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序章

エピソード? イーサン 帝国サイド 前編

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 ボクはこの帝国の第二皇子のイーサンだ。父上に憧れていて、幼い頃から勉学や剣術に励んでいた。父上のようになりたかったから。
 
 アレクサンダー帝国は、帝王に全ての決定権がある。父上は公平な判断で、能力ある人間が貴族達の権力によって埋もれないように実力主義で国務の重役を選ぶようにしてきた。そして民の耳にも傾ける平和で強い帝国を父上の代になってからより一層盤石な組織を築き上げた。
 それに変わって元公爵家出身のダイアナ王妃……ボクの母親は、とても我が強く自分より優れている者を妬み、権力を傘にして従わせている。
 そして……ボク達を溺愛している。 
 しかしボクはそんな母上が嫌いだ。そんな母上を見て育つ子ども達は悪影響しかない。
 まず三つ年上の第一皇太子のマキシム兄上が幼少期からの母上の影響を受けて、同じような性格をしている。また母上から溺愛されている為か我慢ができず、些細な事で使用人達を困らせている。
 次に四つ下の妹のヴァイオレットも、我が儘な子に育ち、使用人だけでなく護衛達も困らせている。

 母上はマキシム兄上を次期帝王に置き、ボクをその右腕として帝国を支えて欲しいと考えているようだ。
 ハァ~、兄上が帝王? この平穏な帝国を揺るがすつもりなのか母上は? 

 ボクはそんな母上や兄上が反面教師となって育ち、常日頃から父上と話をしたり、家庭教師等を雇ってもらい勉学や剣術に励んだ。
 兄弟達とは話が合わないが。仲がこじれては面倒なので退屈だが話を合わしていた。大人達と話す方が見識を広めれる事ができるのに。
 
 しかしそんなボクに転機が訪れた。
 きっかけは、廊下で母上と母上派の貴族がコソコソ話しているのを物陰で聞いてしまった時からだ。

 母上の口から出た言葉に衝撃を受けた。

「ヴァネッサの息子は、とても優秀らしいわね。マキシム達の脅威となる前に始末しなさい」

「かしこまりましたダイアナ王妃。成功した暁には是非とも愚息を文官として帝王に口添えをお願いいたします。」

「その代わり確実に始末しなさい」
 
 えっ! 確かヴァネッサ様のご子息はまだ六歳だったはずだ。そんな事を母上は考えているのか?

 そして数日後、スノウが高熱になり危篤状態の知らせが届いた。

 その時、母上は満面の笑みを浮かべていた。


 
…………………………


 スノウが意識を取り戻してからボクは離宮に行く事が多くなり、家庭教師代わりをした。
 最初は七つ年下の腹違いの異母弟スノウの環境に憐れみを持ち離宮に行っていた。
 しかしスノウは純粋でとても理解力が良い。
 また真綿のように知識を吸収してボクの思い付かない発想をするスノウの才能に驚いた。
 まさか六歳児に今後の経済について語る事となるとは思わなかった。
 大人達とは違いスノウはボクに遠慮なく意見を述べてくる。こんな経験は初めてだったのでとても嬉しかった。

 ボクが言葉を選ぼうとした時にスノウは自分の考えを述べていた。

「減税による税収の低下、それと反比例する軍事費の増加にこのままでは経済は破綻するように思います。これから先には戦争が起こるのでしょうか? 戦争による物流の循環と相手国からの賠償金等で利益が取れますけど……父上は無駄な争いをしないと思いますので、戦争以外でこの帝国を豊かにする方法が何かあるのでしょうか?」
「またマキシム兄上の代になると、正直言って帝国の未来が心配になります。交戦的な性格なので、軍備に力を入れ過ぎて民達の重税を課したりしそうです。他にも外交問題を起こして戦争に発展し、侵略による領土の拡大を図ろうとするして利益を挙げようと短絡的に考えそうです、民あっての国なのに民を蔑ろにしているので国が荒れないか心配です。兄さんが次期帝王なら国は安泰なのに」

 まさか帝国の今後の課題と、将来兄上が帝王となった時の問題までも話すとは思っていなかった。
 気づけばボクの方がスノウともっと話をしたくなっていた。
 スノウの才能は帝国に必要となる! 母上や兄上達からスノウを守らないと!

 そしてスノウが七歳になった時に自分で身を守る事ができるように剣術の訓練を取り入れた。
 スノウは臆病だから争い事が嫌いで、剣術の訓練だけは否定的な様子だった。
 何とか説得して、ヒュンメル殿と一緒にスノウを鍛えた。
 剣術の訓練の時はスノウが年相応の顔をするので、微笑ましくなってしまう。
 でも何故かスノウはボクの顔を見て青ざめていた。

…………………………

 そして月日が経ちディナーの時もボクは驚いた。
 兄上達の嫌がられせ等にも屈せず、父上から一言希望を聞かれた時、瞬時に外出したいとお願いをしていた。

 余程外出したかったのか、反射的に答えていたが、父上は納得しないと許可はおりない。
 流石にスノウにしては珍しく考えなく行動をしてしまったな。
 よし! 母上達は嫌がるが、スノウの為にボクがフォローをしようとした時にスノウが饒舌に説明をし出した。

 「書物からの情報では学びは深まりますが、実際に見た事がないのでイメージばかりです。ですので城下に出向いて民の暮らしを見て確かめたいと思います。多くの事を見聞きし視野を広げる事やそこで生活する民達の不平不満等に耳を傾けて、より良い帝国の発展のアイデアを見つければと思います」

 父上はニヤッとしてスノウの才能を喜んだが、兄上達は苦い顔をしていた。
 兄上にもこれでわかるだろう。自分の愚かさが。

 
 そして、ボクはスノウと城下へ出かける事となった。ボクはいつもの町人風の変装をして、スノウはどうしよう? 中性的な顔だから女の子に変装出来るかな? 
 あっ、凄く似合っている。危うく変な性癖に踏み込みそうになるくらいスノウは見事に可憐な女の子に変装していた。
 スノウにとっては初めての外出で、とってもはしゃぐ姿が珍しい。その姿を見るだけでボクの荒んだ心が洗われる。
 屋台でたくさん串焼きを買ってきた時は護衛艦の分も買ってきたと優しい一面を見て、市場では目を輝かせたり、興味が無かったりとコロコロ表情を変える。かと思えば工房が見たいと目をキラキラさせる。本当にいつも驚かせて飽きさせないなぁ。

 そして次は教会に興味を持ったようでそちらに足を進めた。
 ボクも知らなかったが、聖グラン教の教会は帝国では珍しいがそれ以上に老朽化が目立つなぁ。
 少し神父様と話をすると取り立てに来る貴族がいるらしい。

 (まぁ、目星はついているが)

 そんな話を神父としている間、スノウは子ども達に今日買った串焼きを渡して何かを話していた。

「兄さん、さっき教会で貴族の話が出た時に反応したよね? 何か知っているの?」
 
 スノウに気づかれていたか。

「以前からチェックをしていた貴族だ。スラムの悪人との関わりや子ども奴隷売買疑惑等しているのだが、バックに王妃派の高位貴族が付いていて中々立証出来ないんだ。ボクが余り大きく動くと母上を刺激してしまい、より動けなくなってしまう。現状時を見計らうしかないんだ」
 
 こう言う時に母上の存在が邪魔だと思ってしまう。

「兄さんそれならこういうのはどうです。ボクと兄さんが城下の視察で老朽化が進む教会に保護されている孤児達の現状を知った」
「そして教会の経営も苦しくこのままだと孤児達はスラムしか行く場がない状況となり、治安の悪化に繋がる恐れがあると父上に提言する」
「そこで、ボクと兄さんの宝飾や調度品を商人に売却し、王族が教会の為に私財を投げ打った噂を商人達に広げてもらう」

 父上から言質を取って商人を動かす。そして商人からの噂で貴族を動かすか。面白い考えだが、スノウにリスクもあるが…………兄としてこの提案を断るべきなのか? いや、一度スノウの覚悟を確かめてみよう。

「なるほど、皇子達が教会に献金したとなれば、貴族達も体裁を保つ為に同じように献金を行うだろう。そしてダイアナ王妃やマキシム、その貴族達も渋々従うだろう。しかしそれでは……また王妃達から理不尽な目にあわされるよ」

 覚悟を決めたようにスノウはリスクすらも受け入れていた。

 それならボクもスノウを全力で守ろう。この帝国の為にも、ボクの為にも……
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