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第一章 王国編第一部(初等部)

エピソード38 ショーン加入?

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「呼び止めてすまんがおめぇらから冒険者協会って言葉が聞こえたけぇ、まさか冒険者とか登録して無いじゃろ?」

 ショーンがオレ達に話しかけてきた。
 確か……冒険者に憧れていた男子だよな?

「ボク達は登録を済ませた冒険者見習いだよ。君は?」

 モーガンは多くを語らず一定の距離感で返事をした。

「ワシは……小遣いが少ないけぇ……行ったことないんじゃ……じゃが冒険者になりゃーすぐ稼げる自信はあるんじゃけぇ」

 そのショーンの強がりな発言にリアナは険しい顔をした。

「君は一体何を言っているのだい? まだ何も実績もないただの少年の強がりじゃないか! 今の君がそんなに凄いのか? ぼく達と同じただの十歳じゃないか!」

 なんだなんだショーンの発言にリアナの騎士道精神が引っかかったのか?

「おめぇにはきいてねぇじゃろが! 男か女かよっわからん奴に言われる筋合いはねぇ」

 あっ……この二人は正反対過ぎて、まぜるな危険的なやつだ……………………

「君がぼくを侮辱するのは構わないが、生半可な気持ちで冒険者を甘くみるものではない!」

 リアナが珍しくとっても怒っている。だが一つ言いたい! リアナも闘いたいと思うがあまり
冒険者登録して、依頼をしましたよね。そして痛い目にあってますよね?
 あっ! その時の経験談を先輩として伝えているのかな?

「まぁ少し落ち着こうよショーン君もリアナも」

 モーガンが一旦この場を落ち着かせてからオレに耳打ちしてきた。

「わるいんだけど、クライヴって銀貨一枚もってるよね」
「ああ、あるよ」
「ショーン君の冒険者に登録に貸してあげる事はできる?」
「えっ! 大丈夫かアイツ」
「ボク達と行動をともにすればどうかな? 
 それに採取依頼を受けた時に獣が出てきたら前線にもう一人欲しいでしょ」

 一瞬モーガンの悪い顔が見えた……アレはショーンを盾にしようかなぁって考えている顔だ!

 そしてオレはモーガンに銀貨を一枚渡した。

「ショーン君、ボク達は今から冒険者協会に行くけど一緒に行ってみない? 君が本当に力があるのなら、クライヴから登録代の銀貨一枚を貸してくれるよ」

 ん? どうやって実力を調べるの? オレ嫌だよ、依頼受けるの! 
 今日は見るだけって話だったから、オレの心は依頼を見るだけモードだぞ!

「ありがとうクライヴ! ワシのことは気軽にショーンと呼んでくれぇ」

 ショーン、ぐいぐい来るなぁ。まあ悪い奴ではなさそうだけど。

「フン! 口だけじゃないか証明してもらおうか!」

 リアナまだキレてんの? と言うか何このみんな闘うモードは……

「じゃあみんなで早く行こう」
 
 フィーネ! おいフィーネ! お前までどうしたんだい? いつからそんな冒険者協会に行って依頼でも受けますかーって感じなの?

 オレは不満に思いながらも、みんなと一緒に冒険者協会に向かった。


「はいこれで手続きは完了です」

「よっっしゃゃゃぁぁ! これでワシも冒険者の仲間入りじゃな」

 あーあ、どうせこれから依頼受けるんでしょ……

「それじゃショーン君も一緒にボク達と二階に行こうか?」

 モーガンの突然の発言に、オレは何のことか分からずフリーズした

「クライヴ? 大丈夫だよ。ここの二階は訓練や力比べなんかも出来るトレーニングエリアだよ」

 えっ、知らなかったんですが……
 モーガンのリサーチ力侮るべからず。

 オレ達は二階に上がると様々な訓練場となっていた。
 二階に上がり廊下のすぐ横には木剣や木槍で木斧、木の矢等の木の武器がたくさん並べられている武器置き場となっている。
 反対側には、弓で的を射る弓道的な場所には大きさや距離の違う的が六つある部屋
 次に打ち込み用の案山子が五つ置いてある部屋があった。
 廊下を正面に進むと大きな部屋が一つ…………その部屋の中はスパーリングするような木で囲まれた四角のリングが二つあった。
 モーガンの説明では、ここは冒険者同士の腕の試し合いをする場所らしい。

 モーガンが詳しいのは一旦置いといて……
 ショーンとリアナが武器を選んでますが?
 二人とも無言で一触即発のバチバチなんですけど? オレがモーガンの説明を受けてる間に何があったの……

「クライヴ……どうしよう……クライヴとモーガンが先に二階に上がっている間に、ショーン君がリアナに男のような女子に負けないって言っちゃって、それでリアナがマジギレしちゃったの」

「それで二人とも無言で殺気だってるのか。フィーネ大変だったね」

「そ、そんなア、アンタと違ってアタシにかかれば簡単なもんよ!」
 
 何故そこでツンが出る……


 そんな事を話しているうちにリングの方を見てみると既にリアナは木の長剣と細剣のいつものスタイルでリング上で待っていた。

「いくらでも時間をかけたまえ。正々堂々全力を持って相手をするので、君も覚悟が決まったらリングに上がりたまえ」

 リアナは冷静な口調だがいつもよりピリピリしている。

「女子に手加減されても情けのぉ思いするだけじゃ。負けんためにも何がええか考えよんじゃ!」

 そしてショーンは木の槍と盾を選んだ。

「ふーん、槍に小盾じゃなく盾…………ボク達が欲しい前衛だねクライヴ」

「でも、あの二人が前衛なら連携最悪だぞ。だから自分達の力量より少し低い採取依頼だけにしよう。他で稼げばいいだろう」

 そんなオレとモーガンの話し合いに関係なく、リアナとショーンの闘いが始まった。

 リーチはリアナが不利だし、盾を持つショーンを攻略するのは難しい。しかしショーンは全く訓練も受けてない素人だ。

 リアナは様子を見ていて、ショーンの槍の間合いを測っていた。
 先に動いたのはショーンだった槍を持った右手でリアナに突きを繰り出した。
 しかし動きが読みやすい突きのため、リアナは長剣で槍の側面を軽く叩き、ショーンのバランスを崩した。
 そして、前のめりに倒れそうになっているショーンに対して、リアナは首を斬る素振りを見せ、ショーンの首に当たる前に長剣を止めた。

「充分実力の差がわかっただろう! 負けを認めるなら今のうちにして欲しい。次は本当に怪我をするぞ!」

 リアナは最後の警告をしたが、ショーンは全く聞かなかった。

「まだ本気も見せとらんのになんでワシが降参するんじゃ」

 一旦仕切り直してお互いの闘いがまた始まった。
 今度はショーンは盾を構えて様子を見ている。
 リアナもジリジリとショーンの槍の間合いに入る。
 ショーンは槍を突き出す事なく、一撃に全てを賭けているような感じがする。
 リアナはショーンの間合い内で的にならないように立ち止まったり、サイドから回り込むように動き続けたりを繰り返していた。
 いつしかリアナの間合いになった途端にリアナは細剣を手に取り、盾の隙間を縫うように反対の腕に対して突きを放った。

「ウォッ」

 ショーンは驚きながらも身体を捻るようにして避ける事ができた。
 避けた事に安堵したショーンに次の手が襲いかかる。
 顔への突き! オレはリアナのその一撃にショーンに当たると思い、思わず目を閉じてしまった…………ボコッと木のぶつかる音が聞こえ目を開けるとショーンがギリギリ盾で防ぐ事ができていた。

(心臓に悪いし、見たくないなぁ)


「引っかかったね、顔への一撃はフェイクだよ」

 リアナは手を休める事なく、ガラ空きの胴へと突きを繰り出すと見せ、フェイントを入れて盾を持っている側の左太ももにスピードの乗った突きを放った。

「痛てぇぇぇ!」

 ショーンはまともに受けてしまい右膝を床に着きそうになった……が、立ち上がりながら身体を回転させて槍で足払いの一撃をリアナに放った。
  リアナは慌ててバックステップで回避しようとしたが槍のリーチは長く、左脛を捉えた。

「クッ!」

 パチンと乾いた音が響き、リアナは顔を顰めた。

「へへ、おめぇこそ何油断しとんじゃ、素人に一撃もらって悔しゅうないんか?」

 ショーンはリアナを挑発する。

「前言撤回しよう。良い一撃だったよ」

 強がりか余裕があるのかは分からないが、リアナの移動や旋回の動き等が明らかにスピードダウンしている。
 ショーンはリアナの間合いに入らないように槍の間合いで攻撃を放ち、近づかれると後ろに下がるヒットアンドアウェイに切り替えた。
 リアナが長剣で槍を弾きながら進んでいくがショーンまでの距離が遠い……

 しかしショーンは自分の攻撃が単調になって来ているのを気づいてなかった。
 ショーンの突きをリアナは避けて。ここぞとばかりに前進してショーンに詰め寄り、長剣で袈裟斬りを放とうとした。
 ショーンは慌てて盾を構えたが、リアナは長剣を捨てた…………そして両手で盾を全力で押してショーンは後方にフラつき尻もちをついた。

「これで分かったかい。もう君に勝ち目はないよ」

 尻もちをついたショーンの首には細剣の先が触れていた。

「クッソォォ!今日は負けたがまたワシが強うなったら再戦じゃ!」

「フフ頑張りたまえ、いつでも再戦待ってるよ」

 勝者と敗者の二人とも晴れ晴れとした顔をしていた。
……………………えっ何その闘ったら友達みたいな雰囲気…………若いなぁ…………
 
 よし本来の目的にみんな戻ろうぜ!
 しかしそうはさせてもらえなかった……少しテンションの高いリアナの一言で……………………

「クライヴ! 君には以前の偽ブタを倒した時に君の実力は承知しているが、手合わせ願えないだろうか?」

 いや無理です! ショーンとリアナのせいでオレまで巻き込まれたよ。
 リアナの力強い目を見ると、断る勇気ないわぁ……どうしようとモーガンの方に助けを求めようとしたらモーガンは笑顔で悪魔の一言をいった。

「クライヴ、せっかくなんだからやってみたら? リアナも望んでいるし、ボクも見たいなぁ。フィーネはクライヴの闘う姿見たくない?」
 
 この天使の顔の悪魔モーガン! 
 フィーネ! お前ならオレの事を分かっているはず!

「クライヴは闘うとか、そういうのは嫌いだと思うから断ると思うよ」

 フィーーーーネ! さすがだよ百点満点の対応だよ!

「でも、フィーネ考えてみてよ。クライヴが真剣な表情で闘う姿を間近で見るのは普段の表情と違いカッコいいと思うんだけどなぁ」

 フィーネ! モーガンの悪魔の囁きは気にするな。

「えっク、クライヴは情けない姿を見せると思うんだけど、でも本気になったクライヴは、い、いつも、あの、何か違うって言うか、ふ、雰囲気が、そ、その…………男ら……から……見…………です」

 ゴニョるなフィーネさん……でも何となくこの雰囲気は闘いから逃げられそうにない………………

「おめぇ、いつまでアイツリアナを待たとんじゃ! 男じゃろ、はよいけぇぃ」

 完全アウェイの中、オレは木の長剣と小盾を手に持って身体を震度三弱ぐらいに震わせながらリアナのいるリングに向かった………………
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