最愛の夫に、運命の番が現れた!

竜也りく

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助けてあげられないかな

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悲痛な叫びをあげるラルフが可哀想で、精一杯抱きしめるけど……それくらいしかできないのが悔しい。

こんなにも必死に、ラルフが自分の本能と戦っているというのに何かオレにできる事って他にないのかな。

ラルフの苦しむ様を手をこまねいて見ているだけしかできないなんて。

悔しくて、ラルフが可哀想で。オレも真剣に考えを巡らせる。

「……あ、そうか」

閃いた。

っていうか、どうしてこんな簡単な事、思いつかなかったんだろう。オレは手早く呪文を唱える。

「……?」

地鳴りのように続いていたラルフの唸り声が、ふと止んだ。

「どう? ラクになった?」

「? 匂いを感じない……」

「うん。ラルフの周りに結界を作って、その中だけ空気を浄化してる」

「……すごいな、そんな事ができるのか……!」

ラルフは驚愕の眼差しを向けるけれど、オレにとってはそう難しい事でもない。というか、慣れている。

「ありがとう、ビスチェ。信じられないくらいラクになった」

「良かった。実はオレが発情期の時、似たような事やってるんだよ。結婚してるのに他の人に匂いが分かるのもおかしいだろ? 外に出る時は常時結界張ってるし、発情期の時は念の為にさりげなく周囲の空気を浄化したりしてるから、合わせ技でいけるかなって」

「そんな事をしてたのか……」

知らなかった、とラルフがしょんぼりする。変に心配をかけたくなかったから言ってなかっただけで、これくらいは序の口だ。魔法を操れない人からすれば想像もつかない世界ではあるだろうけど。

「ラルフ」

「ん?」

「さっきの、ラルフの『運命の番』なんだけど」

「その言い方はやめてくれ。怖気が走る上に怒りが込み上げてくる」

「……ごめん、無神経だった」

さすがにあんな目に遭ったら、平常心でいられるわけないよね。心底嫌そうなラルフを見上げて、オレは言葉を選びつつこう提案してみた。

「その、押しかけて来た男爵とそのご令嬢なんだけどさ、さっきの話聞く限り、男爵が暴走してるっぽいよね」

「……そうだったか?」

ラルフは怒りとラットになりそうな自分との戦いで聞こえてなかったのかも知れないけど。

「男爵が何か薬を使って娘のヒートを誘発させたって言ってたよ」

「ふぅん、だが僕がそれを相手にする義理はない。自分たちでなんとかすればいい」

ふん! と鼻息荒く言い切って、ラルフはオレの鎖骨を舐め始める。

「ああ、幸せだ……。ビスチェの香りが嗅げないのは残念だけど、視覚と聴覚と全身に感じるビスチェの温もりがあれば充分だな」
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