹が痛い」

 モーガンはツボに入ったようで笑いを堪えていたが時々息が漏れていた。そして真後ろのリアナにメモを回した。

(モーガン、悪い奴め)

 そして左後ろのリアナからも同じ現象が起きていた。

「確かに、クライヴの言う通り脳筋そのものだな」
 
 リアナが腹を抱えながらオレとモーガンに小声で伝えた。

 オレの後ろの席の当事者ショーンは何が起こっているのか分からない様子だった……



 朝から学院で学びを深めたり、下校後は週三でフライドポテトを百個売り捌き、夕方前に学生寮に戻る一日のサイクルが当たり前のようになってきた。

(そろそろ、従業員を……念の為に警備できる人がい欲しいなぁ……ショッパーニさんに相談してみよう)

 オレはフライドポテト完売後に材料の発注も兼ねてショッパーニさんに相談した。

「今は客層は良いのですが、やはり子ども達だけでやっていくのは……大金も扱いますので……開店前後の約一時間ぐらいも含めて警護が出来て、更に計算か料理ができる人が一名欲しいです。
 そんな方って知り合いにいますか?」

 オレはそんな人はいない前提で話をしたが、思いの外ショッパーニさんは真剣に考えていた。
 しばらくしたら心当たりがあるのか、思い出したように表情が明るくなりオレに話した。

「クライヴ殿に一人だけ紹介できる者がおります」

 ショッパーニさんはそう言ってから、急いで従業員を呼びに行った。

 そして直ぐに戻ってくると、そこには茶色のオールバックに茶色の目をしているが黒縁メガネをかけた一重の瞼の薄い顔の成人男子が立っていた。

「お初目にかかりますクライヴ殿。私はショッパーニ商店で働いておりますショッパーニの息子のショパンと言います」

 突然に呼び出しにショパンは少し困った表情をしていた。

「ショパンよ明日からクライヴ殿の元で働きなさい。良い経験となると思うし、ショッパーニ商会の跡取りとして学びを深めなさい」

「いや……クライヴ殿には申し訳ないのですが、私には子ども達の……何と言いますか、その遊びなような事よりも商会で働き父のようになりたいのです」

(ショパンさん、ストレートに言うねぇ。
 まぁショッパーニさんとのやり取りばかりだから普通に考えたら、ショッパーニさんの仲の良い方の子どもがお使いにきた感覚なんだろう……)

「ショパンさん。一日中だけ体験で働いて見ませんか? ショパンさんが気に入ればずっと働いて欲しいのですが……」

 オレは子どもの特権の眼がウルウル作戦をして、見事成功を収めた。

 そしてショパンさん初出勤の日、朝の護衛は外してもらって、開店三十分前に大体の説明をして会計係をお願いした。
 説明の最中にイートインとテイクアウト用二つの販売方法や、採光を考えた室内のレイアウト、またテラス席や庭や屋外トイレのこだわり等、一つ一つの説明に「フォー」っと不思議な声を漏らしながらショパンさんは驚いた表情をして、目を輝かせていた。

(これがオレの技術の結晶。この世界では革新的なレイアウトだぜ)

「それでは、モーガンはショパンの補助で会計をお願いします。
 フィーネはフロアと庭の掃除や対応をよろしく。
 リアナはオレとショーンのサポートで。
 みんな本日はジャガイモ百三十個に挑戦する! 油と紙袋代は小銀貨四枚と銅貨五枚とサービス価格にしてくれた。
 今回は売れ残る可能性が高いけどハッピースマイルポテイトンの閉店は十七時半ぐらいを目指して頑張るぞ!」

「「「「おー」」」」
「わかりました」

 十五時の開店後すぐに店の前で待っていた侯爵家の使用人がいつもと同じ五十個テイクアウトの注文が入った。
 だがしかし! こちらも馬鹿では無いので、事前予測をして約八割のポテトは揚がっていてリアナが袋詰めをしていた。
 最近ポテトの袋詰めの効率化を図るため鍛冶屋のおっちゃんに頼んでいた従来のお玉ではなく、ポテトスコップの開発に成功した。
 それは前腕部まで外側は鉄、内側はスペースが空いてあり、中にグリップがあり握れるようになっている。
 また火傷防止のために布等を腕に巻き付けて作業ができ、そしてそのグリップから先はある程度幅や深さはあるが先端は滑らかですり切り一杯分でフライドポテト一個分になる計算し尽くされたスコップだ。
 
 ショーンも、ジャガイモの皮剥きを終えると従来の方法でリアナの手伝いを行った。

「お会計は銀貨一枚と小銀貨五枚になります」

 扉の向こう側のカウンターからモーガンの声が聞こえ、オレ達は一息に吐き作業に移った。
 今日は一重まぶたの薄い顔にインテリ眼鏡といると成人男性がいたので、成人女性や既婚者層という思わぬ客層からの注文も殺到した。
 おかげで忙しくも、充実した二時間半だった。

「凄いですねクライヴ殿! デードスペースを工夫したレイアウトだけでなく、開放的な空間。そして従業員が安心して休憩できるキッチン、また空き時間で店内外の清掃をして清潔さと片付けの効率化を図り、無駄のない作業でした!」

 昨日のとは打って変わって、尻尾をフリフリした犬のように燥いでいる成人男性ショパンの姿がそこにはあった…………

 ついでに売り上げや発注等の仕事もショパンさんに任せる事にし、さっそくショパンさんの発仕事の会計処理をしてもらった。

「それでは本日の利益と一人当たりの金額を申し上げます。今までクライヴ殿が個人的に払っていた店舗の賃貸料の小銀貨二枚と銅貨五枚を含めて、利益は銀貨二枚、小銀貨九枚になります。
 私も含めて一人当たりに換算すると、小銀貨五枚と銅貨八枚となります」

 ショパンは歓喜のあまり徐々に声が震えだした。
 
 「これからもよろしくお願いします。クライヴ殿! それでは私はもう少し見回りをしておきますので」

 どうやらショパンさんのお眼鏡に叶ったらしい。本当の眼鏡じゃなくて、オレ達を認められた意味で…………

 これでオレも店舗荒らしのリスクも減りそう出し、良かった良かった。
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