58 / 73
親鳥みたいだ
しおりを挟む
思わずうっすらと唇を開いたら、ラルフの舌がそのあわいを薄く撫でる。
そして、ハッとしたように唇が離れた。
「あ……」
もっとキスをくれると思ったのに、急に唇が逃げてしまって寂しい。
けれどラルフは自分の唇をおさえて眉間に皺を寄せた。
「ラルフ?」
「危なかった、ビスチェに食事を取らせたいと思って我慢していたのに、危うく押し倒すところだった」
「はは、そうだったんだ」
「ああ、ビスチェはもうまる三日以上まともに食事を取っていないからな。いくら補給水が優秀でもいい加減食事をとらないと身体に悪い」
そう言ってラルフはベッドサイドに置かれたトレイの上から丸い銀の覆いを取り除く。中からふわっと湯気が上がってまだ温かいミルク粥が姿を現した。
「ありがとう」
ミルク粥を貰おうと手を出したら、その手を取って口づけられる。ラルフはにっこりと笑って、そのままオレの手を大切そうに布団の中に押し込んだ。
「はい、口を開けて」
「今日はそこまでしなくても大丈夫だよ」
「ダメだよ、いつも言っているだろう? ほら、大人しく口を開けて」
ヒートで激しく求め合った後に目覚めた時、ラルフはいつもこうやって食事を口まで運んでくれる。
確かに意識がまだはっきりしていない事もあれば、手を動かすのさえ億劫な事も多いから、ありがたく口を開く事も多いんだけれど、今日は『特別な補給水』のおかげでいつもよりはずっと体に力が入るんだけど。
苦笑しながら口を開けたら、ラルフが慣れた様子でミルク粥を口に入れてくれる。
ゆっくりと咀嚼するオレを見ながら、ラルフは満足そうに微笑んだ。
「ああ、やっぱり可愛い。この時間は僕の至福の時間なんだから、奪わないでくれ」
「母鳥みたいだな」
「どちらかというと、番の衣食住全てを満足させたいアルファとしての欲求だと思う」
オレを熱の籠った目でみつめながら、ラルフは食べやすいテンポで食事を口に運んでくれる。ひと通り食べ終えてココアを飲んでいたら、ラルフがぽつりと呟いた。
「それにしても早々に『運命の番』とやらが現れてくれて、僕は幸運だったな」
「え」
「でなきゃ、僕はいつまでもビスチェに信じて貰えないままだった」
「ごめん……」
「どうやって分かって貰うかを考えるのも楽しかったけれど、やっぱりこうして『唯一』の座を僕にくれたと思うと感無量だ」
そう言って、本当に幸せそうにラルフが笑う。
その顔は今まで見たどんな顔よりも満足そうで、穏やかな幸せに満ちていた。
そして、ハッとしたように唇が離れた。
「あ……」
もっとキスをくれると思ったのに、急に唇が逃げてしまって寂しい。
けれどラルフは自分の唇をおさえて眉間に皺を寄せた。
「ラルフ?」
「危なかった、ビスチェに食事を取らせたいと思って我慢していたのに、危うく押し倒すところだった」
「はは、そうだったんだ」
「ああ、ビスチェはもうまる三日以上まともに食事を取っていないからな。いくら補給水が優秀でもいい加減食事をとらないと身体に悪い」
そう言ってラルフはベッドサイドに置かれたトレイの上から丸い銀の覆いを取り除く。中からふわっと湯気が上がってまだ温かいミルク粥が姿を現した。
「ありがとう」
ミルク粥を貰おうと手を出したら、その手を取って口づけられる。ラルフはにっこりと笑って、そのままオレの手を大切そうに布団の中に押し込んだ。
「はい、口を開けて」
「今日はそこまでしなくても大丈夫だよ」
「ダメだよ、いつも言っているだろう? ほら、大人しく口を開けて」
ヒートで激しく求め合った後に目覚めた時、ラルフはいつもこうやって食事を口まで運んでくれる。
確かに意識がまだはっきりしていない事もあれば、手を動かすのさえ億劫な事も多いから、ありがたく口を開く事も多いんだけれど、今日は『特別な補給水』のおかげでいつもよりはずっと体に力が入るんだけど。
苦笑しながら口を開けたら、ラルフが慣れた様子でミルク粥を口に入れてくれる。
ゆっくりと咀嚼するオレを見ながら、ラルフは満足そうに微笑んだ。
「ああ、やっぱり可愛い。この時間は僕の至福の時間なんだから、奪わないでくれ」
「母鳥みたいだな」
「どちらかというと、番の衣食住全てを満足させたいアルファとしての欲求だと思う」
オレを熱の籠った目でみつめながら、ラルフは食べやすいテンポで食事を口に運んでくれる。ひと通り食べ終えてココアを飲んでいたら、ラルフがぽつりと呟いた。
「それにしても早々に『運命の番』とやらが現れてくれて、僕は幸運だったな」
「え」
「でなきゃ、僕はいつまでもビスチェに信じて貰えないままだった」
「ごめん……」
「どうやって分かって貰うかを考えるのも楽しかったけれど、やっぱりこうして『唯一』の座を僕にくれたと思うと感無量だ」
そう言って、本当に幸せそうにラルフが笑う。
その顔は今まで見たどんな顔よりも満足そうで、穏やかな幸せに満ちていた。
133
お気に入りに追加
1,235
あなたにおすすめの小説

もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

【完結】愛してるから。今日も俺は、お前を忘れたふりをする
葵井瑞貴
BL
『好きだからこそ、いつか手放さなきゃいけない日が来るーー今がその時だ』
騎士団でバディを組むリオンとユーリは、恋人同士。しかし、付き合っていることは周囲に隠している。
平民のリオンは、貴族であるユーリの幸せな結婚と未来を願い、記憶喪失を装って身を引くことを決意する。
しかし、リオンを深く愛するユーリは「何度君に忘れられても、また好きになってもらえるように頑張る」と一途に言いーー。
ほんわか包容力溺愛攻め×トラウマ持ち強気受け

歳上公爵さまは、子供っぽい僕には興味がないようです
チョロケロ
BL
《公爵×男爵令息》
歳上の公爵様に求婚されたセルビット。最初はおじさんだから嫌だと思っていたのだが、公爵の優しさに段々心を開いてゆく。無事結婚をして、初夜を迎えることになった。だが、そこで公爵は驚くべき行動にでたのだった。
ほのぼのです。よろしくお願いします。
※ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。

嫌われ変異番の俺が幸せになるまで
深凪雪花
BL
候爵令息フィルリート・ザエノスは、王太子から婚約破棄されたことをきっかけに前世(お花屋で働いていた椿山香介)としての記憶を思い出す。そしてそれが原因なのか、義兄ユージスの『運命の番』に変異してしまった。
即結婚することになるが、記憶を取り戻す前のフィルリートはユージスのことを散々見下していたため、ユージスからの好感度はマイナススタート。冷たくされるが、子どもが欲しいだけのフィルリートは気にせず自由気ままに過ごす。
しかし人格の代わったフィルリートをユージスは次第に溺愛するようになり……?
※★は性描写ありです。

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど
野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。
愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。
それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。
ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。
イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?!
□■
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
完結しました。
応援していただきありがとうございます!
□■
第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

当たり前の幸せ
ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。
初投稿なので色々矛盾などご容赦を。
ゆっくり更新します。
すみません名前変えました。


政略結婚のはずが恋して拗れて離縁を申し出る話
藍
BL
聞いたことのない侯爵家から釣書が届いた。僕のことを求めてくれるなら政略結婚でもいいかな。そう考えた伯爵家四男のフィリベルトは『お受けします』と父へ答える。
ところがなかなか侯爵閣下とお会いすることができない。婚姻式の準備は着々と進み、数カ月後ようやく対面してみれば金髪碧眼の美丈夫。徐々に二人の距離は近づいて…いたはずなのに。『え、僕ってばやっぱり政略結婚の代用品!?』政略結婚でもいいと思っていたがいつの間にか恋してしまいやっぱり無理だから離縁しよ!とするフィリベルトの話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる