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第一章 王国編第一部(初等部)

エピソード24 たかが一年間の軌跡と王都に向かうがお決まりのアレ

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「クライヴ! 早く支度せんか! 間に合わんぞ」
 ヒューゴに急かされるように朝から準備をさせられる。いつもなら、もう少しゆっくりさせて欲しいと言うが今日は言えない……

 オレはシェリダン子爵領で二年目の春を迎え、今日が王都の王立学院へ出発する日だ。
 鍛冶屋のおじさんや神父様には昨日挨拶を済ませて、シェリダン様には神父様に手紙を託けた。
 思い返すとこの一年間は充実した日々を過ごしていた。
 水汲み配達業は銅貨二枚と増額し半分を教会に支払って、そこから依頼窓口係の給料を捻出してもらった。ちなみに依頼数は毎日四十件程度は依頼があった。
 オレは水汲み配達業からは手を引いて、オレのような水桶を運べる力がある子ども達の仕事として定着させた。今では八名のドライバーを教会は抱えている。
 他の依頼等も害獣駆除は冒険者や力を持て余した町の力自慢が受けていて、採取等は主に集落の人達が依頼を受けている。こちらも依頼料達成料金の二割を教会に支払う仕組みにし、教会修繕費や依頼窓口係の給料に反映してもらった。

 言い忘れていたが、依頼窓口係も三名となりヒューゴが責任者でその下に二名の窓口対応係がいる。 
 月給は銀貨十枚の好条件だ。

 そしてオレの仕事は濾過水の【シェリダンの雫】販売のみで勝負していた。
 販売価格は一本当たり小銀貨二枚、原価に銅貨八枚かかり利益率は六十パーセント。シェリダン様からの買い付け効果により貴族や平民にも名が知れ渡り飛ぶように売れていった。かなり儲けが出たので、水汲み配達や依頼窓口の件や濾過水販売所の件等で教会の一部を無料で間借りしていたのが申し訳なく思い、賃貸料として毎月銀貨五枚をお布施として神父様に渡していた。
 おかげで、春には教会内のベンチや依頼窓口兼販売所のテーブルや椅子等が少し新しくなっていた。

 オレはと言うと……入学に必要な小金貨二枚を目標としていたが……小金貨八枚と銀貨七枚を稼いでいた。

 そして、いつの間にかシェリダン領は【水の精に守られた神の雫に出会える町】として、シェリダン様はガッツリと広告してくれていた。
 多分そのおかげで、旅行客が増加して濾過水【シェリダンの雫】の売り上げにも繋がったのではないのかな。
 シェリダン様は面白い事は何でも肯定的な方だったので、神父様を巻き込みながら色々と新しい事をやってきたが、実はこうなる事を見越しており中々商売上手な人だったのかなっと今では思う。

 その他に変わった事と言えば水汲み配達で体力がついた。それからはオレは水汲み配達は子ども達に任せて行わなくなったので、ヒューゴが「これではいかん!」と言い出して、我が家の地下室でヒューゴ特製の護衛兵式訓練メニューが開始された。
 何回でも言おう! 
 オレは闘う事を前提とした訓練が嫌いだ! 
 痛いのが嫌いだ! 
 相手を傷つけるのも罪悪感を感じる。
 余程の事が無いと争いは避けたい事だ! 

 そんな事は聞く耳持たずヒューゴは生き生きとオレを指導していた。
 素振り、打ち込み、間合いの取り方、移動と回避、防御、武器のない時での体術等、とにかく嫌だった。
 しかし、いつの間にかどこで購入してきた! と思う木槍、木両手剣、木の大盾、弓等、もうヒューゴの趣味の域ではないかと思う物が少しずつ増えていき、オレにとっては恐怖だった……

 そんな一年間を振り返りながらオレは王都行きの馬車に向かった。

「クライヴ気をつけるのじゃぞ」

 ヒューゴは寂しそうな顔をしているが、オレは複雑だ………………
 元オレの護衛兵でもあり、命の恩人でもあり、忠誠心の塊でもあり、悪夢に悩まされた夜はずっと側にいてくれたり、王国では爺ちゃんでもあり、質素だが楽しい幸せな毎日過ごす事ができ、最近は鬼軍曹でもあり、ほぼ嫌いになりかけつつあり……
 でも六歳の時からヒューゴと過ごした思い出は、色濃く胸に刻まれており、今では本当のと思っている。
 ヒューゴと離れるのが初めてなので正直不安に思う事もある。しかしヒューゴはこの町で新たな職に就き、いつでもオレの帰りを待っている事を選択した。
 
 入学金も用意でき王立学院入学という王国で最初に見つけたオレの目標がやっと現実になったのに、ヒューゴになんて声を掛ければ良いのか言葉が見つからない……
 
 しばらくの沈黙が続き馬車が到着した。

 「ランパード辺境伯領、王都方面行きの方はお乗り下さい」

 どうやら南西のランパード辺境伯領を通って北上するようで、急いでいるのか馭者から早く乗るようにと促される。

「爺ちゃん……行って来ます」

 オレは悩んだ末に作り笑顔でただその一言だけだった。
 行って必ず戻って来ると……

「まぁ何とかなるわい」

 ヒューゴは笑顔でそう返事した。
 その言葉の意味はオレの事を言っているのか、それとも自分の事を言っているのか分からない。
 でもその嘘のない笑顔を見るとさっきまでの不安が消えた。

「うん、もう大丈夫だから」

 オレは、ヒューゴに真剣な表情で答えた。
 帝国の頃から守られていたオレの独り立ちの意味と、悪夢に悩まされるのではなく、母上がオレに望んでいた自由で楽しい未来を送る事、この二つの意味でヒューゴに感謝を伝えた。


 そしてオレは着替えと果物とお金だけを質素な背負い袋に入れて馬車に乗った。勿論腰のベルトの特殊な輪の部分にスネーフリンガー……ゲフンゲフン……鞘にしまったサーベルを大事にかけていた。

 それから馬車が出発したが、オレは振り返る事はなかった。
 ここで振り返るとさっきの決意が台無しになってしまう。だって絶対ヒューゴは泣いてるから今までの性格からして、そしてオレもつられて泣いてしまうから湿っぽくなってしまう。
 だから後ろではなく前を見る。
 過去ではなく、今を、そして未来を。
 新しい人生、誰にも縛られず自由に楽しく幸せになる為に!


……………………カッコよく決めたぜ! と思っていたら、まだ半日も経ってない昼過ぎなのに馬車が急に止まった。
 えっまだ道ですが? 村すらないですが? まだ東の森が見えるあたりで南下すらしてないですけど?
 
 すると馭者が慌てた声で、馬車の中に入ってきた。
「盗賊だぁ! 誰か襲われている。みんな荷物を渡せば命だけは助けてくれるはずだ」

 その通り! 今馬車の中はオレ、薪を担いだご老人、子連れの女性のみ! 戦力にならねぇ!
 どうやってお金を稼ぐ隠そうか考えていると、子どもが馬車の窓から外を覗いていた。

「お母さん、女の子が襲われてるよ。誰か助けてよ」

 おい! 子ども! 余計な事聞いちゃったじゃないか! ここで見捨てたら胸糞悪い、だが怖い。
 オレは馭者に腰のサーベルを見せて、闘えるアピールをした。そして馬車の後方から降りて、馬車の陰から様子を見る。盗賊は五名、だが二人は倒れているので残りは三名だ。そして襲われているのは女の子が一人、しかもまだオレぐらいの女の子っぽい…………どうやって助けるか?

 悩んでいる間に女の子は手のひらに緑に輝く暴れる魔法のようなものを集めて盗賊に放っていた。しかし盗賊は大げさに転がって避けていた。
 オレは盗賊の避ける姿が大げさに見えたが、ズドンと大きな音響いた。
 そして盗賊が避ける前にいた所に地面が少し抉れていた。
 えっ凄い! オレはその様子に驚愕し膝がガクガクしてきた。なにこの子? 怖い子なの? 
 しかし女の子は体力を消耗しているようで息切れ状態だった。
 えっもしかして、魔力的なやつを使い切った感じなの? だとしたら女の子が危ないじゃないか……

 盗賊達は好機と見て女の子に近づいていくが、女の子も弓で距離を詰めさせまいと頑張っていた。
 だが斧で防がれ、盗賊達はジリジリと間合いを詰めてきた。
 盗賊達も弓矢や魔法による擦り傷程度はあるが、動きに影響しない様子だった。
 むしろ女の子が限界に近い様子だった。

「顔には傷をつけるなよ高く売れるからなぁ」

 盗賊達は笑みを浮かべながら言っていた。

 その言葉を聞いて悔しそうな表情をする女の子を見て、オレは無意識に馬車の陰から飛び出していた。

「何だいチビちゃん? おじさん達は忙しいんだよ」

「お前達は一体何をしている」

 女の子を売る? あの子の表情を見ると、コイツらに対して怒りが収まらない。

「見てわかんねぇか? ありゃエルフなんだよ。長寿だからいつまでも若さを保つ事が出来て貴族や奴隷商人に大人気なんだよ。それにあいつらは人間と接触するのを嫌っていて、近づいただけで、精霊を使って人間に攻撃することもあるから、ほっとくと危ないんだよ。オレらは人類を守ってるんだよ。へへへ」

 オレが子どもだからって馬鹿にしているのか?
 確かにエルフは人との接触を嫌うと聞いているが、それはエルフという種族を守る為だと聞いている。

「ふざけんな! この世界の種族がどうとか人類を守るとか関係ねえ、お前が勝手に相手の領域を土足で踏み荒らしているだけだろ! お前らみたいな襲う事しか出来ない人生を諦めた人間の方がクズだよ! 何で、争う事しか考えないんだよ。」

 なんか盗賊達の言い分が、帝国のダイアナ王妃達を思い出してしまい熱くなってしまった。

「一丁前に説教かガキが! てめぇみてぇな奴にはお仕置きが必要だな、容赦しねぇぞ!」

 盗賊達の目が血走ってる。あっ怖い、でもここは踏ん張らないと!

「グワァー」

 女の子がこの隙に、弓で盗賊の肩を貫いて一人戦闘不能となった。
 よし! 残りは後二人。

「このくそアマがぁ!」
 盗賊がブチ切れて斧を持って女の子に突進していく。
 くそ! オレと女の子の間にはオレにブチ切れた盗賊が道を塞いでいる。

 盗賊の攻撃を女の子は横に避けたが、盗賊が左手に持っていた砂を顔目掛けて投げかけた。

「痛っ!」
 
 どうやら目に砂が入ったみたいで、その隙をついて盗賊は斧を振りかぶった。
 なんとか女の子は弓を両手で持って受け止めたが、弓からピシッと音が鳴ったのがこちらまで聞こえてきた。
 
「チッ! クソがぁ!」

 女の子はまだ目を押さえているし、もう弓が折れそうだこのままだ危ない。

「テメェはよそ見して大丈夫なのかよぉ!」

 もう一人の盗賊がオレに襲いかかった。
 女の子はピンチ、オレもう一人の盗賊にロックオンされている。

 どうするオレ………………
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