41 / 73
つくづく同情する
しおりを挟む
震えてしゃくりあげているのが可哀相で、僕はただ慰めることしかできない。
そりゃそうだよね。
恋人がいるのに、親には無理矢理ここに連れてこられてヒートにされて、しかも親が捕縛されてひとりで取り残されてる。そんな状況、考えただけで背筋が凍る。
可哀相でアリアナ嬢の背中をゆっくりとさすっていたら、僅かな時間席を外したラルフが戻ってきた。
「……ビスチェ、アリアナ嬢、移動しながら話をしよう」
泣きながらも頷く彼女を連れて馬車に乗り込み、少しずつ落ち着いて来た彼女の現況をオレ達はゆっくりと聞き取っていく。
「へぇ、じゃあ幼馴染なんだ。オレ達と一緒だね」
話しているうちにちょっとずつ打ち解けてきて、オレ達はごく自然に話せるようになっていた。
もちろんラルフとアリアナ嬢それぞれに結界と浄化を施してるから、オレ的には実は結構大変だったりする。
「はい。お互いのバース性が分かった時は嬉しくて」
「じゃあお相手はアルファなんだね」
「ええ。けれど彼は裕福な商家の生まれでしたが平民なので、なかなか父の了承が得られなくて……彼自身が興した商会がようやく軌道に乗ってきて、わたくしの家への融資を条件にすれば父の許しも得られるんじゃないかと……そんな時だったんです」
それでも融資を条件にしないとならないのか、と苦い気持ちになった。
オメガにはどうしたって生きにくい世の中だ。
「ラルフ様にお会いした時に『運命の番』かもとは思ったものの、わたくしにも愛する人がおります。ですからわたくしもお父様には知られないようにと思ったのですが」
「護衛の人が報告したって言ってたもんね……」
こくん、と力なく頷くアリアナ嬢。ほんと、つくづく同情する。
「本当に、こんな事に巻き込んでしまって……」
「君のせいじゃないよ。君も今日は疲れただろう? 少しでも眠れるといいけど」
「家族に……なんと話せば良いのか……」
悲しそうに目を伏せる彼女が可哀相で痛ましい顔をしていたら、ラルフがとんでもない事を言い出した。
「君の家族には私から説明してあるから心配いらない」
「えっ……」
「さすがに、事が事だからな。アルフォンスに通信させて貰った」
「お兄様に……」
「ちなみに、今向かっているのは君の邸ではなく君の恋人、ダニエルの邸だ」
「ええっ!!!」
オレもアリアナ嬢も驚きすぎて言葉を失った。
「こんな時だからこそ、恋人に会いたいものだろう? 僕ならば家族よりもビスチェに会って抱きしめて貰いたいからね」
そりゃそうだよね。
恋人がいるのに、親には無理矢理ここに連れてこられてヒートにされて、しかも親が捕縛されてひとりで取り残されてる。そんな状況、考えただけで背筋が凍る。
可哀相でアリアナ嬢の背中をゆっくりとさすっていたら、僅かな時間席を外したラルフが戻ってきた。
「……ビスチェ、アリアナ嬢、移動しながら話をしよう」
泣きながらも頷く彼女を連れて馬車に乗り込み、少しずつ落ち着いて来た彼女の現況をオレ達はゆっくりと聞き取っていく。
「へぇ、じゃあ幼馴染なんだ。オレ達と一緒だね」
話しているうちにちょっとずつ打ち解けてきて、オレ達はごく自然に話せるようになっていた。
もちろんラルフとアリアナ嬢それぞれに結界と浄化を施してるから、オレ的には実は結構大変だったりする。
「はい。お互いのバース性が分かった時は嬉しくて」
「じゃあお相手はアルファなんだね」
「ええ。けれど彼は裕福な商家の生まれでしたが平民なので、なかなか父の了承が得られなくて……彼自身が興した商会がようやく軌道に乗ってきて、わたくしの家への融資を条件にすれば父の許しも得られるんじゃないかと……そんな時だったんです」
それでも融資を条件にしないとならないのか、と苦い気持ちになった。
オメガにはどうしたって生きにくい世の中だ。
「ラルフ様にお会いした時に『運命の番』かもとは思ったものの、わたくしにも愛する人がおります。ですからわたくしもお父様には知られないようにと思ったのですが」
「護衛の人が報告したって言ってたもんね……」
こくん、と力なく頷くアリアナ嬢。ほんと、つくづく同情する。
「本当に、こんな事に巻き込んでしまって……」
「君のせいじゃないよ。君も今日は疲れただろう? 少しでも眠れるといいけど」
「家族に……なんと話せば良いのか……」
悲しそうに目を伏せる彼女が可哀相で痛ましい顔をしていたら、ラルフがとんでもない事を言い出した。
「君の家族には私から説明してあるから心配いらない」
「えっ……」
「さすがに、事が事だからな。アルフォンスに通信させて貰った」
「お兄様に……」
「ちなみに、今向かっているのは君の邸ではなく君の恋人、ダニエルの邸だ」
「ええっ!!!」
オレもアリアナ嬢も驚きすぎて言葉を失った。
「こんな時だからこそ、恋人に会いたいものだろう? 僕ならば家族よりもビスチェに会って抱きしめて貰いたいからね」
130
お気に入りに追加
1,244
あなたにおすすめの小説

もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。
まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。
転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。
ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。
「本当に可愛い。」
「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」
かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。
「お願いだから、僕にもう近づかないで」
王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?
いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、
たまたま付き人と、
「婚約者のことが好きなわけじゃないー
王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」
と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。
私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、
「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」
なんで執着するんてすか??
策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー
基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

【完結】愛してるから。今日も俺は、お前を忘れたふりをする
葵井瑞貴
BL
『好きだからこそ、いつか手放さなきゃいけない日が来るーー今がその時だ』
騎士団でバディを組むリオンとユーリは、恋人同士。しかし、付き合っていることは周囲に隠している。
平民のリオンは、貴族であるユーリの幸せな結婚と未来を願い、記憶喪失を装って身を引くことを決意する。
しかし、リオンを深く愛するユーリは「何度君に忘れられても、また好きになってもらえるように頑張る」と一途に言いーー。
ほんわか包容力溺愛攻め×トラウマ持ち強気受け
博愛主義の成れの果て
135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。
俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。
そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。

嫌われ変異番の俺が幸せになるまで
深凪雪花
BL
候爵令息フィルリート・ザエノスは、王太子から婚約破棄されたことをきっかけに前世(お花屋で働いていた椿山香介)としての記憶を思い出す。そしてそれが原因なのか、義兄ユージスの『運命の番』に変異してしまった。
即結婚することになるが、記憶を取り戻す前のフィルリートはユージスのことを散々見下していたため、ユージスからの好感度はマイナススタート。冷たくされるが、子どもが欲しいだけのフィルリートは気にせず自由気ままに過ごす。
しかし人格の代わったフィルリートをユージスは次第に溺愛するようになり……?
※★は性描写ありです。


侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる