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悪い噂

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 メグが病院に通いだしてからしばらく経った頃、桜小ではある噂が回り始じめていた。

「ねえ知ってる?中学で同じになる隣吏小の子の話なんだけどさ、人殺しした子がいるんだって。」
なんとも不気味な噂である。

こんな噂にクラスメイト達が聞き耳を立てないわけもなく。ましてや、楽しみにしている中学生活をともにするメンバーに、だ。
日数を重ねるごとに勢いを増し、徐々に噂も大きくなり始めていた。

 交流会の時にワカナから似たような話をきいていたメグは真相を確かめるために、早帰りの夕方、隣吏小学校のほうへ歩いていくことにした。ちなみにワカナとは、あれから随分仲良くなり、休みの日や学校の後、よく遊ぶ仲になっている。

隣吏市に近づくと下校途中の小学生が歩いて帰ってきているのがみえた。
時間帯的に5.6年生だろう。

女の子の集団と男の子の集団の列から明らか1人浮いて下校している影がみえた。
病院で話をきいているメグは、それがレンだとすぐに判断ができた。

「あれ?メグちゃん!?」
ワカナがメグをみつけて走ってきてくれた。
交流会で仲良くなった女の子たちもメグをみつけて手を振ってくれている。

「ワカナ!ごめんね、急に!」

「ううん、どうしたの??」

「実はちょっと聞きたいことがあって。その、今桜小の方で噂がまわっててさ。」

ワカナとその周りにいた男女はすぐに察したような顔をする。

「もしかして…人殺しの噂??」

「…うん。」

「やっぱりな。」
「まわってるのか」
メグの返事に皆がうなづいた。

「このまえの交流会のときに少し話したけど…。」

ワカナは俯きながらも話してくれた。

「小学四年生のとき、同じクラスだった女の子を、レンが、"お前は明日、交通事故で死ぬ "とか予言して、本当に死んじゃった、って話。うん、嘘じゃない。本当の話だよ。」

「あいつが言い放ったことが本当になったから、みんながレンのこと人殺しって呼んでるんだよ。」

「不気味だし、桜小の子達が不安になるから、あんまり言わないでおこうねって先生いってたけど、やっぱり広まっちゃうよね。」

「まあしょうがないよねえ。」



周りにいた男女がワカナのかわりに付け足した。その横をみんなより遅れて歩いていたレンが通り過ぎようとする。

「レン、呼ばれてるよ?返事は?」

 男子が茶化して笑いながら、レンのランドセルをぐいと自分たちのほうへ引き寄せた。
ぐらついたレンは一瞬立ち止まったが、すぐにその手を振りほどき、さっさと歩きだした。

「きったねー!呪いうつるわ!」
吐き捨てるように男子が叫んで、どっと笑いが起こった。

「相変わらず辛辣だな、優理ゆうりは!」

「お前が一番当たり強えだろ。」

「リュウだって負けてねえじゃん!」

そういってほかの男子がバシバシと彼の背中を叩いた。ふと聞いたことのある名前にメグは反応する。

「ユウリ…??もしかしてリリカの。」

「え??あ!そうそう!リリカの従兄弟!話聞いてるよ!メグちゃん!」

そういって笑った彼は、リリカがよく話していた従兄弟の斎藤 優理さいとう ゆうりだ。

「ちなみに噂教えたの俺!」
笑いながらユウリがそういうと、周りも、お前かよー、とつられて笑った。
その瞬間、前を歩いていたレンが振り返る。

「お、どうした???」
予想外のレンの反応に周りの男子が思わず反応する。なにか言いたげなレンだが、口は閉じたまま、またふいと顔をそむけてしまう。

「無視すんじゃねえよ…!」

 ユウリを横で揶揄っていた男子の1人が叫び、勢いでそのままレンのランドセルに向かってぶつかりにいく。
後ろからの衝撃に足を持っていかれたレンは手をついて前に倒れ込んだ。
 衝撃的な展開に思わず声を張り上げそうになるメグ。なんなんだ、このクラスメイトは。
 倒れ込んだ瞬間に男子は「よっしゃ!」とガッツポーズまで決め、周りにいた他の生徒もクスクス笑っている。レンは何事もなかったかのように立ち上がり、服についた砂を払った。再び歩き出す手前、後ろにいたワカナやユウリの方を睨み返した。



「いや、だからなに?なんか言えば??」
ワカナが追撃する。

「本当睨むだけだよね?あいつ。本当気味悪い。」

ワカナがメグに問いかけるとほかの女子がうんうんとうなづく。

 レンの話をソウタからきいていたメグは、この時点でワカナやユウリをはじめとするクラス全員がレンを仲間に入れる気配が全くないことに確信がついた。助け舟をだす人が一人もいない。邪魔者扱いで笑ってばかりだ。



 そのときだ。睨み続けていたレンが突如口を開いた。それはメグが、初めてレンの声を聞いた瞬間だった。


「呪いに触れたら、触れたやつから殺されるぞ。」


 酷く低いその声は不思議と怒りを感じなかった。静かで、でもどこか残るような印象的な声だ。だが突然喋ったレンに驚いたクラスの人達は、騒ぎながら大急ぎで走っていってしまった。
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