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第一章 王国編第一部(初等部)
エピソード43 放課後大作戦
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チャイムが鳴ってオレ達は自分達の席に戻った。
次の二限目の授業を楽しみにしていたが、一限目と同じ読み書きの授業だった。
まず読み書きが出来ないと次のステップに移れないそうで、入学してすぐは読み書きの授業が続くらしい……だから貴族は初等部から入学しないのか……
退屈だなぁ………………
改めて思うと、この学院って結構お金かけてるよな。絶対大赤字の経営だろうなぁ。
入学金さえ支払えば、学院寮に学費に学習道具が無料になるし、この羽ペンとインク代とそれに紙代だけで結構するんじゃないか。
教科書やノートも表紙は羊皮紙、本文はパピルス紙で出来ており、それらが全て無料で配布される。
平民にとって決して安くない入学金だが、得るものは多い………………しかし現実問題オレ達のクラスの平民はモーガン、ショーン、カーン、クラリネ、女子三人衆の七名だ。
最大で二十名入学できるのだが、平民は約三割程度しか入学していない。
その背景には色々と諸事情があるのだろうが……
「ショーンくん、これは何て読むかな」
「先生それぐらいワシでもわかるわ【バカ】って読むんじゃろ?」
「はい違いますね。【あさ】ですね」
「ショーンくん、次はわかるかな?」
「ワシゃ誰やと思っとんじゃ【さす】じゃろ」
「はい違いますね。そんな物騒な言葉じゃありません。さっきの全く同じ文字の【あさ】だね。先生の話を聞いていたかな?」
相変わらずショーンは前途多難だな……
二限目のチャイムが鳴り、ショーンのノートは頑張り過ぎて、もうボロ雑巾のようになっていた。
(どんだけ書いたら、そうなるんだよ)
しかし不屈の精神の持ち主のショーンはオレ達に話しかけてきた。
「おめぇらは昼メシどうするんじゃ?」
「オレはパンかなぁ」
そう答えて、オレは隣にいるモーガン達にどうするか聞いた。
「そうだね。ボクもクライヴと一緒かな。パンでも買って教室で食べよ…………」
その時、モーガンは強張った表情をして喋るのをやめた…………
一体どうしたんだろうモーガン?
オレは注意深く周りを観察した……アイツらだ…………
「キャー、クライヴくんとモーガンくんが仲良くパンを買って私達の前でお食べになる姿を見せて下さいますの」
「ハァハァ、もしかしたら二人はお互いにパンを食べさせ合いするかも知れませんわ」
「そんな! アーンと口を開けるモーガンくんを想像すると尊すぎるわ! 考えただけでちょっと、あっ意識が…………」
大きな音とともに一人倒れたぞ……
「ここにぼく達がいるのは、あの子達に迷惑をかけてしまうな。購買部の飲食スペースで食べることにするのはどうかな?」
リアナの提案に全力で乗っかろう!
「そうだなオレもリアナの案に賛成だ! なっ! フィーネ」
「え! ま、まぁ、いいんじゃない……」
あれ? フィーネが乗り気じゃないの? 「あの女子三人衆《カオス》には近づきたくないだろう?
「まぁ、とりあえず行ってみようよ。ショーンも来るだろ?」
モーガンがショーンを誘うと照れ臭そうに「おう」と答えた。
一階に降りて購買部に向かうと、二年生が購入していったのか、あまりパンは残っていなかった。
一つだけは大量に売れ残っているが……
「ボクは最後の一個のミックスサンドイッチにするよ」
「じゃあアタシはミルクパンにしようかな」
「ぼくもフィーネと同じミルクパンにしよう」
二人が購入したのでミルクパンも品切れか。
「ワシは謎肉パンじゃ」
あっそれも最後の一個しかなかったやつ……
あと一種類の大量に売れ残っているパンしかないや。
「じゃあオレはこの………………」
「クライヴ? クライヴ! どうしたのよ、急に動かなくなって?」
フィーネの声で意識を取り戻した。
「オレは、オレはこの……【授業は学生の頃は辛いもんだ。しかしその経験は必ず生きる! 常にビーンとアンテナを張って意識を集中するんだ。それが硬派ってもんだぜ】にするよ…………」
「「「あぁ…………」」」
寮生活のオレ達以外にはコレのネーミングが不気味過ぎて売れ残っているんだろう。
しかも今回はパン! 生地に包まれているから中身が分からない。今回は難題だ……
購買部の飲食スペースは二年生達がいて、わりと騒がしかった。
「ねぇ、クライヴ。みんなで外で食べない? 花壇の辺りにベンチがあったし……」
当たり前になりすぎて忘れていたが、フィーネにとってオレ達やクラスの人間以外には、少し緊張するのかなぁ……今まで人間達がエルフにした事を考えると…………
フィーネは本当に人間社会に慣れようとしてくれているんだなぁ……
「なぁ、みんな! せっかく晴れてるんだし外の花壇のベンチとかで昼ごはんを食べようぜ」
オレの誘いにモーガンは賛同してくれた。
「そうだねクライヴ。お日様に当たりながらの昼食も悪くないね。」
オレ達は花壇に向かい、コの字型に備え付けてある三基のベンチに座ってそれぞれパンを美味しそうに食べている……
オレも決心するか………………
オレが購入した多分アレな謎パンは、【授業は学生の頃は辛いもんだ。しかしその経験は必ず生きる! 常にビーンとギュと背筋を張って授業に集中するんだ。それが硬派ってもんだぜ】と言うネーミングのスパイスの効いたビーフシチューが中に詰まった硬いパンだった。
みんなオレに注目している…………だろうな気になるだろこの中身が……
「ク、クライヴ、そのパンはどんな味なの?」
モーガン、気になって仕方ないだろ?
「クライヴ! アンタ、汗かいているけど大丈夫? ぐ、具合悪くなったの?」
フィーネ、体調はバッチリだよ。これは香辛料の魔法さ。
「クライヴ、何というか、その勇気は尊敬に値するよ」
フッフッフ、リアナよ、その勇気の先には美味!
まさに美味の世界が待っていたよ。
「おめぇは、堅そうなパンじゃなぁ。顎がいかれとんちゃうんか?」
ショーンまだまだ甘いな! 料理長の技術の結晶を! 中のビーフシチューのおかげで表面の堅パンをチョンチョンするといい感じの柔らかさになるんだよ。
昼休憩も終わり、教室の席に戻り午後の三限目の授業を待った。
奥の席からは女子三人衆の嘆きが聞こえてくる。
「どうして、教室にも購買部の飲食スペースにもいなかったわよ」
「私なんか男子トイレをくまなく探したわよ」
「ごめんね二人とも……私もモーガンくんの匂いを辿ったけど、ダメだったわ……」
モーガンどうやらオレ達は? 恐ろしいものにストーカーされているようだ…………
そして三限目の始まりを告げるチャイムが鳴ったが、またしても読み書きの授業だった……
今日一日だけで約半分の文字を学習して、生徒達は七程度理解して出来ていた。
フィーネはほぼ十割でかなりの好成績だ。
ショーンは相変わらずダン先生と我慢比べのようなやり取りをしていたが、ダン先生の必死の思いが伝わったのか、全く理解できてないショーンが、一割ほど読み書きができるようになった。
三限目が終わり、掃除やホームルームの時にはオレは心ここに在らずといった状態で放課後のフライドポテト販売の事を考えていた。
そしてついに下校の時刻を迎えた!
「「「「みんなまた明日」」」」
オレ達四人の声が教室に響き、下校しようとした。
「ワシを置いていくんじゃねえ!」
そう言って慌ててショーンもついて来た。
「まずは、学院の荷物を置いてからだね。その後クライヴの部屋に行き、クライヴの指示に従おうか」
モーガンの提案にみんなが賛同した。
みんながオレの部屋に集合して、それぞれに役役割を与えた。
一旦、みんなで大通りの商店へ行き、本格的な手押し式移動販売車の受け取りと、油一缶とジャガイモ六十個を購入する。
後の事は移動しながら説明すると伝えた。
そして時刻は十五時、オレ達は手押し式移動販売車で学生通りに向かいながら本日のそれぞれの役割について説明した。
「ショーンは定食屋の息子だからジャガイモの皮剥きをお願いするよ」
「モーガンとフィーネは販売車の周辺で呼び込みをお願いするよ」
「リアナは販売車の前で注文や人が割り込んだりしないように見張ったりしてくれ」
「オレはひたすらフライドポテト職人になる」
説明していると、学生通りに到着した。ここからがオレの待ちに待った大作戦の始まりだ。
目星をつけた販売場所に販売車をとめて、オレ達は一旦深呼吸をした。
期待と不安が入り混じるが適材適所に配置したと思うので、後は神に任せよう。
とにかく一人でも多くの人に売れますように……
「さぁ配置について」
「「「了解」」」
「おう」
「これがフライドポテト王の伝説の幕開けだぁ!」
…………この日が待ち遠しくて、オレは変なテンションで声をあげた…………
仲間達からは痛いモノを見る目で見られていた………………
次の二限目の授業を楽しみにしていたが、一限目と同じ読み書きの授業だった。
まず読み書きが出来ないと次のステップに移れないそうで、入学してすぐは読み書きの授業が続くらしい……だから貴族は初等部から入学しないのか……
退屈だなぁ………………
改めて思うと、この学院って結構お金かけてるよな。絶対大赤字の経営だろうなぁ。
入学金さえ支払えば、学院寮に学費に学習道具が無料になるし、この羽ペンとインク代とそれに紙代だけで結構するんじゃないか。
教科書やノートも表紙は羊皮紙、本文はパピルス紙で出来ており、それらが全て無料で配布される。
平民にとって決して安くない入学金だが、得るものは多い………………しかし現実問題オレ達のクラスの平民はモーガン、ショーン、カーン、クラリネ、女子三人衆の七名だ。
最大で二十名入学できるのだが、平民は約三割程度しか入学していない。
その背景には色々と諸事情があるのだろうが……
「ショーンくん、これは何て読むかな」
「先生それぐらいワシでもわかるわ【バカ】って読むんじゃろ?」
「はい違いますね。【あさ】ですね」
「ショーンくん、次はわかるかな?」
「ワシゃ誰やと思っとんじゃ【さす】じゃろ」
「はい違いますね。そんな物騒な言葉じゃありません。さっきの全く同じ文字の【あさ】だね。先生の話を聞いていたかな?」
相変わらずショーンは前途多難だな……
二限目のチャイムが鳴り、ショーンのノートは頑張り過ぎて、もうボロ雑巾のようになっていた。
(どんだけ書いたら、そうなるんだよ)
しかし不屈の精神の持ち主のショーンはオレ達に話しかけてきた。
「おめぇらは昼メシどうするんじゃ?」
「オレはパンかなぁ」
そう答えて、オレは隣にいるモーガン達にどうするか聞いた。
「そうだね。ボクもクライヴと一緒かな。パンでも買って教室で食べよ…………」
その時、モーガンは強張った表情をして喋るのをやめた…………
一体どうしたんだろうモーガン?
オレは注意深く周りを観察した……アイツらだ…………
「キャー、クライヴくんとモーガンくんが仲良くパンを買って私達の前でお食べになる姿を見せて下さいますの」
「ハァハァ、もしかしたら二人はお互いにパンを食べさせ合いするかも知れませんわ」
「そんな! アーンと口を開けるモーガンくんを想像すると尊すぎるわ! 考えただけでちょっと、あっ意識が…………」
大きな音とともに一人倒れたぞ……
「ここにぼく達がいるのは、あの子達に迷惑をかけてしまうな。購買部の飲食スペースで食べることにするのはどうかな?」
リアナの提案に全力で乗っかろう!
「そうだなオレもリアナの案に賛成だ! なっ! フィーネ」
「え! ま、まぁ、いいんじゃない……」
あれ? フィーネが乗り気じゃないの? 「あの女子三人衆《カオス》には近づきたくないだろう?
「まぁ、とりあえず行ってみようよ。ショーンも来るだろ?」
モーガンがショーンを誘うと照れ臭そうに「おう」と答えた。
一階に降りて購買部に向かうと、二年生が購入していったのか、あまりパンは残っていなかった。
一つだけは大量に売れ残っているが……
「ボクは最後の一個のミックスサンドイッチにするよ」
「じゃあアタシはミルクパンにしようかな」
「ぼくもフィーネと同じミルクパンにしよう」
二人が購入したのでミルクパンも品切れか。
「ワシは謎肉パンじゃ」
あっそれも最後の一個しかなかったやつ……
あと一種類の大量に売れ残っているパンしかないや。
「じゃあオレはこの………………」
「クライヴ? クライヴ! どうしたのよ、急に動かなくなって?」
フィーネの声で意識を取り戻した。
「オレは、オレはこの……【授業は学生の頃は辛いもんだ。しかしその経験は必ず生きる! 常にビーンとアンテナを張って意識を集中するんだ。それが硬派ってもんだぜ】にするよ…………」
「「「あぁ…………」」」
寮生活のオレ達以外にはコレのネーミングが不気味過ぎて売れ残っているんだろう。
しかも今回はパン! 生地に包まれているから中身が分からない。今回は難題だ……
購買部の飲食スペースは二年生達がいて、わりと騒がしかった。
「ねぇ、クライヴ。みんなで外で食べない? 花壇の辺りにベンチがあったし……」
当たり前になりすぎて忘れていたが、フィーネにとってオレ達やクラスの人間以外には、少し緊張するのかなぁ……今まで人間達がエルフにした事を考えると…………
フィーネは本当に人間社会に慣れようとしてくれているんだなぁ……
「なぁ、みんな! せっかく晴れてるんだし外の花壇のベンチとかで昼ごはんを食べようぜ」
オレの誘いにモーガンは賛同してくれた。
「そうだねクライヴ。お日様に当たりながらの昼食も悪くないね。」
オレ達は花壇に向かい、コの字型に備え付けてある三基のベンチに座ってそれぞれパンを美味しそうに食べている……
オレも決心するか………………
オレが購入した多分アレな謎パンは、【授業は学生の頃は辛いもんだ。しかしその経験は必ず生きる! 常にビーンとギュと背筋を張って授業に集中するんだ。それが硬派ってもんだぜ】と言うネーミングのスパイスの効いたビーフシチューが中に詰まった硬いパンだった。
みんなオレに注目している…………だろうな気になるだろこの中身が……
「ク、クライヴ、そのパンはどんな味なの?」
モーガン、気になって仕方ないだろ?
「クライヴ! アンタ、汗かいているけど大丈夫? ぐ、具合悪くなったの?」
フィーネ、体調はバッチリだよ。これは香辛料の魔法さ。
「クライヴ、何というか、その勇気は尊敬に値するよ」
フッフッフ、リアナよ、その勇気の先には美味!
まさに美味の世界が待っていたよ。
「おめぇは、堅そうなパンじゃなぁ。顎がいかれとんちゃうんか?」
ショーンまだまだ甘いな! 料理長の技術の結晶を! 中のビーフシチューのおかげで表面の堅パンをチョンチョンするといい感じの柔らかさになるんだよ。
昼休憩も終わり、教室の席に戻り午後の三限目の授業を待った。
奥の席からは女子三人衆の嘆きが聞こえてくる。
「どうして、教室にも購買部の飲食スペースにもいなかったわよ」
「私なんか男子トイレをくまなく探したわよ」
「ごめんね二人とも……私もモーガンくんの匂いを辿ったけど、ダメだったわ……」
モーガンどうやらオレ達は? 恐ろしいものにストーカーされているようだ…………
そして三限目の始まりを告げるチャイムが鳴ったが、またしても読み書きの授業だった……
今日一日だけで約半分の文字を学習して、生徒達は七程度理解して出来ていた。
フィーネはほぼ十割でかなりの好成績だ。
ショーンは相変わらずダン先生と我慢比べのようなやり取りをしていたが、ダン先生の必死の思いが伝わったのか、全く理解できてないショーンが、一割ほど読み書きができるようになった。
三限目が終わり、掃除やホームルームの時にはオレは心ここに在らずといった状態で放課後のフライドポテト販売の事を考えていた。
そしてついに下校の時刻を迎えた!
「「「「みんなまた明日」」」」
オレ達四人の声が教室に響き、下校しようとした。
「ワシを置いていくんじゃねえ!」
そう言って慌ててショーンもついて来た。
「まずは、学院の荷物を置いてからだね。その後クライヴの部屋に行き、クライヴの指示に従おうか」
モーガンの提案にみんなが賛同した。
みんながオレの部屋に集合して、それぞれに役役割を与えた。
一旦、みんなで大通りの商店へ行き、本格的な手押し式移動販売車の受け取りと、油一缶とジャガイモ六十個を購入する。
後の事は移動しながら説明すると伝えた。
そして時刻は十五時、オレ達は手押し式移動販売車で学生通りに向かいながら本日のそれぞれの役割について説明した。
「ショーンは定食屋の息子だからジャガイモの皮剥きをお願いするよ」
「モーガンとフィーネは販売車の周辺で呼び込みをお願いするよ」
「リアナは販売車の前で注文や人が割り込んだりしないように見張ったりしてくれ」
「オレはひたすらフライドポテト職人になる」
説明していると、学生通りに到着した。ここからがオレの待ちに待った大作戦の始まりだ。
目星をつけた販売場所に販売車をとめて、オレ達は一旦深呼吸をした。
期待と不安が入り混じるが適材適所に配置したと思うので、後は神に任せよう。
とにかく一人でも多くの人に売れますように……
「さぁ配置について」
「「「了解」」」
「おう」
「これがフライドポテト王の伝説の幕開けだぁ!」
…………この日が待ち遠しくて、オレは変なテンションで声をあげた…………
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