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第一章 王国編第一部(初等部)

エピソード57 突撃? 侯爵家!

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「ほぇぇー」

 オレは情けない声を上げてしまった。
 流石侯爵家! 王都内にこれだけの広さの屋敷と庭園を所有しているのなら…………ウィンゲート侯爵領に行くとどれだけ凄いんだろう…………

 門から屋敷までの通路はなだらかなスロープになっており、玄関付近にあるマーライオンのような白い石像が小さな滝のように水を流して、スロープの両サイドの割と深くて広めの溝に水が流れていた。
 そしてスロープの外側には左右対称の庭園が広がり、それぞれ百メートルぐらいの庭園で色とりどりの花が咲き誇っていた。

 そんな風景を見ているオレは、現在ザックに担がれている状態のままスロープを進んで玄関に向かっていた。

「オレは物扱いなの? いや肩貸してくれたら歩けるから」
「坊主、侯爵様に時間を取らせるつもりか?」
「………………」
「まぁ、この方がインパクトあって侯爵様達の驚
く顔が見れて笑えるぞ」
「………………ザックに天罰を………………」

 オレの力じゃザックの手を外す事ができない……まな板の上に乗ったマグロの気分だ……

「あっ一応コレ使わせてもらうな」

 そう言ってザックは水色の小さなルービックキューブのような物を握りつぶした。

(何かわからないが、もういいや、なるようになれ)

 すると、オレの身体を水が纏わり、汚れた身体を洗い流してくれて、その汚れた水もルービックキューブのような物が吸い取ってくれて、身体も衣服も綺麗になって乾燥までしてくれた。

「何その魔道具! 欲しい!」

 オレは久しぶりに少年のようなキラキラした目でザックにおねだりした。

「おぉ! 坊主、やっと子どもらしくなったなぁ。まぁこれは一度限りの魔道具で小金貨五枚するぞ。まぁ俺なりの恩返しだ。それに汚い姿で侯爵様には会えないだろ?」

「意外といいヤツだなザック」 

「お前は歳上を敬え!」

 そんな話をしながら進んで行くと、玄関前には使用人が両サイドに立ち並び、真ん中には執事が立っていた。
 もちろんプロ集団のはずだが、執事以外含み笑いをされていた…………

「ザック殿、旦那様には伝えております。旦那様がお待ちですので応接室の方へ急いで下さい」

 白髪オールバック、シワひとつないスーツ、ピカピカの革靴、無駄がなく気品すら漂う所作のナイスミドルがザックに伝えた。
 侯爵家の執事は一目でわかる執事の中の執事だ。
 
 ザックはオレを担いだまま応接室の扉をノックした。

(もう二十時過ぎだぞ、普通に迷惑だろ)

「入れ」

 扉を開けると正面のソファーに、ブロンドのショートヘアーに茶色の目をした髭を蓄えて貫禄のある風貌のダンディーと、深い青髪のロングヘアーに少し目がキツイ青色の目をしたグラマラスな女性が座っていた。
 そして隣の椅子には先程助けた青年がいた。

「ザック……これは一体何だね」

 ダンディーは驚きもせず、むしろ少し怒っているような声のような気がした。

「旦那様が喜ぶと思いまして……失敗しましたか?」

「ザック…………お前と言う奴は!」
「まぁまぁ落ち着いて下さい」

 グラマラスな女性がダンディーを諭して、ダンディーは落ち着きを取り戻した。

「ザックがすまなかった。私はウィンゲート侯爵家当主のアーロン・ウィンゲートだ。愚息の命を助けてくれてありがとう」

(真面目で頑固そうな感じな人だなぁ)

「王立学院初等部一年生、平民のクライヴと申します。私は友人と冒険者協会の依頼の帰りに偶然通りかかっただけです」

「フフフ、謙遜しなくて良いのよ。私はアーロンの妻のメリッサよ。本当にアランを助けてくれてありがとうクライヴくん」

(何というか……ローズの香りにこのボディ……エロいですメリッサ様……違った、色気がダダ漏れですメリッサ様)

「クライヴ! 先程は助かったよ! 君のおかげで家族と再会する事ができたよ!」

 アランは自己紹介を忘れるぐらい興奮していた……

「クライヴ君、容態はザックから聞いている。君には愚息とザックを助けた恩がある。ウィンゲート侯爵家が全面的に治療に協力させてもらうよ」

「侯爵様。お、お気遣い、あ、ありがとうございます」

「謙遜しなくて良い。むしろ感謝してしているのはこちらの方だよ」

(いかん! この緊張感に耐えられん。誰かヘルプ!)

 すると願いが叶ったのか? 応接室の扉がノックされて、アーロン様が入室を促した。
 応接室に入ってきたのは水色のドレス姿の女の子で、ハッピースマイルポテイトンの常連客の御令嬢だった。

(長い睫毛に青い目、ローズブロンドカラーのミディアムボブヘアーのモデル体型! ぜったい忘れないよこんな美少女) 

「あぁ、クライヴ君と同じ歳の娘を紹介するよ」 

 すると女の子は笑顔でカテーシをしてくれているが……オレ平民だから必要ないよ…………

「ウィンゲート侯爵家長女のアリアと申します。クライヴ様、本日は兄の命を救っていただきありがとうございました」

「あの、その、私は平民ですので、クライヴとお申し付け下さいアリア様」

(何だろう? 不思議な感覚を感じた。この笑顔は作られた笑顔っぽいし、本当はクールなような……でもその奥に明るさがあるような…………何でオレはこんなにアリアの事が気になるんだ?)

 そう考えていると、アリアも何か考えているようで、オレの視線に気づくと直ぐに笑顔に戻った。

「クライヴ君、夕食も食べておらずお腹も空いただろう。軽食を用意しているのでザックと一緒に気兼ねなく食べなさい」

 そして、案内された部屋には、メイド達が側に立っており、テーブルには軽食が準備されていた。

「お父様、私も少しクライヴ様と歓談してもよろしいでしょうか? 私の知らない話がとても興味深くて……お兄様を助けた話等も聞いてみたいです」

(えっ? アリア様何故ゆえに? 下々の者と話しても楽しくないでしょう……)

「父上! ぼ、僕もアリアと一緒に話が聞きたいから、しばらくここにいても良いですか?」

「フフ、そうだな。アランが一番クライヴ君に感謝したいはずだからな。お前達くれぐれもクライヴ君に無理をさせぬように、それとザック! 今日一日クライヴ君に付いてやれ」

(えっ、えっ! オレ泊まるの? ここに?)

 オレは急に緊張してきて手汗がでてきた。
 なんとか気分を落ち着かせてザックに支えてもらいながら席に座ると目の前には、オレには豪華過ぎる軽食と呼ばれる御馳走が並んでいた。

(侯爵家の御子息と御令嬢の前だからテーブルマナーは不快に思われない範囲でやっておくか)

 学院の授業、仲間達の話、冒険稼業の話、今まで出会った獣や魔物でのオレのヘタレな話等色々な話をした。もちろんポテイトンの話は隠した。
 アランやアリアは貴族ならではの話、家庭教師の話、パーティー等の話をしてくれた。

(会話中、少し気になるんだが、時々アリアがこっちを見てないか……もしかしてオレって意外とイケメンだからオレの事好きになったとか? 
 しかしアリアすまない。オレにはアネッサ? というこの世界に転生してからの初恋の女の子が気になり、もう一度会いたいと思ってるんだ…………しかし、最近はちょっとだけフィーネに揺れつつある時も……オレって浮気者!)

 オレはそんな妄想をしていると、ザックが呆れた顔をしていた。

「クライヴ、お前大丈夫か? 一人でニヤニヤして気持ち悪かったぞ」

 その後もアリアにチラチラと見られているような気がして正直食事を楽しむより、緊張感を持って食べていた…………

「それではこちらにどうぞ」

 またオレはザックに担がれて、メイドの後をついて行った。
 後ろにいるアランは笑いを堪えるのに必死だ、アリアは笑顔を浮かべている。

(なんか違和感あるんだよな……あの人形のような作られた笑顔)

「ではクライヴここで失礼する」
「クライヴさんお休みなさい」

 アランとアリアと別れたオレ達は、ゲスト用の部屋に案内された。

(えっ? 誰かいるんですが……)

 オレはすぐにザックにベッドに寝かされて、ローブ姿の不審者がオレの衣服を慎重に脱がしていき、何かを塗りつけられた。
 その後、急に説唱を始めて、オレの身体は優しい光に包まれていた。

「心配すんな坊主。最高級の薬草と初級の回復魔法だ」

(たしかに全身の筋肉痛は消えている……左腕の痛みはまだ痛いけど……)

「明日からは回復魔法を使える者を五十名手配して上手くいけば一月で治せるかもしれないとか侯爵様が言ってたぞ。オレはこのソファーで休むから、坊主も早く寝ろよ」
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