元夫婦のきずなはゲームの運命を超えるのか~ファミリーリインカーネーション~

前野羊子

文字の大きさ
上 下
5 / 30

5【悪役令嬢かも】

しおりを挟む
 王城の図書館で、私の指定席にいた男の子は左手の甲を見せながら名乗った。
「けんいち?まさか、はなざわけんいち?」
 すると彼は一瞬目を見開いたかと思うと、静かに泣き出した。

「あ、あの、ごめんなさい」
 閲覧室の周りを見て他人の視線を確認しながら、少し年上の男の子を泣かせてしまったことに慌てる。
「いいえ、大丈夫です。プリンセス。
 もしよろしければ私に左手を見せていただけますか?」

 でも、私の傍らには、王女の私に何かあってはいけないと、ばあやと護衛がいる。
「ここでは、見せられないです」
 思わず手袋の手を両方とも後ろに隠す。

  〈 フェルゼン ハルキア〉
 太一が買ってきてくれた乙女ゲームに出てくる、パッケージの中央を飾っていた攻略対象の名前だった。あのゲームのスチルより少し幼いけれど、確かにこの人だわ。確かにハンサムで、可愛いわ。
 彼の名前を聞いて、たった今やっと自分の事も分かった。私はあのパッケージの端っこに描かれていた、悪役令嬢だ。

「それに、私は貴方に酷いことをするかもしれないので、近づかない方が良いですわ」

 今度は私の方が泣きそう。

「大丈夫です、俺の元には太一もいるんですよ!」
 フェルゼンの放ったもう一人の名前に思わず身を乗り出してしまった。

「!本当ですか」
「だから、改めて絶対正式にご挨拶しますので!待っていてください」

「はい、わかりました。お待ちしております」

 フェルゼンは手を隠して固まっている私に近づいて、髪を一房取ってキスをすると、図書館を出て行ってしまった。
 髪にキスをするなんて、前はそんなことする人だったかしら。

 中身は健一かもしれないけれど、フェルゼンのキャラクターも居るんじゃない?

 私はフェルゼンが座っていた椅子に座ってぼうっとしていた。読書なんてできないわ。

 さっき名乗られたときに、それまでおぼろげに引っかかっていた設定や地名などの単語たちがすっきりと嵌った。
 やっぱり私は、乙女ゲームの悪役令嬢として転生したのだわ。

 太一がくれたゲームの他にネット小説なども読んでいた私は悟ってしまった。
 それまでは、異世界転生をして、よくある設定や名前だなとは思っていたが、確かにマリー ディアナはフェルゼン ハルキアの婚約者だった。でも、隣の国の王女だったからその国の情報は無いし、このディアナ王国の設定なんてなかったもの。

 どうりで、中世のヨーロッパ風の国なのに、公用語が日本語だったのね。日本のゲームだったから。

 しばらくして、夏になり、私は避暑地であるハルキア王国との国境の湖のほとりにある別荘で過ごしていた。この避暑地はハルキア王国とディアナ王国共同で運営していて、両国の交流地としても人気の観光地だった。

 ディアナ王家の別荘では父王がどうしても自分でしなければならない執務を持ってきて、王后の母と私と過ごしていた。王城では王太子の長兄が執務をしていた。

 そんなある日、とうとう先ぶれが別荘に来て、私はハルキア王国に呼ばれ、母と訪問することになってしまった。

 元々私たち近隣の国々の王族や上級貴族は、交流を広げる意味も兼ねて十歳になったらハルキア王国にある学園に入学することになっていた。

 今回は年の近いフェルゼン王子の妹や弟も一緒に、入学まで二年あるけれど、同級生になる貴族の子供たちと、顔合わせを兼ねた気軽な母子連れのパーティーに呼ばれたのだった。

 ハルキアの王宮のガーデンパーティ会場では、主催の王后が出迎えてくれた。

 ハルキア王后は、友人関係にあるらしく、ディアナ王后の母と親しげに挨拶をして話をしていた。十二年の間に、六人もの子供を産んだママとは思えない可愛らしくて素敵な女性だった。
「今日、このパーティーを主催したのはわたくしですけど、国王陛下がどうしてもマリー姫にお会いしたいとわがままを言ってまして、マリー姫一人だけではだめよと念を押してますの。だから、ディアナ王后と一緒に会ってやってくれませんか?」

 私は少し悩んで、母の顔を見る。
 でも母も王后なので、この国の国王陛下とも面識があるからか、
「ええ。もちろんいいわよ」
「じゃあ、私はまだこのパーティーを仕切らなければいけないから、フェルゼンに案内させるわね。
 フェルゼン!」
「はい、ようやく呼んでくださいましたね母上」
 ディアナ王后に呼ばれるまで、他の子供の特に女の子の相手をしたくないと、空気になっていた王子が出てきた。
「こんにちはフェルゼン王子。お久しぶりね」
「お久しぶりです、ディアナ王后陛下。
 そしてマリー姫、お会いしたかったです」
 そう言って、私の左手を取って手袋越しにキスをしてきた。

 だから、そんなキャラだった?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非! *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

ゲーム序盤に殺されるモブに転生したのに、黒幕と契約結婚することになりました〜ここまで愛が重いのは聞いていない〜

白鳥ましろ@キャラ文芸大賞・奨励賞
恋愛
激甘、重すぎる溺愛ストーリー! 主人公は推理ゲームの序盤に殺される悪徳令嬢シータに転生してしまうが――。 「黒幕の侯爵は悪徳貴族しか狙わないじゃない。つまり、清く正しく生きていれば殺されないでしょ!」  本人は全く気にしていなかった。  そのままシータは、前世知識を駆使しながら令嬢ライフをエンジョイすることを決意。  しかし、主人公を待っていたのは、シータを政略結婚の道具としか考えていない両親と暮らす地獄と呼ぶべき生活だった。  ある日シータは舞踏会にて、黒幕であるセシル侯爵と遭遇。 「一つゲームをしましょう。もし、貴方が勝てばご褒美をあげます」  さらに、その『ご褒美』とは彼と『契約結婚』をすることで――。

記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい

廻り
恋愛
 王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。  ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。 『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。  ならばと、シャルロットは別居を始める。 『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。  夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。  それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

処理中です...