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第一章 王国編第一部(初等部)

エピソード55 繋がれた初撃

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「リアナ無理するな! オレ達は時間稼ぎする事だ!」

 リアナは返事をせず、オークに向かって行った……
 
「オレに無理させたくないからってリアナに何かあったら意味ないだろ」

「時間を稼ぐ。クライヴ! もしも倒せるのなら隙を作るよ」

 そんな男前発言いらねぇよ!

 リアナは長剣を持ち、オークに対して正面に立った。
 オークは子ども相手に油断しているのか、右手に持つ斧の振り下ろすスピードが護衛兵の時と比べて遅かった。
 その隙をリアナは見逃さず、素早く左斜め前に二歩踏み出してオークの攻撃を避けた。
 そしてオークの死角となる右側からオークの鼻を目掛けて全力で突き刺した。

「ブヒイィ!」

 リアナの剣は半分程度刺さりオークはあまりの痛みで叫んでいる。

「やるな嬢ちゃん!」

 護衛兵もリアナの動きに驚いていた。

 しかしオークは怒りが爆発し、両手の斧や槍を出鱈目に振り回してきた。
 動作は単調だがリーチの違う武器が素早く振り回される為、迂闊に近づけない……

 リアナも一度後方に距離を取った時に、オークが笑みを浮かべた。

「リアナ避けろ!」

 オレは咄嗟に声を出した!

 オークは突然暴れるのを止めて右手に持っている斧をリアナ目掛けて投げてきた!

 (間に合わない…………)

 大きな金属音が聞こえ、護衛兵が盾でリアナを守っていた。

「ありがとうございます」
「次は油断すんなよ嬢ちゃん」

 護衛兵の盾はくの字に曲がっており、もう使い物にならない……
 そして、所々の負傷により、明らかに動きが鈍くなっている…………

 オレは一瞬だけ王都の方を振り向いたが、まだ助けが来そうにはない。

(このままでは全滅だな…………)

 オレは気持ちを落ち着かせる為一呼吸……
 そして、リアナ達の前衛に加わる。

「リアナ! 一瞬でいいからオークの顔面に一撃を入れたい!」
「フフ、難しい注文だな」

 リアナは笑っているが余裕は感じられない。

 オークは不気味な笑みを浮かべてオレ達にゆっくりと近づいてくる。まるで今からオレ達を嬲り殺すかのように……
 
「クライヴ……君に命を託すよ」

 そう言ってリアナはオークに向かっていった。
 
 オークは左手に持った槍で薙ぎ払いをするが、リアナはギリギリの所でしゃがみ込んで躱した。
 リアナは起き上がりながらオークの左脚を斬り上げるが、十歳の筋力じゃ表面の皮に少し傷が入る程度しか付けれなかった……

 オークは近くの護衛兵の死体から槍を拾い、左右に槍を持ってリアナに突きを繰り出していた。

 オレもリアナに加勢し死角になっているオークの右目側から狙うが、槍で牽制されてこれ以上入り込む事ができない…………

 その時リアナがタイミング良く、左目を目掛けて細剣を投げつけた。
 オークは慌てて槍を持ったままの左手で左目を防御した。
 リアナはその僅かの隙を狙い駆け出した。
 勢いを殺す事なく、長剣を左胸を突き刺す為に!
 オークの反応は少し遅れたが、右手の槍でリアナを横から刺そうとした……その瞬間リアナは立ち止まってオークの左目の注目を集めたまま大きく右後ろに転がった。

「クライヴ!」

 オークは完全に左のリアナに目を向けており、右手の槍も左斜め前に突き出したままで、右半身がガラ空きだ。

 リアナが作ったこの一瞬で決めないとオレ達は死ぬ! それは怖い!

「【クロノス】」

 オレだけの百分の一秒の緩やかな刻の流れの世界。この限られた一秒半で、【身体強化】をかけてオークの死角となる右側の首をサーベルで横一閃………

 ゴトリとなにか塊が落ちる音がすると、そこにはオークの首があった。

「クライヴ! さすがだよ!」

 リアナが興奮気味にオレに抱きついてくる。
 
「痛い痛い痛い!」

 【クロノス】や【身体強化】の負担や左腕の骨折、そしてボクっ娘リアナの女性として発達の良い自己主張の強い一部分が押し当てられてちがう所が折れそうだ…………

「あっ……す、すまなかった……クライヴならと信じていたんだが、本当にオークを……」

 リアナが嬉しそうな、少し申し訳なさそうな複雑な表情をしていた……そして何故か「フィーネに叱られる」と呟いていた…………オレのせいか?

「坊主と嬢ちゃん! やるじゃねぇか! お坊ちゃんを助けた恩人だ! 帰ったら旦那様にすぐ伝えてやるよ!」

 護衛兵は貴族の男性達の元に去っていった。
 それよりもまずはお互い傷を治そうね。
 そしてオレ達を置いていくなよ!

「リアナすまないが左肩貸してくれないか?」

 膝から崩れそうになるオレにリアナは何も言わずに右肩と左の腰を支えてくれた。
 体感時間で十分ぐらいはたったかな?
 辺り一面の草原は夕日により刻々と赤く染まっていった。

 王都の方面から砂埃を上がっている。
 どうやら救援に駆けつけたようで貴族の男性達は保護されたのだろうか?

「リアナ助かったよ……これで一安心だな」

 オレはリアナにやっと全てが終わったと安堵した。

「あぁ。後はモーガン達が助けに来てくれて、クライヴを無事に王都に届け送る事が残っているよ」

 キリッとした表情で答えるリアナは本当にカッコ良かった……そしてリアナはオレに疑問を投げかけた。

「クライヴ、一つだけ聞いてもいいかな?」
「何だ」
「どう言えば良いのか……クライヴは、その魔法を使えないように見えるのだが……まるで一瞬に消えて……その後、大人でも斬る事が難しい事を簡単にできて……しかしオオトカゲの時には、消えるような事はしていなかったようだが…………
 済まない。ぼくの頭の中で理解ができないんだが、今回ハッキリとクライヴが消えた後に分厚いオークの首が綺麗に斬れていたんだ…………クライヴは何かをしたのではないか?」

 リアナの目からは真実を教えて欲しいと、オレの目を真っ直ぐと捉えていた。

 オレは何処まで言うか迷い、真実を織り交ぜながら話をした。

(流石に異世界転生や神様の話は無しだ)

「オレには魔術や魔法の素質は全く無かったんだが、二つだけ生まれ持った特殊な能力があるんだ……しかしオレの今の身体には負担が大き過ぎるから、命の危険や滅多な事が無い限り使わないようにしているんだ。
 本来はしっかりと身体が成長してから使える能力なんだけど、僅かな間だけ身体を強化する事ができて凄い力や俊敏な動きができるんだ。その負担は酷いけどね……」

「そうだったのか…………通りで消えたように見えたのか……」

 リアナの頭の中では、今まで不思議に思っていた小さなパズル達がカチッと合わさったらしく、納得出来たようだ。


 その後オレ達はリアナに肩を借りて王都を目指してゆっくりと歩きながら、オオトカゲの時のショーンのビビりっぷりの話や、オークの肉はとても美味しいと言った、たわいもない話をしていると、聞き慣れた声が聞こえてきた。

「「クライヴ! リアナ!」」
「おめぇら!」

 モーガン達は、衛兵達を引き連れて息を切らしながら走ってきた。

「ハァハァ、さっき、保護された貴族様が言った特徴から多分クライヴ達は助かったと思ったんだけど、ハァハァ、実際に見てみないと心配で急いで来たんだ」

 モーガンのシルバーブロンドの髪の毛の先からは汗が垂れていて、オレの顔を見る目が潤んでいて泣かないように我慢していた。

「クライヴゥゥ! もう無茶しないでよこのバカ! アタシ心配……み、みんなに迷惑かけたんだから謝りなさいよ! って何でリアナに抱きついてんのよ! この変態! アンタなんか大っ嫌い!」

 怒りながら、泣きじゃくるフィーネを見てリアナがニヤけ顔でオレに言った。

「ほらね。フィーネに叱られただろ」

 いやいや、あの時リアナは【ぼくがフィーネに叱られる】とか呟いていたけど……確かに叱られたよオレがね!
 
 リアナから衛兵さんに肩を支えてもらうのを代わってもらいオレ達は王都に戻った。
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