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第一章 王国編第一部(初等部)
エピソード59 勘違いと招待客
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どうもこんにちはクライヴです。
ひょんな事からウィンゲート侯爵家の御子息とその護衛を助けた事で、しばらく怪我が癒えるまでお世話になる事になりました。
今では毎日のように誰かの視線を感じながら、適度な緊張感を保ちつつ過ごしております。
一人で出歩くのはゲストルームと庭以外は行動制限がかかっていて軽く軟禁状態で、なんだか帝国の頃を思い出します……
たまに侯爵家の護衛のザックさんに声をかけられて、ザックさんと一緒なら屋内型訓練所に入る事ができ、そこでは手合わせや案山子への打ち込みを半強制的に誘われて……オレはありがた迷惑な行為に悩まされている…………唯一鏡での型の確認は楽しかった。
そして一ヶ月経つ頃には、軽く粉砕していたオレの左腕は…………副え木を外して、骨も見事に元通りになった!
しかし柔軟性と筋力低下が著しい為、更にザックさんに扱かれる日々が続いていた。
「坊主、今日はこれぐらいにしてやるよ。しばらく休んでいきな」
ザックは額から垂れる汗を片手でかき上げて、スッキリした表情でオレに言った。
リングの上で大の字で倒れてヒーヒー言ってるオレにね……
(動ける訳ないだろう……メイドに振られたからって、しかもオレに母性本能をくすぐられるからザックさんは遠慮しますとハッキリ断られた時に、ザックのクセに捨てられた子犬のような目をしやがって、俺も何か申し訳なくってストレス発散に訓練しようと誘ったらコレだよ! 手加減なしでボコボコにしやがって……オレはサンドバック代わりなの?)
オレは昼食後に少し庭を散歩する予定だったのだが……ザックの告白大失敗のおかげで、こんな事になってしまった…………
身体を動かそうにも疲れていて、少し動けるようになるまでリングの上で仰向けになっていた…………
シュッ! ドス!
何かが突き刺さる音で目が覚めた……
時刻は夕方前で、護衛達も午後の訓練を終えた後だった……
(えっ? ここにはオレ以外居ないはずじゃ……もしかして不審者?)
オレは音を立てずに木剣と木盾を持ち、息を潜むようにゆっくりと立ち上がった。
オレの目の前には花柄の刺繍入りのコモレ丈の緑のノースリーブワンピース姿のアリア様が立っていて、片側のワンピースを一瞬だけ捲り上げるようにして何かを取り出していた。
そして、オレは信じられない光景を見てしまった! 何とアリア様がナイフを投げており案山子の鼻、喉、胸、股間と急所を的確に刺さっていた……
(貴族の御令嬢、ましてや侯爵家……見てはいけないものを見てしまったなぁ…………)
オレは物音立てずにリングの下に降りてゆっくりと退散しようとしたが………………
「動かないで! 手元が狂うかもしれないから!」
(えっ? 物音一つ立ててませんが…………)
「誰なの? 何が目的でウィンゲート家に近づいた!」
ここから顔を見えないけど口調からして、不審者扱いだ。大変ご立腹な様子である。
ここは正直に名乗り出て、何も見なかった事にしておこう……
「アリア様! ボクです、クライヴです」
オレは直ぐに立ち上がり、アリア様の方へ歩いていった。
(えっ? 何か凄い睨まれてますが……)
「ここは護衛達の訓練施設ですよ。どうして護衛達の訓練後の誰も居ないはずの時間帯にクライヴ様はいらっしゃるでしょうか?」
オレにそう言いながらも睨んでくるアリアの周りだけ冷気が漂っているよう見えた。
「ウィンゲート家に潜り込んだ目的は何? ポテト屋でフィーネに私と親しくするように仕組んだのは何故? 貴族という証拠を消す事なくバレバレなのも罠なの? どこの貴族か答えなさい!」
猛烈にアリア様は勘違いしていらっしゃる!
オレは誤解を解こうとアリア様に説明した。
「一体何の事か全くわかりません! ザックさんと手合わせをしていて、疲れて休んでいただけです!」
「白々しい! もう一度聞くわよ、何が目的なの?」
(何この子、お転婆過ぎるだろ! 全く聞き耳持たないし)
オレはもう一度誤解を解こうと試みた。
「ですから、先程からアリア様がおっしゃ……」
オレがしゃべり終わる前にオレの足の一歩分前の所にナイフが突き刺さった。
「えっ? ひゃぁ!」
(本気で?)
オレは腰が砕けて尻もちをついた。
「ど、どういう事ですか! き、貴族だからと言って、平民にこんな仕打ちはあんまりです」
「あなたは平民じゃないでしょう! テーブルマナー、所作、書字、教養、全てが高い水準で教育を受けたはずじゃない! 平民を名乗るわりには癖が抜けてないわよ……答えなさい! どこの貴族で、目的は何?」
(そうだったんだ……癖かぁ…………このお嬢様はどれだけ観察力があるんだよ! 今まで誰にもバレなかったんだから……)
「私はアリア様やウィンゲート侯爵家に危害を加える者ではありません! どこの貴族かと言われましたが…………も、もし……答えられないと……言ったら、どうなりますか?」
一瞬の静寂、オレは頬を伝う汗すら気づかずアリア様の目を力強く見つめていた。
しかし、アリア様も一歩も引かずオレを睨んだまま少しずつ近づいて来た……右手にナイフを持って…………
「理由を述べなさい!」
そう言ってアリア様はナイフをオレの方へ向けた。
オレはごくりと唾を飲み込み、ゆっくりと言葉を選びながらアリア様に話した。
「くれぐれも内密にして欲しいのですが、誓えますか?」
アリア様は微動だにせず即答で「誓える」と言った。
「アリア様のおっしゃる通り貴族出身の者ですが、今は貴族ではなく平民として暮らしております」
アリア様の読み通りだったのか一瞬だけ表情を緩ませた。
「やはり……しかし私達に危害を加えない理由が証明できてません。私はあなたを敵対派の貴族と推測しています。どうせオークの件もお兄様に近づくのが目的であなた達は時期を見計らっていたのでしょう」
オレはアリア様の話を遮り、ただ信じて欲しいと願いながら話をした。
「まず私達は依頼の納品で王都に戻る途中に馬車が襲われている事に気付きました。侯爵家と分かったのは後の事です。とにかくその時は命懸けでアラン様を助けました! それとアリア様……私の事は良いですが、仲間の事を侮辱した発言は取り消して下さい!」
思ったよりオレが強気に出たのでアリア様も少しだけ身構えながらも、仲間への侮辱に関しては謝ってくれた。
「そして、私がウィンゲート侯爵家に危害を加えない理由は王国に亡命して来たからです。詳しい事情は話せませんが……万が一アリア様達にも迷惑をかけてはいけないのでこれ以上は詮索を控えていただけないでしょうか?」
まだ信じていないのかナイフはオレを捉えたままだった。
「あなたが他国の人間と言う証明は?」
(面倒な子だなぁ、人を信じなさ過ぎだろ! その歳で一体何があったんだ?)
オレは迷いながらも渋々と、肌身離さず腰ベルトに吊っているスネーフリンガー……ゲフンゲフン…………雪模様にライオンが描かれた鞘をアリア様に見せて柄の方をアリア様に向けた。
「それが答えです。マクウィリアズ王国では製法できない技術の結晶です」
アリア様は鞘の刻印を見てから、鞘を抜きサーベルを眺めていると突然顔つきが変わった。
「これは!」
「ドワーフ略式製鋼法です。そして素材の鉄も特注品になります。決してこの国では手に入らないはずです」
「…………分かったわ、信じましょう。これ以上は詮索しないわ。それにクライヴ君が平民として第二の人生を歩んでいるはずなのに、貴族として身についたマナーが無意識に出てるのが紛らわしいわ。それで貴族なのに平民と名乗る怪しい人だと疑っていたのよ」
やっとこの張り詰めた緊張感から解放された。
「疑ってごめんなさい。私の勘違いで……」
そう言ってアリア様は謝ってくれた。
(凄い勘違いだったなぁ、危うく命の危機が…………でもちゃんと話す事ができれば良い子なんだけどなぁ……類は友を呼ぶじゃないけど誰かさんと似ているのかなぁ)
そして、オレはアリア様の案内で自室に戻った。
どうやら明日はもう一人の招待客のリアナも来るらしく、身内だけのカジュアルな晩餐会を予定しているらしい。
一ヶ月ぶりに会えるのが楽しみで今日は眠れないだろうなぁ……
ひょんな事からウィンゲート侯爵家の御子息とその護衛を助けた事で、しばらく怪我が癒えるまでお世話になる事になりました。
今では毎日のように誰かの視線を感じながら、適度な緊張感を保ちつつ過ごしております。
一人で出歩くのはゲストルームと庭以外は行動制限がかかっていて軽く軟禁状態で、なんだか帝国の頃を思い出します……
たまに侯爵家の護衛のザックさんに声をかけられて、ザックさんと一緒なら屋内型訓練所に入る事ができ、そこでは手合わせや案山子への打ち込みを半強制的に誘われて……オレはありがた迷惑な行為に悩まされている…………唯一鏡での型の確認は楽しかった。
そして一ヶ月経つ頃には、軽く粉砕していたオレの左腕は…………副え木を外して、骨も見事に元通りになった!
しかし柔軟性と筋力低下が著しい為、更にザックさんに扱かれる日々が続いていた。
「坊主、今日はこれぐらいにしてやるよ。しばらく休んでいきな」
ザックは額から垂れる汗を片手でかき上げて、スッキリした表情でオレに言った。
リングの上で大の字で倒れてヒーヒー言ってるオレにね……
(動ける訳ないだろう……メイドに振られたからって、しかもオレに母性本能をくすぐられるからザックさんは遠慮しますとハッキリ断られた時に、ザックのクセに捨てられた子犬のような目をしやがって、俺も何か申し訳なくってストレス発散に訓練しようと誘ったらコレだよ! 手加減なしでボコボコにしやがって……オレはサンドバック代わりなの?)
オレは昼食後に少し庭を散歩する予定だったのだが……ザックの告白大失敗のおかげで、こんな事になってしまった…………
身体を動かそうにも疲れていて、少し動けるようになるまでリングの上で仰向けになっていた…………
シュッ! ドス!
何かが突き刺さる音で目が覚めた……
時刻は夕方前で、護衛達も午後の訓練を終えた後だった……
(えっ? ここにはオレ以外居ないはずじゃ……もしかして不審者?)
オレは音を立てずに木剣と木盾を持ち、息を潜むようにゆっくりと立ち上がった。
オレの目の前には花柄の刺繍入りのコモレ丈の緑のノースリーブワンピース姿のアリア様が立っていて、片側のワンピースを一瞬だけ捲り上げるようにして何かを取り出していた。
そして、オレは信じられない光景を見てしまった! 何とアリア様がナイフを投げており案山子の鼻、喉、胸、股間と急所を的確に刺さっていた……
(貴族の御令嬢、ましてや侯爵家……見てはいけないものを見てしまったなぁ…………)
オレは物音立てずにリングの下に降りてゆっくりと退散しようとしたが………………
「動かないで! 手元が狂うかもしれないから!」
(えっ? 物音一つ立ててませんが…………)
「誰なの? 何が目的でウィンゲート家に近づいた!」
ここから顔を見えないけど口調からして、不審者扱いだ。大変ご立腹な様子である。
ここは正直に名乗り出て、何も見なかった事にしておこう……
「アリア様! ボクです、クライヴです」
オレは直ぐに立ち上がり、アリア様の方へ歩いていった。
(えっ? 何か凄い睨まれてますが……)
「ここは護衛達の訓練施設ですよ。どうして護衛達の訓練後の誰も居ないはずの時間帯にクライヴ様はいらっしゃるでしょうか?」
オレにそう言いながらも睨んでくるアリアの周りだけ冷気が漂っているよう見えた。
「ウィンゲート家に潜り込んだ目的は何? ポテト屋でフィーネに私と親しくするように仕組んだのは何故? 貴族という証拠を消す事なくバレバレなのも罠なの? どこの貴族か答えなさい!」
猛烈にアリア様は勘違いしていらっしゃる!
オレは誤解を解こうとアリア様に説明した。
「一体何の事か全くわかりません! ザックさんと手合わせをしていて、疲れて休んでいただけです!」
「白々しい! もう一度聞くわよ、何が目的なの?」
(何この子、お転婆過ぎるだろ! 全く聞き耳持たないし)
オレはもう一度誤解を解こうと試みた。
「ですから、先程からアリア様がおっしゃ……」
オレがしゃべり終わる前にオレの足の一歩分前の所にナイフが突き刺さった。
「えっ? ひゃぁ!」
(本気で?)
オレは腰が砕けて尻もちをついた。
「ど、どういう事ですか! き、貴族だからと言って、平民にこんな仕打ちはあんまりです」
「あなたは平民じゃないでしょう! テーブルマナー、所作、書字、教養、全てが高い水準で教育を受けたはずじゃない! 平民を名乗るわりには癖が抜けてないわよ……答えなさい! どこの貴族で、目的は何?」
(そうだったんだ……癖かぁ…………このお嬢様はどれだけ観察力があるんだよ! 今まで誰にもバレなかったんだから……)
「私はアリア様やウィンゲート侯爵家に危害を加える者ではありません! どこの貴族かと言われましたが…………も、もし……答えられないと……言ったら、どうなりますか?」
一瞬の静寂、オレは頬を伝う汗すら気づかずアリア様の目を力強く見つめていた。
しかし、アリア様も一歩も引かずオレを睨んだまま少しずつ近づいて来た……右手にナイフを持って…………
「理由を述べなさい!」
そう言ってアリア様はナイフをオレの方へ向けた。
オレはごくりと唾を飲み込み、ゆっくりと言葉を選びながらアリア様に話した。
「くれぐれも内密にして欲しいのですが、誓えますか?」
アリア様は微動だにせず即答で「誓える」と言った。
「アリア様のおっしゃる通り貴族出身の者ですが、今は貴族ではなく平民として暮らしております」
アリア様の読み通りだったのか一瞬だけ表情を緩ませた。
「やはり……しかし私達に危害を加えない理由が証明できてません。私はあなたを敵対派の貴族と推測しています。どうせオークの件もお兄様に近づくのが目的であなた達は時期を見計らっていたのでしょう」
オレはアリア様の話を遮り、ただ信じて欲しいと願いながら話をした。
「まず私達は依頼の納品で王都に戻る途中に馬車が襲われている事に気付きました。侯爵家と分かったのは後の事です。とにかくその時は命懸けでアラン様を助けました! それとアリア様……私の事は良いですが、仲間の事を侮辱した発言は取り消して下さい!」
思ったよりオレが強気に出たのでアリア様も少しだけ身構えながらも、仲間への侮辱に関しては謝ってくれた。
「そして、私がウィンゲート侯爵家に危害を加えない理由は王国に亡命して来たからです。詳しい事情は話せませんが……万が一アリア様達にも迷惑をかけてはいけないのでこれ以上は詮索を控えていただけないでしょうか?」
まだ信じていないのかナイフはオレを捉えたままだった。
「あなたが他国の人間と言う証明は?」
(面倒な子だなぁ、人を信じなさ過ぎだろ! その歳で一体何があったんだ?)
オレは迷いながらも渋々と、肌身離さず腰ベルトに吊っているスネーフリンガー……ゲフンゲフン…………雪模様にライオンが描かれた鞘をアリア様に見せて柄の方をアリア様に向けた。
「それが答えです。マクウィリアズ王国では製法できない技術の結晶です」
アリア様は鞘の刻印を見てから、鞘を抜きサーベルを眺めていると突然顔つきが変わった。
「これは!」
「ドワーフ略式製鋼法です。そして素材の鉄も特注品になります。決してこの国では手に入らないはずです」
「…………分かったわ、信じましょう。これ以上は詮索しないわ。それにクライヴ君が平民として第二の人生を歩んでいるはずなのに、貴族として身についたマナーが無意識に出てるのが紛らわしいわ。それで貴族なのに平民と名乗る怪しい人だと疑っていたのよ」
やっとこの張り詰めた緊張感から解放された。
「疑ってごめんなさい。私の勘違いで……」
そう言ってアリア様は謝ってくれた。
(凄い勘違いだったなぁ、危うく命の危機が…………でもちゃんと話す事ができれば良い子なんだけどなぁ……類は友を呼ぶじゃないけど誰かさんと似ているのかなぁ)
そして、オレはアリア様の案内で自室に戻った。
どうやら明日はもう一人の招待客のリアナも来るらしく、身内だけのカジュアルな晩餐会を予定しているらしい。
一ヶ月ぶりに会えるのが楽しみで今日は眠れないだろうなぁ……
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