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短編集
雪、降る、降る
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桜井櫻子様に捧ぐ。
Twitterで親しくしていただいている桜井さん(@bloodycage)から『臨恋の雪乃・雪の日の思い出』のお題をいただきました。
********************************************
昼頃からチラチラと舞いはじめた雪は、日が暮れる頃にはだいぶその勢いを増していた。真っ直ぐに伸びた街路樹の枝はすでにうっすらと綿帽子を被っている。
雪乃は和司の従兄がオーナーをつとめる店『リフージョ』へ向かって歩いていた。
真っ白なコートは膝丈で、その裾からチョコレートブラウンのスカートが見え隠れしている。いくら厚手のタイツとロングブーツを履いているとは言え、この天候では寒い。
服選びを間違ったかな、と言う思いが一瞬彼女の頭をよぎる。
が、しかしせっかく平日に和司と会えるのだから、少しぐらいやせ我慢したっていいじゃない、と思い直す。おしゃれは根性だ。
人々が行き来する歩道にはまだ雪は積もっていない。地面の熱か、それとも降り落ちるたびに誰かに踏みしだかれるせいか。
滑るのを気にしないで済むのは幸いとばかりに彼女は足早に歩いた。
息が切れるのも構わず、真っ直ぐ前を見て、サラサラの髪をなびかせて。
しかし、彼女に急ぐべき理由など何もなかった。
待ち合わせ時間に余裕をもって会社を退出しているのだから。ただ単に、はやる気持ちを紛らわすために足を動かしただけなのだ。
「少し早かったかな?」
リフージョの前で腕時計を見れば、驚くような速さで到着したようだ。
「新記録」
雪乃は一人苦笑いを浮かべた。
あれほど寒いと思っていたのに、いつの間にかだいぶ温まっていた。
予定通りに会社を出たと連絡があったので、もうそろそろ和司は駅に着くはずだ。
先に店に入っていていいと言われているけれど、雪乃は店のドアを開けることなく端に寄った。通行人にも店を出入りする人にも邪魔にならない場所で、彼を待つ。
待つのは嫌いじゃない。
だから、無理がないくらい少しの時間ならここで待っていたい。
雪乃は傘の柄をギュッと握り直した。
手袋をしていないむき出しの指は赤い。我慢できないほどではないが、かじかんで動きが鈍い。手が我慢できないほど痛くなったら、店に入ろうと決めた。
差した傘に落ちた雪はサラサラと小さな音を立てて滑る。
その音を聞きながら彼女は物思いにふけった。
まだ小さかった頃。
とめどもなく舞い落ちる雪がどこから生まれているのか不思議で仕方なかった。
じっと見ていたら雪が現れる瞬間が見えるんじゃないかと思って空を仰いだ。
頬に落ちかかる雪の冷たさに肩を竦め。
目に入ってきそうな怖さに目を細め。
それでもじっと顔を上げていれば、眩暈に似た浮遊感があった。
まるでどんどん自分が空に上がっていくような錯覚。
初めは面白かったのに、そのうち一人ぼっちな気がしてきて、怖くて俯いた。
けれど浮遊感がおさまればまた感じてみたくて上を向く。繰り返し、繰り返し空を見た。
あの懐かしい感覚。
今でもまだ感じられるのかな?
雪乃はそっと傘を閉じた。そうしてゆっくりと天を仰ぐ。
見上げた空は暗い。
が、しかし地上のネオンが照らしているからか、黒いと言うよりはグレーがかって見える。
そこから白い雪が舞い落ちてくるけれど、やっぱり雪の『始まり』は見えない。
舞い落ちてくる雪を頬に受ければ、懐かしい浮遊感。
あ、大人になっても変わらない──
それが嬉しくて、ひとり微笑を浮かべた。
空をどんどん上がっていく錯覚。それに身を任せられたのはほんの少しの間だった。
あまりに久々過ぎて体が感覚を忘れたようだ。バランスを取ろうとしても抑えられず体がふらつく。
酔っちゃいそうだから、もう終わりにしよ。
頭を戻そうと思った途端、視界が遮られた。
「何してるの、雪乃?」
雪と、雪乃を遮ったのはよく見知ったシルエット。
「か、か、和司さん!?」
「傘も差さないで。ほらこんなに冷えてる」
さかさまに彼女をのぞき込む和司は顔を顰めつつ、雪乃の頬を両手で包んだ。冷えた頬に彼の手の温もりは熱い。
「あったかーい」
「あったかーい、じゃないよ、もう。風邪ひくよ?」
背後から包み込むように雪乃の肩を抱いた。
背中に感じる大きな温もりにほっとした彼女は、そこでやっと和司も傘を差していないことに気づく。
「和司さんこそ傘は?」
「俺のことはいいの」
と自分を棚に上げる和司に、雪乃はかすかに眉根を寄せた。
更に問い詰めれば、「走るのに邪魔だったから」と、とんでもない答えが返ってきた。
目を丸くして何かを言おうとした雪乃を遮るように、和司が尋ねた。
「それより、どうして上を見ていたの? 何も変わったものは見えないんだけど」
「小さい頃──」
雪乃が答えると、彼は「ああ」と頷いた。
「俺もやったよ、それ。懐かしいなぁ」
言いながら空を仰いだ。つられて雪乃も上を向く。
どれだけ錯覚を覚えても、そこに孤独は感じない。
自分の肩を抱く大きな腕と、背中に感じるぬくもりはいつまでも消えないから。
-----------------
2016.8.29 再掲載にあたり加筆修正を加えました。
初出:2015.1.3 ぷらいべったー(フォロワー限定公開)
Twitterで親しくしていただいている桜井さん(@bloodycage)から『臨恋の雪乃・雪の日の思い出』のお題をいただきました。
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昼頃からチラチラと舞いはじめた雪は、日が暮れる頃にはだいぶその勢いを増していた。真っ直ぐに伸びた街路樹の枝はすでにうっすらと綿帽子を被っている。
雪乃は和司の従兄がオーナーをつとめる店『リフージョ』へ向かって歩いていた。
真っ白なコートは膝丈で、その裾からチョコレートブラウンのスカートが見え隠れしている。いくら厚手のタイツとロングブーツを履いているとは言え、この天候では寒い。
服選びを間違ったかな、と言う思いが一瞬彼女の頭をよぎる。
が、しかしせっかく平日に和司と会えるのだから、少しぐらいやせ我慢したっていいじゃない、と思い直す。おしゃれは根性だ。
人々が行き来する歩道にはまだ雪は積もっていない。地面の熱か、それとも降り落ちるたびに誰かに踏みしだかれるせいか。
滑るのを気にしないで済むのは幸いとばかりに彼女は足早に歩いた。
息が切れるのも構わず、真っ直ぐ前を見て、サラサラの髪をなびかせて。
しかし、彼女に急ぐべき理由など何もなかった。
待ち合わせ時間に余裕をもって会社を退出しているのだから。ただ単に、はやる気持ちを紛らわすために足を動かしただけなのだ。
「少し早かったかな?」
リフージョの前で腕時計を見れば、驚くような速さで到着したようだ。
「新記録」
雪乃は一人苦笑いを浮かべた。
あれほど寒いと思っていたのに、いつの間にかだいぶ温まっていた。
予定通りに会社を出たと連絡があったので、もうそろそろ和司は駅に着くはずだ。
先に店に入っていていいと言われているけれど、雪乃は店のドアを開けることなく端に寄った。通行人にも店を出入りする人にも邪魔にならない場所で、彼を待つ。
待つのは嫌いじゃない。
だから、無理がないくらい少しの時間ならここで待っていたい。
雪乃は傘の柄をギュッと握り直した。
手袋をしていないむき出しの指は赤い。我慢できないほどではないが、かじかんで動きが鈍い。手が我慢できないほど痛くなったら、店に入ろうと決めた。
差した傘に落ちた雪はサラサラと小さな音を立てて滑る。
その音を聞きながら彼女は物思いにふけった。
まだ小さかった頃。
とめどもなく舞い落ちる雪がどこから生まれているのか不思議で仕方なかった。
じっと見ていたら雪が現れる瞬間が見えるんじゃないかと思って空を仰いだ。
頬に落ちかかる雪の冷たさに肩を竦め。
目に入ってきそうな怖さに目を細め。
それでもじっと顔を上げていれば、眩暈に似た浮遊感があった。
まるでどんどん自分が空に上がっていくような錯覚。
初めは面白かったのに、そのうち一人ぼっちな気がしてきて、怖くて俯いた。
けれど浮遊感がおさまればまた感じてみたくて上を向く。繰り返し、繰り返し空を見た。
あの懐かしい感覚。
今でもまだ感じられるのかな?
雪乃はそっと傘を閉じた。そうしてゆっくりと天を仰ぐ。
見上げた空は暗い。
が、しかし地上のネオンが照らしているからか、黒いと言うよりはグレーがかって見える。
そこから白い雪が舞い落ちてくるけれど、やっぱり雪の『始まり』は見えない。
舞い落ちてくる雪を頬に受ければ、懐かしい浮遊感。
あ、大人になっても変わらない──
それが嬉しくて、ひとり微笑を浮かべた。
空をどんどん上がっていく錯覚。それに身を任せられたのはほんの少しの間だった。
あまりに久々過ぎて体が感覚を忘れたようだ。バランスを取ろうとしても抑えられず体がふらつく。
酔っちゃいそうだから、もう終わりにしよ。
頭を戻そうと思った途端、視界が遮られた。
「何してるの、雪乃?」
雪と、雪乃を遮ったのはよく見知ったシルエット。
「か、か、和司さん!?」
「傘も差さないで。ほらこんなに冷えてる」
さかさまに彼女をのぞき込む和司は顔を顰めつつ、雪乃の頬を両手で包んだ。冷えた頬に彼の手の温もりは熱い。
「あったかーい」
「あったかーい、じゃないよ、もう。風邪ひくよ?」
背後から包み込むように雪乃の肩を抱いた。
背中に感じる大きな温もりにほっとした彼女は、そこでやっと和司も傘を差していないことに気づく。
「和司さんこそ傘は?」
「俺のことはいいの」
と自分を棚に上げる和司に、雪乃はかすかに眉根を寄せた。
更に問い詰めれば、「走るのに邪魔だったから」と、とんでもない答えが返ってきた。
目を丸くして何かを言おうとした雪乃を遮るように、和司が尋ねた。
「それより、どうして上を見ていたの? 何も変わったものは見えないんだけど」
「小さい頃──」
雪乃が答えると、彼は「ああ」と頷いた。
「俺もやったよ、それ。懐かしいなぁ」
言いながら空を仰いだ。つられて雪乃も上を向く。
どれだけ錯覚を覚えても、そこに孤独は感じない。
自分の肩を抱く大きな腕と、背中に感じるぬくもりはいつまでも消えないから。
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2016.8.29 再掲載にあたり加筆修正を加えました。
初出:2015.1.3 ぷらいべったー(フォロワー限定公開)
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