最愛の夫に、運命の番が現れた!

竜也りく

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子供の頃のように

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「この周辺って」

「邸と湖を囲むように森が広がっているだろう? その森の中程に、私有地を明示するための塀があるんだ。元々その中は一般の人は立ち入り禁止だから、特に今までより出入りが厳しくなったわけでもないよ」

「あ、そうなんだ……」

ちょっとホッとした。

「今日はもう物資の受け渡しは終わったから、他には誰もいない。ああ、こうしてビスチェの甘い香りに包まれると今すぐにでも抱きたくなってしまうけれど……」

チュ、チュ、と可愛らしい音を立てて、ラルフがオレの頬に口付ける。

「誰もいないところで、ビスチェとただゆっくり話すのも楽しみにしていたんだ」

「ラルフ……」

「子供の頃は、ふたりで書庫に籠って本を読んだり、この邸を探検したりもしただろう? そんなふたりだけの時間をまた持ちたいと思って、ここに連れて来たんだけれど」

オレの髪を撫でてくれる手は優しくて気持ちいいけれど、ラルフの青い瞳の奥には確かに情欲の色も見えている。

抱かれてしまえばきっと、ふたりともまた互いに夢中になってしまう。オレもラルフの言う通り、正気のままラルフとの時間を楽しみたいと思った。

「オレもまだラルフとこうして話していたい。バース性の事だとか『運命の番』の事だとか、何にも気にしないでラルフと話せるの、オレ本当に子供の時以来かも。ずっとそれが引っかかってて、オレ、素直にラルフと話せなくなってたんだ」

「そうか、それでビスチェが冷たくなった時期があったんだね」

「うん……ラルフがアルファでオレがオメガって分かって嬉しかったけど、オレはラルフの『運命の番』じゃないってはっきり分かって、どう接したらいいか分からなくなっちゃって」

「そうだったのか。……あの時は寂しくて悲しかったけれど、そんな風にビスチェは悩んでいたんだね」

「うん。ラルフにはどうしても言えなかった」

もしラルフに気持ちを打ち明けて、運命じゃなくても大丈夫だよ、って言ってくれたとしても、僕はきっとその言葉を信じられない。それが分かっていたからこそ、言えなかった。

自分の疑り深さ、自身のなさがそうさせていたんだろう。

急に態度を変えられて、辛かったのはラルフの方だろ思うのに、ラルフはなぐさめるようにオレの髪をゆっくりとなで続けてくれる。

撫でられるごとに心の不安が解けて行くみたいだった。

「今まで本当にごめんね、ラルフ」

「その葛藤も含めて、僕はビスチェが愛おしい」

またチュ、と口づけてくれるのが嬉しい。オレも応えるように口付けを返した。
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