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序章

エピソード12 初めてのギフトの力

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「どこに行くのかな? 悪い子達だなぁ。お部屋から出てきたのかなぁ? 皇子のほうは助けてやるよ、貴族様からのご命令でな。嬢ちゃんには死んでもらうがな!」
 見るからにボスっぽいゴロツキが不機嫌そうに睨んだきた。

 そっちじゃなくてオレが皇子ね! 本当に大丈夫かこの雇われ集団達、いやむしろ王妃派貴族がなぜ間違えた。後少しで教会に逃げる事が出来るたのに。
 それに最初に捕まった時にオレ(女装中)はたしかドナドナ(モノ好き貴族に売られる)される予定だったはずだか、ボスのお怒りによって殺される事に昇格した。嬉しくないけど。

 ボスゴロツキはそんな震えているオレに目をつけて、ナイフで刺そうと走り出した。
 あっ、これ痛いやつだぁ~

「ッ!」

 オレは恐怖から目を瞑っていたが、いつまで経っても痛みがやって来ない。

「あれ? 痛くないや」 
 
 オレとボスゴロツキの間にはアネッサが立っていた。

「その人には手を出さないでいただけないでしょうか?」

 ボスゴロツキの右手の甲にはナイフが突き刺さっていた。
 アネッサさん! ナイフ投げ凄え~よ
 
 ボスゴロツキは苦悶の表情を浮かべて刺さっていたナイフを引き抜き遠くに捨て、夜の闇に金属音だけが響いた。

「てめぇやるじゃね~か。いくら皇子でも許さねぇぞ! 生きていれば良いと言われていたから、五体満足かどうかは聞かれないんでな。五体満足では終わらせねぇ~ぜ!」

 先程の傷の影響がないのかボスゴロツキは左手にナイフを持ち替えた。
 ターゲットをアネッサに絞って。

 ボスゴロツキはアネッサがナイフを持つ右上半身に対して、二段突きを行った。

 あまりの突きの速さに、初撃は何とか防ぐ事が出来たが、二撃目は右の前腕部分を掠め、うっすらと血が滲んでいた。

「クッ!」
 アネッサは一瞬顔を顰めた。
 
「ヘッヘッヘ、もう降参かい。次は少しだけ本気をすんで、皇子様せいぜい腕が使い物にならないように気をつけてないとな」

 ボスゴロツキは笑いながら言い放ちジワジワとアネッサを痛めつけるつもりだろうか余裕をみせている。

 アネッサは真正面からの闘いでは筋力の差が大きく不利な為、一旦後ろに下がり距離をとった。

 ナイフのリーチもアネッサは不利だ。ボスゴロツキは刃渡り二十センチのナイフだがアネッサのナイフは刃渡り十五センチ、それに身長差と腕の長さで負けている。
 アネッサは目標を定められないようステップを刻み、ボスゴロツキの攻撃を避けつつ腕や脚等を斬りつけようと攻防を繰り広げていた。

 何度もギリギリの所で避ける事が出来ているが、アネッサの顔は徐々に疲労の色が見られナイフで受け止める事が多くなってきた。

 しかも攻撃には全く移れていない。
 このままではアネッサが危ない。

 ここでオレが二人の戦いを横切り、教会まで走り抜けるとすると…………
 ダメだあのボスゴロツキはアネッサと闘いながら、オレの様子も見ている。
 これじゃ蛇に睨まれたカエルだ。それにアネッサの身が危険だ。

 ボスゴロツキの力に圧倒され、アネッサの息が上がって来て、ナイフを持つ力も弱くなって来ている。

 考えるんだ! この状況を抜け出す方法を!
 このままではアネッサがオレの代わりに大怪我を負ってしまう。

 ボスゴロツキがナイフを振り上げた隙を見せたその瞬間!
 アネッサはカウンター気味にナイフを突き刺した。
 オレも思わず両手で祈るように見守っていた。

「ナイス! アネッサ!」
 「グッ!」
 
 崩れ落ちたのはアネッサの方だった…………
 ナイフが刺さったように見えたが、無常にもアネッサのナイフは届く事なかった。

 ナイフは手からこぼれ落ちてしまい、その手は殴られたであろうお腹に手を当てていた。

「へっへっへ、皇子様痛いだろう。体力もなくなってきたからカウンターを狙って来るだろうと思ってな」
「わざとナイフを振りかぶってやったんだよ」
「そしたら案の定ナイフの柄でナイフを叩き落とされて、鳩尾に膝蹴りも喰らっちまったなぁ」

 ボスゴロツキは地面に蹲っているアネッサを見下ろし笑いが止まらないようだ。

 アネッサは地面に顔をつけて泥だらけになっていた。とても痛かったと思うが涙を我慢していた。

 オレは、その勇ましい姿と悲しみを堪える姿を見て震える身体がピタリと止まった。今まで何をビビっていたのかと思えるくらい頭は冷静に心は怒りに荒れていた。
 女の子にこんな事をさせてやがって、絶対許さない!

 自分でも不思議だがあれだけ全身が痛かったはずなのに、気づいたらボスゴロツキの方へ駆け出していた。

「次は嬢ちゃん? てめぇは殺してやんよ!」

 ボスゴロツキはこちらを捉えて、殺気を出しながら走って来た。

「やめてー! 早く逃げてスコット!!」
 
 アネッサは涙でグシャグシャな顔で叫んでいた。
 オレの身を案じて……
 こんなにも臆病な自分に

 ボスゴロツキはオレにナイフで心臓を狙いにを定めた。
 しかし、お互いはスピードを落とす事なく間合いを詰めていく!
「せっかく皇子が頑張って助けようとしていたのに嬢ちゃんから殺されにくるなんて自殺行為だな。ヒャヒャヒャ」
 ボスゴロツキは笑いながらも隙はなく、殺意の篭った目がより一層強くなった。
 心臓にナイフが刺さるまでは
 後二メートル程な間合いだ。
 残り約一メートルの間合いのところでオレは神様から貰った力をぶっつけ本番で試した。

「【クロノス】」


 オレだけが使える一秒の奇跡
 これが百分の一の世界か、全てが止まって見えていて、よく見たらスローで動いているのが分かる。時間の概念を無視した神秘的な空間だ。

 オレはナイフを持っているゴロツキの左腕をガッチリと両手で掴み、全身に身体強化も重ねた。そして全力で一本背負いをしながらそのまま鳩尾に肘を追加した。

 奇跡の一秒間が終わると
 そこにはボスゴロツキが倒れていて口から蟹のように泡を吹いていて気絶していた。
 
 そしてオレは
 クロノスの負荷により八百メートルを全力で走ったぐらいの強い疲労感に襲われて、更に全体身体強化により、全身の骨や関節や特に筋肉に激痛があり、奇跡的立っている状態だった。

「スコット! 何があったの? 大丈夫?」

「アネッサ! もう大丈夫だよ。ちょっとボクに肩を貸してくれないかい。一人で動けなくて」

「うん!」

 何とか教会までたどり着くと、大慌てで今までの経緯を伝えた。オレの女装していると言う事は伏せて。
 神父様は優しく微笑みながら
「辛かったじゃろう。もう大丈夫じゃ。殆ど何も食べれなかったじゃろう。タオルと食事を容易してこよう」

 少し時間が経ってから神父様は身体を拭くタオルと食事を客室のような部屋に用意してくれた。
 
「今日はこちらの客室でゆっくり休むとよい。」
 
 客室? オレはその単語が気になり神父様に確認した。
「神父様、客室って以前なかったように思うのですが……」 

「スノウ様のおかげでの教会も無事復旧し、居住スペースも改築して下さり前より広くなったのじゃ。その為部屋も多くあるのじゃ。客室はゲストを迎え入れる部屋になっており、寝室の他にリビングスペースがあるのじゃ。まぁ嬢ちゃん達が最初の利用者じゃ。」

 それを聞いて教会の復旧が思った以上の成果を上げ、しばらくは孤児を受け入れても大事なようだ。

 そんな話を聞きつつリビングで食事をしたのだが、オレは殆ど動く事が痛くて神父様に介助してもらっていた。
 その後、女性という設定の為、神父様に部屋から出ていただいた。
 オレはリビングで一息つく事にした。その間アネッサは「寝室で清拭や着替えをしてくるわ」と声をかけた寝室に消えていった。
 一人になり、身体を拭こうと服を脱ごうとするが……身体が痛い。何か他の事で気を紛らわせないと思いアネッサとの今日の出来事を思い出していた。
 しかし、この部屋には本物の女の子が居るわけで緊張が……オレは精神年齢と合わせるとオッサンなはずだが、こちらの世界の精神年齢に引っ張られているのか? 今胸の鼓動が、褌一丁のお兄さん達が猛々しく和太鼓を叩く程の拍動をみせている。
 オレはロリコンじゃないと心の中で念仏を唱えていた。
 何かブツブツ喋っているのを着替え等に苦労していると思ったのか、着替えを済ませたアネッサが寝室から出てきた。
「出来る範囲で着替えを手伝うわ。身体を拭くのも大変そうだから上半身だけ身体を拭くのを手伝うわ」
 アネッサは恥ずかしがる事なく手伝ってくれた。
 何だろう、さっきのオレの葛藤は……
 アネッサは賢者なのか? その年で達観されているとは、貴族令嬢恐るべし! 

 残りは下半身だけだ! オレは精神統一をしてから身体を拭いた。

「あぁ~! ハッ! ハッ! デェッ! ダァ~~!」

 涙目になりながらも声を押し殺し頑張っていたが、最後は思う存分我慢していた絶叫が部屋の窓から見える月夜に炸裂した。

 なんか、嬉しいのやら、恥ずかしいのやら、とりあえず今日は疲れたのでもう寝よう。

 明日に備えて…………
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