最愛の夫に、運命の番が現れた!

竜也りく

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二刻分の薔薇を

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ラルフの匂いは感じていない筈なのに、それでもラルフに送られる視線はずっと強かった。

蕩けるように、誘うように。

けれどその一瞬の後には悔しそうに、恥じらうように。

目を逸らしてまた無意識に見つめる、その葛藤がみてとれて、こっちが苦しくなるくらい。

カツ、と音を立ててラルフの足がアリアナ嬢へと向く。

一歩、二歩と近づいた時、アリアナ嬢が絞り出すような声を出した。

「近寄らないで……!」

「ふむ」

必死に睨んでくるアリアナ嬢の姿に、思うところがあったんだろう。ラルフは後ろに控えていたアリッサちゃんに一言告げる。

「二刻分の薔薇を」

「かしこまりました」

音もなくアリッサちゃんが退出したのを見送って、オレはおずおずとアリアナ嬢に近づいた。

「……大丈夫? 辛いよね。オレもオメガだから、警戒しないでいいからね」

するとアリアナ嬢ははらはらと涙を零した。

「ごめんなさい……ごめんなさい、父が……とんでも無い事を」

息も絶え絶えなのに、うわごとみたいに「ごめんなさい」と謝るのを聞いて、オレまで悲しくなった。やっぱり彼女は本意ではなくここにいるんだ。

背中をさすってあげたいけど、きっとそれすら快楽に変換されるだろうと思うともどかしい。

「そうだ、ヒートを抑える薬……」

「お持ちしました。これを飲んでください。しばらくはヒートを抑えられます」

いつの間にかアリッサちゃんが、ローズティーを持ってきてくれていた。

「あ、これ……オレがヒートの時によく飲むヤツか。ラルフがすぐに帰って来れない時にローズティーが出てくるのってそういう事だったんだ」

「はい。お時間によって量を調節しております」

今更知った。だからヒートになっても割と落ち着いたままで居られたのか。てっきりオレはヒートが軽いんだと思ってた。

「ヒートの苦しさは僕では分かってあげられないからね。僕が戻るまでの間、少しでもその苦しさが緩和できるように、常に用意してあるんだよ」

ラルフはそう言って優しく微笑んでくれる。

「生薬だから身体にも優しいと聞いてね」

「知らなかった……ありがとう、ラルフ」

ラルフがそんな気遣いをしてくれていたなんて。驚きと嬉しさでちょっと感動してしまった。

「……愛されて、いるのですね……」

オレ達の会話をじっと見ていたアリアナ嬢が弱々しい声でそう呟いて、ゆっくりとローズティーへと手を伸ばす。

良かった、オレがいつも飲んでいると聞いて少しは安心してくれたのかも知れない。
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