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序章

エピソード8 謁見と暗躍

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 帝国は一極集中の専制政治を行っている。その為帝王である父上はトップとして君臨し、忙しい日々を送っているので家族と言えども中々会う機会がない。
 父上との謁見の予定も三ヶ月待ちとなり春過ぎになりそうだ。その間はイーサン兄さんと城下への視察、勉強、ガチ訓練に励んでいた。

 変わった事と言えば、オレの身長が十センチ伸びて百三十センチになった事と、教会のガキ達に懐かれてた事かな。
 あれから毎週教会に出向き、女の子とは花の冠作り、男の子とは鬼ごっこ、小さい子達へは絵本の読み聞かせでみんな目を輝かせて聴いてくれる。

(くっ~尊いなぁ。今はこの子達は真っ白の心だけど教会が取り壊されたりすると路頭に迷ってしまい、生きていく事に必死になり真っ白で純粋な心を失わせてしまう)

 オレは教会や孤児達の変わらない現状という現実に引き戻され、笑顔から徐々に憂いを帯びた表情になっていく。

 孤児の中でお兄さん的な二人の男の子が、
「オレ達はお姉ちゃんと会えるのが楽しいよ。今ままで、神父様以外は俺たちの事を見向きもしなかったからさ、だからありがとう」

 顔を真っ赤にしてモジモジしながら感謝しての言葉を伝えてくれた。

 おいおい尊さの追い討ちか? オレはずっと偽善じゃないかと不安に思っていた心が溶かされ何とも言い難い暖かさに包まれる。本当に欲しかった言葉が聞けて目の奥が熱くなるのを抑えた。
 
 帰宅後、何故かヒュンメルから武器を貰った。刃渡り約百センチぐらいのあまり曲がってない反曲刀タイプのサーベルと言わる片手剣だった。片刃はとても鋭利になっており斬る事も突く事も出来る優れもので強度もあるらしい。
 その秘密はドワーフ略式製鋼法と言う一子相伝の技術らしく、鉄のような素材を使っているのに不純物が少なく錆びにくくて硬くて軽い力作らしい。 

「ヒュンメル、あの時鍛冶屋のおじさんと話していたのはこの剣の事で?」

 コクコクと頷き、鞘を手渡された。
 少し早めの誕生日プレゼントなのだろう。
 何でこの時期にオレが欲しいとも思わなかった剣なんだ。
 あまり考えると何か悪いフラグが立ちそうなので、ヒュンメルには悪いがこんな立派な剣を使う事は一切考えていない。
 しかし鑑賞用に部屋の壁に飾るとしても目立ち過ぎるなあ……う~ん……よし廊下側の扉の上に飾ってもらい、誰が見てもオレの部屋と分かるように目印にしてみよう。
 そしてサーベルを鞘にしまうと、鞘の刻印が帝国ではなく見慣れない模様の刻印だった。

「ヒュンメルこの刻印は?」

「実は……スノウ様をイメージしてお作りいたしました」

 雪模様にライオンが描かれている。

 どう言葉を返そう…………ヒュンメルの中でのオレに対するイメージがわからない。取り敢えず
「お…………あ、ありがとう」だけ伝えた。
 こんな手の込んだ物を部屋の装飾として考えていた事はヒュンメルに言えない。
 仕方なく部屋で保管する事になった。
 
(もう既に変なフラグが立っている気がする)

 取り敢えずこの剣の名前はスネーフリンガーと名付けよう! うん立派な厨二…… ゲフン、普通にサーベルか剣と呼ぶ事にした。


 その後離宮にイーサン兄さんがやって来て、無事に謁見を終えたら城下の美味しい料亭でご馳走してくれるらしい。
 流石イーサン兄さん! わかってらっしゃる。
 武器なんかより色々な異世界料理のほうが断然興味深くて、楽しみでございます。
 もうホストクラブの経営者でやっていけるよイーサン兄さん!


 そんなこんなで春を迎えた。
 イーサン兄さんは沢山の情報を準備し、遂に謁見の時がやってきた。ダイアナ王妃に合わず父上と宰相に話を通す為に。

「どうしたお前達? わざわざこの場に来て」
「父上、折り入ってお願いしたい事があります」
 
実は王座の間に入る直前に、オレはビクビクと緊張しており大まかな所はイーサン兄さんが父上とやり取りしてくれる事になっていたので、イーサン兄さんと父上で本題の話が始まる。

「ここ数ヶ月スノウと共に城下を視察して参りました。そこでは西区にある老朽化の進んだ教会と孤児達の暮らしを知る事ができました。そこでスノウから現状を打破するアイデアがあるそうです」
 
 イーサン兄さんは数分程度にまとめて詳細な視察内容を話し、オレに後を託した。
 集めた情報とともに。

 よし来たか! オレのターン!
 オレは深呼吸を一つした。

「この教会は一部の貴族達から迫害を受けております。そこで二つ程お願いしたい事があります」 
 
 父上は、ほんの少し眉を吊り上げて
「続けよ」
 と言った。

「民達から聞いた噂では、教会を取り壊そうとしている貴族の格好をした不審者がスラムの悪人と関わり、子どもの奴隷売買疑惑関与しているようです」

「ほぅ」

「その為まず一つ目に帝王の印象入りで【イーサンとスノウの行う慈悲深い行動に賛同した貴族家を知りたい】と一文を父上の直筆で書いた手紙を一通いただけないでしょうか?」

「ん、それが何故必要なのだ」

「後程必ず手紙が必要となるからです」

 こんな説明でお願いが通せるのか、オレは内心ハラハラしていた。

  父上は少し厳しい表情をしているが、少しだけ口角を上げ「まぁ話を聞いてやろう」と言った。

「ありがとうございます」
「まずは視察している私やイーサン兄上の宝石や調度品等を信頼できる数名の商人達に売却します」
「また売却の手続きに直接立ち会い商人達へ手紙を見せて、時期が来るまで意図的に《私》が教会の為に私財を使ったと噂を広めてもらいます」
 
「その噂とお前達が教会に献金したとなれば、流石に貴族達も黙っておれぬな」

「はい。貴族達も同じように献金を行うと私は考えております。そうしないと体裁を保てなくなります」
「しかし献金に動かない者がいるかも知れません。私に反感を持つ貴族達です」

「ふむ……そう言った一部の者は依頼という名目で低位貴族に最低限の献金をさせ、バレた時に低位貴族が横領したと有耶無耶にする恐れもあるぞ」
 
 流石父上、高位貴族が疑わしい事に既に気付いている。
 
「そこで私と護衛兵のヒュンメルと商人達で献金した貴族の元に出向いて、先日の献金の件で先程の手紙が有効になってきます。協力した貴族達は皇太子と帝王からの感謝を受けた事で、社交会等で一目置かれる存在感となり話も広まる事でしょう」
「協力しなかった貴族達は皇太子だけでなく下手したら帝王を敵にまわすかもしれないと思い焦りますが、既に名簿には名前が入っていない者たちなので、ある程度炙り出すことが出来ます」
 
「なるほど」

「しかし、炙り出されたその貴族達は、帝国に不満を持つ者達ではないかも知れないです」
「私の存在が妬ましく思う者もいるかと考えております」
「その為イーサン兄上の名前を最初に出さずに私の名前で献金を行う事が良いのではと考えました」

「ふむ……お前自身はそれで良いのか? これから危険に会う事が増えてくるぞ」
 
 その言葉でオレは一瞬でも背中がゾクッと震えた。
「はい、全て承知の上です」

「イーサンもそれで良いのか?」

「はい、スノウの意志を尊重します。こらからは私の護衛達にもスノウを見守るよう伝えます」

「では好きにするが良い」

「「はい」」

 一時間も経っていないが緊張で疲れがハンパない。
 威厳があり過ぎて神経をすり減らされた……

 そんなオレの顔を見てイーサン兄さんは

「少し休憩してお昼は誕生日祝いも兼ねて城下の料亭に行こう」

 あ~心が少し癒されました。
 老舗の喫茶店でコーヒーを淹れながらお客さんの話を聞くマスター並みの安定感です。





 ………………………………


「ベイグランドよ。お前はどう思う。」
 
 ベイグランドと呼ばれる宰相らしき人物が答える

「粗はありますが僅か八歳児になる子どもの考えではなく、大人と話しているように思いました。イーサン様も才能豊かですが、スノウ様は想像以上の天才児で驚いております。また帝国の王位問題で荒れる事まで考えて、すで皇位継承権を放棄していると聞いています。そしてスノウ様に肩入れしているイーサン様への被害が出ないよう自分だけが受け止めるような配慮も出来ており、本当に勿体ない人物だと思います」

「そうか………………帝国は実力主義だ。マキシムに申し訳ないが、このまま変わらぬようなら継承権の変更もあるかもしれんな。スノウはそれを望んでいないが…………」
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